8話「脱出劇の行方」
<千羽つる子>
「ふう…危機一髪でしたね…」
<小日向小石>
「うん…絶妙なタイミングで、エレベーターが来てくれて助かったよ」
皆が胸をなで下ろしたが、問題はまだ片付いていない。
<黒中曜>
「でも、ここからどこへ逃げればいいんだ…?
このまま、ホテルの中にいても、どこかで追い詰められる気が…」
<Q>
「…10階に向かおう。
そうすれば、連絡橋から外に出られる。」
曜は、出入りはエントランスだけだと思っていた。
だが、このホテルは10階ごとに連絡橋があり、そこから外へ出られるらしい。
<西郷ロク>
「そうしたいのは、山々なんだが…」
<雪谷えのき>
「ボタン壊れちゃったのかなー? 10階、押しても反応しないよ?」
<黒中曜>
「なんだって、それじゃ俺達はいったいどこに向かってるんだ!?」
<彩葉ツキ>
「わわっ! どんどん上の階に行くよ…!」
曜達の持つカードキーでは、エントランスと10階しか行き来できないはずなのに、階数表示は10階をあっさり越えていく。
20…30…と数字が跳ね上がり、モーター音がわずかに唸りを増す。
<青山カズキ>
「クソ…このままだと、たどり着くのは――」
減速の気配もないまま、ついに最上階の客室フロアである40階さえ通過した。
「チーン」
エレベーターが最後の微振動を残して停止した。
扉が開くと途端、冷たい突風が箱内へ雪崩れ込み、髪と衣服を容赦なくはためかせる。
ここは屋上みたいだ。
視界の先には、シナガワシティの美しい夜景が一面に広がっている。
思わず見惚れてしまいそうだが、見惚れている暇はない。
なぜならば、視線を下げると――
<ゼロ>
「ようこそ、屋上へ!
ふふっ、ここからの景色ってすごくいいね! シナガワシティが一望できて楽しいよ!」
エントランスで別れたはずのゼロとドローンがそこにいた。
<十条ミウ>
「最悪…。飛び降りるしか逃げ道がないじゃない…」
<滝野川ジオウ>
「かわいい見た目のわりに性格が悪いね。
希望を見せてから突き落とすなんて最悪だよ」
後ろに引き返そうにも、頼みのエレベーターは、すでにドローンに包囲されている。
もう逃げ場はない。
曜は覚悟を決めて、ゼロと真正面から向き合った。
<黒中曜>
「…何が目的で俺達を屋上まで、誘い出したんだ?
俺達と夜景を楽しむつもりじゃないだろう?」
<ゼロ>
「XGの説明しに来たんだけど、トラッシュのみんなって無駄に多いでしょ?
だから、ちょうどいい機会だし、何人か減らしちゃおって思ってね」
まるでいいことを思いついたかのような笑顔で、ゼロは残酷な宣告を口にした。
<黒中曜>
「は!? お前、何言ってんだよ!?」
と、曜は声を荒げるが、ゼロはきょろきょろとトラッシュトライブのメンバーの顔を見る。
やがて満足げにうなずくと、発表を始めた。
<ゼロ>
「よーし、退場する子、決めたよ!
カズキくん、西郷くん、えのきちゃん、小石くん、ミウちゃん、ジオウくんの6人に決定!
ドローン軍団! さっき言った6人をキャッチして!」
号令と同時に、ドローンが6人へ殺到した。
もちろん、ただで捕まる面々ではない。
腕を払ってローターを弾き、身をひねって掴みを外す――必死の抵抗が続く。
だが、数が多すぎた。
拘束アームとワイヤーが脚と腕を絡め取り――1人、また1人と空中へ引き上げられていく。
<小日向小石>
「ひ、ひぃ…! またこのパターンなの…!?」
<雪谷えのき>
「これ、ひゅーんってして楽しいやつだよね?
ラッキー! もっかい遊べるぅ〜!」
<滝野川ジオウ>
「だ、だめだ…。振りほどこうとしても力が強すぎる…」
<西郷ロク>
「…これはお手上げだな。
自滅覚悟でしか破壊できなさそうだ」
<十条ミウ>
「失態だわ…
もう少し早くゼロだって気づいていれば…」
<Q>
「カズキ…!」
Qは、息を切らせ、カズキを取り戻そうと必死に手を伸ばす。
<青山カズキ>
「そんな顔しないでよ。おそらく、人数を分散させることが目的だ」
カズキはすでに諦めがついた様子だった。
覚悟を固め、聞き分けのない弟を諭すように、やさしく語りかけた。
<青山カズキ>
「それよりも、曜くん達のことを頼んだよ。
僕の代わりにみんなを導いて――」
<ゼロ>
「はーい、そろそろお別れタイム終わりだよ~。カズキくん達、ばいばーい」
と、ゼロの言葉で6人は夜の空へと連れ去られていった。
<轟英二>
「嘘だろ…一気に半分も戦力を持っていかれるとは…」
<ゼロ>
「ふふ、ちょうどいい人数になったね。キレイにお掃除したみたいで気持ちがいいよ。
それじゃ、屋上は風がきつくて喋りづらいから、みんなでエントランスに戻ろっか」
<黒中曜>
「チッ…わかったよ。お前の言うことを聞くしかないんだろ…」
仲間を無理やり引き離された曜達は、いまの戦力ではゼロに敵う見込みはないとすぐに悟った。
ドローンに急かされるまま、観念してエレベーターへと乗り込んだ。