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5話「ゆうしゃくろなかのめざめ」

<むらむすめ>
「あら? くろなか。どうしたの?
あおざめた かおをして」

すれ違った村娘が話し掛けてくる。

<むらむすめ>
「えっ? にんげんが そらを あるいていた? もう じょうだん ばっかり!
じょうだんは ほどほどに しないと みんなから きらわれるわよ」

勇者くろなかは無言だったが、村娘はそんな事を言った。
まるで、最初からそう言うように決められていたかのように。

何かがおかしい――
どうもおかしい――

<おじいさん>
「あの あめのひ きおくそうしつの おまえを ひろったときは おどろいた!」

木製のベンチに腰掛けた老人が声を掛けてくる。
勇者くろなかは、反応せずに通り過ぎる。

<おじいさん>
「オドロイタ! オドロイタ! オドロイタ!」

何かがおかしい――
どうもおかしい――

でも、何が?
何がおかしいんだ…?

<スライム>
「ぷるぷる めあての ツボは みつかった?
すごいね きみって いいゆうしゃだね!」

<ねこ>
「にゃーん…」

俺がおかしいのか…?
それとも…

<めがみぞう>
「よくぞ もどりました。 ゆうしゃ くろなかよ」

いつの間にか、勇者くろなかは女神像の前まで戻っていた。
女神像は相変わらず、落ち着いた優しい声色だった。

自分は女神様を信じていればいい――はずだった。

<ゆうしゃくろなか>
「あの…女神様…」

<めがみぞう>
「はい なんでしょう」

勇者くろなかはどうしても確かめずにいられなかった。

<ゆうしゃくろなか>
「ついさっき…吊り橋の上で見たんです。
空を歩いてる人がいて…」

<めがみぞう>
「………………」

女神像は何も答えなかった。

<ゆうしゃくろなか>
「…女神様?」

<めがみぞう>
「そうでしたか それは たいへんでしたね
それでは つぎの しじを つたえます よく きくのですよ」

<ゆうしゃくろなか>
「話を聞いてくれよっ! 女神様っ!!
俺は本当に見たんだっ!!」

勇者くろなかは思わず声を荒げていた。
もう、この疑念と違和感をなかった事にはできない。
たとえ、女神様に逆らったとしても。

<ゆうしゃくろなか>
「俺はどうしたんだ!? おかしいのは俺なのか!?
何か…何かが変じゃないか!?」

<めがみぞう>
「わかりました…」

取り乱す勇者くろなかとは対照的に、女神像は相変わらず落ち着いた口調のままだった。

<めがみぞう>
「ゆうしゃ くろなかよ しんぱいには およびません
すべては ゲームばんの うえの こま」

<ゆうしゃくろなか>
「…ゲーム?」

その言葉を耳にした途端、胸に妙なざわめきが起きるのを感じた。
ゲームって…なんの事だろう?

<めがみぞう>
「わたしには すべてが みえています。
くろなか よう このさき なにがあっても ずぅーっと いっしょに ゲームをあそびましょうね」

<ゆうしゃくろなか>
「め、女神様…なんなんですか? ゲームって?
一体、何を言って――」

「ドカーーーン!」

突如の激しい爆発音が、その言葉を遮った。
と同時に、周囲が大きく揺れた。

<ゆうしゃくろなか>
「うわっ!? な、なんだっ!?」

地震か?
そう思った矢先に聞こえたのは――

「ファーン!」「ファーン!」「ファーン!」「ファーン!」

一度も村で聞いた事のない奇妙で大きな音だった。
まるで、金属製の化物が叫んでいるような不快な音だった。

<ゆうしゃくろなか>
「な、なんだ? これは!?」

さらに、状況はめまぐるしく変化する。
次に聞こえてきたのは、人の声だった。
しかし、普通の声ではない。
空に響き渡るような轟音の声だった。

<???>
「衛星管理棟で原因不明の爆発が発生!
構成員は全員、直ちに現場に向かってください!」

いつもの青空に、異常な轟音の人の声が響き渡る。
その異様さ以上に、その言葉の意味も勇者くろなかにはまるで理解できなかった。

<???>
「繰り返します! 衛星管理棟で原因不明の爆発が発生!
構成員は全員、直ちに現場に向かってください!」

<ゆうしゃくろなか>
「えいせいかんり…?
爆発…って…? なんの事だ…?」

なんの事を言っている?
誰がどこから叫んでいる?
それに、さっきの揺れと爆発音って?

何もわからず、勇者くろなかは困惑のまま立ち尽くすしかなかった。

<めがみぞう>
「ゆうしゃ くろなかよ しんぱいには およびません…」

困惑する勇者くろなかを落ち着かせるように、女神像が声を掛けてくる。
しかし――

<めがみぞう>
「すべては ゲームばんの うえの…こま……」

その声は、次第にノイズ混じりになっていく。

<めがみぞう>
「わたしには…す、すべてが…みえています……」

<ゆうしゃくろなか>
「女神様…? その言葉はさっきも言って…」

<めがみぞう>
「くろなか…よう…」

<ゆうしゃくろなか>
「くろなか…よう?」

自分の事を言っているのか?
でも、自分は"勇者くろなか"だ。

くろなかよう――って?

<めがみぞう>
「こ…このさき…なにがあっても…
ずぅーっと…いっヾょに…あそびましゅょうねぃ」

女神像の声は、どんどんノイズに蝕まれていく。

<めがみぞう>
「ずぅーっと ずぅーっと ずぅーっと ず+ーっと
Zぅー■と ずぅ*Rと %\ータ☆ィ゛ゃゾ┘A Pぅ…」

<ゆうしゃくろなか>
「…め、女神様?」

<めがみぞう>
「さあ ぼ■け?%こNから※K゛+…ゆ9しゃ―+……」

そして――

<めがみぞう>
「……………………………………………………………………」

<ゆうしゃくろなか>
「女神様っ!?」

次の瞬間、女神像は「ガラガラ」と音を立ててその場に崩れ落ちた。

<ゆうしゃくろなか>
「えっ…!?」

一瞬にして、女神像は崩壊した。
その場に残されたのは、ただの石の残骸だけだった。

<ゆうしゃくろなか>
「め、女神様っ! 女神様っ!!」

勇者くろなかは困惑に満ちた声を上げた。
けど、いくら呼びかけても、返事はなかった。
自分を導いてくれる女神像は、ただの石の残骸になってしまった。

<ゆうしゃくろなか>
「そ、そんな…ウソだろ…? 女神様が…!」

――魔王。

すぐに、その言葉が脳裏をよぎった。
勇者くろなかは慌てて村へと向かって駆け出した。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」