13話「彼のお墓」
<三田三太郎>
「お、来たな。悪いな、わざわざ足を運ばせて」
三田と四つ子はアザブ交差点のフェンスで囲まれた一角で、曜達を待っていた。
そこは自販機や吸い殻入れの置かれた、街角の休憩所のような場所だった。
<青山カズキ>
「それで、見せたいものって?」
<三田三太郎>
「これだよ」
休憩所の一角には、両開きのスチール製クローゼットが設置されたスペースがあった。
クローゼットの上には大きなトロフィーが飾られている。
そのクローゼットの前には、たくさんの花や缶コーヒー、そして白髪の美青年が写る写真が置かれていた。
あれは――
曜は得体の知れない違和感に襲われる。
<小日向小石>
「お墓…? こんなところに?」
<一郎>
「そう、俺達の大事な仲間のお墓だよ」
<二郎>
「しばらく来れてなかったから、お参りに来たんだ」
クローゼットは墓石の代わりなのだろう。捧げられている花の数が、墓の主が生前、どれほどたくさんの人に愛された存在なのかを物語っている。
<五反田豊>
「これは…もしかして…」
<三田三太郎>
「アイツの墓だ。まあ、カズキは直接会った事なかったけどな」
しんみりとした顔で、写真を見つめる三田達。
その肩越しに、曜は改めて写真の中の"彼"を見た。
その瞬間だった――
<黒中曜>
「…っ!」
頭に鋭い痛みが走る。
カズキもつる子も小石も、同じようだった。
4人は同時に頭を押さえ、顔をしかめていた。
<三田三太郎>
「ん? お前ら、大丈夫か? 具合でも悪いのか?
俺の隠れ家に戻って、横になるか…?」
<青山カズキ>
「いや、大丈夫…少し休めばじきに治るさ」
<黒中曜>
「あ、ああ…それより、挨拶しないのも悪い。せめて手を合わせないと…」
痛みが少し引いたのを感じ、曜は墓に両手を合わせた。
写真の"彼"は、なぜだか初めて見る気がしない。
だが、思い出す事ができない。
ツキもキョトンと首を傾げているだけだった。
ただの気のせいだろうか?
なんとか記憶をたぐろうとしていた――その時だった。
「ガシャン…」
不意に、物音が鳴り響いた。
<千羽つる子>
「えっ!? 今なにか聞こえた気が…」
「ガシャン…ガシャン…」
音は、自販機の横に積み上げられたゴミの山の中から聞こえてくる。
ゴミの下で何かがうごめいているようだ――
<彩葉ツキ>
「まさか…幽霊!?」
青ざめた顔でツキがそう言った瞬間。
「ガシャーン!!!!」
一際大きな音が鳴り、ゴミの山がガラガラと崩れ出した。
そして、ゴミの下から姿を現したのは――
丸い形状のロボットだった。
丸いボディそのものが顔になっており、顔から直接、短い両手足が生えている。
野球の審判を模しているようで、ボディ=顔にはアンパイアマスクを装着していた。
<青山カズキ>
「ジャッジロボ…? なんでこんなところに?」
<千羽つる子>
「XBの審判を行なっていたジャッジロボ…かつてはシティのあちこちにいましたが、統治ルール発令後はその姿をめっきり見なくなりました…」
見た目通り、このロボットは審判として働いていたらしい。
しかし、なぜこんなところに――
<ジャッジロボ>
「ガ…ガガッ…」
ジャッジロボはつる子の声に反応し、口をパクパク動かしていた。
何か言いたそうな様子だ。
<五反田豊>
「まだ、完全には壊れていないようですね。修理できないか少し見てみましょう」
五反田はどこからともなく工具を取り出し、ジャッジロボの修理に取り掛かった。
ネジを緩めてカバーを取り外し、切れた配線をはんだごてで片っ端からつなぎ直していく。
ダメになったモーターを取り換え、ギアを交換し、オイルを差し――手際よく修理を進めていく。
<ジャッジロボ>
「ガガッ…直シテモライ…感謝…」
<小日向小石>
「よかった、直ったみたいだ」
五反田の修理の甲斐あって、ジャッジロボは言葉を発する事ができるようになった。
<三田三太郎>
「お前、なんでこんなところにいたんだ? ってか、よくこれまで見つからなかったな」
三田がさっそく事情を問いただす。
<ジャッジロボ>
「一度…見ツカッタ…ガ、アル人ガ…ココナラ見ツカリニクイト…運ンダ…ソノ人ハ…ソコノ墓ヲ拝ミ…ソレカラ…ココ…来テイナイ」
<彩葉ツキ>
「へえ…随分親切な人がいたんだね。XBが好きな人かな?」
感心したようにツキが言った。
確かに、こんな大きなロボットをわざわざ運んで隠すだなんて、よほどXBが好きでなければできないだろう。
<一郎>
「とはいえ、ずっとここに置いておいたら、いずれ見つかって壊されるかもしれないね」
<二郎>
「落ち着いたら俺達の隠れ家に運ぼうか。XBの大事な生き証人みたいなものだし」
<三郎>
「そうだね。じゃあ、それまで大人しく隠れてなよ。24トライブに見つかったら厄介だし!」
<ジャッジロボ>
「了解…ガガ…」
曜達はジャッジロボを元の場所に戻し、ゴミをかぶせてその姿を入念に隠した。
<三田三太郎>
「よし、じゃあ隠れ家に戻るか。付き合ってくれてありがとな!」
作業を終えた曜達は、肩を並べて隠れ家に引き返す――と、その時だった。
<ジャッジロボ>
「ガガ…アノ赤イ髪ノ人ニ会ッタラ…感謝ヲ…」
<黒中曜>
「え…?」
ジャッジロボがふと呟いた一言に、曜は思わず足を止めた。
赤い髪――
そう聞いた瞬間、曜の脳裏に浮かび上がってきた顔は――
<彩葉ツキ>
「何やってるの、曜? 早く行こー!」
<黒中曜>
「あ、ああ…」
ツキに呼ばれて、曜は我に帰った。
<彩葉ツキ>
「もうすぐ…彗を元に戻せるんだね…まともになったらたっぷりお説教だね!」
<青山カズキ>
「まあ、無事に僕らが勝てるかわからないけどね。そのためにこれから作戦会議するんだし」
カズキの言う通り、今のままでは曜達の勝率は低いだろう。
ナンバーズ9と化し、圧倒的な力を手に入れた彗に打ち勝つには、しっかりと作戦を練らなければならない。
大丈夫、今度はきっと勝てる。
仲間達と一緒なら、きっと――曜は自分にそう言い聞かせながら帰路を歩んだ。