19話「堕ちた彗星」
<八雲彗>
「ま、負け…た…? オレが…負けた…のか? あ…ああぁ…!」
彗はその場に膝をつき、打ちひしがれた様子で地面に顔を伏せた。
それと同時に、彗の頭上に浮かんでいた数字が急激に下落した。
一方で、曜の数字は一気に上昇していく。
<システム音声>
「大幅なマウンティング力上昇を確認。ランキングトップとなったため、王位交代が発生します。おめでとうございます。ランクが王様になりました」
システム音声が聞こえ、曜の頭上に王冠のマークが浮かぶ。
彗から王座を奪取する事ができた。これで、目的は達成だ。
しかし――
<黒中曜>
「………………」
勝利を告げられても、曜の胸に喜びが湧き上がってくる事はなかった。
曜の意識はなぜか朦朧としており――彗と自分が一体どんな戦いを繰り広げたのが、ほとんど思い出せない状態だった。
戦いの高揚の中で、何かとんでもない事を口走ってしまったような気がする――
<八雲彗>
「あ…曜に…ツキ…? オレ…は…?」
と、彗はよろよろと身を起こし、ぼんやりとした表情で曜とツキの顔を見回した。
先程まで敵意を剥き出しにしていたのが嘘のように、穏やかな表情だった。
<彩葉ツキ>
「彗…元に戻ったの!? 私達の気持ちが通じたんだね!」
ツキは嬉し涙を流しながら彗の元に駆け寄った。
足元がおぼつかない様子の彗の手を取り、助け起こそうと――「パチン」
だが彗は、ツキに差し伸べられた手を叩き、振り払った。
<彩葉ツキ>
「え、彗…?」
ツキは彗に振り払われた手を、呆然と見つめる。
<八雲彗>
「オレは…何も変わってねえよ。昔から…ずっと…曜に勝ちたかった…
生き返って…ナンバーズになって、ようやくそれが叶うと思ったのに…ちくしょう…」
彗は叫び声をあげ、両手を地面に振り下ろした。
<八雲彗>
「畜生っ…! 畜生っ!! どうして、どうしてなんだよ!!」
彗が地面を殴るたび、周囲一帯が揺れる――
まるで世界そのものが身を震わせて泣いているようだった。
<彩葉ツキ>
「しっかりしてよ、彗っ! 絶対…元の彗に戻れるからっ!
ゼロ! 早く洗脳を解いて! 約束したでしょっ!」
<ゼロ>
「…洗脳? ああ、そういえばそんな事言ってたね」
必死なツキとは対照的に、ゼロは心底どうでもよさそうだった。
<黒中曜>
「…さっさと彗を元に戻せ。彗、大丈夫だからな。俺が絶対に――」
<八雲彗>
「元に戻らねえといけねえのはお前の方だろ…」
<黒中曜>
「…え?」
<八雲彗>
「どいつもこいつも…やめろ。そんな憐れんだ目でオレを見んな。
いつも…いつもそうだった!! もうたくさんだ!! くそ…くそっ! オレは…勝てないのか?
一生テメーに勝てないのかよっ…!?」
彗は混乱しきっているようだった。
曜やツキが手を差し伸べようとするたびに、彗の混乱は増していく。
<黒中曜>
「彗、落ち着いてくれ! どうしたっていうんだよ!?」
と、その時だった。
<システム音声>
「大幅なマウンティング力低下を確認。ランクが貧民になります。都落ちを避けるにはマウンティング力向上を急いで行なってください」
<黒中曜>
「なっ…!?」
システム音声が、彗のランクが貧民に落ちた事を告げた。
上位の者が下位に負けると、多くのポイントを失うとは聞いてはいたが――まさか一度の敗北で、貧民にまで落ちるなんて予想外だった。
<彩葉ツキ>
「…え? ちょ、ちょっと待って!! ねえ、お願い…だから…!!」
ツキは空を見上げ、スペースツカイスリーに向けて叫ぶ。どうか、彗を殺さないでと――
<小日向小石>
「ふたりとも! 近くにいると危険だ…!」
<システム音声>
「タイムアップです。それでは、さようなら。来世ではハイソな人間になれるといいですね」
システム音声は、無慈悲に彗の都落ちを告げた。
ポインターの照準が、彗の体に合わされる。
<彩葉ツキ>
「早く助けないとっ!! 絶対に何か方法があるはずなんだからっ!!」
<八雲彗>
「あー、ホントうっせえよな…オメーらは…どっかに…行っちまえよ」
彗は静かな声でそう呟いて――
「ドン」
曜とツキの体を、両手で突き飛ばした。
そして、次の瞬間。
<八雲彗>
「グオオオオオオオォォォォォォ…!!」
スペースツカイスリーが降り注いだレーザービームが、剣のように――彗の体を貫いた。
<黒中曜>
「彗…!」
<彩葉ツキ>
「彗いいいいっ!!」
ツキの悲痛な叫びが、アザブ交差点に響き渡った。