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17話「XB~VSゼロ~①」

空中――
ドローンに抱えられた曜達は、為す術なく落下し続けていた。

<千住百一太郎>
「うおおおおおおおっ!?」

<西郷ロク>
「クソ…やはりあいつは俺達を殺す気なのか…!」

しかし、その直後だった。
一同を抱えたドローンの背がパカッと開くと、そこからパラシュートが飛び出した。

<小日向小石>
「うわああっ!!」

一同の体は一斉に浮上し、そして、ゆっくりと地上へと向けて落ちていった。

その眼下には、無数のビル群とその窓から漏れ出す光が、びっしりとカーペットのように敷き詰められていた。
その光で照らされる夜空の中を、一同はパラシュートで落ちていく。
フワフワと落ちながら、一同は会話を交わす。

<青山カズキ>
「あれが…シナガワシティだ。
ネオトーキョー国の中でも随一のビジネスタウンさ」

<黒中曜>
「シナガワシティ…」

もちろん、その街に関する記憶も、今の曜にはなかった。

<十条ミウ>
「で、これからそのシナガワシティでXBをやるって事?」

<滝野川ジオウ>
「とんでもない展開になってきたね…」

<雪谷えのき>
「XBなんて久しぶりー。
どんなルールだっけ?」

<轟英二>
「お前まで忘れてどうする?
ただでさえ、XBを知らない足手まといがいると言うのに…」

<黒中曜>
「………………」

<青山カズキ>
「ここまできたら…慌てても仕方ない。
そんなんじゃアイツの思う壺だ」

<Q>
「あぁ。XBこそがアイツに勝てる唯一の方法なのは間違いない…
この国の軍事力ですらアイツには太刀打ちできない以上な…」

<千羽つる子>
「…彼はなぜか“ゲーム”での勝負にこだわっています。
そしてXBでの決着も、そのひとつであると認めました」

<小日向小石>
「そこに…付け入る隙があるという訳だね」

<千住百一太郎>
「つーか…それしか俺らに生き残る術はねーって事だろ…」

<青山カズキ>
「とにかく…勝つしかない」

勝つしかない――
その言葉を、曜は心の中で何度も反芻した。
そして、足元に広がるビルだらけの街を眺めながら、XBについてイメージする。
アイツを倒せる唯一の方法である――XBについて。

――絶対に勝つ。

自分を助けようとしてくれた友の為に。
自分を守ろうとして散ってしまった友の為に。

勝つしかない。

そして、一同はビルとビルとに囲まれた大通りへと着陸した。
付近には、大きな駅のような施設も見える。
そこには複数の電車がひっきりなしに行き来している。

ここが――シナガワシティ。

曜があたりをキョロキョロとしていると、背中のドローンがパラシュートを回収し、どこかに飛び去っていった。
一同は無言のまま、自然と陣形を象るように固まった。

<黒中曜>
「………………」

曜は目を閉じた。
そして、これから始まる"XB"というゲームについて、心の中で呟いた。

見た事も、聞いた事もないはずの"XB"というゲーム――
けど、自分ならやれる。
きっと、勝てるはずだ。

どうしてこんな自信が湧いてくるのか、自分でも不思議でしょうがない。
それでも、自分の為に犠牲になった2人の幼馴染みの顔を思い出す度に――

――勝てる。

と、そんな気持ちになれた。

俺は、俺の事が信じられない。
大切な記憶を失くし、何も持たない自分の事が。
けど――
目を瞑る度に浮かび上がるあの幼馴染み達の言葉は全部――
鵜呑みにしてでも信じられると――信じたいと、思えた。

<Q>
「…おい」

Qの呼びかけに目を開けると――

いつの間にか、一同から少し離れた道路のど真ん中に、ゼロが立っていた。

<ゼロ>
「XBで勝負、か…」

ゼロはと――けど、一同に聞こえるように呟いた。

<ゼロ>
「最初はその提案に驚いたけれど…考えてみれば、キミがそこに行き着いたのは自然な事かもしれないな」

<黒中曜>
「ゼロ、くだらない話はそこまでだ」

曜は切り捨てるように言った。
もう、その瞳に恐怖の色はない。

<黒中曜>
「…XBを始めるぞ」

<ゼロ>
「やる気十分だね。歯応えがありそうで嬉しいよ」

いつの間にか、ゼロの手には小さなボールが握られていた。
明らかに普通のボールではなかった。
そこには、目のようなボタンが付いている。

<ゼロ>
「これは"XBボール"だよ。XBはこのボールを使って行うんだ。

XBボール――
見ても思い出せないが、不思議と見た事はあるような気はしていた。

<ゼロ>
「XBっていうのは、地上にあるシティ全体を使ってボールを投げたり打ったりするゲームだ。
2つのチームが"先攻"と"後攻"を交互に繰り返して戦うんだ。
ゲームはこのシティ全体をフィールドにして行う。1塁、2塁、3塁、そしてホームベースまで回ると、シティ全体を巡る事になるって訳さ」

ゼロは手にしたボールを空中に弾いたりしながら説明を続けた。

<ゼロ>
「ボールはこの公式ボールを使うけど、バットやスパイクやグラブは"XBギア"と呼ばれる身体能力を強化できるギアを自由に装着できる。

XBギア――
身体能力を強化できるギア――

シティ全体を使う事もそうだが、なんだかとんでもないバトルのようだ。

<ゼロ>
「アウトはタッチアウトと三振のみ。
ホームランはなく、長打が出た時は、ランナーはボールを持ったフィールダーとバトルが発生するまで、塁間を駆け抜ける事ができる。
そして、ボールを持ったフィールダーは、ランナーと出塁、進塁をかけたバトルをする事が可能だ」

<黒中曜>
「バトルが…」

つまり、進塁する際に、ランナーはタッチされないように守備側を攻撃する事ができるという訳か。
そして、またその逆も然り――

<ゼロ>
「そして、肝心の勝利条件は…相手より得点が多いか、ゲーム中に対戦相手が戦闘不能になる事。
以上だよ。理解したかい?」

悦明を終え、フフッと小さく肩で笑うゼロ。

<黒中曜>
「…余裕のつもりか? お前だってXBの経験はないんじゃないか?」

<ゼロ>
「ちゃんと手順を踏んであげないとキミが可哀想だと思ってさ。
『ルールがわからなくて実力が発揮できませんでした』なんて言い訳ができたら、負けても納得できないだろう?」

そんな軽口を叩くゼロを睨み付ける曜。

<黒中曜>
「俺は…記憶を失う前はXBプレーヤーだった。あいつらがそう教えてくれた。
なら、きっと体が覚えているはずだ」

2人の顔が曜の脳裏をよぎる――
湧き上がる怒りを胸に、さらに強くゼロを睨み付ける。

<黒中曜>
「俺は…ツキや彗が信じてくれた自分の可能性に賭ける…!」

<ゼロ>
「経験の有無なんて関係ないさ…俺はなんだって人より上手くこなしてしまうからね」

ゼロは相変わらず余裕の態度を崩さなかった。

<ゼロ>
「このゲームがジャンケンだろうとポーカーだろうと、俺に勝てるポテンシャルを持つ人間はいないんだよ。
だからさ、勝敗なんかよりも心配なのは…キミの気持ちだよ」

ゼロは手にしたボールの目玉のようなスイッチを押す。
すると――

遠くの夜空の、それぞれの方角に"1"と"2"と"3"という数字が浮かび上がる。
そこが、それぞれの塁を示しているようだ。

ふと気付くと、コロコロと曜の足元にXBボールが転がっていた。
それを手に取る曜。
そして、視線を上げると――

ゼロの背後には、キャッチャーミットを構えた巨大な人型のドローンが鎮座していた。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」