17話「XB~VS彗~②」
一回裏、彗のチームの攻撃。
最初にバッターボックスに立ったのは彗だ。
<八雲彗>
「おら、もったいぶってないでとっとと投げてこいよ。
テメーの球なんか片手でも打てるからな」
彗はニヤニヤ笑いながら、挑発的な言葉をピッチャーのツキにかける。
<彩葉ツキ>
「余裕ぶってられるのも今のうちだよ、彗!
私、彗の事ならなんでもわかってるんだから! もちろん苦手なコースもね!」
ツキは鼻息荒くそう言って、投球モーションを開始した。
腕を大きく振りかぶり、足を高く掲げ――渾身の一球を彗の胸元高めに投げ込む!
だが――
「カキン!」
小気味良い音が鳴り、高々と舞い上がったボールはミナトの空へと消えていった。
守備についている曜達は、その行方を追うのに手間取る。
<彩葉ツキ>
「そ、そんな…彗の一番苦手なコースに投げたのに…」
<八雲彗>
「ハッ! これでようやく理解できたか!
お前の知ってるオレは、もういねぇってな!」
彗は王様のような悠然とした足取りでダイヤモンドを歩いていく。
格の違いを曜達に見せつけるかのように――
<千羽つる子>
「切り替えていきましょう、ツキさん!」
<五反田豊>
「ランナーが溜まっていなかったのが不幸中の幸いです。
まだ、たったの一点差ではありませんか」
<彩葉ツキ>
「そ、そうだよね…! 私達はまだ全然負けてない!
ここからゼロに抑えればいいんだよ!」
ツキはパチパチと自らの頬を両手で叩き、気合いを入れ直していた。
次のバッターに対し、投球を開始する。
しかし――伝説のミナトトライブはそんなに甘い相手ではなかった。
三田がヒット、続く一郎、二郎、三郎、四郎が犠打で確実に三田を進塁させていき、追加点を奪取する。
0対2で、彗のチームのリード。
<三田三太郎>
「悪いな…オメー達と争いたくはねえけどよ、XBで手を抜くわけには…」
<一郎>
「僕達、ビームバットを取り戻さなきゃいけないから…」
<二郎>
「あれだけは、失うわけにはいかないんだ…」
<彩葉ツキ>
「う、うぅ…」
回が進むごとに点差は開いていった。
曜達は空から投げ込まれる彗の剛速球を打つ事ができず――ツキは大崩れこそしなかったものの、毎回のように点を奪われた。
五回終了時点でのスコアは0対6。
<八雲彗>
「おいおい、どうしたどうした? オレを負かして元に戻すんじゃなかったのかよ?」
ピッチャーマウンドに立つ彗は、余裕の表情で曜達を煽る。
<八雲彗>
「ま、所詮この力には勝てねえってこったな! 力こそが全てなんだよ! お前もそろそろ学べ!」
<彩葉ツキ>
「勝った気にならないでよ! 私達はまだ負けてない!
6点差くらい、すぐにひっくり返してみせるから!」
<八雲彗>
「ハッ、しょうもねえ強がりだな!」
<彩葉ツキ>
「強がりじゃないし! …なんか、今の彗って一ノ瀬みたいだよ!
あの人は部下を雑に扱ってたせいで負けた。私は完璧だとかなんとか言ってたくせにね。今の彗にそっくりだよ…! だから私達は勝つ…絶対に負けない!」
<八雲彗>
「ハッ! テメーらごときに負けたカスと一緒にすんな!
そいつのやってた事は聞いたことあるが、言ってる事は間違っちゃいねえ…ただ、負けた事が悪かったんだ! 正しさを証明するには、勝ち続けなきゃいけねえ!」
勝てば全てが許される。
傲慢な振る舞いも、独善的な思想も、他者に対する暴力でさえも――それが彗の考え方のようだ。
<青山カズキ>
「やれやれ、まるで独裁者だね…24シティまで一緒に乗り込んだ彗くんはもういないと思った方がいいみたいだ」
<黒中曜>
「ああ、言ってる事が無茶苦茶だ」
<千羽つる子>
「あまりにも一方的な論理…頭痛がしてきましたわ」
<彩葉ツキ>
「昔は…あんなやつじゃなかったんだ…本当に…。
見た目は何も変わらないのに…なんで…」
聞けば聞く程、彗の考え方は受け入れがたいものだった。
だが、言葉が全て本心だとは限らない。
<黒中曜>
「口ではなんとでも言えるよな。俺は…そんなこと絶対に信じない」
<八雲彗>
「チッ、アホの相手は疲れるぜ…いくら言っても聞く耳もちやしねぇ」
彗は右手を広げて、自らの顔を覆い隠した。
そのままボソリと呟く。
<八雲彗>
「夢を叶える為には勝ち続けなきゃいけねえんだ…そのためにもオレは勝つ…」
<黒中曜>
「…夢?」
聞き返した曜を無視するように、彗はそこから大きく声を張り上げた。
<八雲彗>
「それがわからねえ奴は潰すしかねえよな! そろそろ本気でやってやるよぉ!」
「ゴオオオオオオオオオオ!」
突然、突風が吹くような音が鳴り、彗のXBギアから赤いオーラが発散された。
オーラは彗の全身をサナギのように包み込む。
そして、赤いサナギから出てきた彗の姿は――
<八雲彗>
「ハハッ…! 力が漲ってくるぜぇ! この力で今度こそテメーらをぶっ潰してやるからよぉ…!」
真っ白だった彗の衣装は、漆黒に変わっていた。
そして顔は、禍々しい赤いドクロの仮面に覆われていた。
おそらく、あの仮面もXBギアの一種なのだろう。
彗の存在感は、仮面を着ける前とは比べ物にならないほど強くなっていた。
だがツキは、それでも臆する事なく彗に歯向かう。
<彩葉ツキ>
「顔を隠して別人にでもなったつもり? そんな事したって、過去は消せないんだよ!」
<八雲彗>
「オレは過去を捨てたからこそ強くなれたんだ! その事は誰にも否定させねえ!
この顔が過去を思い出させるってんなら…そんな顔、捨ててやらあっ!」
<黒中曜>
「っ…!」
彗の覇気に気圧されて、曜達はたじろいだ。
ただでさえ圧倒的だったのに、さらにパワーアップしてしまった彗。
一体この怪物を、どうやって倒せばいいのだろう――曜達は絶望的な思いを胸に抱いて、仮面をつけた彗の姿を見つめていた。
と、その時だった。
<青山カズキ>
「いや、これは千載一遇の大チャンスだ…彗くんがあの姿になった事で、ようやく僕らに勝利の芽が出てきたよ」
カズキが思わぬ言葉を口にした。
<小日向小石>
「勝利の芽が出てきたって、どういう事…?
ただでさえ歯が立たないのに、八雲さんはますますパワーアップしてしまったんだよ…?」
<青山カズキ>
「パワーアップしたからこそだよ。
彗くんほど力に執着している人間が、今までフルパワーを使っていなかった…この矛盾にこそ、彼を攻略する鍵がある。
これは曜くんとツキちゃんのお手柄だよ。幼馴染を取り戻す事を諦めなかった君達の執念が、彗くんに悪手を打たせたんだ!」
カズキは赤い仮面をつけた彗の姿を見つめて、不適な笑みを浮かべた。
<青山カズキ>
「みんな、僕の近くに集まってくれ。今から彗くんを攻略するための作戦を話すから」
そしてカズキは皆に話した。
圧倒的な力を持つ彗を打ち倒す方法を――