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13話「魔王の登場」

<彩葉ツキ>
「あった! 脱出ポッドだ!」

細い通路を抜けた先は、大きく開けた空間になっていて、そこには直径1メートルほどの丸いカプセルがずらりと並んでいた。

脱出ポッドだ――
説明を受けなくても、見ただけでそうとわかった。
どうやら、ここは脱出ポッドの格納庫らしい。

<八雲彗>
「おっしゃあ! じゃあ後はこれに乗って――」

その時だった。
「バツン!」と、ブレーカーが落ちたように、突然あたりが真っ暗になった。

<彩葉ツキ>
「きゃあっ!?」

<八雲彗>
「な、なんだっ!?」

一同があちこちで悲鳴に似た声を上げる。
曜も突然の暗闇の中、身を強張らせていた。

すると――

どこからともなく ぶきみなこえが きこえる…

<???>
「おお ゆうしゃ くろなかよ…
ついに ここまで きてしまいましたか」

<黒中曜>
「…ッ!!」

曜はハッとした。
その声は間違いなく――

<黒中曜>
「女神…様…?」

<???>
「そう めがみとは いつわりの なまえ。
あなたを みちびいた この おれこそが…」

漆黒の暗闇の中――
燭台に立たされたロウソクに灯がともる。
1つ、2つ、3つ、4つと…次々と照らされていく。

その明かりの中に浮かび上がったのは――

"玉座"だった。
いつの間にか、燭台の中心に不気味な装飾が施された玉座が置かれていた。
そこに深々と腰掛けているのは――

<ゼロ>
「俺こそが…勇者が倒すべき魔王"ゼロ"という訳だ」

ゼロは玉座に肘をつき、手の甲の上に自分の顔を乗せていた。
彼の被ったメタリックな仮面が、周囲のロウソクの光を受けて不気味に輝いている。
その仮面の後頭部から垂れる細いドレッドヘアーは腰のあたりまで伸びていた。

その姿を目にした途端――
ゾワッとした恐怖感が、曜の足元から頭のてっぺんまで駆け抜けていく。

<黒中曜>
「こ、こいつ…ッ!!」

<青山カズキ>
「よりにもよって、彼が待ち伏せていたとはね…」

カズキも思わず後ずさりしていた。
それだけ、目の前にいる人物が危険という事だった。

<ゼロ>
「…さあ、最終決戦だ。存分に殺し合おうじゃないか」

突然、曜達の立つ足元が星々の煌めく宇宙へと変わる。

<千住百一太郎>
「な、なんだこりゃあ!!?」

<小日向小石>
「う、宇宙に…立っている!?」

足元だけではない。
頭上も、そして前後左右も、すべてが宇宙空間へと変わっていた。
さっきまで存在していた脱出ポッドもどこにもない。

彼らは宇宙のど真ん中に立っていた。

戸惑う一同をよそに、玉座に腰掛けていたゼロは、その場で両手を広げると、ドレッドヘアーをはためかせながらゆっくりと立ち上がり――
さらに、宙へと浮遊していった。
曜達はそんなゼロを見上げる格好になった。

両手を広げたまま宇宙空間に浮かぶゼロ。
その体がピタリと静止した直後――

<黒中曜>
「…く、来るぞッ!!」

直感的に曜は叫んでいた。
と同時に――

宙に浮いた状態から、ゼロは勢いよく一同に向かって突っ込んで――

<ゼロ>
「…いくと思った? なんてね。ただの冗談だよ」

フワリと一同の前に着地したゼロは、あっけらかんとそう言い放った。

<ゼロ>
「ちょっとした遊びのつもりだったけど…予想以上に驚かせてしまったかな?」

「パチン」と指を鳴らすと、再び周囲が真っ暗になった。
そして――

「パチン」

二度目のその音で、あたりに明かりが点く。
さっきまでの宇宙空間ではない――
玉座も、不気味な燭台もない――

最初の、脱出ポッド格納庫に戻っていた。

<黒中曜>
「えっ…?」

<ゼロ>
「ゲームクリアおめでとう、曜」

「パチパチパチ」と、ゼロは手を叩いて曜を祝福した。

<ゼロ>
「"勇者育成ゲーム"はこれでおしまいだよ。
強くなった今のキミなら、もう外に出ても大丈夫だ。
ここから先は、もっと面白いゲームをしよう」

<青山カズキ>
「…それは、このまま僕達が地上に帰るのを見逃してくれるって意味かな?」

と、カズキは探るような視線をゼロに向ける。

<ゼロ>
「…見逃す? 何か勘違いしてない? 俺はずっと、キミ達の好きにさせてきたつもりだ」

<彩葉ツキ>
「ど、どういう事…?」

そんなツキの疑問に答えたのはQだった。

<Q>
「簡単な事だ…私達の動きは最初からすべてこの男に筒抜けだったのだろう…」

<小日向小石>
「じゃ、じゃあ…僕達が人工衛星の制御装置を壊したのも…?」

<ゼロ>
「スペースツカイスリーを狙うとは、目の付け所は良かったんじゃないかな?」

ゼロは余裕の口調だった。

<ゼロ>
「確かに、あれを停止させる事ができれば、監視とレーザーの心配もなくなるから、自由に地上のシティを行き来する事が可能になるだろうね。
そうなれば、各地で反乱分子を集めて拠点を作って、いつかは俺へのクーデターが成功するかもしれない」

その口調は、やがて笑みへと変わる。

<ゼロ>
「ははっ…想像するだけで楽しくなっちゃうねぇ!
あははははははははははははははははっ!!!」

不気味な仮面の奥から聞こえてくる何者にも気兼ねする事のない高笑い――
耳にこびりつくような、その残響を聞きながら、曜は目の前の男の異常性に身を強張らせていた。

<黒中曜>
「………………」

あいつは、今のこの状況を心から楽しんでいる――

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」