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3話「思いがけない再会」

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「ふふ、ふ~ん♪ はあ~、すっきり~♪」

<黒中曜>
「――ツ…キ…?」

曜は唖然とした。
鼻歌まじりに入ってきた金髪の少女は、紛れもなく「彩葉ツキ」本人だった。

<彩葉ツキ>
「あ、曜! やっと目が覚めたんだ!
よかった~。何回起こしても起きないから、どうやって起こすか悩んでたんだよね~」

ツキは曜を見つけるなり、うれしそうに駆け寄ってくる。
だが曜は、予想外の再会に足がすくんだ。
彼女は、自分の目の前で殺されたはずの人間だ――こんなこと、あり得るはずがない。

<彩葉ツキ>
「顔が真っ青だけど…もしかして、まだ体調が悪い感じ?」

動揺する曜を、ツキが心配そうに覗き込む。

<黒中曜>
「いや…その…」

目を細めてツキの顔をじっと見つめる。

金髪の髪にピンクのリボン――
華奢なのに、ほどよく引き締まった筋肉――
くるくる変わる表情――

目の前の人物は、見れば見るほど、あの日死んだツキにそっくりだ。
おかしなところはひとつも見当たらない。

本当に本人なのか。
もしそうだとしても、霊感に目覚めて幽霊が見えている――そんなオカルトみたいな話は信じたくない。

このまま黙っていても、埒は明かない。
曜は勇気を振りしぼり、目の前の彼女に尋ねた。

<黒中曜>
「…本当に本物のツキなのか? 幽霊とかドッペルゲンガーじゃないよな…?」

自分でもおかしな質問だと自覚しており、そのおどおどした様子がにじみ出ている。

<彩葉ツキ>
「ひっどーい!!! 曜も、私が死んだと思ってたの!? 正真正銘、私は、本物のい・ろ・は・ツ・キ!
百一太郎くん達にも幽霊扱いされるし、みんな揃ってひどすぎだよ…!」

<黒中曜>
「だって、あのとき、ゼロのレーザーに撃たれて死んだんじゃ…」

<彩葉ツキ>
「んー。実は、私もいまいちわかってないんだよね。
とりあえず、生きてたからオールオッケーって事で、あんまり深い事は考えないでおこう!」

ツキはケロッと笑い、そう言い切った。
軽いノリで流していい話ではない――はずなのに、その明るさを前にすると、ぐだぐだ考えるのがばからしく思えてくる。

きっと、あれは全部ゼロのイリュージョンか何かだったのだ。
レーザーに貫かれたはずのツキの頭部は、痕跡ひとつ見当たらないほど綺麗だ。

<黒中曜>
「よくわからないけど…生きててくれてよかった。
てっきり、死んだと思ったから、またこうして会えてよかった…」

曜はやっと胸を撫で下ろし、安堵した。

<黒中曜>
「…なあ、彗は?
ツキが大丈夫だったんだから、彗も生きてるよな…?」

ツキが生きているのなら、彗も生きているはずだ。
曜は不安と期待の入り混じった声で問いかけた。

<彩葉ツキ>
「あったりまえじゃ〜ん!! まだ再会できてないけど、大丈夫だよ!
だって、彗ってば、トラックに轢かれたときも、ビルから落ちたときも大丈夫だったし…
ピラニアの大群に襲われたときもピンピンしてたじゃん!」

ツキは曜の質問に、大口をあけて楽しそうに過去話をまじえながら答える。

<黒中曜>
「…それ、本当に人間の話か…? ロボットとかの話じゃないよな?」

普通じゃないエピソードに思わず眉をひそめた。
ピラニアの大群に襲われるとは、どんな状況下で起きるのだろう。

<彩葉ツキ>
「とにかく大丈夫! 彗は、ぜーーーったいに大丈夫!
幼馴染みの私が大丈夫だって言ってるんだから、絶対に絶対に大丈夫なの!!!」

ツキの必死な反応を見て、曜ははっとする。
ツキと違って、彗の生死は誰も確認できてないのだ。

レーザーに貫かれた彗の姿。
そのとき流れた血の色までが、今も曜の脳裏に鮮明に焼き付いている。
普通に考えれば、生きているはずがない。ツキだけが奇跡的に助かったと考えるのが、もっとも合理的だろう。

それでも、ツキは彗が生きていると信じている。
可能性は限りなく低い。それでも希望を捨てない。

ふと、24シティでのことが蘇る。
あのとき、ツキは本気で曜を助け、記憶を取り戻そうとしてくれた。
底抜けに明るい笑顔が、曜を深い絶望から救ってくれたのだ。

記憶にないこの子と彗を、曜は根拠もなく幼馴染みだと信じられたのは、ツキがそう信じさせてくれたからだ。

――だったら、俺も信じよう。ツキが今、信じたいと願うことを。

<黒中曜>
「ああ、ツキの言うとおりだ。彗は絶対、生きてる。
きっと、今頃、彗も俺達を探して、あちこち歩き回ってるんじゃないかな?」

<彩葉ツキ>
「うんうん、そうだよねそうだよね!
彗のやつ、重度の方向音痴だからさ。私達から迎えに行ってあげないとね!」

<黒中曜>
「ははっ。あいつ、方向音痴なのか。探し出すのに時間がかかりそうだな」

彗が生きていると信じてくれたことが嬉しかったのか、ツキは跳ねるように喜んだ。
不安を取り除けてほっとしていると「ピロン」という電子音が聞こえた。

<黒中曜>
「ん…? なんだ、この音…? 俺から聞こえてる…?」

<彩葉ツキ>
「もうっ、曜ってば、まだ寝ぼけてるの?
今のって、NINEの通知音でしょ? 早くスマホ取り出して、メッセージ見たら?」

ツキが呆れたようにツッコむと、曜ははっとスマホの存在を気付いた。
同じ通知音がツキの端末からも鳴り、2人は慌ててスマホを取り出してNINEを開く。

<NINE(システムメッセージ)>
「青山カズキが黒中曜を"トラッシュトライブ."に追加しました」

<NINE(システムメッセージ)>
「青山カズキが彩葉ツキを"トラッシュトライブ."に追加しました」

<NINE(システムメッセージ)>
「青山カズキが八雲彗を"トラッシュトライブ."に追加しました」

<NINE(システムメッセージ)>
「エラー。八雲彗を追加する事ができませんでした。しばらく経ってからもう一度お試しください」

と、ぞくぞくと届くシステムメッセージ。

<黒中曜>
「なんだ…? このトラッシュトライブっていうグループは…」

曜はNINEでカズキに尋ねようとした。
だが、久々のスマホ操作に戸惑い、誤ってデフォルトのクマスタンプを送ってしまう。
すぐ削除しようとしたが、それより早くカズキが反応した。

<NINE(青山カズキ)>
「あ、眠り姫が目覚めたみたいだね。気分はどうだい?」

<NINE(黒中曜)>
「カズキさん…その姫というのはやめてくれ…。恥ずかしいんだけど…」

<NINE(青山カズキ)>
「だって事実じゃないか。曜くんほど、姫というポジションにふさわしい人はいないよ」

24シティで初めて会ったときもそうだった。
カズキは曜のことを「囚われのお姫様」などとからかっていた。

自分も年頃の男だ。そんな呼び方は気分がよくない。

カズキの入力中は続くが、Qが「やめなさい」とセリフのついたペンギンのスタンプを送ってきた。
入力はそこで止まり、もしQが止めなければ軽口は続いていただろう。曜は苦笑いする。

<NINE(彩葉ツキ)>
「初めて聞く名前だね。どこのシティのトライブだろ?」

3人のやり取りを気に留めず、ツキは素直に気になったことをチャットで尋ねた。

<NINE(青山カズキ)>
「あれ? ツキちゃんには24シティに行く前に説明したはずだけど…まあいいや」

<NINE(青山カズキ)>
「トラッシュトライブは、どこのシティにも属さない、いわゆるゼロに対抗するための同盟みたいなものさ。
君達にも戦力として加入してほしいんだけど、どうかな?」

カズキのチャットが届くと、間髪入れずにミウや小石、つる子からお願いめいたスタンプが立て続けに飛んできた。
24シティでカズキ達がチームで動いているのは知っていたが、その集まりに名前があることは知らなかった。

曜達は、24シティでトラッシュトライブのメンバーに何度も助けられた。
彼らがいなければ、曜は未だに24シティに閉じ込められ、“ゆうしゃ”としてのトレーニングを積まされていただろう。

今までの恩を感じ、曜は承諾のメッセージを打ちかけるが――

<NINE(彩葉ツキ)>
「入ります! 入ります! 曜と彗と私! 3人とも加入します!」

と、ツキが即座に返信する。
その勢いに思わず曜は、画面から顔を外し、横にいるツキを見た。

<黒中曜>
「俺はもちろん賛成だけど彗のことまで勝手に決めていいのか?」

<彩葉ツキ>
「だいじょーぶ! 彗が反対するわけないもん!」

その自信から彗の反応を想像すると、今のツキと同じように乗り気で加入する姿がすぐに浮かんだ。

<黒中曜>
「ま、確かにそうかもな」

画面に目を戻すと、NINE上でもツキが勝手に答えたせいで「曜は大丈夫か?」と心配するメンバーのコメントがいくつか並んでいた。
曜は自分からもはっきり伝えたほうがいいと考え、簡潔にメッセージを打ち込む。

<NINE(黒中曜)>
「よろしくお願いいたします」

<NINE(青山カズキ)>
「こちらこそよろしく。仲間が増えて心強いよ」

歓迎のスタンプが次々と飛び込み、曜とツキは祝福の波に包まれた。
だが浸っている間もなく、ふと先に済ませておくべき肝心な話があるのを思い出した。

<NINE(黒中曜)>
「そういえば、ゼロとのXBの結果はどうなったんだ?」

曜のこのメッセージにみんなからのスタンプの嵐は止まる。

<NINE(青山カズキ)>
「まだ言ってなかったね。ごめん。
結論だけ言うと、僕達は負けた。惜しいところだったけどね」

勧誘の流れで薄々気づいてはいたが、やっぱり負けていたのかと愕然した。
悔しさで顔をしかめたが、みんなが無事だったことを思うと、それだけで十分だと納得する。

<NINE(青山カズキ)>
「まあ詳しいことは直接話そうか。
ツキちゃんにも聞いてほしいから一緒にホテル1階のラウンジに来てほしい。僕もすぐ行くよ」

<NINE(黒中曜)>
「わかった」

会話が途切れたのを確認して、曜はスマホをポケットにしまった。

一刻も早くカズキと会って詳細を聞きたい。
曜がラウンジの案内を頼むと、ツキは軽やかに先へ進んだ。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」