9話「ケダモノとなった幼馴染み」
<三田三太郎>
「まったく…カズキの奴、あんな言い方しなくてもよお。
俺だって好きで王様奪われた訳じゃないのによぉ…まさか助けた奴に裏切られるとは思わないじゃねぇか。
…彗の奴、エラい事してくれやがったぜ。恩をあだで返すとはこの事だな」
三田は隠れ家のソファに身を投げ出すようにして座り、ぐちぐちと愚痴を呟いていた。
<黒中曜>
「ごめん…彗がひどい事をして」
曜は三田の隣に座り、愚痴の聞き役をやっていた。
だからこそ信じたくなかった。幼馴染みがそれほどの悪事に手を染めてしまったなんて――
<三田三太郎>
「悪い奴じゃねぇと思ったんだけどなぁ…XBの事も好きだって言ってたしよぉ…」
三田は呟きながら立ち上がり、デスクに立てかけられていたバットケースを手に取った。
チャックを開け、中から取り出したのは――
<黒中曜>
「それは…」
三田がケースから取り出したバットは、一見するとごく普通のバットだった。
だが、持ち手の近くにはボタンのようなものが取り付けられており、押せば変形しそうな構造をしている。
――まるで、自分が持っているビームバットのように。
<三田三太郎>
「お、このバットか? コイツはミナトトライブに受け継がれてるビームバットだ。
前はハルって奴が使ってたんだけど、今はここで預かってんだ。俺達にとっても大事なギアだしな…」
<黒中曜>
「へぇ…これもビームバット…。
俺の持ってるやつと少し違うな」
曜は、自分のものと比べてパーツ数の少ない、シンプルな構造のビームバットをまじまじと見つめた。
<三田三太郎>
「ハハッ、そりゃそうだぜ。
いま、巷に溢れてるビームバットは、これを参考に作られてるからな。だから、見た目がちょっと古臭いんだよ。
でも、そんなところがぐっと来たんだろうな…彗に見せたとき、すっげーいい反応したぜ…」
<黒中曜>
「え、彗が…?」
<三田三太郎>
「あぁ、まるで子供みたいにおめめキラキラさせてやがったぜ。それで、XBの話で盛り上がってよぉ…あいつ、マジで知識豊富なんだよな。俺達ミナトトライブのメンバーも全員知ってやがったし…
だからこそ油断しちまったんだ。XB好きに悪い奴はいないはずだからな」
<黒中曜>
「…………」
XBの知識豊富で、ミナトトライブのメンバーに精通している。
となると――ミナトシティに現れたあの彗は、やはり本物の彗である可能性が高い。
曜はその事をツキに伝える為、外で頭を冷やしているはずのツキの元に向かった。
<彩葉ツキ>
「…………」
ツキは隠れ家の入り口のそばで、ぼんやりと空を眺めていた。
<黒中曜>
「彗の事、考えてたのか?」
<彩葉ツキ>
「うん…」
話しかけると、ツキは曜の方に目を向けた。
<彩葉ツキ>
「ニセモノだったらいいなって思ったけど…やっぱり、さっきの彗は本物だと思う。
小さい頃からずっと一緒にいたんだもん。偽物かどうかなんて、すぐ…わかっちゃうよ」
<黒中曜>
「ああ、そうだな…あれは、彗で間違いない…」
<彩葉ツキ>
「う、ううっ…」
ツキは両手で顔を覆って泣き出した。
まだ記憶がほとんど戻ってない曜ですらショックだったのだから、ツキのショックは大きいはずだ。
<黒中曜>
「彗がああなってしまったのには何か原因があるはずだ…それを突き止めれば…きっと元に戻る」
<彩葉ツキ>
「…そ、そうだよね! やっぱりゼロのせいだよ! 私達の幼馴染みをあんなふうにしちゃうなんて許せない…! 絶対に彗を取り戻そうね!」
ツキは涙をぬぐって拳をギュッと握りしめた。
赤い目で、誓いの言葉を口にする。
誓いのポーズを取ろうかとも思ったが、やめておく事にした。
あれは、3人が揃ってなければ意味がないから――
<青山カズキ>
「お取込み中悪いけど、そろそろ具体的に今後の方針を決めるよ。みんな集まって」
カズキが隠れ家のドアを開け、曜達を呼びに来た。
<彩葉ツキ>
「行こ、曜! 彗の為にもがんばらないとね!」
<黒中曜>
「ああ…!」
気合いを入れ直した曜達は、隠れ家の中に戻った。
絶対に彗を取り戻すんだという誓いを胸に――
<五反田豊>
「では始めましょう。これからの動きは、ひとつひとつが重要になります。既にナンバーズ…八雲さんとのXGは始まっているのですから」
進行役の五反田の言葉を皮切りに、隠れ家での会議は再開した。
ミナトランキングダムをどう戦っていくか――XGにどう立ち向かうか。
それを話し合う為に。
<三田三太郎>
「XG? なんだそりゃ?」
<青山カズキ>
「ああ、それは説明してなかったね。XGっていうのは曜くんが、統治ルールを使ってナンバーズと戦うゲームの事だよ」
<千羽つる子>
「ゼロが曜さんを相手に、勝手に始めたデスゲームなんです!」
合流間もない三田に、XGとは何かを説明するカズキとつる子。
<三田三太郎>
「ゼロ…アイツが絡んでんのかよ…で、それに勝ったらなんかいい事でもあんのか?」
<五反田豊>
「こちら側が勝利した際には、ごほうびとしてゼロに様々な願いを叶えてもらえます。シナガワのXGでは、統治ルールを撤廃し代わりにXBに変えさせたんですよ」
<三田三太郎>
「マジかよ! そりゃ最高だな! 俺も久々にXBをプレーしたいもんだぜ」
XBと聞いた瞬間、三田は口にくわえている葉を犬の尻尾のように揺らした。
<青山カズキ>
「三田くんはXBしか取り柄がなかったんだし、今は相当辛いよね」
<三田三太郎>
「そうそう…うるせぇっ!!」
漫才のような掛け合いを見せるカズキと三田。
この2人、本当は仲がいいんじゃないか…?
<五反田豊>
「やはり…ここのXGに勝った場合も、統治ルールの撤廃を願うべきでしょうか?」
<三郎>
「そうなったら嬉しいなあ。この街の人達にとってもXBは馴染みがあるし」
<彩葉ツキ>
「………………」
他のメンバーがごほうびの内容を何にするかで盛り上がる中、ツキだけは思い詰めたような表情をしていた。
<小日向小石>
「彩葉さん、ずっと静かだけど…調子悪いとか? 大丈夫?」
<彩葉ツキ>
「あのさ…ごほうび…彗の洗脳を解く事に使っちゃダメ…かな?」
確かに、ごほうびの権利を使えば、彗を元に戻す事はたやすいだろうが――
<青山カズキ>
「…変わってしまった幼馴染みを元に戻したいっていう気持ちはわかるよ。でも、ごほうびの使い方は慎重に考えるべきだ。今優先されるべきは個人の感情じゃない」
<彩葉ツキ>
「そうだよね…変な事言ってごめんなさい」
カズキにいさめられ、ツキはしゅんとしてしまった。
<五反田豊>
「…八雲さんの事はよく存じませんが、私が見る限りでも正常とは思えません。
危険の芽を摘むという意味では、正常に戻すのもひとつの案ではないですか?」
<三田三太郎>
「つってもよ、大概の住民はこんな統治ルールなんてなくなってほしいって思ってるぜ?
なくせるならなくした方がいいんじゃねえか?」
何をしでかすかわからない彗を元に戻すべきか、それとも統治ルールを変えるべきか。
曜達は難しい選択を迫られていた。
ミナトシティに平和をもたらす為に、どちらの選択肢を選び取るべきか――と、その時だった。
<黒中曜>
「いや…彗を元に戻して統治ルールを存続させても、大丈夫かもしれない」
曜の頭の中に、一挙両得のアイディアが閃いた。
<千羽つる子>
「ええ!? それは一体、どのような…?」
<黒中曜>
「有栖川さんは統治ルール下でも、ミナトシティを平和に治めていた…そう三田さんは言っていた」
<三田三太郎>
「ん? まあ、そうだけどよ」
三田の話によると、有栖川という人物は王様になった際、『人助けをする奴が偉い』という空気を作り出し、マウンティングの意味合いを変えてしまったという。
まさに解釈によるルール変更だ。
<黒中曜>
「それなら、王様の座さえ奪えれば、やりようはあるはずだ。有栖川さんと同じように"マウンティング"の意味合いだけを変えてしまえばいいんじゃないか?」
<彩葉ツキ>
「…そっか! どのみち、彗を倒したらこの中の誰かが王様になるんだし!」
<青山カズキ>
「なるほど…うん、悪くないかもね。三田くん達もそれでいいかな?」
<三田三太郎>
「俺らは有栖川から託されたミナトを取り戻せるなら万々歳だぜ!」
彗から王様の座を奪ったら、マウンティングの意味合いを変更することで、ミナトシティに平和をもたらす。
そしてXG勝利のごほうびは、彗を元に戻すことに使う――それが、曜達の新たなる方針だ。
<青山カズキ>
「よし、話もまとまったところでまずは現状の確認をしよう。"王様、だーれだ"」
カズキが文言を唱えると、空中にランキング表が表示された。
画面をスクロールし、各々の順位を確認していく。
<千羽つる子>
「あまり順位に変化はないですね…」
<五反田豊>
「幸い皆、数値的にすぐ都落ちになることはなさそうですが…油断はできませんね。
有事に備え、もっと順位を上げておかなければ」
<青山カズキ>
「でも、みんなの順位をただ上げていくだけじゃ、現状は打開できない。
ランクが平民のままだと、彗くんに挑戦する事すらできないからね」
王様に挑めるのは貴族のみ。
それがミナトランキングダムのルールの一つだ。
<青山カズキ>
「だから、僕らがこれからやるべき事は二つだよ。
一つは全員のマウンティング力を底上げし、絶対に都落ちしない順位を確保する事。
そしてもう一つは、曜くんにポイントを集めて貴族にする事だ」
<黒中曜>
「俺を貴族に?」
<青山カズキ>
「貴族にするのは誰でもいいんだけど…いずれ彗くんとはXGで対決するんだ。君が適任だろ?」
<彩葉ツキ>
「うん…きっと、それがいいよ!」
<ねこまる>
「にゃー!!」
ツキとねこまるが力強く賛同する。
曜としても、その役目を断るつもりはなかった。
彗には以前、命を助けられた――だから今度は、曜が彗を助ける番だ!
<三田三太郎>
「よし、話は決まりだな! ポイントを稼ぐってんなら俺達ミナトトライブに任せろ!」
<青山カズキ>
「何かいいアイディアでもあるのかい?」
<一郎>
「マウンティング力を上げるには人助け」
<二郎>
「人助けならガレキ山だよ」
<三郎>
「あそこには困ってる人が大勢いるからね」
<四郎>
「助けてあげたら、たくさんのポイントを稼げると思うよ」
<青山カズキ>
「よし…じゃあそこにいって問題を解決し、マウンティング力を荒稼ぎするとしよう」
曜達は早速、留守番の四つ子を残して隠れ家を出発した。