21話「忘れられた■■」
<八雲彗>
「テ、テメーを…倒す…んだ…でないと…テメーは…思い…出せな……」
彗はまだ、戦う事を諦めていなかった。
息も絶え絶えの状態であるにも関わらず、地面に手をつき、身を起こそうともがいている。
<黒中曜>
「も、もうやめてくれ…彗っ!!」
曜は懇願するように叫ぶ。彗がもう戦えないのは明白だ。それにこれ以上、彗を傷つけたくはなかった。
<彩葉ツキ>
「しっかりして、彗! すぐ小石くんが治してくれるよっ!」
ツキは彗にそう呼びかけて、小石の方を振り向いた。
<小日向小石>
「…残念だけど、臓器が致命的に傷ついてる…僕には、もう…」
<彩葉ツキ>
「小石くん、どんな怪我も治してくれるじゃん! ねえ…お願いっ!!」
<小日向小石>
「ごめん…」
小石はツキの視線から目をそらし、力なく首を横に振る。
腕の立つ小石が匙を投げるくらいなのだから、本当にもう打つ手がないのだろう。
<黒中曜>
「ゼロ! 頼む…なんでもする…! だから、彗を治してくれ!
お前なら…できるんだろっ!?」
<ゼロ>
「俺だって神様じゃないんだから、できる事とできない事はあるよ。
悪いけど、もうマトモに治すのは無理だね。そうだなぁ…残高不足って感じじゃない?」
<黒中曜>
「そんな…そんな事ないだろ! お前ならどうにかできるはずだ!」
ただをこねるように曜は叫ぶ。彗を助けるためには、ゼロの持つ超常的なテクノロジーにすがるしかなかった。
<ゼロ>
「だから無理だって。こないだのとはワケが違うんだよ」
<彩葉ツキ>
「お願い…私はただ…また、3人で…」
<八雲彗>
「ガハッ…! ガッ…ううう…」
叫ぶ曜、悲嘆にくれるツキ、呻きながら血を吐く彗。
まるで地獄絵図のような光景だった。
<ゼロ>
「ゲームの決着もついたしさ、正直俺、興味なくなってきたんだ。
もう幕引きにしなよ、曜。キミの手で」
ゼロは暗に言っていた。トドメを刺して、彗を楽にしてやれと――
<黒中曜>
「俺には…できない!! 他に何か…手があるはずだ…! 絶対に…絶対に諦めないっ!!」
<彩葉ツキ>
「そう…そうだよね…曜! 絶対に彗を助けようっ!」
曜とツキはゼロの言葉を拒絶する。受け入れられるはずがなかった。
彗の命を――こんな終わりを――
<ゼロ>
「だから無駄だって。これがキミ達3人の物語の結末なんだよ」
ゼロが興味もなさそうにそう言って、彗の方に目を向けた。
<八雲彗>
「あ、アアアアア…オレは、オレはアアア…」
彗はもだえるように声をあげていた。
<黒中曜>
「彗、しっかりしろ!! 大丈夫だ、絶対に大丈夫だから!!」
<八雲彗>
「曜…元はテメーが…テメーが言い出した事だ…!」
<黒中曜>
「え…?」
<八雲彗>
「テ、テメーがオレらを巻き込んで始めた事なんだよ…! 全部…!
それを…今更なんも知らねーって…顔しやがって…!!」
彗は血を吐き出しながら、曜に憎しみの言葉をぶつける。
どうして、これほど憎まれなければいけないのか、曜には全く意味がわからなかった。
それに、曜が彗達を巻き込んだって?
<黒中曜>
「お前が…何を言ってるのかわからない…! 俺には全然わからないんだ!」
<八雲彗>
「ホ、ホント…うぜえな…テメーとなんて…友達になるんじゃなかったぜ…」
と、彗が消え入りそうな声でそう囁いた――次の瞬間だった。
<黒中曜>
「え…」
彗の体は砂のようにサラサラと崩れ去り――衣服だけを残して消滅してしまった。
<黒中曜>
「………………」
<彩葉ツキ>
「す…い…?」
<千羽つる子>
「な…何が…起きたのですか…?」
<小日向小石>
「そん…な…人間の体が…消滅するなんて…」
<五反田豊>
「なぜ…こんな事が…これは本当に現実なのですか…?」
<ゼロ>
「ま、ゲームじゃないのは間違いないけどね」
<青山カズキ>
「クッ…」
トラッシュトライブのメンバーは彗の着ていた衣服を見つめ、ただ茫然と佇んでいた。
彗の身に何が起こったのか理解している者はいなかった。
ただ、唯一確かなのは。
彗がもう、この世のどこにもいないということだけだ。
<ゼロ>
「さて、お疲れ様、曜。見事ミナトのXGを制したのはキミだ」
そんな中、唯一ゼロだけは飄々とした態度を崩さなかった。
仮面を揺らしながら、パチパチと手を叩き、曜に勝利を告げる。
<黒中曜>
「ゼロ…お前は彗に何をしたんだっ! 洗脳されたみたいに狂って、最後には体が消えて…お前が何かしたんだろ!? 言えよっ!」
<ゼロ>
「もう言う事なんて何もないよ。力に溺れすぎた彼が、最後は身体がもたなくなって消えただけの事だし」
<黒中曜>
「"だけ"、だと…!? 彗は死んだんだぞ!!」
頭に熱い血が上り、曜は思わずゼロに殴りかかってしまいそうになった。
こんなわけのわからない奴に、彗の命が奪われた。
それが、許せなくて――
<ゼロ>
「だーから、カッカするのはやめなって。誰も希望を捨てろなんて言ってないじゃん。
これからナンバーズを倒しまくっていけば、ウルトラごほうびが手に入るかもしれないよ?」
<黒中曜>
「ウルトラごほうび…?」
<彩葉ツキ>
「それを使えば…彗を生き返らせる事ができるの!?」
<ゼロ>
「さあ…どうだろうね? そもそも彗くんは、それを望んでいるのかな?」
<五反田豊>
「できるかはわかりませんが…できるとしたらゼロだけなのは事実でしょうね…」
<青山カズキ>
「また彗くんに会うには…今はそれしかないようだね…」
ただでさえ超常の力を持つゼロが、「ウルトラ」と言うくらいなのだから、その力は実際にとんでもないものなのだろう。
人を生き返らせる事すら可能かもしれない。実際、死んだはずの彗やツキが平気な顔で曜の前に現れてもいる。
きっと、ゼロならできるはずだ。
<黒中曜>
「彗を生き返らせる事ができるなら…やってやるよ。すべてのナンバーズを倒してXGを勝ち残ってやる!
そして…必ずウルトラごほうびで彗を生き返らせるっ!」
これ以上ゼロに踊らされたくはなかったが、曜は彗に再会するためなら、なんだってやるつもりだった。
必ず、ウルトラごほうびで彗を生き返らせる。曜はそれを胸に誓った。
<ゼロ>
「ハハッ、やる気になったみたいだね。そうこなくっちゃ、曜!
やる気になったお祝いに「洗脳を解け」っていうふつうのごほうびは、無かった事にしてあげるよ。改めて何かしてほしい事はあるかな?」
<黒中曜>
「今さら、そんな事どうでもいい。誰か好きに言えばいい…」
曜がみんなの顔を見回しながらそう言うと、三田が前に進み出た。
<三田三太郎>
「だったらよ…ここもシナガワみたいに統治ルールをやめてXBをするようにしてくれねえか? いつかアイツら…ミナトトライブの連中が戻ってきた時のためにさ…」
<黒中曜>
「わかった…それでいい」
<ゼロ>
「いいよ。今回はいろいろ面白いもの見れたし、許可してあげよう」
<五反田豊>
「大丈夫でしょうか? ルールを変えてインフルエンサーの連中がどう思うか…」
<黒中曜>
「あんな連中…知るか…」
あんな小者達の事、どうだっていい。
曜の頭の中にあるのは、死んでしまった彗への思いだけだった。
<ゼロ>
「さて、と。もう見たいものは見れたし俺は消えるよ。じゃあ、またね」
ゼロは仮面の奥で微笑みながらそう言うと、ふわりと身を浮かび上がらせ、ミナトの空へと消え去っていった。
最悪の結末だけを、その場に残して――