15話「曜達の挑発」
<24トライブ>
「なんだお前達は? ここは偉大なるナンバーズ9様がお住まいの場所だ!
さっさと立ち去るがいい!!」
ミナトタワーのエントランスに入り込んだ曜達の行く手に立ちふさがったのは、彗の配下の24トライブだ。
<黒中曜>
「俺達はどうしても彗に会わないといけないんだ。黒中曜が会いに来たと伝えてくれないか?」
<24トライブ>
「バカ言うな! どこの誰かわからん雑魚を取り次いだら俺が怒られるだろうが!」
臨戦態勢を取る24トライブ――やはり、穏便に取り次いでもらうのは無理なようだ。
こうなったら戦うしかない。
曜達は武器を構え、24トライブと戦闘を――と、その時だった。
<八雲彗>
「おーおー、変な奴らが大勢でやってきたっていうから見に来たら…やっぱオメーらか」
取り次いでもらうまでもなく、彗はあっさりとその姿を現した。
多勢に無勢であるにも関わらず、彗に警戒した様子はない。悠然とした足取りで、こちらに歩み寄ってくる。
<八雲彗>
「何の用だ? ようやく降参しに来たのか?」
<黒中曜>
「ああ…降参してやるさ…お前の望み通り、XGから降りてやる」
<八雲彗>
「ハッ! 嘘つけよ! 顔に書いてるぜ、"降参する気はない"ってな!」
彗はあっさりと曜の嘘を見抜いた。
<黒中曜>
「嘘じゃない。俺は本当に降参しに来たんだ。ただし条件があるけどな」
<八雲彗>
「条件がある時点で降参じゃねーだろ。で、どんな条件だ?」
<黒中曜>
「俺達とXBをしてお前が勝ったら、だ」
<八雲彗>
「XB…?」
XBと聞いた瞬間、彗は腹を抱えて高笑いをあげた。
<八雲彗>
「ハハハハッ! おいおい、正気かよ? 今さらあんなオワコンのスポーツ格闘技もどきで決着をつけようってかあ!?」
あんなもんガキのお遊戯だ、大の大人がやるもんじゃねえ――手を叩いて笑いながら、彗はXBをバカにする。だが――
<黒中曜>
「そんな事を言っても無駄だ」
曜は、彗の演技には騙されなかった。
<八雲彗>
「…あ?」
彗の顔から笑みが消える。
<黒中曜>
「お前まだ…XBへの想いがあるだろ?」
<八雲彗>
「なんの話だよ?」
<黒中曜>
「三田さんのところにあったビームバット…あれを盗んだのはお前だろ? 別人みたいに振る舞ってるけど、お前の中にはまだ、ミナトトライブへの憧れが残ってるんじゃないか?」
<八雲彗>
「…………」
彗は顔をしかめたまま、無言で曜の言葉を聞いていた。
<黒中曜>
「それだけじゃない…確証はないけど、ジャッジロボを助けたのだってお前なんじゃないのか?
あんなに重いロボットをわざわざ運んで、人目につかないようにゴミの中に隠してやるだなんて…XBが好きでなきゃ、そんな事できるはずない…
だから、お前の中にはまだ残っているはずなんだ、XBを想う気持ちが――
なぁ、そうなんだろ!?」
感情が昂って、曜はつい大声をあげてしまった。
彗に詰め寄り、その目をじっと見つめる。
本当の事を言ってくれと願いを込めて――しかし。
<八雲彗>
「ククッ…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
彗は突然、魔王のように顔を歪め、邪悪な笑い声をあげた。
<八雲彗>
「やるじゃねぇか、名探偵さんよぉ! 半分正解だぜ!」
<黒中曜>
「半分…?」
<八雲彗>
「ビームバットを盗ませたのは確かにオレだ。オワコンとはいえ、あれは最強の象徴だからな。オレの居室に飾ってやろうと思って、部下共に探させてたんだよっ!
けどなぁ、残念ながら半分は不正解だ。オレの中にはミナトトライブへの憧れどころか、XBへの想いなんざ、これっぽっちも残ってねえよ!」
<黒中曜>
「…ッ!」
<八雲彗>
「つー訳だからよぉ、オレにXBやらせようとすんのは諦めろ。オレと戦いてぇなら殴り合いで決着つけようぜ? 前みたいに一発でKOしてやるよ!」
彗は、頑なにXBでの勝負を拒む。
どうする、どうすればいい――曜が事前に立てておいた作戦は、彗がXBの勝負に乗ってくる事を前提としている。
このままでは、全てが台無しになってしまう。どうすれば――
<彩葉ツキ>
「そんなこと言ってるけど…本当は負けるのが怖いだけなんじゃないの?」
と、厳しい口調のツキが、2人のやり取りに口をはさんだ。
<八雲彗>
「あ…? 負けるのが怖いだぁ?」
<彩葉ツキ>
「だってそうじゃん、彗って昔っから曜にXBで勝てた事なかったもんね!」
<八雲彗>
「…黙れ」
ツキに煽られ、彗の顔から表情が消えた。
<彩葉ツキ>
「強くなったぞ! とか言ってるのにまた昔みたいに負けたら、それこそ言い訳できないから――」
<八雲彗>
「黙れっつってんだろうがよぉ!!!!」
怒声をあげる彗――ツキの言葉が逆鱗に触れたようだ。
<八雲彗>
「過去なんか関係ねえよ! オレは強くなったんだ! 誰にも負けねえ! 曜…オメーにだってなあ!!」
<黒中曜>
「誰にも負けないなら…俺達とXBをしても、なんの問題もないな?」
彗が冷静さを欠いたこのチャンスをものにするため、曜はすかさずXBの勝負を申し込む。
<八雲彗>
「ああ? 上等だ! やってやろうじゃねえか!」
<黒中曜>
「…!」
曜はひそかに拳をぎゅっと握りしめた。
売り言葉に買い言葉で、彗がついにXBの勝負に乗った。
これで、作戦を遂行する事が――
<八雲彗>
「…とでも言うと思ったかあ?」
<彩葉ツキ>
「え…?」
呆然とした表情を浮かべるツキ。
<八雲彗>
「くだらねえ挑発には乗らねえよ。テメーらを平伏させる方法なんざ、こっちにはいくらでもあんだぜ? わざわざXBに付き合ってやる理由はねえなあっ!」
<黒中曜>
「くっ…」
曜が説得しても、ツキが挑発しても、彗はXBの勝負に乗ってこようとしない。
曜にはもはや、為す術が――
<青山カズキ>
「やれやれ…君もとんだ裸の王様だね」
と、そんな曜に助け船を出すように、カズキが前に進み出てきた。
<八雲彗>
「…あ?」
<彩葉ツキ>
「カズキ…さん?」
<青山カズキ>
「彗くんはさ、少し人に対する態度を改めた方がいいんじゃない? そうやって横暴に振る舞ってばかりいると、君はいずれ世界中の全ての人に嫌われてしまうかもしれないよ?
実際、この街のほとんどの人々は君の事が嫌いだってさ。子供も、大人も、老人も――それからインフルエンサーとかいう連中も、君の事が大っ嫌いらしいよ。
彼らは君を玉座から引きずり下ろすために、僕達をサポートしてくれているんだ」
<小日向小石>
「青山さん? それは言っちゃダメなんじゃ――」
<五反田豊>
「シッ…ここは任せましょう…」
五反田は小石の口を咄嗟にふさいだ。
<八雲彗>
「…インフルエンサーがお前らについた? だからどうした。
あんなクソジジイども、すぐにでもブチ殺してやれんぜ? マウンティングなんざ面倒くせえ事しなくても、オレなら瞬殺できっからなっ!」
<青山カズキ>
「わかってないなあ…つくづく君は裸の王様だね。君がインフルエンサーを殺すより先に殺されるのは誰か――そんな事も理解できない?」
と、カズキが謎かけのような言葉を口にした――その時だった。
<インフルエンサー>
「青山カズキ…他言無用と言ったはずだが?」
ミナトタワーのエントランスの床に、巨大な顔の絵文字が浮かび上がった。
インフルエンサーが、照明とスピーカーをハックしたようだ。
<青山カズキ>
「まあ、こっちにもいろいろと都合があってさ。勘弁してよ」
<インフルエンサー>
「なるほど…ならばこちらもやるべき事をやらせてもらおう」
<システム音声>
「大幅なマウンティング力低下を確認。ランクが平民になります」
システム音声が聞こえ、曜の頭上の数値が急激に低下した。
間違いなくインフルエンサーの仕業だろう。
<千羽つる子>
「カズキさん…!? このままじゃ曜さんが…都落ちしてしまいます!」
<八雲彗>
「なっ…!?」
彗はひどく動揺した様子だった。
<青山カズキ>
「ようやくわかったかな? 今の状況で最初に殺されるのが誰かって事が。
けど、君がXBを受けてくれるのなら…インフルエンサーも考えを改めるんじゃないかな?」
<八雲彗>
「………………」
<システム音声>
「大幅なマウンティング力低下を確認。ランクが貧民になります。都落ちを避けるにはマウンティング力向上を急いで行なってください」
ついに曜のランクは貧民にまで落ちてしまった。
このままでは曜は、レーザービームに胸を貫かれる事になる。
あの日の、彗のように――
<彩葉ツキ>
「このままじゃ曜が…曜がっ!」
<八雲彗>
「…受けて…やるよ」
<黒中曜>
「え…?」
曜は耳を疑った。
<八雲彗>
「テメーらとのXB…やるって言ってんだよ!」
空耳ではなかった。彗は今、確かにXBの勝負を受けると言った。
<システム音声>
「大幅なマウンティング力上昇を確認。おめでとうございます。ランクが貴族になりました」
彗がXBでの勝負を受けた途端、曜の頭上の数値は急上昇した。
<三田三太郎>
「おいおい…いったい何がどうなってんだ?」
<彩葉ツキ>
「彗が…曜を助けてくれた…?」
<青山カズキ>
「どうかな…真意は僕にもわからない。ただ…彗くんは絶対に曜くんを死なせたくないみたいだ。再三XGを降りるよう警告したり、あっさり逃がしたりね」
カズキの言う通りだ。
もしも彗が曜を殺すつもりだったら、何度もそのチャンスはあったはずだ。
最初に遭遇した時に曜達を全滅させることだってできはずだし、三田の隠れ家を襲撃する事だってできた。でも、彗はそうしなかった。
その真意はわからないが。
<インフルエンサー>
「…いいように利用されたようだな」
<青山カズキ>
「まあそれは、お互い様って事で」
<インフルエンサー>
「ククッ…見事な手際だ。では、君達の健闘を祈ろう」
インフルエンサーはそう言い残し、姿を消した。
<五反田豊>
「随分と危険な賭けでしたね…。ひとつ読み間違えれば黒中さんは…」
<青山カズキ>
「はは…まあ僕もドキドキだったよ?」
カズキの額には汗がにじんでいた。
<黒中曜>
「彗…お前、俺を…」
<八雲彗>
「…勘違いしてんじゃねえぞ? テメーにここで死なれちゃつまらねえから生かしてやっただけだ。
テメーを負かすのはオレだからなっ! 誰にも手出しはさせねえっ!」
彗の真意は依然としてわからないままだ。
彗がどんな事情を抱え、何を考えているのか、曜には全くわからない。
けれど――それは解き明かすのは全てが終わってからでいい。
だから、曜が今やるべき事は一つだけだ。
仲間達と共に、彗をXBで打ち負かす。
その事だけを考えればいい。
<青山カズキ>
「とにかく話は決まった。それじゃあ、早速始め――」
と、カズキが開始を宣言しようとした、その時だった。
「パチ、パチ、パチ、パチ、パチ」
不意に、誰かが手を叩くような音が聞こえてきた。
振り向くと、そこにいたのは――
<ゼロ>
「ハハッ…いいねえっ! 最高だよキミ達! 熱い友情が一転して激しい憎悪に…
俺、こういうのが見たかったんだよね! あまりにも最高だから、直に見に来ちゃったよ!」
そこにはゼロの姿があった。
ブサイクなぬいぐるみ――ではない。
ゼロは人間としてのフォームで、曜達の前に姿を現していた。
仮面に隠された顔から唯一のぞく右目で、興味深そうに曜達を観察している。
<黒中曜>
「ゼロ…」
<八雲彗>
「チッ…」
<ゼロ>
「わざわざ、彗くんを生き返らせてあげた甲斐があったよ。なかよしこよしの絵面なんて退屈だしね」
――生き返らせて?
<三田三太郎>
「…な、何しに来やがった?」
曜達はもちろん、彗も困惑していた。
ゼロは一体何をしに来た? XBの観戦?
本当にそれだけか――?
<千羽つる子>
「…いいのですか?」
最初に声を発したのはつる子だった。
<ゼロ>
「ん? 何が?」
<千羽つる子>
「私達は統治ルールではなく…XBで決着をつけようとしています。てっきりそれを止めに来たのかと…」
<ゼロ>
「はあ…あのさぁ、俺、余計な水を差されるの嫌いなんだよね。いいじゃん、このふたりがXBで格付けし合おうって盛り上がってるんだから。
XGの一環ってコトで、ここは俺がしっかりと見届けてあげるよ。胡散臭い貴族共に、マウンティング力をイカサマ操作されちゃたまんないからね」
ゼロは頭上に設置されている監視カメラに目を向けて、仮面越しにニコッと微笑んだ。
カメラ越しに見ているであろうインフルエンサーを牽制したのだろう。
「せっかく俺が楽しんでるんだから、余計な手出しをするんじゃないぞ」と――
<八雲彗>
「おい…いつまでくっちゃべってんだ?」
<ゼロ>
「まあまあ慌てない。あ、そうだ。"王様、だーれだ"!」
ゼロが文言を唱えると、ランキング表が現れた。
<三田三太郎>
「な、なんじゃあこりゃああ!」
三田が仰天の声をあげる。
ゼロが呼び出したランキング表のサイズが、あまりにも巨大だったからだ。
まるで球場に設置されているモニターのようだ。
<ゼロ>
「俺だけが呼び出せる特別なランキング表だよ。やっぱ見るなら大画面じゃないとね!
あ、そういえば曜、勝った後のふつうのごほうびは考えてあるのかい?」
<黒中曜>
「言わなくてもわかるだろ。彗の洗脳を解いて元に戻してもらう」
<ゼロ>
「あれ、だいぶ頭も冴えてきたみたいだね。面白い冗談を言うようになったじゃん」
<黒中曜>
「しらばっくれるな! 彗がああなったのはお前のせいだろ!」
ゼロの飄々とした態度が癇に障って、曜は思わず声を荒げてしまう。
<ゼロ>
「ふうん? まあ…言いたい事はわかったよ。洗脳されてるなら解いてあげるさ」
ゼロの言葉には何か含みがありそうだったが――とにもかくにも言質はとった。
あとは、XBで彗に勝利するだけだ!
<三田三太郎>
「やるならさっさとやろうぜ。久々のXB…腕が鳴るな!」
三田は張り切った様子でパキパキと拳を鳴らす。
<小日向小石>
「三田さん達も一緒にやってくれるの?」
<二郎>
「もちろん! さっきからずっと、うずうずしてるからね!」
伝説のミナトトライブが一緒に戦ってくれるなら百人力だ。
この戦力なら、十分に彗を打ち負かす事が――
しかし次に彗が発した言葉は、思いも寄らないものだった。
<八雲彗>
「はあん…なるほど、ねえ…よし、決めたぜ。三田のアニキと四つ子、オメーらはこっちにつきな」
<三田三太郎>
「はあ!? んな事誰がするかよ!!」
<八雲彗>
「おいおい、断るにしてもよーく考えてからの方がいいぜ? 盗んだビームバットが…こんなところで役立つとはなあ」
<三郎>
「え…まさか…」
四つ子と三田の顔が一瞬で青ざめた。
<八雲彗>
「伝説のプレーヤーの形見だろ? いつだったか嬉しそうに見せてくれたよなあ」
<三田三太郎>
「テ、テメェ…!」
奪われたビームバットを人質に取られ、三田は声を荒げる。
<八雲彗>
「そう怒んなって。勝ったら返してやるよ。なんせ大事なチームメイトだからな!」
<青山カズキ>
「…随分とくだらない手を使うね、彗くん」
カズキは軽蔑の眼差しを彗に向ける。
<三田三太郎>
「カズキ…俺は…」
三田の声は震えていた。
曜達と一緒に戦いたいという思いと、ビームバットを取り戻したいという願いとの狭間で、強く葛藤しているようだ。
<青山カズキ>
「三田くんには三田くんの思いがある。それを止める事はできないよ。けど、僕にも僕のやるべき事があるからね」
カズキは暗に三田に言っていた。
「戦おう」と――
<三田三太郎>
「はあ…まさかこんな形でお前とまたXBする事になるとはな」
三田は吹っ切れたように溜息をつき、頭をかいた。
<青山カズキ>
「やるからには全力でやるよ…お互い手加減はなしでね」
カズキは挑発的な笑みを三田に向けた。
<三田三太郎>
「ヘッ…」
カズキの笑みに、三田も笑みを返した。
<八雲彗>
「ハハッ! どうやら仲間になってくれるみてえだな! 嬉しいぜ!」
そして彗はそんな三田の様子を見て、邪悪な笑みを浮かべたのだった。
ミナトトライブが彗の側につく――これで勝利の行方はわからなくなった。
<ゼロ>
「いいねえいいねえ! このいろんな思いが絡み合うカオスな状況! 見逃せないゲームになりそうだ!」
こうして、ミナトシティでの最後の戦いは幕を開けた。
命をかけてマウントを取り合うバカげたゲームを終わらせるために。
そしてナンバーズ9と化した彗の洗脳を解くために。
曜達のXBが――今始まる。