20話「苦悶するケダモノ」
<八雲彗>
「あ…ぐぁ…はあ…はあ…」
レーザービームで体を貫かれても、彗にはまだ息があった。
喘ぐように息をして、必死に体を起こそうとしている。
<小日向小石>
「えっ!? まだ生きてるなんて…!? もしかして治療の見込みがあるかも…!!」
小石は即座に彗の体に駆け寄って、治療を開始した。
だが、彗の体は見るからにひどい状態だった。体のあちこちが焼け焦げてしまっている――いくら小石が腕の立つ医者とはいえ、こんな状態から助かるとは思えない。
<黒中曜>
「おい、ゼロ…彗を治せ! 洗脳を解くのからごほうびを変える!」
曜は咄嗟の判断で、ゼロにごほうびの変更を申告した。
彗の洗脳はまだ解かれていなかった――つまり、願いを叶える権利はまだ残っているはずだ。
<ゼロ>
「かっこつかないなぁ、曜。一度決めた約束をそう変えるものじゃないよ?
ま、そもそもされてもない洗脳を解くなんて、俺でもムリだけどさ」
<彩葉ツキ>
「…え?」
<黒中曜>
「何を…言ってるんだ?」
彗は洗脳されてない。ゼロの言葉の意味がわからず、曜は呆然とした表情を浮かべた。
<彩葉ツキ>
「だって…だって彗はあなたの洗脳のせいでおかしく…そうでしょっ!?」
<ゼロ>
「まったくさ…言ってる事が自分本位すぎて、一周回って俺は悲しくなってくるね。
キミが思い描いていた、理想の彗くんとやらと違うからって、そんなの知ったこっちゃないよ」
ゼロは仮面の奥であざ笑うように言った。
<彩葉ツキ>
「だ、だって! 私の知ってる彗はあんなんじゃない! 前の彗は…!」
<ゼロ>
「まるで彼の事を何でも知ってるって口ぶりだね。いいかい?
これまで彼が必死に隠してきた本心を、キミは知らなかった。それだけの事じゃない?
自分の知ってる彼が本物で、今の彼は違うって言い切っちゃうのは、ずいぶんと傲慢だと思うけど」
<彩葉ツキ>
「そんなわけないよ! 私達、昔からなんでも話してきたんだから!!」
ツキは必死に否定する。
ミナトで再会した彗の姿が、本当の彗である事を――信じたくないのだろう。
曜にはツキの気持ちが痛いほどよくわかった。
<ゼロ>
「ああ…もうやめようよ。そこの彼のためにも、キミのためにもさ。
言わせてもらうけど、キミだって曜に話してない事…あるんじゃないの?」
<彩葉ツキ>
「…そ、そんなのないよ!! ないからね、曜!?」
ツキはひどく焦った様子でゼロの言葉を否定する。何かを誤魔化そうとしているのは明白だった。
ツキは、一体何を隠して――と、その時だった。
<八雲彗>
「オ、オレが…オレ…だけが…!!」
<小日向小石>
「ふたりとも! 八雲さんの意識が戻ったよ!」
小石の必死の治療の甲斐あって、彗は意識を取り戻していた。
曜とツキは急いで彗の元に駆けつける。
<黒中曜>
「…彗! 彗、大丈夫か!」
<八雲彗>
「オ…オオオオ…!! 今度こそ…今度こそ、テメーに勝ってやるよ!
何度でも…何度でも…死ぬまでやり合おうぜええっ!?」
彗は正気を取り戻したわけではなかった。
曜の姿を目にするなり、襲いかかって――
<彩葉ツキ>
「曜、危ない!!」
<八雲彗>
「邪魔すんなアアア!! すっこんでろっ!!」
<彩葉ツキ>
「んんっ…!」
曜をかばって立ちふさがったツキを、彗は容赦なく殴り飛ばした。
<彩葉ツキ>
「う、うぅ…」
地面に倒れたツキは、意識朦朧とした様子でうめき声をあげていた。
<八雲彗>
「…出しゃばるからそうなんだよっ! わかったら大人しくしとけ!」
傷つけられたツキに対し、吐き捨てるように言う彗。
そんな彗の姿を見ていると、曜の胸の中に再び冷たいマグマのような怒りが沸き上がってきた。
<黒中曜>
「それがお前の…本性なのか…? なら俺は――」
<八雲彗>
「黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れっ! もういい、全員、ぶっ殺してやらあああああ!!
さあ…やろうぜぇ…曜ぉおおおぉぉぉオオオ!!」
獣のように彗は叫ぶ――もはや対話すら不可能な状態だった。
<八雲彗>
「…ァああァァあああぁあああっ!!!!」
やるしかない。曜は決意と共に拳を固く握りしめた。
<黒中曜>
「お前がそれを望むなら…俺はっ!!」
そして、曜と彗の三度目の戦いが始まった。
だが、その戦いは、戦いとすら言えないようなものだった。
レーザービームに撃ち抜かれた彗の体はすでに満身創痍の状態で、彗は武器のバットを振るたびに血を吐き出した。
<八雲彗>
「あァァ…あああぁあああっ!!!!」
もうやめろ、と何度も曜達は呼びかけた。
けれど彗は決して攻撃を止める事なく、バットを振り続けた。
執拗に、曜だけを狙って――
<黒中曜>
「…っ! 彗…!」
曜は何度も彗の体を殴りつけた。
本当は殴りたくなんてなかったが、暴れくるう彗を止めるには、そうするしかなかった。
彗の体を固めた拳で殴りつけるたび、曜は身を斬られるような痛みを感じた。
どうして、俺達はこんな事になってしまったんだ――
曜は運命を呪いながら彗に攻撃を加え続け――
<八雲彗>
「がぁあああああ…!」
そしてとうとう、彗は血を吐きながら地面に膝をつき――その体を地面に横たえたのだった。