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9話「ゴマスリ☆クビキリ☆サバイバル」

エントランスに戻ると、ゼロは曜達にソファ席へ座るよう命じた。
先ほど、カズキたちと使っていたソファだ。
曜達が大人しく腰を下ろすと、ゼロはいそいそとテーブルの上に登った。

<ゼロ>
「それじゃ、シナガワの統治ルールの説明から始めるから、よく聞いてね!」

ゼロは、テンション高めに話し始めた。

<ゼロ>
「シナガワシティの統治ルールの名前は…ぱんぱかぱーん! "ゴマスリ☆クビキリ☆サバイバル"だよ!
ざっくりと大まかに説明するとぉ…シナガワシティ全体を会社、住人を社員に見立てたゲームなんだ。
会社の中には、大きく3つの役職があって、"会長"と"社長"、その他大勢の"ヒラ社員"がいるんだけど…みんながなれるのは、がんばって社長まで!
会長は特別な存在…言わば神様みたいなモンなんだ。

だって、当然でしょ?
平凡な星の下に生まれたきみ達が、会長まで上り詰めるなんて生まれた時点で無理っていうかぁ…とにかく負け犬のみんなは、会長にゴマスリして大恐慌を生き残ってね!

まあ、後は現実の会社と一緒だよ。会長に一番気に入られたら"社長"になれて、そうじゃなかったら"ヒラ社員"!
だから、どんどん会長が好きな"あま~い和菓子"を"ワイロ"として渡して、社長を目指そうね!」

ここまで元気よくまくし立てると、ゼロはドローンに用意させたコーヒーに一度口をつけ、念を押した。

<ゼロ>
「あ…わかってると思うけど、おサボりはだめだよ…?
今は、大不況だからね…会社も無駄な人材を抱えたくないの…
週に一度、会長の気に入らないヒラ社員を最低でも1人"クビキリ"してるから気をつけてね…
後は、他の社員を殺したり、ワイロを誤魔化したりしてもクビキリ対象だからよろしくね~」

ゼロが一気にまくしたてた内容を聞いて、曜は正直、拍子抜けしていた。

シナガワを会社に見立てる?

デスゲームというから、もっと血も涙もない内容を想像していたのに――
目の前でぬいぐるみがしゃべっているという奇妙な光景も相まって、肩透かしを食らったような混乱と不安が込み上げてきた。

<千羽つる子>
「ゴマスリとは…まさにビジネスの街、シナガワシティらしいゲームですね…」

<ゼロ>
「きみ達にはこの統治ルールでナンバーズと戦ってもらう! 勝つのはどちらか1人! これがXG! 統治ルールを使った究極のデスゲームだよ!」

<彩葉ツキ>
「統治ルールでナンバーズと…」

<千住百一太郎>
「お前、まさかそこまで見込んで、俺達をナンバーズがいるシナガワに連れてきたのか!?」

<ゼロ>
「へへっ、計画性あるでしょ! という訳で、さっそくシナガワシティXGの開始~!」

ゼロが高らかに宣言すると「パンパカパーン」とファンファーレが鳴った。
どうやら、今をもって、シナガワシティにいるナンバーズと、曜を対象にしたXGが始まったようだ。

<轟英二>
「ふざけたゲームを…! 僕は常に機嫌を取られる側なんだ、なぜ機嫌を取る側に回らねばならない!
こんなゲーム、参加しないぞ! 僕は、セタガヤに帰る!」

<千住百一太郎>
「俺もだ! これ以上、付き合いきれねぇぜ!」

轟と百一太郎はと足音を響かせ、エントランスの出入口へ向かった。

<彩葉ツキ>
「あ、轟さん…! 百一太郎くん…!」

ツキが止めに入るが、2人は足を止めない。
すると、ゼロが某国民アニメの父親が息子を怒鳴るように声を荒げた。

<ゼロ>
「ばっかもーん! なんで、勝手にXGから逃げようとしてるの!? 
ぼくとのXBに負けたっていう自覚、ちゃんとある!?
ないっていうなら、えーいっ! ぼくの恐ろしさと一緒に思い出させてあげる!」

ゼロが手元のスイッチを押した瞬間――
「ドゴゴゴゴゴゴ!!!」という重低音とともに床が跳ね、ホテル全体が大きく軋んだ。

<轟英二>
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ! なんだ、この揺れは…!」

<千住百一太郎>
「か、か、か、怪獣でも現れたのか…!?」

轟と百一太郎はバランスを崩して尻もちをつき、ソファに座っていた曜達も、思わず椅子の肘掛けにしがみつく。
揺れ自体は数十秒程度で止まったが、天井の照明がまだかすかに揺れている。

<黒中曜>
「ゼロ…! 今、何をしたんだ!? お前の掛け声とともに揺れたぞ!」

<ゼロ>
「ぼくご自慢のスペースツカイスリーで、レーザーを撃ったんだよ!」

と、ニコニコ笑うゼロ。

<ゼロ>
「だけど、残念…威力を上げすぎちゃったせいで、座標がうまく定まらなくて海に落ちちゃった…
でも、次はうまくいくと思うから、シナガワシティから脱走しようとしないでね…?
退場っていうのは、死ぬ時にだけ許されるもんだからさ」

<黒中曜>
「嘘だろ…今のがスペースツカイスリーのレーザー…」

――スペースツカイスリー。
それはゼロが操る衛星兵器の名前。
人が撃たれている場面を見たことはあったが、ここまでの威力があるとは思わず、曜は息をのむ。

しかも、地上でスペースツカイスリーのレーザーを何度も見てきたはずのつる子達まで、曜と同じように顔を真っ青にして震えていた。

<千羽つる子>
「わ、私達が24シティに居た時よりも、威力が格段に上がっています…
もし、あれが海ではなく地上に落ちていれば、一瞬でシナガワシティが焼け野原になっていたかと…」

<黒中曜>
「なっ…! そんなので撃たれたら、一瞬で体が消し飛ぶじゃないか…っ!」

<彩葉ツキ>
「想像するだけで無理…! うぷ…! 吐いちゃいそう…!」

<轟英二>
「しゅみましぇん…! もう逃げるとかいいましぇん…!」

<千住百一太郎>
「お願いでひゅから、お命だけは~…っ! お命だけは~…っ!」

つる子の憶測だけで、曜達はQを除き恐怖の縁まで追い込まれていた。
空気は薄くなるばかりで、誰もが呼吸を浅くする。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」