4話「憧れのミナトトライブ」
カズキとの待ち合わせ場所であるラブリーオーシャンに向かって歩く曜達――その道中、ツキはいつになく静かだった。
心ここにあらずといった様子で、時折物憂げに溜息をついている。
つい先ほどまで、あんなに元気いっぱいだったのに――
<彩葉ツキ>
「ふう…」
<黒中曜>
「ツキ、具合でも悪いのか?」
ツキの様子を見かねて、曜は聞いた。
<彩葉ツキ>
「ううん。これからミナトトライブがいた場所に行くのかって思うと、なんか緊張しちゃってさ」
ツキは遠い目で空を見上げる。
<彩葉ツキ>
「彗と3人で、よく言ってたんだよ? "いつか絶対にミナトトライブとXBするぞ!"って…」
ツキの口調はしんみりしていた。その視線の先にあるのは空ではなく、過去の思い出の光景なのだろう。
幼馴染みの3人で、夢中になってXBをプレイしていた頃の――
<黒中曜>
「そうだったのか…よほど凄いトライブなんだな」
<彩葉ツキ>
「そう! いろいろ伝説があるんだよ! えっとチヨダ大戦とか、新XB法とか…ああ、ダメだうまく説明できる気がしない! ってことで、つる子ちゃんよろしくっ!」
<千羽つる子>
「はい、お任せくださいっ!」
バトンタッチされたつる子は、待ってましたと言わんばかりの勢いで説明を開始した。
<千羽つる子>
「まず、ミナトトライブはネオトーキョーの伝説的なトライブです! 何しろ…ネオトーキョーを救った英雄なのですから! これには…チヨダ大戦と呼ばれる戦いが関わってきますので、併せてご説明いたしましょう。
まず、ゼロによる統治の前、あらゆる争いはXB法に基づき、XBによって解決されていました。しかしある日、人の死をも容認した新XB法が新たな国王、鳳王次郎によって施行されたのです。
その結果、世の治安は乱れ、多くの民がその尊い命を落とす結果になりました…。
そこに立ち上がったのがミナトトライブ! 彼らは各地の協力者と共に鳳王次郎に挑み、見事勝利!
かくして力を求めるあまり、力に支配された王次郎は瓦礫の海に沈み、消息不明となったのでした。
…というような事があり、ミナトトライブは英雄視される事になったのです!」
長々とした説明を終えたつる子は、ご満悦な表情で額に浮いた汗をぬぐった。
<黒中曜>
「なるほど…本当にネオトーキョーを救った英雄なんだな」
<五反田豊>
「ちなみに、青山さんもそのひとりなんですよ」
<黒中曜>
「カズキさんが?」
意外な名前が出てきて、曜は少し驚いた。
ただ者ではないとは思っていたが、まさか英雄の一員だとは。
<彩葉ツキ>
「そうだよ! だってカズキさん元ミナトトライブの一員だもん!」
<千羽つる子>
「ちなみにミナトトライブの他のメンバーを紹介しますと、伝説を継ぐバッター白金ハルさんや、ミナトに吹き荒れる先輩風、三田――」
<五反田豊>
「昔話はこの辺にしておきましょうか。もうすぐラブリーオーシャンに着きますから」
再び解説をはじめようとしたつる子を、五反田が制す。
<五反田豊>
「ほら、見えてきましたよ」
見えてきたのは、レトロアメリカンな外観のハンバーガーショップだった。
いわゆる、アメリカンダイナーと呼ばれる形式の店舗だ。
看板にはおしゃれな筆記体で『LOVELY OCEAN』と記されている。
<黒中曜>
「よし、じゃあ中に入ろう」
<彩葉ツキ>
「いざ、ミナトトライブの聖地へ!」
ツキは意気揚々と扉を開き、ラブリーオーシャンの中へ踏み込んだ。