7話「王次郎の家臣」
<秋葉市之助>
「うう…なんという仲間愛…」
<秋葉ひなぎく>
「王次郎様にこんな素晴らしいお仲間が出来たなんて…
ひなぎく、感動のあまり涙が出そうです…」
どこからか鼻をすする音が聞こえ、曜達がそちらへ視線を向けると、市之助とひなぎくが先ほどのやりとりを見守りながら目を赤くし、今にも涙ぐみそうになっている。
すると、Qは何度か店の中を見回したあと、とある質問を2人に投げかけた。
<Q>
「先ほどから才蔵の姿が見えないが、一緒にいないのか?」
<青山カズキ>
「才蔵?」
<秋葉市之助>
「我らは三兄妹でござる。
3人そろって王次郎様に忠誠を誓い、常に行動を共にしていたのだが…」
<秋葉ひなぎく>
「実は才蔵兄様は…今、行方がわからないんです…
曲田がここのチャンピオンになった後、しばらくして姿を消してしまって…」
<Q>
「そうだったのか…無事だとよいのだが…」
重くなりかけた空気を振り払うように、市之助はわずかに口元をほころばせた。
<秋葉市之助>
「ご心配には及びませぬ。
我ら、幼少のころより主君のために厳しき修行を積んでおる身。そう易々とくたばりは致しませぬ。
それよりも、王次郎様。拙者達に出来ることあらば、何なりとお申し付けくだされ!」
突然の申し出に、曜達は思わず顔を見合わせた。
簡単に済ませられる話ではなかったが、今は曲田に勝つために1人でも協力者が欲しい。
ひと呼吸おいてから、曜とQを中心に、ひなぎくと市之助へXGに至るまでの経緯をかいつまんで説明し始めた。
<秋葉市之助>
「ふむふむ、なるほど…
まさか、王次郎様達がそんな大変な目に遭われていたとは…」
<青山カズキ>
「良かったら、君達にも協力を仰ぎたい。
曲田に勝利するためには、どうすればいいかな?」
<秋葉市之助>
「それなら、お任せあれ!」
<秋葉ひなぎく>
「ひなは、これでもヘラヘラテレビの視聴者数トップ10に入る大人気配信にゃ!
ラブリー人気メイドのひながアドバイスをすれば、ちょちょいのちょいで視聴者を一気に増やせるお!」
そう言って、ひなぎくは猫のように両手を前に出してポーズを取りながら、片目をつぶってウインクを決め、自分のスマホの画面を曜達にぐいっと見せてくる。
その画面には、ヘラヘラテレビの視聴者数が多いトップ10のユーザーにしか表示されない、小さな王冠マークがきらりと輝いていた。
<三田三太郎>
「おお~~~!!! ひなちゃん、すっげー!!!」
<彩葉ツキ>
「ねえねえ! どうすれば視聴者をいっぱい集めることができるの!?」
<秋葉ひなぎく>
「いろんな方法があるけど、いま、初心者に一番おすすめなのは、綺麗な風景とか一風変わった廃墟とかを紹介する配信だお!」
<秋葉市之助>
「とくに、今はオールドヘブンが人気でござるな。
あそこに行けば、どんな配信者でも一定の視聴者が稼げる」
<彩葉ツキ>
「オールドヘブン? それってどんな場所なの?」
<秋葉ひなぎく>
「それは行ってみてのお楽しみだにゃ!! ついでに配信のお手本も見せてあげるお!!
ふふ…あそこなら王次郎様のカワイイ~写真も激写確定です…!」
ひなぎくは、にへらっとした怪しい笑みを浮かべながら、指先でスマホをわきわきと弄ぶ。
完全に"推しの撮影計画"を立てている顔つきだ。
<青山カズキ>
「ああそうだ、その王次郎っていう呼び方は今後やめてほしいかな。
王次郎に恨みを持っている人間がこの街にはたくさんいるはずだからね」
ひなぎくの欲望にはあえて触れず、カズキはあくまで静かな声色で注意を促した。
その言葉に、ひなぎくもさすがに表情を引き締め、姿勢を正す――が。
<秋葉ひなぎく>
「…わかりました。王次郎様のことを決して王次郎様とは呼ばないと、このひなぎく、王次郎様に誓います」
<彩葉ツキ>
「いきなりダメそう…!」
<秋葉市之助>
「拙者達にとって、王次郎様は唯一絶対の主君。呼び方を改めるとなると…覚悟がいるでござる」
<青山カズキ>
「想像していた以上にこの人達はQのことを相当神格化してるみたいだね。
でもQだってひとりの人間だよ? お腹も減るし、トイレにだって行くさ」
<秋葉市之助>
「な、なんと無礼な…!
王次郎様はトイレになどいかぬ…!」
<三田三太郎>
「嘘だろ!?
こいつ、Qのことなんだと思ってんだ!?」
<彩葉ツキ>
「ま、まるでアイドルオタクみたいだね…」
曜も若干引き気味になりつつQのほうをうかがうが、当の本人は、ひなぎくと市之助の過剰な信仰ぶりにはすっかり慣れているのか、とくに表情を変えることもなかった。
<青山カズキ>
「はあ…とにかく気をつけてよ。
それじゃ、オールドヘブンってとこに向かうとしよう」
カズキが話を切り上げると曜達はそれぞれ椅子を引き、立ち上がって荷物をまとめ始めた。
<秋葉市之助>
「…王次郎様改め、Q様。少しよろしいですか?
折り入ってお話ししたいことが…」
<Q>
「ああ、わかった。私もお前に話がある。
みんな、先に行っててくれ」
市之助に呼び止められたQは小さくうなずき、他のメンバーへ"すぐ追いつく"と視線で合図を送る。
曜達は、とくに気に留めず、ひなぎくの案内で店の外へ向かって歩き出した。