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15話「3人で叶えたい夢」

<ゼロ>
「…迷ってるみたいだね。だったら選択肢を与えてあげるよ」

唐突に、ゼロが口を開いた。

<黒中曜>
「え…?」

<ゼロ>
「あの村にいた頃によくやったから慣れっこでしょ? ほら、選びなよ」

ゼロがそう言うと、曜の目の前に3つの選択肢が浮かび上がった。

<せんたくし>
「全員で戦って隙を作る」「壊れていない脱出ポッドに乗り込む」「別の脱出経路を探す」

曜は頭を振る――しかし、目の前の選択肢は消えてくれない。

<彩葉ツキ>
「…どうしたの、曜?」

心配そうにツキが覗き込んでくる。
どうやら、その選択肢は曜にしか見えていないようだ。

<黒中曜>
「………………」

曜は必死に思考を巡らせた――それがゼロから与えられた選択肢だとしても。

どうすれば、こいつから逃げられる…!?

全員で戦って隙を作る――
それではダメだ。
ハンドドローンとスペースツカイスリーを自在に操れるアイツの強さは、みんなで戦ってもどうこうなるとは思えない。
戦いを挑んでも一網打尽にされるだけで、アイツから逃げ出す隙なんて生まれないだろう…

壊れていない脱出ポッドに乗り込む――
まだ、壊れていない脱出ポッドがどこかにないか、曜はあたりを見回した。
しかし――
どこにも、そんな物は見当たらなかった。
すべての脱出ポッドはさっきのレーザーによって完全に破壊し尽くされてしまっていた。

別の脱出経路を探す――
それが最後の選択肢だった。
ゼロから逃れ、来た道を戻って別の脱出経路を探せば…
という考えは一瞬で否定される。
さっき轟を襲ったハンドドローンのスピードを考えれば、最初の「ゼロから逃れる」という前提自体が不可能としか思えなかった。

<ゼロ>
「…どうしたんだい? どの選択肢も選ぶ前から無理だと悟っちゃった感じかな?」

目の前から選択肢が消える。
何もかもゼロの思い通りに進んでいるような気分だった。
今もまだ、ゼロの支配下に置かれてるような――

<黒中曜>
「くそっ…!」

と、そんな曜の肩に手が置かれる。

<八雲彗>
「…付き合ってらんねぇな」

彗は、曜を押しのけるようにして一歩前へと出た。

<八雲彗>
「いいか? よく聞けクソ仮面野郎!」

怯む事なく、青ざめる事なく、その目はじっとゼロを睨みつけていた。

<八雲彗>
「コイツはオレ達の幼馴染みだ。メグロシティに連れて帰らせて貰うぜ!
メグロでやんなきゃなんねー大事な予定があるんだ。くだらねぇ遊びなんかに構ってられっか」

<黒中曜>
「彗…」

<彩葉ツキ>
「そ、そうだよっ!」

彗に同調するように、ツキも声を上げる。

<彩葉ツキ>
「私達には、3人で叶えたい"夢"があるんだからっ!
あんたのゲームなんかに付き合ってるヒマないんだよ!」

<ゼロ>
「"夢"…? そんなのが俺とのゲームより優先されるっていうの?」

と、ゼロは冷たい声で返す。

<ゼロ>
「そうだな…それなら、もう一度選択の機会をあげようか?」

<黒中曜>
「選択…?」

<ゼロ>
「曜、キミはどうしたいんだ?
俺とのゲームを選ぶのか、それとも彼らを選ぶのか」

そんなの選ぶまでも――

<ゼロ>
「…よーく考えて決めるんだよ?
キミの魂は、本当はどちらを望んでいるのか…」

再び、曜の目の前に選択肢が浮かび上がった。
2つの選択肢――

<せんたくし>
「ゼロの言葉に従う」「彗とツキに同調する」

その選択肢を前に、曜は思う。
俺がどうしたいか…だって?
そんなの決まっている。決まっているけど――

<八雲彗>
「…オレらを巻き込みたくねぇなんて言うなよ」

先回りするように彗は言った。

<八雲彗>
「自分だけがあいつの言いなりになる代わりにオレらには手を出すなとか抜かしやがったら、オレがオメーをぶん殴るぞ」

<彩葉ツキ>
「彗の言う通りだよ。そんな水臭い事言わせないよ?」

ツキもそれに同意する。

そんな2人に、フッと曜は笑った。
確かに、その選択は頭をよぎっていた。
幼馴染みだなんて何も覚えてないけど、この2人は自分を大切に思ってくれている。
そんな2人を巻き込む訳にはいかない。
ゼロの目的は自分なんだ。
だったら――

けど、そんな曜の思考を見透かしたように2人は言った。
曜はまた、2人に助けられた気がした。

そもそも、彗とツキは自分を助ける為だけに、わざわざこんな場所まで来てくれた。
そして、何も覚えていない自分の為に、今もこうして戦ってくれている。

だったら、残る選択肢は――

<黒中曜>
「いい加減にしろっ…!」

曜はゼロを睨みつけるように言った。
その目に恐怖はもうない。代わりに闘志の光がともっていた。

<黒中曜>
「俺は2人と一緒にメグロシティに帰るんだ!」

その力強い言葉に、ツキから思わず笑みがこぼれる。

<彩葉ツキ>
「曜っ…!」

<ゼロ>
「過去の事は何も覚えていないのに…かい?」

ゼロはあざ笑うような態度で言う。

<ゼロ>
「キミはXBの事だってわからないんだろう?」

<黒中曜>
「失ったなら、また取り戻せばいい。お前の言いなりになるなんてまっぴらだ」

それでも、曜は折れなかった。
そんな曜を見て、ゼロは――

<ゼロ>
「…そうか。キミ、ちょっと態度変わったね」

心底不愉快そうに、そう吐き捨てた。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」