14話「盗まれたビームバット」
<三田三太郎>
「…あれ?」
ドアを開けて隠れ家の中に入ると同時に、三田は不可解そうに首を傾げた。
<千羽つる子>
「どうかなさいましたか?」
<三田三太郎>
「いや、なんとなくだけどよ…前より少し部屋が荒れてるというか…」
三田は焦った様子で部屋の床やデスクをキョロキョロと見回していた。
<青山カズキ>
「そう? もとから汚い部屋じゃない?」
<三田三太郎>
「うるせーな、俺にはわかるんだよ! ちょっと奥の方、見てくるわ」
三田は慌ただしく部屋の奥に駆けていく。
何か盗られたものがないかを確認しているようだ。
<小日向小石>
「空き巣でも入ったのかな?」
<五反田豊>
「だとしても、もう少しきれいな家を狙いそうなものですが」
心配そうな小石とは対照的に、五反田はバカにしたように溜息をついていた。
部屋が荒らされているなんて、整理整頓が苦手な三田の勘違いに過ぎないと確信している様子だ――しかし、その時。
<三田三太郎>
「うわあああっ!! ない! なくなってる! 畜生っ! 誰の仕業だっ!」
三田の悲痛な叫びが、隠れ家に響き渡った。
曜達は慌てて三田の元に駆けつける。
<三田三太郎>
「ねえよ…どこにもねーんだよ! ここにあったはずのビームバットが、どこにも!」
<彩葉ツキ>
「それって、ミナトトライブの大切な!?」
確かに、ソファの近くに置かれていたはずのビームバットは、ケースごと消えていた。
いくら部屋が汚いとはいえ、あんな大きな物がどこかに紛れ込むはずもない。
部屋が荒れているというのは、三田の思い込みではなかったようだ。
<青山カズキ>
「落ち着きなよ。叫んでもビームバットが戻ってくるわけじゃないんだよ?」
<三田三太郎>
「これが落ち着いていられるか! あぁ、ハルに顔向けできねえよ!」
三田は床に膝をつき、頭を両手でかきむしっていた。
仲間に託された大事なバットを奪われてしまった自分を責めているようだ。
その姿を見ていると、曜まで胸が苦しくなった。
<五反田豊>
「他に何か盗られたものは?」
<三田三太郎>
「いや、ビームバット以外は何も…現金も通帳も無事だった」
<青山カズキ>
「だとすると、犯人の狙いは最初からビームバットだけだったという事になるね。
ここにバットがある事を知っている人はどれくらいいる?」
<三田三太郎>
「俺がビームバットを預かってるなんて、誰にも言った覚えはねぇよ…知ってるのはミナトトライブのチームメイトと、あとはお前らぐらいしか…」
と、その時――
曜の脳裏に、またしても"アイツ"の顔が浮かび上がってきた。
<黒中曜>
「…いや、ここにビームバットがある事を知っている人間はもうひとりいる」
<三田三太郎>
「な…! 誰だよ!?」
<黒中曜>
「彗だ…三田さんが前に見せたって」
以前、三田は言っていた。
倒れた彗をこの隠れ家で介抱した時に、ビームバットを見せてやったと。
彗はこの隠れ家の事を知っている。
この隠れ家に、ビームバットがある事も――
<三田三太郎>
「アイツが…? でも、なんで…」
<彩葉ツキ>
「もしかして…単純に欲しかったんじゃない? 彗は元々ミナトトライブに憧れてたし…」
<千羽つる子>
「ですが…彗さんは洗脳によって人格を変えられているはずでは?」
<彩葉ツキ>
「そうなんだけど…何かの拍子に、XBを思う心が戻ってきたんじゃないかな…」
確かに、わざわざビームバットだけを盗み出す理由なんて、XBへの愛着以外では説明がつかない。
ゼロの洗脳によってすっかり人格を変えられてしまった彗ではあるが、まだ残っているのかもしれない。XBを愛する心が――
<黒中曜>
「…ッ! そうだ!」
その時だった。曜の脳裏に天啓が舞い降りた。
思いついた。
圧倒的な力を持つ彗を、打ち負かす方法を――!
<黒中曜>
「みんな、聞いてくれ! 彗にまだ感情が残っているとしたら、この状況を打破することができるかもしれない!」
曜は思いついたばかりの作戦を早速皆に共有した。
<青山カズキ>
「…随分と思い切った事を考えたもんだね。確かにそれなら、真っ当に統治ルールで戦わずに済む。けど、彼に一蹴される可能性もある…曜くん、本当にそれでいくんだね?」
<黒中曜>
「あぁ、まだ記憶は完全じゃないけど、俺だってあいつの幼馴染みだ。断られる事はない気がする」
曜の考え出した作戦は、彗にまだ感情が残っている事を前提としている。
もしもその前提が崩れたら、曜は間違いなく命を落とす事になるが――それすら覚悟の上だった。
<青山カズキ>
「わかった…なら、もう止めないよ。ただ…ひとつだけ保険を用意していいかい」
<五反田豊>
「保険…ですか?」
<青山カズキ>
「万一に備えた策さ。正直なところ、うまくいくかも怪しいんだけどね。ただ、もしそれを使わなくてはならない状況になったら…僕に任せてくれ」
<三田三太郎>
「お前に一任…どうもイヤな予感がすんな…で、どんな策なんだよ」
三田が顔をしかめながら聞いた。
<青山カズキ>
「言わないでおくよ。変に意識して臭い芝居みたいになったら台無しだしね。だから、僕が何かを始めたとわかったら、何を言っても決して驚かないでほしい」
<千羽つる子>
「わかりました…。そのときはカズキさんに託しますわ」
<青山カズキ>
「みんなもそれでいいかな? まあ、使わないに越したことはないんだけどね」
皆の顔を見回してそう問うカズキに、異を唱えるものはいなかった。
カズキには少々油断ならないところがあるが、仲間を裏切るような人間じゃない。なんだかんだで曜達は、カズキのことを信頼していた。
<彩葉ツキ>
「うん! これで話はまとまったね。じゃあ早く彗に会いに行こ!」
気合いの入った様子で拳を突き上げるツキ。
早く彗を助けたくて仕方がないのだろう。
<三田三太郎>
「アイツならミナトタワーにいると思うぜ。確かあそこを根城にしてんだ」
<黒中曜>
「よし、行こう!」
曜達は各々の武器を手に、隠れ家を飛び出した。
<彩葉ツキ>
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…! 待ってて、彗! 今行くからね!」
息を切らし、全速力で走るツキ。
道に迷う事はない。ミナトシティにいる限り、どこにいようとミナトタワーの姿は目に入るからだ。
ビルの向こうにそびえ立つ、ネオトーキョーで一番大きな電波塔を目指して、曜達は街を駆け抜けていく――