12話「脱出へのラストスパート」
<青山カズキ>
「やぁ、やっと来たね、ノロマさん達」
そこには、カズキ達が待っていた。
彼らの周囲には、倒れた24シティの構成員達や、警備ドローンの残骸が転がっていた。
<黒中曜>
「片付けって、そういう事か…」
<八雲彗>
「オメーらを待ってる間、ヒマだったからな。
ちょっくら準備運動してたんだ」
改めて、あたりを見回す。
今まで走っていた通路とは違って、何か機器やコードの配線があちこちでむき出しになっている。
周囲には少し埃も舞っているようだった。
つまり、普段は、誰かが気軽に行き来するような場所ではないという事だ。
<青山カズキ>
「周囲の様子が変わってきたでしょ?
このあたりから、24シティの下層になるみたいだよ」
曜の視線に気付いたカズキが、そう補足する。
<黒中曜>
「…本当に詳しいんだな」
<青山カズキ>
「まぁね。ここに来るまでに入念に準備してきたからね」
<黒中曜>
「そもそも、なんだけどさ…みんなは何の為にこの場所まで乗り込んできたんだ?
捕まってた俺を助けてくれたのは、ツキや彗が強引についてきたからだって言ってたし…」
<青山カズキ>
「そうだね。キミを助けたのはある意味おまけだ。
僕達の本当の目的は、他にある」
<西郷ロク>
「…オレ達は"人工衛星の制御装置"を破壊しにきたんだ」
カズキに変わって、西郷ロクが野太い声で続ける。
<西郷ロク>
「24シティを根城にしている敵の親玉…ゼロが過去に打ち上げた物だ」
人工衛星の制御装置――
さっきも、カズキ達は"人工衛星"とやらについて話をしていたが、それはなんなのだろうか?
その制御装置を壊して、なんになると言うのだろうか?
曜がそんな風に考えを巡らせていると――
<千羽つる子>
「ふっふっふ…曜さん、『説明が欲しい』ってお顔をされていますわね?」
つる子が曜の元へと駆け寄ってくると、グイグイと身を乗り出してきた。
<黒中曜>
「え? あ、あぁ…」
その圧力に思わずそう答えると、
<千羽つる子>
「…であればっ!! わたくしがご説明させていただきますっ!!」
つる子は学ランをたなびかせながら、大きく胸を張った。
<彩葉ツキ>
「つる子ちゃん…急にイキイキし始めたね…?」
<千羽つる子>
「『知は力なり』がモットーですので、説明するのは大の得意なのです!」
コホンと咳払いした後、つる子は人差し指をピンと立て、
<千羽つる子>
「まず、私達が無力化を成功させた"人工衛星"は、ただの衛星ではありません。
あれは地上にいるネオトーキョー国民を監視し、殺害する為に存在している"衛星兵器"なんです」
<黒中曜>
「え、衛星兵器…!?」
曜は思わず絶句した。
<千羽つる子>
「"スペースツカイスリー"…あの衛星兵器は、そう呼ばれています」
スペースツカイスリー、それが衛星兵器の名前――
当然だが、曜にはその記憶もなかった。
<千羽つる子>
「巨大な親機が3機、子機が300機ほど…それぞれが地上を見張り、殺人レーザーを発射可能です。
発射のエネルギー源もなぜか永遠に尽きる事なく、地上では毎日そのレーザーによって、多くの人が亡くなっていました」
<黒中曜>
「毎日…? 多くの…?」
まるで戦争だ――
いや、というより、戦争そのものなのだろう。
それを仕掛けたのが、仮面の男――ゼロ。
彼の事を思い出した途端、曜はまたもや寒気に襲われた。
<千羽つる子>
「あの衛星兵器を放っておけば、今後も千万無量の人々がレーザーに貫かれ、犠牲になってしまいます。
そこで、わたくし達はスペースツカイスリーを停止させた後、その唯一無二の制御装置を爆破させました。
残念ながら衛星本体を破壊できた訳ではありませんが、当分、使用する事はできないはずですっ!」
と、最後は得意げな顔で言った。
<千羽つる子>
「…理解しましたか、曜さん?」
<黒中曜>
「理解したって言うか…ちょっと話の規模が大き過ぎてついていけないな…」
それが、つる子の話を聞いた素直な感想だった。
<八雲彗>
「…ったく、まだンな事言ってんのかぁ? そろそろシャキッとしろよなシャキッと!」
<千住百一太郎>
「ま、どっちにしても制御装置はバッチリ壊してきたんだし、もう衛星兵器の事は忘れちまっていいだろ」
千住百一太郎も、勝ち誇るような顔だった。
<千住百一太郎>
「つーか、意外と楽勝だったよな! ゼロってヤツも大した事ねーのなっ!!」
<小日向小石>
「でも…逆に順調過ぎた気がするけど…本当にもう大丈夫なのかな?」
<千住百一太郎>
「へっ、お前は心配しすぎだっつーの! 上手くいってて何が悪いんだよ!」
千住百一太郎は鼻で笑い飛ばしていた。
楽観的な性格のようで、臆病そうな小日向小石とは対照的だった。
<千住百一太郎>
「なんにしたって、後は地上に帰るだけだ! トロトロしてるヤツは置いてっちまうぞ!」
<青山カズキ>
「まぁ、警戒するに越した事はないけど…今は百一太郎くんの言う通りだね。
行こう。もうじきゴールのはずだ」
そう言って、カズキは先導するように走り出した。
他のみんなもそれに付いて走り出す。
そこから進む通路は、今まで以上に静かだった。
追っ手の気配もなく、周囲は不気味なくらい静まり返っている。
一同の床を蹴る音だけが、周囲に反響している。
しばらく進んでいくと、大きく開けた空間に出た。
巨大な整備場のような施設らしい。
何か大型の機械をメンテナンスする場所なのだろう…しかし、今は何もない。
<彩葉ツキ>
「あっ! いかにもな通路はっけん!!」
ツキが指差した先を見ると、整備場の奥にポツンと、奥へと繋がる通路があった。
扉のない長方形の入り口だけが見えている。
確かに、ツキの言う通り"いかにも"な通路だった。
<彩葉ツキ>
「きっと、あの奥だよっ!」
言い終わるや否や、ツキは通路に向けて駆け出す。
そして、その通路の直前まで行くと――
<彩葉ツキ>
「ほら、みんなっ! 早く早く!!」
ツキは一同に手招きをする。
<青山カズキ>
「………………」
一同がツキに続く中、カズキは訝しげな表情で立ち止まったままだった。
扉のない長方形の入り口をじっと見つめている。
そんなカズキにQが声を掛ける。
<Q>
「さっきの…小日向の言葉が気になるか…?
事が上手く進み過ぎている…」
<青山カズキ>
「そうだね…この空間だって僕らを迎え撃つには格好の場所だと思わない?
ゲームなら、デカイ強敵が現れて、僕らを一網打尽にしようとするような場所だ」
<Q>
「…これはゲームじゃない」
Qはきっぱりとそう言い切った。
<青山カズキ>
「確かに…そうだね」
フッと鼻で笑うカズキ。
<青山カズキ>
「どちらにせよ、僕らは進むしかない。これが罠だとしてもね」
<Q>
「…そういう事だ」
そして、カズキとQも、奥の通路へと向かって駆けていく。
罠だとしても進むしかない――その通りだった。
整備場から繋がる通路は、より一層薄暗く埃っぽかった。
そんな通路を、一同は無言で駆けていく。
何かがあるかもしれない――
けど、何もない事を祈る――
まるでお化け屋敷の中を進んでいるような気分で、誰もが緊張の表情だった。
そのまましばらく進んでくと、薄暗い通路の先に光が見えた。
逆光で、その先はよく見えない。
一同は警戒しながら、光の中へと飛び込む。
だが、意外な事に――
何も起きなかった。
呆気なく、一同は目的地に辿り着いた。