10話「マウント合戦の裏側で」
向かった先は、ミナトシティの外れにあるガレキ山だ。
ガレキ山はその名の通り、あちこちにガレキや粗大ゴミが積み上げられた、ゴミの集積所のような場所だった。
人々はガレキを積み木のように組み上げて小屋をつくり、その中で暮らしていた。
<黒中曜>
「…ずいぶん、静かな場所なんだな」
喧噪で溢れかえっていた街中とは違い、周辺一帯がシーンと静まり返っていた。
このへんでは、マウントの取り合いが行われていないようだ。
<三田三太郎>
「このへんは、物騒な街中から逃げて来た人達が肩を寄せ合って暮らすエリアなんだ。避難所みたいなもんだ」
<青山カズキ>
「ふうん…こんな荒んだ場所のほうが落ち着いた雰囲気だなんて皮肉なもんだね」
ここにいる人達を助けて回れば、相当な量のポイントを稼げるだろう。
曜達はガレキの小屋を訪ねて回り、何か困りごとはないかと聞いてみた。
しかし――
<ガレキ山の男性>
「人助けのボランティアだと…? 嘘つけ、俺からマウント取ってポイント稼ぐつもりだろ!」
<ガレキ山の子供>
「ひっ…! やめて、近づかないで! これ以上僕に乱暴しないで!」
<子供を抱く女性>
「うちの子に何するつもり!? あっち行きなさい!」
新参者の曜達はひどく警戒されているようで、誰も頼ってはくれなかった。
どの小屋を訪ねても、邪険にされて追い払われてしまう。
<彩葉ツキ>
「私達…悪い事なんてたくらんでないのに」
<千羽つる子>
「きっと皆さん、ミナトランキングダムで心が疲れて、疑心暗鬼になっているのですわ…」
<五反田豊>
「困りましたね…取り付く島もないとはこの事です…」
曜達の計画は、開始早々暗礁に乗り上げてしまった。
この状態では、ポイントを稼ぐなんて無理がある――と、その時。
<三田三太郎>
「なんだよオメーら、もう諦めちまったのか? まったく今時の連中は骨がねぇなあ。
仕方ねえ、こうなりゃ俺が一肌脱いでやるとするか」
三田は不敵に笑って、口にくわえた葉っぱをぴょこぴょこと動かしていた。
<彩葉ツキ>
「三田さん…何か手があるの?」
<三田三太郎>
「忘れてもらっちゃ困るぜ。俺はほんの十日前まで、代理とはいえこのシティの王様だった男だぞ。ま、見てろって!」
三田はそう言って広場に積み上げられているガレキの山にのぼっていった。
そしてガレキの頂点にたどり着くなり、大声で叫んだ。
<三田三太郎>
「ガレキ山に住んでる連中は俺にちゅうもーく!!
俺はミナトシティの前の王様、三田三太郎だ! オメーらを助けにきたぞ!」
三田はガレキの上から、曜達の方を指さした。
<三田三太郎>
「そこにいる連中は、見た目はトッポくてうさんくせぇが、善意100%のボランティアだ! 困ってることがある奴は、そいつらを頼りやがれ!!」
三田の声を聞きつけた住人達は、ガレキの小屋の中から顔を出した。
<ガレキ山の男性>
「三田さん、無事だったのか…! 急に見なくなったから、心配してたんだぜ!」
<ガレキ山の子供>
「前の王様だ…! 僕達を助けに来てくれたの!?」
<子供を抱く女性>
「三田さんの仲間なら、あの人達の事も信頼して良さそうね…ねぇ、この子の事を助けて!」
つい先ほどまで警戒されていたのが嘘のように、曜達の元にはガレキ山の人々がわらわらと集まってきた。
三田はミナトシティの人々に、相当信頼されているようだ。
<三田三太郎>
「どーだカズキ、俺の人望は! こう見えて、俺は街の人から好かれるタイプの王様だったんだぜ! 統治ルールが始まってから、ずっとこの街の人達のために頑張ってたからな!
これでも俺は王様失格か?」
<青山カズキ>
「はいはい…さっきの言葉は取り消すよ。君は立派な王様だ。有栖川さんが代理に君を選んだのは間違いではなかったみたいだね」
<三田三太郎>
「へへ、わかりゃあいいんだよわかりゃあ」
得意げに胸を張る三田。
<青山カズキ>
「まぁ、君はあまり見た目がよくない分、人に親しまれやすいのかもしれないね」
<三田三太郎>
「そうそう、みんな俺のブサイクなツラに親しみを…って俺のどこがブサイクだ!」
<彩葉ツキ>
「2人とも、喧嘩してないで列の整理手伝って…!」
曜達は総出で、ガレキ山の人々の人助けに奮闘した。
まずは曜が面談して悩みを聞き出し、悩みを解決できそうなメンバーに仕事を割り振っていく。
<子供を抱く女性>
「この子、昨日から熱っぽいの! どうか薬を…!」
<黒中曜>
「小石が適任だな。任せてもいいか?」
<小日向小石>
「うん、僕に任せて! すぐに薬を調合するよ」
<ガレキ山の男性>
「ここ、WiFiが届かなくてスマホが使えないんだ。どうにかできないか…?」
<黒中曜>
「こういうの全般、五反田さんが得意だと思うんだけど、どうかな?」
<五反田豊>
「ええ、すぐに中継器を作成の上、設置します」
<ガレキ山の女性>
「飼ってた犬がいなくなっちゃったの…一緒に探してくれない?」
<黒中曜>
「えっと…ツキ。頼めるか?」
<彩葉ツキ>
「よしきた! 私に任せて! 必ずわんちゃんを見つけ出してあげるから!」
<ガレキ山の子供>
「怖くて眠れないの…楽しいお話して?」
<黒中曜>
「ハハッ、これはつる子一択だな」
<千羽つる子>
「こんな相談待ってましたわ! さぁて、どんなお話を聞きたいですか?」
面談を担当する曜のマウンティング力がまず上がり、仕事を割り振る事で他のメンバーのマウンティング力も底上げされていく。
曜へのポイントの集約と、全体のポイントの底上げ。
二つの課題が、一挙に解決されつつあった。
<子供を抱く母親>
「ありがとう! あなた達のおかげで、この子の命が助かったわ!」
<ガレキ山の男性>
「君達のおかげで、ネットが使えるようになったよ…これで情報が手に入る。本当に助かったよ」
<ガレキ山の子供>
「いっぱいお話してくれてありがとう! 今日はちゃんと眠れそう」
見た目の派手な奴が偉いわけじゃない。
社会的地位の高い奴が偉いわけでもない。
人助けをできる奴が偉いんだ――そんな空気を、虚栄の街であるミナトシティに流行らせていく。
<青山カズキ>
「ふぅ…今の人で最後みたいだね」
問題の解決に奔走しているうちに、相談者の列はいつの間にかはけていた。
<青山カズキ>
「曜くんを貴族にするにはまだポイントが足りないけど、いったん隠れ家に戻るとしよう」
<彩葉ツキ>
「うん、戻って体を休めないとね。あぁ、いい事したら疲れたぁ…でも、何か気持ちのいい疲れだね」
曜達はガレキ山を後にしようと撤収準備を整える――と、その時だった。
<神経質そうな女性>
「アナタ達ね? ここらでボランティアみたいなことしてるのは」
<彩葉ツキ>
「はい、何かお困りですか?」
新たな相談者が現れたので、曜達は撤収の手を止めた。
<神経質そうな女性>
「お願い! アタシを助けて! 最近ずっと誰かに見張られてるの!
街を歩いていても、お出かけしても、家にいるときまで見られている気がして…」
女性は切羽詰まった様子でビクビクと身を震わせながら、何度も周囲を見回していた。
<神経質そうな女性>
「アタシは監視されてる…絶対監視されてるの! 四六時中監視カメラで見られてるのよ! アタシにはわかるの!」
<青山カズキ>
「本当に監視なんてされてるのかな…この人の勘違いじゃない?」
カズキがひそひそ声で呟いた。
確かに女性の様子は明らかにおかしかった。
妄想に囚われているだけのようにも見えるが――
<小日向小石>
「でも…相談者の訴えを信じてあげるのも人助けのうちだから。
この人の自宅の周辺を見回して、監視カメラがないか確認してあげよう」
小石の提案で、曜達は女性の自宅までついていく事にした。
自宅の前の塀を見て、監視カメラがないかを一応確認する――すると。
<彩葉ツキ>
「ね、ねぇ…これカメラじゃない!?」
塀の亀裂の中に、さりげなくカメラが埋め込まれていた。
小さな目玉のようなレンズが、道行く人を監視している。
カメラは一つじゃなかった。
塀の亀裂やへこみの中には、必ずと言っていいほどカメラが仕込まれていた。
それに、女性の自宅の前だけにカメラが仕込まれているわけでもなかった。
注意深く道の壁や電柱を観察すると、あちこちに無数のカメラが埋め込まれていた。
<彩葉ツキ>
「あのおばさんの言ってた事、本当だったんだね…」
<黒中曜>
「確かに、これだけたくさん監視カメラが近くにあったら、敏感な人は落ち着かないだろうな」
曜達は女性の自宅の前に埋め込まれているカメラを全て取り除き、その事を女性に報告した。
<神経質そうな女性>
「ありがとう…これで監視に怯えずに済むわ! あぁ、ホッとした…」
女性は安心の笑みを浮かべて、自宅へと引き返していった。
これで一件落着ではあるが――
<五反田豊>
「一体誰が街中にカメラを…まぁ、十中八九ゼロの仕業なのでしょうが…」
<千羽つる子>
「ですが、一体なんのために…? まさしく奇怪千万ですわ…」
<青山カズキ>
「ここで考えても仕方がないよ。続きは隠れ家で話そう」
カズキの提案で、曜達はいったん隠れ家に戻る事にした。
帰路を歩みながら、壁や電柱に目を凝らすと――そこにはやはり、無数の監視カメラが仕込まれていた。
ミナトシティ全域に、監視網が敷かれているようだ。