18話「XB~VSゼロ~②」
<青山カズキ>
「…どうやら、先行は向こうのようだね」
ゼロのハンドドローンが飛んできて、ゼロにバットを渡す。
ネオンの光を放つサイケデリックなバットだった。
ゼロはそのバットをゆっくりとした動作で振っている。
<千羽つる子>
「ピッチャーは…誰がやりますか?」
カズキがチラリとQを見やるが――
<黒中曜>
「…俺にやらせてくれ」
曜はじっと手にしたXBボールを見つめながら言った。
<Q>
「…任せたぞ」
Qがそう返すと、他のみんなはもう何も言わなかった。
四方八方、散り散りになっていく。
各地に守備に回ったようだ。
曜は手にしたXBボールを強く握り締めながら、バットを構えたゼロを見据える。
<黒中曜>
「…記憶も、経験も、関係ない。俺はお前に勝つ」
そう言いながら、曜は投げの体勢を構えた。
投げ方なんてわからなかったが、自然と体がその構えを取っていた。
<ゼロ>
「まぁ、どっちが正しいかは嫌でもわかってくるはずさ。キミの可能性とやらは…絶望に喰らいつけるのかな?」
曜は本能のまま大きく振りかぶると――
腕を鞭のように大きくしならせ、渾身の力でXBボールを投げた。
曜の手から放たれたXBボールは、激しく縦回転しながらキャッチャーロボットのミットへと吸い込まれていく。
「バァン!」という空気が弾けるような音と共に、XBボールはミットに収まった。
それでもスピンをやめないXBボールは、ミットの中で回転し、摩擦による煙を上げていた。
<ゼロ>
「…いいボールだ。これならトライブのエースピッチャーに匹敵するだろうね」
<黒中曜>
「"トライブ"…?」
<ゼロ>
「23のシティにはそれぞれアウトローの若者達が作った組織がある…それがトライブさ」
その言葉に聞き覚えはなかったが――
なぜか、曜の心に響くものがあった。
自分もそのトライブにいたのだろうか?
ツキや彗と一緒に?
いや…今は勝負に集中だ。
そう思い直して、ゼロと向き合う。
<ゼロ>
「知ってるかい? トライブ同士が大事な何かを賭けてゲームをするのがXBなんだ。
その流儀に従うなら、今は俺も"トライブ"って事になるのかな?」
ゼロの声色はワクワクしたように昂ぶっていた。
<ゼロ>
「ゲームの結果に全てを委ねるなんて…いいね。
俺もその"トライブ"ってヤツになろうかな。そうだな――」
思案顔の後、ゼロはパッと嬉しそうな声で、
<ゼロ>
「今後は"24トライブ"と名乗る事にしよう!」
24シティのトライブだから、24トライブ――
ただ、カズキからは"24シティ"自体が、ゼロ達が勝手に名乗っているだけのシティだと聞いた。
その上、"24トライブ"まで勝手に名乗るなんて――何を考えているのか?
いや、ゼロはどこまでいっても、すべてをゲームだとしか考えてないのだろう。
<ゼロ>
「そうだ! いっそ、負けたら24トライブを解散して地上のすべてのシティを解放してもいいよ?」
<黒中曜>
「は…?」
<ゼロ>
「だって、失うものが大きい方がゲームは盛り上がるだろ?」
やっぱりだ。
彼にとって、すべてはゲームなのだ。
ネオトーキョー国を支配する事も――
人の生き死にさえも――
<ゼロ>
「さて、そうと決まれば、ゲーム再開だ。
今度は俺も本気で打ちにいくよ。甘いボールは投げない事だ」
仮面の奥でニヤリと――笑った気がした。
不気味な迫力だったが、曜も気圧されてはいない。
さっきよりもさらに大きく振りかぶり――そして渾身の一球を投げる。
唸るような剛速球がゼロ目掛けて飛んでいく。
<ゼロ>
「…キミのちっぽけな感情程度じゃ、俺との力の差は埋まらないのさ」
ゼロがバットを振る。
リラックスしたままの一振りだった。
一見すると、力のないスイングだったが――
「キィン…!」という甲高い金属音と共に――
ゼロの弾き返したXBボールは曜の頬を掠め、そこから空高く上昇し、遥か彼方へと飛んでいった。
<黒中曜>
「…ッ!!」
<ゼロ>
「足りないよ。今の曜では逆立ちしたって俺には勝てない」
ゼロは余裕の足取りで塁を回る。
しかし、XBボールはいつまでたっても戻ってくる気配はない。
そうこうしている間に、ゼロは悠々とシナガワシティを一周し、再び曜の前へと戻って来た。
<ゼロ>
「これで1点…攻撃側のバッターは、打ったボールが戻ってきて守備側にタッチされるまでに4つの塁を一周する。
シティ全域をぐるっと駆け抜けて一周し、本塁まで戻って来られたら1点が入る訳だ」
ホームベースを軽やかに踏むゼロ。
<ゼロ>
「ジャマな守備は、殴ってダウンさせればいい…それこそがXBの醍醐味だけど、今回はボールが遠くに飛び過ぎて、そんな状況にもならなかったね」
<黒中曜>
「………………」
曜は悔しさにギリリと歯噛みした。
<ゼロ>
「そう言えば、24トライブ側は俺1人だけだから次の打席も俺になってしまうんだけど――」
次に、ゼロは驚きの一言を言い放った。
<ゼロ>
「もうこの回はチェンジでいいかな。1点あれば充分だろう。
攻守交替しようか」
<黒中曜>
「なんだって…?」
<青山カズキ>
「ありがたい申し出だ。曜くん、ここは素直に受け入れよう」
怒りに震える曜の肩を、カズキが叩く。
<黒中曜>
「カズキさん…」
<青山カズキ>
「今の僕達に求められるのは勝利っていう結果だけだ。
ゼロとのXBに、XBプレーヤーとしてのプライドをかける価値なんてないよ」
カズキの言う通りだ――曜は自分にそう言い聞かせた。
確かに、XBにおいてもゼロの力は圧倒的だが、今は勝つ事だけを考えよう…と。
<青山カズキ>
「ゼロには油断がある。そこを突けば、きっと勝機はあるはずだ」