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14話「ゼロとの対峙」

<轟英二>
「…逃げるぞ」

言うや否や、轟はその身に似合わぬ異常な俊敏さで走り出し、脱出ポッドに駆け込もうとした。

<ゼロ>
「おっと」

ゼロがそれに気付いた瞬間――
目にもとまらぬスピードで、飛行物体がやって来た。
巨大な"人の手形"をしたドローンだった。
左手と右手の2体――
それはゼロの右手と左手のように、彼の意思のまま動いていた。
まず、左手のドローンで轟の全身を掴むと――

<轟英二>
「うおっ!」

次に、右手のドローンで轟を往復ビンタした。

<轟英二>
「ぐわっ! うううっ!」

その後、轟を元いた位置まで放り投げた。いらなくなったオモチャのように。

<轟英二>
「ぐえっ――」

<ゼロ>
「心配しなくても、後で地上へ送り届けてあげるよ。
でも…話に集中できなくなっちゃうから、もうコレは壊しちゃおうか」

今度は、自分自身の右手を脱出ポッドにかざした。
すると―

「ウイイイイイイイン…」

どこか遠くの方から、機械が起動するような音が聞こえた――と思った次の瞬間だった。
細い光の線が天井を突き破って、1台の脱出ポッドを貫いた。
――レーザーだ。
一同に反応する暇すら与えないまま、光の線に貫かれた脱出ポッドは「ドカーン!」と爆発した。

<黒中曜>
「…なッ!?」

それだけでは終わらない。
さらに何本のものレーザーが天井を突き破って、次々と脱出ポッドを破壊していく。
「ドカーン!」「ドカーン!」「ドカーン!」「ドカーン!」
強烈な爆風と熱に耐えるだけで、一同は何もできなかった。

ほんの数秒の間に、その場の脱出ポッドはすべて残らず破壊し尽くされてしまった。

<ゼロ>
「これで気兼ねなく話ができるね…」

あたりの混乱を気にも留めずに、ゼロは落ち着いた口調で言った。

<青山カズキ>
「ま、まさか…今のはスペースツカイスリーか…?」

カズキが咳き込みながら言った。

<千羽つる子>
「そ、そんな! スペースツカイスリーの制御装置は、もう破壊したはずでは!?」

<ゼロ>
「あぁ、そうか…しまったな…もう少し内緒のままの方が良かったかも…」

ゼロは残念そうに頭をポリポリと掻いた。

<ゼロ>
「あのね、キミ達が壊したのは単なる外部コンソールだよ。
俺にはそんなの必要ない。だって俺の脳波で直接コントロールできるんだからね」

<彩葉ツキ>
「脳波で…直接…?」

<ゼロ>
「つまり、キミ達の24シティ攻略は無駄だったって訳だよ。残念だったね」

ゼロはあっけらかんとそう言い放った。

<千住百一太郎>
「なっ…!? そんなのってアリかよ…!」

<雪谷えのき>
「百一太郎かわいそ~!」

<千住百一太郎>
「お前もだよっ!!」

<黒中曜>
「お、お前は何がしたいんだ…?」

曜はやっとの思いで声を振り絞った。

<黒中曜>
「俺の記憶を奪って…俺をあんな場所に閉じ込めて…
みんなをこんな風に弄んで…一体、何が目的なんだ?」

<ゼロ>
「記憶を奪って閉じ込めた…か。
キミにそんな言われ方をされるなんて心外だな…」

ゼロは肩をすくめて見せた。

<ゼロ>
「…目的なんてずっと同じさ。俺はキミと、楽しく"ゲーム"がしたいんだ」

<黒中曜>
「ゲーム…?」

<ゼロ>
「"俺がデザインした最高のゲーム"だよ。脳が痺れ、血が震えるほどに楽しいゲームさ」

途端に、ゼロは自慢げで饒舌な口調に変わった。

<ゼロ>
「ゲームって、常に必死に、文字通り死に物狂いでやるべきだろ?
そうじゃなきゃプレーする意味がない。俺が望むのはそういうゲームだ。
キミだって本当はそうなんだろう? そんなゲームがしたいんだろ?」

<黒中曜>
「バカに…してるのか…?」

ゼロの言葉を聞いている内に、曜は自分の腹の奥からフツフツと怒りが湧いてくるのを感じた。

<黒中曜>
「俺はあの村で2年間も無駄に過ごさせられたんだぞっ!」

その怒りは、叫び声となって曜の口から飛び出した。

<黒中曜>
「何がゲームだ! あの村に俺を閉じ込めた事となんの関係があるっていうんだ!?」

<ゼロ>
「あるさ! 大いにあるとも!」

ゼロはそう言い放った。

<ゼロ>
「曜…キミは俺にとって"大切な対戦相手"なんだ」

<黒中曜>
「対戦…相手…?」

<ゼロ>
「今の地上…ネオトーキョー国の全シティは"ゲームですべてが決まる街"に生まれ変わっている。
ま、地上の支配者になった俺がそういうルールに法律を作り変えたんだけどね」

ゲームですべてが決まる――
曜は、すぐにはその言葉の意味が理解できなかった。

<黒中曜>
「な、何を言ってるんだ? そんなバカな話が――」

<小日向小石>
「それ…本当の話なんです」

背後から小石の震える声がして、曜は思わず振り返った。

<黒中曜>
「えっ…?」

<轟英二>
「今の地上…ネオトーキョー国のすべてのシティでは、全国民がこいつのゲームに巻き込まれているんだ…」

ビンタで顔を腫らした轟が忌々しげに吐き捨てる。

<黒中曜>
「ぜ、全国民って…じゃあ、この国では大人も子供も全員ゲームをやらされてるって言うのか?
ゼロの作った…あの村みたいなくだらない真似を…?」

<ゼロ>
「いやいや。あの村は単なるトレーニング施設だよ。地上のゲームはあんなにヌルく作ってない」

ゼロは無邪気に、だからこそ不気味に語った。

<ゼロ>
「本当のゲームは命懸けでやらないと意味がない。さっきそう教えただろう?
だから、俺はキミがあの村で暮らし、そして仲間と一緒に村を脱出するまでの一連の冒険を通じて…」

まるで舌なめずりでもしているようにゼロは言う。

<ゼロ>
「…曜、キミが成長するのを待っていたんだよ」

曜は、自分の体から力が抜けていくのを感じた。
あの村での暮らしも、こうして仲間に助け出されて、それを阻止された事も――

すべて、ゼロの思惑通りという事か?

<彩葉ツキ>
「こ、この人…絶対おかしいよ…」

ツキの声は震えていた。
そんな彼女の事など気にも留めずに、ゼロは曜だけに向かって語り続ける。

<ゼロ>
「曜、キミは俺にとって特別な存在なんだ。腑抜けた地上の連中とは違って、俺と遊べる才能がある。
だから、各シティのゲームを通じてキミがもっと強くなったら…」

仮面越しのゼロの目は、おそらく子供のように輝いていただろう。
まるで子供のようにワクワクした声で――

<ゼロ>
「俺とキミで、最高のゲームをプレーしよう!!」

絶句―――
曜は言葉が出なかった。
ゼロの言葉の意味自体はわかっても、理解も共感もまるでできなかった。

<ゼロ>
「あ、不安にならなくても大丈夫だよ。
今どき一人旅じゃ不安だろうと思ったから、そこにいる反逆者共をキミの仲間として用意したんだし」

<千住百一太郎>
「はぁ!? そりゃあ俺達もこいつと一緒にお前の考えたゲームに付き合えって事かよ!
ざけんじゃねーぞ! なんで俺達まで――」

<ゼロ>
「悪いけど…」

ゼロが冷たく刺すような声で、百一太郎の言葉を遮る。

<ゼロ>
「ゲームの参加者がちょっと減るくらい最初から計算に入ってるからね?」

<千住百一太郎>
「…うっ」

その迫力に、百一太郎は一瞬で気勢を殺がれた。

<ゼロ>
「自分が減らされる側になりたくなかったら、あまり迂闊な事は言わない方がいいよ」

<黒中曜>
「………………」

このままではマズい。
逃げないと――自分の中の何かがそう警告していた。
それが本能なのか、あるいは失った記憶なのかはわからない。

どうする…?
どうすれば俺達はこいつから逃げられる?

曜は"逃げる"という事を大前提に考えていた。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」