6話「白いコートの男性」
彗を名乗る王様の姿を確認する為、曜達はラブリーオーシャンを後にして、アザブ十一番へと向かった。
街にはターゲットを求めるプレイヤーがうろついていたが、用心深いカズキの案内のおかげで、曜達は余計な争いに巻き込まれずに済んだ。
だが、近道である裏路地を曲がった曜達の前に、ガタイのいい男達の集団が立ちはだかった。
男達は全員、白いボディスーツで全身を覆っており、顔を仮面で隠していた。
仮面には『24』のロゴが記されている――24トライブの戦闘員だ。
<24トライブA>
「おい、お前達! ここから先は通行禁止だ! さっさと引き返せ!」
<彩葉ツキ>
「私達この先に用事があるの…どいてよ!」
ツキは24トライブを前にしても、一歩も引く様子がなかった。
<24トライブB>
「お前ら、この辺じゃあまり見ねえ顔だな? 今どきXBでもやりそうな格好しやがって…」
<24トライブC>
「確かに…よし、ならひとつ質問だ。お前達、光るバットを知らないか?」
<黒中曜>
「それって…」
光るバット――
その言葉を聞いた瞬間、曜はケースに収めている自分のビームバットを思い出した。
ゼロとXBをした際、バットは変形し、その表面を鮮烈なビームが覆っていた。
まさか、彼らが探しているのは――自分の持っている、あのバットなのだろうか。
<青山カズキ>
「…なんでそんな物、探してるんだい? XBなんて、もう誰もやってないだろ?」
今ここで出せば、話がややこしくなる。
そう言いたげにカズキが曜へ視線を送ったのを受け、曜は何があってもケースの中からバットを出さないと決めた。
<24トライブD>
「俺達だって知るかよ。王様がご所望なだけだ」
<24トライブE>
「知らんなら用はない。さっさと消えろ」
<彩葉ツキ>
「素直に従う訳ないでしょ! 私達急いでるんだから!」
消えろと言われて引き返す訳にはいかない。
曜達は路地の通行権を巡って、24トライブの男達と戦闘を開始した。
先陣を切ったのはツキだ。気合いの入ったフォームで投擲を繰り返し、男達の腹にボールをめり込ませる。
曜は勢いまかせに突っ込んでいくツキと背中合わせに立ち、ツキの背後を取ろうとする24トライブを左右のフックで撃退する。
早く彗の元に行きたい。ツキと曜はその一心で必死に戦い――気付けばほとんど2人だけで、24トライブの男達をなぎ倒してしまった。
<24トライブA>
「うぐぐぐぐぐ…!」
<24トライブB>
「ク、クソ…! ここは逃げるぞ!」
24トライブの男達は背を向けて逃げ出した。
これでようやく、アザブ十一番に向かう事ができる――
と、男達が路地裏から姿を消したのと同時に、曜達の頭上の数字が急激に増えた。
<千羽つる子>
「おや、マウンティング力が上がりましたね?」
<小日向小石>
「どこでも24トライブは怖がられてるからね。メンツを潰すのに成功した…って事かな」
<青山カズキ>
「逆に言えば、明らかに格下の相手をいたぶっても上がらないんだ。相手を選ばないと下がりかねないよ。いじめはカッコ悪いからね」
<五反田豊>
「そこだけを切り取れば正論ですね…。まあ、そもそものルールがおかしいのですが」
曜達は期せずして、24トライブからマウントを取る事に成功したようだ。
<青山カズキ>
「さて、まだ彗くんの姿は見えないね…とりあえず、もう少し先に進んでみよう」
曜達はアザブ十一番を駆け回り、彗の姿を探し求めた。
道を駆け、角という角を曲がり、営業している店々の中をのぞいていった。
しかし彗は見つからず、時間ばかりが過ぎていき――曜達の疲労は、限界に達しようとしていた。
<青山カズキ>
「仕方ない…今日のところは切り上げるとしよう」
<彩葉ツキ>
「でも…! まだ彗が…!」
<五反田豊>
「焦る気持ちはわかりますが、探索は明日もできますから」
<小日向小石>
「いったんラブリーオーシャンに戻って、体を休めよう。オーバーワークは万病の元だから――」
と、その時だった。
<???>
「テメェをぶっ殺して、俺が王様になってやらぁー!」
近くの大通りの方から、物々しい叫び声が聞こえてきた。
<彩葉ツキ>
「ねぇ…今、"王様"って言ってたよね?」
王様――この街における王様とは、すなわち彗の事だ。
曜達はいそいで声の方へと向かい、角から顔を出して大通りの様子を確認した。
<キャップをかぶった男性>
「ぐ…! ち、ちく…しょう…」
<白いコートの男性>
「おいおい、どうしたよ? オレを倒して王様になるんじゃなかったのか?」
曜達の視線の先で、2人の男が争い合っていた。
一方はキャップをかぶった若い男性。
もう一方は白いコートに身を包んだ男性――だがフードを深くかぶっているので、顔がよく見えない。
頭上には『3004891』という自分達とは、かけ離れた数字が浮かんでいる。
先ほどの言葉からして、きっと彼がこの街の『王様』なのだろう。
<キャップをかぶった男性>
「そんな…こ、こんなに強いなんて…」
<白いコートの男性>
「強いに決まってんだろ、オレは王様だぜ? もう一発ぶん殴ってやろうか? なぁ?」
<キャップをかぶった男性>
「ひ、ひぃっ…」
争いはすでに決着がついていた。
キャップの男性は尻持ちをつき、怯え切った表情で白いコートの男を見上げていた。
<システム音声>
「大幅なマウンティング力低下を確認。ランクが平民になります」
争いに敗北したからだろう、キャップの男性のマウンティング力がどんどん下がっていく。
<キャップをかぶった男性>
「やばい…こ、このままじゃ都落ちに…」
キャップの男性は慌てた様子で立ち上がり、その場から逃げ出そうとする――
<白いコートの男性>
「ハッ、王様に挑んどいて、そのまま逃がす訳ねえだろ?」
だが、白いコートの男は素早くその眼前に回り込んだ。
獲物を前にした猛獣のような目つきで、じりじりとキャップの男との距離を詰めていく。
<キャップをかぶった男性>
「ううっ…俺はただ…昔のミナトを取り戻したかっただけで…」
<白いコートの男性>
「…んな事知るかよ。昔がどうだとかより、大事なのは今テメーが何をしたかだ。
ほら、誰に歯向かったのか答えてみろよ!? あ? おいっ!?」
<キャップをかぶった男性>
「くそ…こうなったらもう…! うわああああっ!」
腹をくくったのだろう、キャップの男はやぶれかぶれの勢いで白いコートに襲いかかった。
大声をあげながら両手の拳を振り回し、何とか一矢報いようと――
<白いコートの男性>
「どうしたどうした、当たんねえぞ? もっと頑張れよ、平民!」
白いコートの男は軽々とパンチをかわしながら相手を煽る。
その口元には、嘲りの笑みを浮かべていた。
キャップの男が何度拳を放っても、白いコートは簡単にかわしてしまう。
力の差は歴然だった。
<キャップの男性>
「お前なんかが…王様にならなければ! ――カハッ…!?」
腹に重いパンチをくらい、キャップの男性は苦悶の表情を浮かべて地面に膝をついた。
<白いコートの男性>
「おっと、悪りぃ悪りぃ。いたぶっちまった」
<キャップをかぶった男性>
「うぅ…畜…生…」
男性は両手で腹をおさえたままうつ伏せに倒れ――そのままピクリとも動かなくなった。
<システム音声>
「大幅なマウンティング力低下を確認。ランクが貧民になります。都落ちを避けるにはマウンティング力向上を急いで行なってください」
キャップの男性のランクはついに貧民にまで落ちてしまった。
今すぐにランクを上げなければ処刑されてしまうが、キャップの男性にもう立ち上がる力は――
<白いコートの男性>
「ま、テメーみてえのがいくら来ようが、全部返り討ちにしてやっけどな…」
白いコートの男は倒れたままの男を見下ろし、凶悪な笑みを浮かべた。
<白いコートの男性>
「いくらでも相手してやんぜ。この街を統べる…ナンバーズ9様がなっ!!」
<黒中曜>
「ナンバーズ9だって…!?」
曜は角に身を隠しているのも忘れ、思わず大きな声を出してしまった。
<青山カズキ>
「ナンバーズは統治ルールの頂点に立つ者…そうか、少し考えればわかる事だったね…」
あの白いコートの男はミナトランキングダムの王様であり、ナンバーズ9。
そして――
<彩葉ツキ>
「あの声…」
ツキも当然、気付いているようだった。
フードで顔はよく見えないが、あの白いコートの男は間違いなく――
<システム音声>
「タイムアップです。それでは、さようなら。来世ではハイソな人間になれるといいですね」
システム音声が無慈悲にそう告げると同時――空から一条の赤い光が降り注いだ。
「ドォォォン!」
落雷のような音が鳴り響き、キャップの男性の体は跡形もなく爆散した。
<白いコートの男性>
「ヘッ、掃除する手間が省けたな」
白いコートの男は動揺すらしていなかった。
人の死も、処刑に立ち会うのも、白いコートの男にとっては日常茶飯事なのだろう。
<千羽つる子>
「今の光は…スペースツカイスリーの…!」
つる子は目を見開いて空を見上げた。
ミナトランキングダムにおける処刑は、スペースツカイスリーから放たれるレーザービームによって行われる。
ツキと彗の体を貫いた、あのレーザーで――
<青山カズキ>
「…あれが都落ちした者の末路だ」
<小日向小石>
「この間も、彼はあんなふうに敵対した人を…」
小石はツキに気遣うような視線を送る。
<彩葉ツキ>
「…違う! あんなの…絶対に別人だよ!」
ツキはぶんぶんと首を振り、この期に及んでまだ否定する。
あの白いコートの男が、幼馴染みの現在の姿である事を。
<青山カズキ>
「信じたくないって気持ちはわかるよ。でも、現実をしっかり見て判断するんだ」
<彩葉ツキ>
「だ、だったら私…確かめてくるっ!!」
<黒中曜>
「ツキッ!? 待て!」
角から勢いよく飛び出していくツキ。
曜は咄嗟にツキを引き留めようと手を伸ばしたが、その手は空を切ってしまった。
ツキはたった一人で、白いコートの男の元に駆けていく。
<黒中曜>
「俺はツキを追いかける…みんなはここで待っていてくれ!」
<千羽つる子>
「そんな! 私も一緒に行きますわ!」
<小日向小石>
「僕も行くよ…怖いけど、仲間を見殺しにする訳にもいかないし」
<五反田豊>
「恩人を見殺しする訳にはいきません!」
つる子と小石と五反田は、曜と一緒にツキの背中を追いかけようと――
<青山カズキ>
「いやダメだ、曜くん以外はここで待機だ」
しかし、カズキがそれを許さなかった。両手を広げて小石達を通せんぼする。
<小日向小石>
「どうして!?」
思わず小石はカズキに詰め寄る。
<青山カズキ>
「相手の出方がわからない以上、全員が面前に出るのは得策じゃない。
危ない事になりそうなら、全員で出ていって止める。だから今は曜くんに任せよう」
<黒中曜>
「ありがとうカズキさん! 危なくなったら頼む!」
曜は仲間達にそう言い残し、ツキの背中を追って駆け出した。
そして――ツキと肩を並べて、白いコートの男と対峙した。