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19話「XB~VSゼロ~③」

そして、攻守交替――

XBボールを手にするゼロ。
その前に、バットを手に立ったのは――

<ゼロ>
「へぇ…1番手はキミか」

そこに立っていたのは"元ミナトトライブ"の青山カズキだった。

<青山カズキ>
「一応、XB歴は僕が一番長いからね。打順は計算して組ませて貰ったよ」

<ゼロ>
「フフフ…」

薄ら笑いを浮かべて構えを取るゼロだったが――

<青山カズキ>
「…あぁ、そうだ。勝負の前に1つだけ言っておきたい事があるんだった」

緊張の瞬間を前に、カズキは出鼻をくじくように言った。

<ゼロ>
「ん…? 何かな?」

<青山カズキ>
「確かに、僕らにとってツキちゃんと彗くんは成り行きで行動を共にしていたに過ぎない。彼らは、24シティに乗り込む直前になって強引に合流してきただけだからね。けど…」

カズキの声色は次第に厳しさを帯びていく。

<青山カズキ>
「彼らは、曜くんの事を本当に大切に思っていた。だからこそ、僕らはあの2人を受け入れたんだ」

<ゼロ>
「…何が言いたいの?」

ゼロが退屈そうに問いかけると――

<青山カズキ>
「僕も怒ってるって事さ」

カズキは即座に厳しい口調で答えた。

<ゼロ>
「"怒り"…感情の力って訳か。
けど、他人を想って生じる"怒り"なんてエネルギーとしてたかが知れているね」

ゼロは退屈そうな態度を変えない。

<ゼロ>
「青山カズキ…キミの事は一応、それなりの知性派だと思っていたんだけど、キミもくだらない感情で俺に勝てるつもりかい?」

<青山カズキ>
「『つもり』じゃなくて、勝つのさ」

<ゼロ>
「…本当にそんな答えでいいの?
発言する時はよく考えるべきだよ。"最期の言葉"になるかもしれないからね?」

ゼロはスッと振りかぶると、そのまま力みのないフォームでXBボールを投げる。

「キィン――」と、カズキはその球を打ち返す。
打球は三塁方向へと飛んでいく。

<ゼロ>
「やれやれ。守備は1人だから大変だって言うのに」

ゼロはハンドドローンを飛ばして、打球を拾いに行く。
その間に、カズキは1塁まで辿り着いたが――

そこまでだった。
XBボールを手にしたハンドドローンに行く手を阻まれ、カズキは1塁上に留まるしかなかった。

<青山カズキ>
「…まぁ、まだ無理をするには早いかな」

<ゼロ>
「賢明な判断だよ」

再びXBボールを手にしたゼロは、視線をホームベースへと向ける。
そこには、巨大なバットを手にした"元オオタトライブ"の西郷ロクが立っていた。

<ゼロ>
「元オオタトライブの西郷ロク…まさかキミまで感情的にはならないよね?」

<西郷ロク>
「敵と馴れ合う趣味はない」

西郷は短くそれだけ答える。

<ゼロ>
「つれないな…さすがは元傭兵ってトコか。
でも、それだけに不思議だね。傭兵は割に合わない仕事を避けるものだ」

<西郷ロク>
「………………」

<ゼロ>
「一流の傭兵が、勝てないとわかっている戦場に身を置いている理由はなんだい?
キミも…個人的な"感情"なんかで戦場を決めているのかな?」

言いながら、ゼロが振りかぶる。
西郷は巨大なバットのグリップを握り直す。

<西郷ロク>
「雇われた先で勝つのがプロだ」

西郷は、ゼロの投球を弾き返す。
その打球は今度は1塁方向へと飛んでいく。

<ゼロ>
「あーあ、また打たれちゃったか…」

そこから後は、カズキの時と同じ展開だった。
進塁こそできたものの、打球を拾ったハンドドローンに阻まれ、それ以上は進めなかった。

<ゼロ>
「さてと…」

再度、XBボールを握り直したゼロがホームベースへと視線を戻す。
その先に立っていたのは――

<千羽つる子>
「………………」

"元ブンキョウトライブ"の千羽つる子だった。

<ゼロ>
「えっと、キミは元ブンキョウトライブの…なんだっけ?
まぁ、小娘でいいか」

<千羽つる子>
「こっ、小娘ではありませんっ! 私だけ名前を省略しないでください!!」

ゼロの小バカにするような態度に、全力で抗議するつる子。

<千羽つる子>
「せめてブンキョウ小町とか…それっぽい呼び方があるでしょうに!」

そんなつる子の手には、和風の装飾が施されたバットが握られていた。

<ゼロ>
「いや、俺って実は根暗な方だからさ…キミみたいにお喋りタイプはあまり得意じゃないんだよね。
大体キミ…運動得意じゃないでしょ? 困るんだよね、気分でしゃしゃり出て来られると――」

<千羽つる子>
「為さねば成らぬ何事も! 前進あるのみです!」

そう声を張り上げながら、つる子は手にしたバットを構える。

<千羽つる子>
「先程から酷い言われようですが…私だってブンキョウトライブでXBの嗜みがあります!
曜さんに倣って、私も多少の経験不足は気持ちで埋めてみせますわ!」

「はぁ…」と、大きなため息で返すゼロ。

<ゼロ>
「くどいな…キミ達の感情なんて結局は気休め程度にしかならないよ。圧倒的な実力差には感情なんて無力なんだ…」

言いながら振りかぶると、ゼロはつる子の打席に向けて速球を投げ込む。

<千羽つる子>
「多情多感は青少年の特権ですわ!」

つる子は、小柄な体ならではのコンパクトなスイングで、ゼロの投球を弾き返す。
その打球はゼロの後方へと転がっていった。

<千羽つる子>
「『精神一到何事か成らざらん』…! やってやりました…!」

意気揚々と、つる子が1塁へと向かう。
しかし、今回もボールを手に戻ったハンドドローンに行く手を阻まれ、それ以上の進塁はできなかった。

とは言え――今のヒットですべての塁が埋まった。
控えゾーンでそれを見ていた一同は俄然、勢いに乗る。

<千住百一太郎>
「へへっ! なんだよあの仮面ヤロー、偉そうにしちゃいるが口ばっかじゃねぇか!」

<雪谷えのき>
「つるちん、やっるぅ!」

しかし――3塁上にいるカズキの顔色は曇っていた。

<青山カズキ>
「3人続けてシングルヒット、か…」

頭を小さく振るカズキ。

<青山カズキ>
「遊ばれてるな…これは…」

一方のゼロはと言うと、

<ゼロ>
「ノーアウト満塁か。追い込まれてしまったな…」

と、ガックリと肩を落としたかと思うと――

<ゼロ>
「それじゃ、真面目にやるとしよう」

ケロッとした様子で、ピンと背筋を伸ばした。

<ゼロ>
「あぁ、誤解しないで欲しいんだけどさ…俺はキミ達を過小評価したりはしない。
キミ達にはキミ達なりの強い感情があるって事は、俺にも伝わったよ。
だから…今度は俺の気持ちについても耳を傾けてみてくれないか?」

そんなゼロの前に、バットを手にした滝野川ジオウ。

<滝野川ジオウ>
「何それ。メンヘラってヤツかい…? それとも心理戦に持ち込もうっていうの? どちらにしても、気が乗らないな」

<ゼロ>
「心理戦…?」

鼻で笑い飛ばすゼロ。

<ゼロ>
「そんなつもりはないから安心してくれ。これからキミ達を圧倒する力…その根源が何なのかをわかって貰いたいだけだよ。
キミ達が感情によって戦うように、俺には俺だけの"感情の力"がある」

<滝野川ジオウ>
「キミだけの…"感情の力"?」

<ゼロ>
「それはね…全身が引きちぎられるほどの"退屈感"さ…」

冷え切った声で、ゼロは言う。

<ゼロ>
「キミにわかるかい? この世界の全てを呪ってしまうほどの退屈さが」

<滝野川ジオウ>
「退屈も興奮も…自分次第じゃないの?」

<ゼロ>
「…キミじゃ話にならないかな。さっさと終わらせよう」

つまらなそうに言うと、ゼロは大きく振りかぶった。
明らかに今までとは違う投球モーションだった。
片足を大きく上げ、そこから更に背中が見えるほどまで、体を大きく捻る。
絞ったタオルのように極限まで力を溜め――
そして、そこから一気に解放するように、力強い投球フォームでXBボールを放つ。

<滝野川ジオウ>
「…ッ!!」

想像を絶するとんでもない威力の球だった――
ボールの風圧によって、ジオウの体が大きくのけぞる。
ソニックウェーブのように、空気を切り裂く音が、遅れてやって来る。
「ガシャアアン!」
気付いた時には、ボールはキャッチャードローンごとミットを吹き飛ばしていた。

まるで、大砲だった。

<ゼロ>
「ネオトーキョー国を武力制圧した後、残っていたのは後悔だけだったよ。俺は、俺自身の手で最後の希望を潰してしまったんだ…」

とつとつと語りながら、同じように大砲のような投球を繰り出していくゼロ。
ジオウは手も足も出ない。

<ゼロ>
「もしかしたら、この世界に自分よりも強い人間がいるかもしれない…という希望をね」

そのまま、三球三振――すべて見逃しで終わった。
むしろ、バットに当ててしまっていたら、ジオウの体は粉々に吹き飛んでいたのではないかと思えるほどの球だった。

ワンアウト満塁――
そして、次に打席に立つのは――

<Q>
「…お前が強いのは認めよう」

正体不明の謎の男――Qだった。

<Q>
「しかし、お前の心は脆弱だ。お前の目には何も見えていない」

ゼロは黙ってQの言葉に耳を傾けていた。

<Q>
「見えているのは、自分という狭い世界の中だけだ…」

<ゼロ>
「言うじゃないか。経験者は語る…ってヤツ?」

ゼロは意味深な言葉を口にする。

<ゼロ>
「キミの素性については、今は語るべき時ではないのだろうね。
けど、キミが為し得なかった道の先にあったのは、きっと俺が見た景色とまるで同じはずだよ?」

<Q>
「………………」

<ゼロ>
「強さの先に待つ退屈感…俺とキミは似ているね」

言いながらゼロは大きく振り被り――その体を歪なまでに捻り上げる。
そこから、また大砲のような一球が放たれる。

<Q>
「…一緒にするな」

ジェット機のような投球を、Qの振るバットが捉える。
しかし――

<Q>
「くっ…!」

「バキィンン」と、激しい破壊音――
Qの振ったバットは粉々に砕け散っていた。

XBボールがコロコロとゼロの足元に転がる。

<ゼロ>
「こんなモンか。期待外れだな」

そのボールをゼロのハンドドローンが素早く拾う。
そして、3塁から走り出したカズキに向かって猛スピードで突っ込んでいく。

<青山カズキ>
「クソッ…!」

ハンドドローンの最初の一撃こそジャンプでかわしたものの――
その着地を狙って戻って来たハンドドローンに衝突され、カズキの体は吹っ飛んだ。

<青山カズキ>
「ぐっ…!」

<黒中曜>
「カズキさんっ!!」

<ゼロ>
「チェンジの時に言ったはずだよ? 『キミ達は俺に勝てない』って」

余裕の顔でそう語るゼロ。

<黒中曜>
「くそっ…!」

曜は思わず強く拳を握りしめた。

吹っ飛ばされたカズキは、しばらくするとよろめきながら起き上がった。
痛めたらしく腕を押さえてはいるが、どうやら無事のようだった。

ともかく――これで曜達は完全に追い込まれてしまった。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」