16話「XB~VS彗~①」
両者は、本塁であるアザブ交差点に集った。
片側四車線の広い道路の中央で、曜と彗は静かに対峙する。
曜はバッターとして立ち、彗はピッチャーとして、その正面に立っていた。
プレイボールの合図はまだだが、すでに2人の視線は激しい火花を散らしていた。
<ゼロ>
「はい、お待ちかねのXBボールだよ」
ゼロが投げてきたXBボールをキャッチした彗は、ボールの目のような部分をカチリと押した。
すると次の瞬間、交差点に光の線のダイヤモンドが浮かび上がった。
スペースツカイスリーから送られてくる信号が、ミナトの街をXBバトルのフィールドに作り変えていく――これで戦いの準備は整った。
「ウウーーー!」
ゲーム開始を告げるブザーが鳴り響き、XBは開幕する。
1回表――
先行、トラッシュトライブ。
先頭打者の曜はバットを構え、彗の投球を待ち構えた。
どんな球でも打ち返してやると決意を込めて、マウンドに立つ彗の姿を睨みつける。
だが彗は、へらへら笑いながらXBボールを掌で弄び、なかなか投球を始めようとしなかった。
<八雲彗>
「いつまでもXBなんてもんにしがみつきやがって。
さっさと新しい趣味でも見つけた方がいいんじゃねえのか?」
<彩葉ツキ>
「はあ…XBの楽しさまで忘れちゃってるんだね。今の彗に何を言っても無駄なんだ…」
ツキは変わり果てた幼馴染みの姿を見て、悲しそうに溜息をついた。
<彩葉ツキ>
「あ、でもこのXBが白熱したら楽しさのあまり元に戻ったりするかも!?」
<五反田豊>
「確かに…シナガワトライブの者達もXBを通して洗脳から目覚めましたね」
<千羽つる子>
「それを考えると無きにしも非ずかもしれません!」
<八雲彗>
「うぜえな…だからオレは洗脳なんてされてねえって言ってんだろうが!」
忌々しそうに彗は叫ぶ。
<彩葉ツキ>
「私の知ってる彗は、XBがどうでもいいなんて口が裂けても言うわけないもん!!
私、彗の事わかってるんだから!」
<八雲彗>
「お前の記憶の中にいるオレは、もうどこにもいやしねーよ。オレは過去は全部捨てたんだ。
いっぺん死んで生き返ったあとに…これまでの弱かった自分を捨てたんだよ!」
<小日向小石>
「弱い自分を捨てたいって気持ちはわかるけど…だからって、友達と一緒に過ごした過去まで否定するのは間違ってると思う…」
<彩葉ツキ>
「そうだよ! 友達と一緒に過ごした時間があるからこそ、人は強くなれるんだよっ!」
<八雲彗>
「仲良しこよしで強くなんてなれるわけねぇだろ!
ガキみてぇな事言ってんじゃねえ!」
仲間がいるからこそ強いと主張するツキと、孤独を選んだ者こそ強いと主張する彗。議論は平行線だった。
<黒中曜>
「力に固執するお前こそ…ガキじゃないのか?」
<八雲彗>
「…あ? 今なんつったんだ、曜?」
彗は曜をギロリと睨みつける。
<黒中曜>
「力におぼれて、たった一人で強くなった気でいるお前は、まるで子供だって言ったんだ!」
<八雲彗>
「オレをガキ呼ばわりとはいい度胸じゃねぇか…」
曜を睨む彗の瞳が、強い殺気を放ち出す。
<八雲彗>
「いいぜ、挑発するつもりなら乗ってやるよ…拳でテメーに教えてやる」
彗はバッターボックスに立つ曜に、ツカツカと詰め寄っていく――と、その時だった。
<ゼロ>
「ねぇ! まだ始めないの? グダグダどーでもいい痴話喧嘩ばっかしてないで、早くXBを俺に見せてよ!」
そんなゼロの言葉が彗の足を止めさせた。
<八雲彗>
「…わーったよ。仕方ねぇ、この落とし前はXBでつけさせてやる」
彗は不本意そうにマウンドに引き返しながらゼロに返す。
<八雲彗>
「…ただし、オレが勝ったら例の約束はちゃんと守ってもらうからな」
<ゼロ>
「…もちろんだよ」
意味深な会話をかわした後、すでに守備位置についている三田達の方を振り向き、彗はニヤリと笑う。
<八雲彗>
「ま、こっちにはミナトのレジェンドもいるし、XBでも余裕で勝てるだろうけどな。
期待してるぜ、三田のアニキ」
<三田三太郎>
「………………」
三田は気まずそうに目を伏せた。
ビームバットを取り戻すためとはいえ、曜達と戦わなければいけない事を心苦しく思っているようだ。
そして、改めて試合は開始された。
曜はバットを大きく構え、集中力を高めていく。
どんな剛速球が投げ込まれても、絶対に打ち返す――決意を胸に、マウンドに立つ彗を睨みつける。
<八雲彗>
「見せてやるぜ! 生まれ変わったオレの力をよぉ! そんで…オメーに思い出させてやるよ!」
と、彗は自らの頭上に向かって、ブーメランのようなものを投げた。おそらく何らかのXBギアだろう。
そして自らも垂直にジャンプして、彗は空中でギアとドッキングした。
<五反田豊>
「なっ…飛んでる!?」
背中にギアを装着した彗は、地面に落下する事なくマウンド上に浮遊していた。
どうやらギアには、ドローンのような飛行機能がついているようだ。
<八雲彗>
「おらぁ…!」
空中から第一球を投じる彗――まるでレーザービームのような速度だった。
遥か頭上から投げ込まれてくる剛速球――鋭角にストライクゾーンに入ってくる。これではどうバットを合わせていいかわからない。
<黒中曜>
「くっ…!」
曜のバットはかすりもせずに空を切る。
次の球も、その次の球も空振りしてしまい、三球三振。
続く2人も三振に倒れ、トラッシュトライブの初回の攻撃は三者凡退に終わった。
<八雲彗>
「おいおい、この程度かよ雑魚が! そんなんでよくオレに偉そうに説教できたもんだぜ。
ま、こんなオワコンスポーツで勝ったところで、嬉しくもなんともねぇけどな!」
彗はXBボールを掌で弄びながら、高笑いを浮かべた。
<彩葉ツキ>
「また言ったね、オワコンって! XBもこの試合も、全然終わってなんていないから!
まだ一回表が終わっただけじゃん!」
<八雲彗>
「一回やりゃあわかるっつーの。XBのくだらなさも、お前らの雑魚っぷりもな」
<彩葉ツキ>
「ふぬぬぬぬぬ…!」
彗に煽られ、ツキの顔が怒りの赤に染まっていく。
<彩葉ツキ>
「わかった! そこまで言われて引くわけにはいかないよ!
私がピッチャーやる! 直接対決だよ、彗!」
<黒中曜>
「え、ツキが投げるのか…?」
曜は思わず戸惑いの声をあげた。
てっきり、五反田かカズキが投げるものと思っていたが――
<青山カズキ>
「…わかった、一度やってみるといい。
ツキちゃんは言い出したら聞かないタイプだしね」
カズキはあっさり、ツキがピッチャーを担当する事を許可した。
<彩葉ツキ>
「ありがとうカズキさん! 必ず私のボールで、彗にXBの楽しさを思い出させてみせるから!」
<青山カズキ>
「その意気や良しだけど…思い出させてやるなんて、少し甘すぎる気もするけどね」
<黒中曜>
「どういう意味だ…?」
<青山カズキ>
「そんな時期はとっくに過ぎたんじゃないかって事さ。
倒すなら倒すと…覚悟を決めるべきだよ」
深刻そうな表情で意味深な事を言うカズキ。
だがツキは、カズキの言葉を能天気に笑い飛ばした。
<彩葉ツキ>
「大丈夫大丈夫! 私達の絆の力で、すぐに元に戻ってくれるはずだから!」
<青山カズキ>
「…だといいけどね」
カズキは不安そうな表情でそう言って、守備位置についた。