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19話「一ノ瀬に従う理由」

<黒中曜>
「なんか上機嫌でどっか行ったな。よかった…」

<千住百一太郎>
「けどよ、一ノ瀬のこと素敵って言ってたのは驚いたぜ。男の趣味、悪いんだな!!」

<轟英二>
「全くだ…アイツは確かに顔はいいが、体が細すぎる。もう少し肉付きのいい男を選んだほうがいいぞ」

<千羽つる子>
「いや…あまり人の体型について言いたくはないですが、一ノ瀬の体型は標準だと思います…」

<五反田豊>
「大井…私もセクハラになるからあれこれ言いたくはないのだが…もし誰かと交際するときは一度私に会わせなさい…。
変な人間に引っかからないよう、十次…いや、百次面接まで行いますから…」

一ノ瀬がいなくなった瞬間、Qを除くトラッシュトライブの全員が大井に群がってあれこれ喋った。
大井は、最初は何のことを言っているのか理解できなかったが、五反田の発言でようやくみんなに誤解させたことに気づいた。

<大井南>
「あ、あれは怒りを逸らすためで…! まあ、他にも理由はありますけど…」

と、顔をぶんぶんと横に振りながら、一ノ瀬に気があることを否定した。

<彩葉ツキ>
「えー? ほんとー? 大井さん、実は面食いなんじゃないのー?」

<大井南>
「本当に、本当です…! 私は、顔よりも人として尊敬できるかどうかで――」

<小柄な24トライブ>
「あ、あのー…ええと、こんなこと頼める立場じゃないとは思うんですけど、その…」

まさに渡りに船とは、このことだ。
大井は、素早く小柄な24トライブの構成員に近づく。

<大井南>
「職人の所在地についてですか? 少しお待ちくださいね、いま印刷しますから」

彼女の用件を察して、大井はポケットから小型プリンターを取り出し、タブレットと接続した。
かすかな駆動音とともに、温かい紙片が排出され、それを手渡す。

<小柄な24トライブ>
「あ、ありがとうございます…。お礼とか何もできなくて申し訳ないです…」

<大井南>
「いえ、そんなことは別に…あ、そうだ。それなら少しだけ話を聞かせてもらえませんか?」

<小柄な24トライブ>
「え、でも、一ノ瀬様から不利になることとか絶対に話すなって言われてて…」

<大井南>
「大丈夫ですよ。聞きたいのは貴方達のことなので」

<小柄な24トライブ>
「私達の…こと?」

<大井南>
「はい、なぜあそこまで酷いことを言われても一ノ瀬に付き従うのか…それが気になります」

<彩葉ツキ>
「あ、それ、私も聞きたかったんだよね。普通、あんなの我慢できないって!」

<黒中曜>
「俺もだ。なぜなのか理由を教えてくれ」

曜達は、大井の質問の答えが気になり、ぞろそろと小柄な構成員の近くに集まった。

<小柄な24トライブ>
「だって…逆らったらクビキリにされるじゃないですか。まだ、死にたくないし…」

<彩葉ツキ>
「大人しく部下してれば命は助かるってことだよね。まあ、それなら仕方ない…のかな…」

<小柄な24トライブ>
「いえ、一ノ瀬様は容赦がないお方なので、どれだけ従順でもクビキリされることはあります。
あれはいつだったかな? 一ノ瀬様の大事に残していたどら焼きを誰かが食べちゃってクビキリされちゃったこともありました。
一ノ瀬様、あれでも青いたぬき…いや、猫?の大ファンで。ふふ、そういうところは可愛いですよね~」

と、小柄な構成員はクスクスと笑いながら、恐ろしい話を語った。

<彩葉ツキ>
「ええっ!? 何それ!? じゃあ、逆らっても逆らわなくても同じじゃん!」

<小柄な24トライブ>
「それでも! 大人しくしていればその分、確率は下がるんです! もう、私達にはそれしかできないから…」

小柄な構成員は先ほどまで笑っていたのに、ツキの言葉を聞いた瞬間、フードの縁をぎゅっと握りしめ、肩を震わせながら必死に訴える。

<千羽つる子>
「反抗する気力など根こそぎ奪われているのですね…。気の毒な方達です…」

<黒中曜>
「ああ、本当に…」

曜は、恐怖のあまり考えることを放棄した構成員に同情した。

「ピロン」

聞き慣れた着信音に曜は反応し、スマホを取り出した。
画面に浮かんだ通知には、新着メールがひとつ。送り主は24シティでも連絡してきた「NEON」だった。

<NEON(メール)>
「曜様、突然のご連絡申し訳ございません。少し、お伝えしたいことがあります。
先ほどの24トライブが言っていた一ノ瀬は部下をクビキリにするという話…
僭越ながら、覚えておくべきかときっと何かの役に立つはずです」

<黒中曜>
「…どういうことだ?」

曜が首を傾げていると、隣にいた仲間達も画面を覗き込んだ。

<千住百一太郎>
「よくわかんねぇけど、わざわざ言ってきたんだから大事なことなんだろうな」

<彩葉ツキ>
「NEONって私達のことずっと見張ってるのかな? 案外、暇なのかも」

<黒中曜>
「それよりも俺は、教えてもいないメアドにメールが届くのが怖いんだけど…」

<Q>
「何を言っている…そもそもNINE自体教えてなかったんだろ?」

<黒中曜>
「それもそうだった…」

曜はNEONのことをトラッシュトライブのメンバーも伝えており、現状の一同の扱いは「まだ役に立つかもしれない曜のストーカー」程度の認識だった。

<小柄な24トライブ>
「ごめんなさい、もういいですか? 一ノ瀬様に言われた仕事があるので…」

<大井南>
「ああ、はい。もう十分です。引き止めてしまって申し訳ありません」

<小柄な24トライブ>
「いえ…職人の所在地を教えてくれてありがとうございました」

小柄な構成員は、大井に深くお辞儀をしてから、仲間のもとへ戻っていった。

<小柄な24トライブ>
「えっと…一ノ瀬様がしてほしいのは、鍵…スーツケースの修理…飲み物の用意…あとは、3200件の細かなタスク…
よし、みんなで各自分かれて早く終わらせちゃおっか」

<大柄な24トライブ>
「了解。おい、安倍川。お前、いつまで倒れてんだ」

<痩せすぎな24トライブ>
「ううっ、ごめんよ…小倉…。みんなを守ろうとしたのに全然ダメで…」

<大柄な24トライブ>
「へいへい、まあ無理すんなって。…で、職人に会いについていってくれないか? 俺、人見知りで…」

<痩せすぎな24トライブ>
「君の怪力にはいつも助けられてるんだ。それくらい喜んで手伝うよ」

<大柄な24トライブ>
「助かるぜ! 心の友よ!」

<マイペースな24トライブ>
「いやー、しかし一ノ瀬様、怖かったねー。『荷馬車の馬以下か? 馬糞かっ!?』には、笑っちゃったな~」

<小柄な24トライブ>
「ぷっ、御手洗ちゃん。そのモノマネ、一ノ瀬様にちょっと似てるかも…!」

<大柄な24トライブ>
「柏…御手洗…そんなやり取り、一ノ瀬様に見られたらクビキリされるぞ?」

<マイペースな24トライブ>
「きゃ~~~、クビキリ、こわ~~~い!!」

一ノ瀬が去った後、構成員達は雑談を挟みつつもテキパキと作業を振り分けていて進めていく。
全員マスクで顔は見えず曜には誰が誰だか判別できないが、彼ら同士は本名で呼び合い、息の合った手際の良さを見せた。

<五反田豊>
「…本当はいいチームなのに、上司のせいで力を発揮できていなかったようですね。
彼らだって優秀なのに、可哀そうに…。早く一ノ瀬をなんとかしなければ」

<黒中曜>
「ああ、あんなものを見せられたら急ぐしかないな」

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」