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20話「XB~VSゼロ~④」

<ゼロ>
「ツーアウト満塁…そんな状況で遂に大本命の登場だね」

そんな状況でゼロの前に立ったのは――曜だった。

<黒中曜>
「これ以上…弄ばれてたまるか…!」

追い込まれてはいるものの、曜の気合いは充分だった。
その手には、一風変わった形のバットが握られている。

まるで機械のような形状をしたバットだった。

<千住百一太郎>
「なんだ…? あの変なバット…?」

<十条ミウ>
「ツキ達が持ってきていたバットよ。メグロトライブの時に、彼自身が使っていたバットらしいわ。それを渡したの」

遠巻きに見ている一同は、そんな会話をかわしていた。

メグロトライブ時代のバット――
曜はゼロを睨みつけながら、そのバットを本能のままに構えた。

<ゼロ>
「いいねぇ。やる気満々じゃないか。
どうだい? やっぱりゲームは楽しいだろう?」

<黒中曜>
「無駄口はいいから、早く投げろ!
その顔面に、思い切り打ち返してやるっ!!」

軽口を叩くゼロに、曜は怒鳴り声で返した。

<ゼロ>
「そうやって歯向かわれるのも俺にとっては心地よいけれど…」

言いながら、ゼロは大きく振りかぶる――

<ゼロ>
「俺はね、曜。キミにはゲームを楽しんで貰いたいんだ。
約束するよ。退屈なゲームにはさせない」

そして、渾身の一球を放つ。
猛烈な勢いで飛んでくるXBボール――

曜もバットを振るが――
そのバットは虚しく空を切った。
さらに、ボールの風圧に、曜の体が思わずよろめく。

<黒中曜>
「くっ…!」

<ゼロ>
「ワンストライク。後2球でゲームセットだよ」

<黒中曜>
「………………」

だが、曜の目は死んでいなかった。
それどころか、むしろ輝きを増してさえいた。
ワンストライク取られはしたが――でも今の1球で、間違いなく何かが掴めた気がしていた。

<ゼロ>
「今こうしている最中にも、キミは飛躍的な成長を続けている…」

<黒中曜>
「え…?」

ゼロの意外な言葉に、曜は思わず反応してしまった。

<ゼロ>
「それがなぜだか、キミにわかっているかい?
人間は…死に直面した時にようやく本来の潜在能力を発揮する。フィールドに漂う"死"の香りこそが…キミの成長を促すカンフル剤なのさ」

<黒中曜>
「………………」

<ゼロ>
「このXB…俺が勝ったら約束通り、キミ達には地上のゲームに参加して貰う。
キミが無意識に危機感を覚えているように、そこで待ち受けるのは"究極のデスゲーム"だ」

ゼロは笑みで肩を揺らしながら言い放った。

やはりゲーム――
どこまでいっても、ゼロがこだわるのはゲームでしかなかった。

<黒中曜>
「お前がネオトーキョー国の法律を作り変えたのは、自分の対戦相手が欲しかったからなんだろう?
なら、どうして地上の他の人達を巻き込むんだ?」

<ゼロ>
「自分だけを相手にすればいいじゃないかって?
さすがに、それは自惚れが過ぎるんじゃないかな?」

ゼロはため息と共に、頭を振る。

<ゼロ>
「曜…キミは俺にとって特別な存在だけど、オンリーワンになれるかはキミ次第なんだよ?」

<黒中曜>
「俺次第…? どういう意味だ?」

<ゼロ>
「俺の対戦相手になれる可能性を秘めた特別なプレーヤーはキミだけじゃないって事さ。候補者は他にも複数人いる…」

<黒中曜>
「…複数人?」

<ゼロ>
「俺はそいつらを24トライブに加入させて育てているんだ。
俺は彼らを"ナンバーズ"と呼んでいる…」

<黒中曜>
「ナンバーズ…」

<ゼロ>
「彼らはキミと同じ俺の対戦相手の候補者だよ。
そして、地上の各シティで行われているデスゲームの現役チャンピオンでもある」

ナンバーズ――各シティで行われているデスゲームの現役チャンピオン達。
24トライブでゼロの配下にいながら、ゼロの対戦相手候補でもある。
どんな連中なのか、曜には想像も付かなかった。

<ゼロ>
「キミは…彼らナンバーズ同士の争いに加わり、彼らの得意とするデスゲームで勝利しないといけない。
もし、最後の1人まで残る事ができたら…いよいよ収穫の刻だ…!」

ゼロはマスクの奥で、おそらく満面の笑みだっただろう。
声色から容易に想像できた。

<ゼロ>
「そうしたら…俺と遊べる唯一の対戦相手として一緒に最高のゲームをしよう!!」

<黒中曜>
「な、なんだよそれっ! ふざけた事を言うな!
これ以上付き合ってられるかッ!!」

必死で返すが、曜は徐々にゼロの狂気に押され始めていた。

<ゼロ>
「でも、このXBで俺に負けたらキミは参加してくれるって約束したよね?
このネオトーキョー全シティにおいて生き残りを賭けて戦う"XG"に…!」

<黒中曜>
「X…G…?」

<ゼロ>
「XBと似てるだろう? でも、似て非なるものだ。
命懸けのXGはね…最高のゲームなんだよっ!」

言いながらゼロは大きく振りかぶる――2球目が来る。
曜はバットを構え直す。

極限までねじられたゼロの体から、一気に力が解放され、その力のすべてが込められた剛速球が、曜目掛けて一直線に飛んでくる。

<黒中曜>
「…何が"XG"だっ!!」

曜は力の限りバットを振るう。
しかし、そのバットはまたもや空を切った。
と同時に、背後でゼロの球を受けたキャッチャードローンが吹っ飛んでいく。

――タイミングは合っていた。
その投球の圧力にも慣れ、バランスを崩す事なくスイングできた。

ツーストライク――
しかし、確実にゼロの投球を捉え始めている。

<ゼロ>
「可哀想だね、俺に手も足も出ないでいる…」

だが、曜を追い詰めたゼロは、余裕の態度で会話を続ける。

<ゼロ>
「力、頭脳、体力、発想力、俊敏さ…
どれを取ってもキミ達は、俺の靴底にさえ届かない」

<黒中曜>
「…可哀想なのはお前の方だ」

曜は堂々と言い切った。

<黒中曜>
「1人で何もかもやれてしまうから、お前はXBの楽しさにも気付けないでいるんだろうな」

<ゼロ>
「………………」

<黒中曜>
「お前は、記憶を失った俺よりもずっと、XBがどういうゲームなのかをわかっていない…」

曜は手にしたバットに視線を落とす。

<黒中曜>
「こうしてプレーしているだけで…俺にはわかる。
ツキや彗が、あんなにもXBについて熱く語っていた理由が」

その視線を上げ、改めてゼロを睨み付ける。

<黒中曜>
「お前がゲームを楽しめないのは、対等な対戦相手がいないからじゃない。
命懸けのゲームじゃないからでもない…」

曜は、手にしたバットをゼロへと向ける。

<黒中曜>
「"仲間"がいないからだ」

<ゼロ>
「………………」

一呼吸置いた後のゼロの反応は――意外なものだった。

<ゼロ>
「……ああ、も、もう限界だ…………」

ゼロは、ガクガクと興奮でその身を震わせ始めた。

<ゼロ>
「こ、壊したい…叩き潰したい…!
でも、そんな事をしたら全部台無しだ…!
でも…………でもでもでもでもォっ!!!」

ピタリとその震えが止まる――

<ゼロ>
「それはそれで…気持ちいいのかもしれないねぇ!!!!」

ゼロは両手を大きく広げ、天を仰ぐようなポーズを取った。
異様な力があふれ出てくる――
曜の目には、ゼロの全身が赤紫の怪しいオーラを放出しているように見えた。

その頭上には、左右のハンドドローンが浮遊している。
ゼロが手にしたXBボールをそっと宙に放つと――そのボールはハンドドローンに吸い寄せられるようにユラユラと浮上していく。
左右のハンドドローンが、XBボールを優しく包み込むような手の形になると――

XBボールを中心に、赤黒いエネルギー球が発生した。

<雪谷えのき>
「アレ、なんだかヤバそーだねぇ…」

<千住百一太郎>
「つーか…あんなのありなのかよっ!!」

<小日向小石>
「あり…って事なんだと思う。あのドローンも"XBギア"だろうから…」

遠巻きに、ゼロと曜の戦いを見ている中にはカズキの姿もあった。
負傷したらしき腕を抑えながら、声を絞り出す。

<青山カズキ>
「さすがに…あれは規格外すぎる…!
逃げるんだ…! 曜くん…!」

しかし、その忠告は曜の耳には届かない。

<黒中曜>
「………………」

曜は完全に集中していた。
と同時に、思い出す。

次の一撃は、かつて自分がメグロシティでゼロから受けたのと同じ攻撃だ。
自分はかつてあの一撃で敗れ、そして心にトラウマと恐怖を植え付けられ――
さらには、記憶と2年間を奪われた。

次こそは――勝つ。
曜の表情には迷いが一切なく、覚悟は決まっていた。

<ゼロ>
「どうか受け止めてくれッ!」

ゼロの頭上の赤黒いエネルギー球がさらに大きくなる。

次の瞬間――曜の視界にノイズが走る。
そして、あの2人の顔が頭をよぎる。

<八雲彗>
「心配すんな。オメーは――」

<彩葉ツキ>
「大丈夫だよ! 曜なら、きっと――」

その言葉に後押しされ、曜は――

<黒中曜>
「俺は――」

<黒中曜>
「誓った夢を思い出す!!」

曜は構えたバットのグリップを、強く握り直した。
するとバットが変形し、その表面を鮮烈なビームが覆った。

ビームバット――
そのビームバットからはサクラの花びらのようなエネルギーが舞っている。

<ゼロ>
「いくぞ、曜ォォォォッ!!」

ゼロの頭上でエネルギー球はパンパンまで膨れ上がっていた。
次の瞬間、ゼロが腕を前に突き出すと――

巨大なエネルギー球は、曜に向かって猛烈な勢いで放出された。

そこからは一瞬だった。
一呼吸の間に、すべてが終わった。

巨大なエネルギー球を迎え撃つように、曜がビームバットを振るう。

「ギィィィィン――」

バットはエネルギー球にミートし、押し合いになる。
「バリバリッ」と激しい閃光が放たれる。

<黒中曜>
「おおおおおおおおぉっ!!!!!」

押し合いをしながら――

曜の脳裏に、またノイズと共に記憶がフラッシュバックする。

あれはメグロシティだろうか――
桜の花びらが舞い散る中――
3人は拳を突き出して誓い合った――

お互いの夢を。

<黒中曜>
「そうだ…俺達の"夢"は…っ!!!」

ありったけの力でエネルギー球を押し返そうとする曜。

<黒中曜>
「誰にも負けない、XBプレーヤーになる事だっ!!!!」

「バリバリバリッ!」と、閃光が激しくなる。

<黒中曜>
「うおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!!!」

曜がビームバットを振り抜く。

「ギィン――」

エネルギー球の光は消え――ただのXBボールへと戻った。
そして、桜色の光をまとったXBボールは、ゼロの方へと一直線に飛んでいく。

ピッチャー返しの形になり、弾かれるゼロの仮面。
その素顔が露わになる――

そのまま、打ち返したXBボールは遠くへ飛んでいた。

<黒中曜>
「………どうだっ…」

手からバットを落とす曜。
そのバットからは、すでにビームの光は失われていた。

<黒中曜>
「やって…やった……ぞ……」

そのまま「ドサッ」と、その場に倒れ込んでしまう曜。

そこにゆっくりとした歩調で歩み寄ってくるゼロ――
倒れた曜を見下ろしながら、その口角が、かつてないほど嬉しそうに吊り上がる。

そんなゼロの様子を遠くで見ていたカズキは、ありえないものを見ているように呟いた。

<青山カズキ>
「バ、バカな…あれは…」

その声は、カズキらしくなく困惑で震えていた。

<青山カズキ>
「神谷…瞬――」

【トライブナイン 第0章 END】

執筆:小高和剛

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」