11話「揺らめく光に導かれて」
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くしゃみをしながら、垂れそうな鼻を必死にすする曜。
曜は、ツキ達と別れたあと、適当な場所で寝泊まりしようとしたが、意外とネオチヨダシティは店が閉まるのが早く、行く当てもなくなり、再びオールドヘブンまで足を運んだ。
まだ肌寒い季節ではないが、標高の高いオールドヘブンで吹く夜風は寒く、曜は何度も体を震わせた。
<黒中曜>
「はぁ…俺、何やってるんだろうな…。
勢いに任せて飛び出してきたけど、先のことをちゃんと考えてなかった…。
かっこ悪いけど、戻って素直に謝るしかない…か」
強制的に頭が冷えた曜は、自分がさきほど、カッとなってしまったことを後悔する。
だが、後悔はしていても、心のもやもやは晴れない。
いったい、このもやもやはどうすればいいのだろうか。
体育座りで身をすくめると、隣から青白い光を感じた。
<曲田全一>
「おや、そこの少年。何かお悩みですか?」
<黒中曜>
「曲田…」
神出鬼没に出現する曲田のホログラムに、最初はうっとおしく思っていたが、今はこうやって自分のもとに会いにきてくれるのが不思議と嬉しい。
不意に差し込んだ光の中で、曜は袖口で慌てて鼻をこすり、情けない顔を悟られまいと視線をそらした。
<曲田全一>
「困っていることがあるなら、ぜひお手伝いしましょう。
困難なときこそ、皆で力を合わせ、生き延びるのです」
曲田から迷子の子供に優しく接するように話しかけられると、曜の喉の奥にひっかかっていた言葉がほどけたように、息と一緒に弱音が漏れ出していく。
<黒中曜>
「…実は、仲間と意見がぶつかったんだ。
お前と協力する道もあるかもしれない、ってそう言ったけど、全然理解してもらえなくて…。
だから、お前には悪いけど、やっぱり協力することはできない。
それに俺…ゼロに勝って、ウルトラごほうびで生き返らせたい人がいるんだ…。
どの道、お前とは戦わないといけなくなる…」
<曲田全一>
「あなたの事情はわかりました…
ですが、生命の復元が可能なのは、ゼロだけとは限りませんよ?」
曜はハッとして顔を上げた。
寒さで強張っていた指先が、震えるのをやめた。
<黒中曜>
「…え? それってどういう…」
<曲田全一>
「こう見えて、私は人間の生と死について、長年研究を続けてきました。
ゼロが行っている蘇生は、非常に興味深いもの。
それがあったからこそ、私の研究も大きく飛躍しました。
そして、あれを見た今――人間は死を克服できると確信を得たのです」
<黒中曜>
「そ、それって…ゼロと同じことが、お前にもできるっていうのか?」
<曲田全一>
「…残念ながら、世の中に絶対はありません。ただ、希望は確実に存在します。
少年。あなたは、どうやら無理をしすぎているようですね。
私とあなたの求める希望は、同じ――ですから、これ以上、無理をせずに私に委ねればいいんですよ」
<黒中曜>
「――っ」
――図星を刺された、そんな感覚だった。
XGの重圧に押しつぶされそうになっている――そのことに、自分でもとうに気づいていた。
心配をかけたくないと、仲間に打ち明けることもせず、ずっと胸の奥深くへ押し込めてきたはずだったのに、まさか敵の曲田に気づかれるとは。
弱さごと見透かされてしまった気がして、曜は自分が所詮ひとりの年頃の少年にすぎないのだと思い知る。
<曲田全一>
「あなたとは、夜分まで語り合いたいことがあります。
さあ、いらっしゃい。私のもとへ――」
そう言って、曲田はホログラムの両腕をゆっくりと広げた。
夜風にさらされていた曜を、青白い光の内側へと招き入れるかのような仕草だった。
すでにかなり遅い時間だというのに、"夜分まで"とさらりと口にする調子がおかしくて、曜は思わず小さく笑ってしまう。
ふわりと歩き出した光の輪郭を追うように、地面にしゃがみ込んでいた体を起こし、その背中――いや、揺らめく光に導かれるまま歩き出した。