3話「熱心な信者達」
<黒中曜>
「――なんだ、アイツ。
今までのナンバーズと違うぞ…」
<三田三太郎>
「ああ。ナンバーズって言えば、恐怖で支配しているイメージがあるけどよ…
さっきカズキが言ったみたいに、教祖…っていう言い方がぴったりだぜ」
残ったのは、曜達と、曲田の言葉の余韻から抜け出せない熱心な信者達だけだ。
とりわけ、曜達の前にいる女性はすさまじい。
彼女は、CMに切り替わったモニターに向かい、涙をこぼしながら、ありがたげに何度も何度も手を合わせ続けた。
<やつれた女性>
「よかった。最後に曲田様の配信が見れて…もう心残りはないわ…」
女性がそう呟いた、その刹那――
"デデーン"という、どこかの罰ゲームめいた効果音とともに、複数台のヘラヘラテレビちゃん達がどこからともなく現れた。
先ほど曲田の配信に映っていた個体はゼロの顔をしていたが、今目の前の画面には大書きで"映す価値なし"の文字。
頭頂のアンテナは、まるで落雷を受けたかのようにびりびりと波打っている。
<ヘラヘラテレビちゃん>
「オワコン認定! オワコン認定! 映す価値、なし!!」
<やつれた女性>
「ふふ…でも、この死は終わりじゃないわ。始まり…よ」
ヘラヘラテレビちゃん達が女性の体を固定し、そのまま上昇。
どこまでも――
どこまでも空高く――
肉眼でも追うのが難しくなったあたりで、ヘラヘラテレビちゃん達は爆発した。
<黒中曜>
「――っ」
<彩葉ツキ>
「う、嘘…あれが曲田の言ってた"BAN"…?」
<青山カズキ>
「…随分と変わった趣向だけど、これがこの街の処刑法みたいだ…」
先ほどの女性を皮切りに、他のヘラヘラテレビちゃん達も"BAN対象者"を次々と捕らえては、空へ昇って、爆発。
それが至るところで繰り返された。何も知らなければ花火大会と見紛うほどだ。
真っ昼間から漂う悪臭に、曜は思わず鼻を手で押さえた。
<黒いスウェットの男性>
「ああ…今週もこんなに多くの犠牲者が…」
近くにいた男性は、空を仰いで大粒の涙を流す。
遠巻きとはいえ、多くの死を目にしたのだ。心が軋むのも無理はない。
<黒中曜>
「あ、あの…」
つい最近、幼馴染みの彗を目の前で失った曜には、その気持ちが痛いほど分かった。
ポケットからハンカチを取り出し、男性に声をかけようとするが――
<白いワンピースの女性>
「曲田様の作る理想郷では、みんな一緒なのよ?
少しばかりのお別れよ。悲しむ必要なんてないわ」
先に、白いワンピースの女性が笑顔で男性に語りかけた。
――理想郷?
――そこで、死者とも会える?
女性の言葉に、曜は背筋が凍えるような異様さを覚えた。
曜は、同じ戸惑いが男にもあるはずだと決めつけ、彼の顔を見る。
しかし――
<黒いスウェットの男性>
「ハハッ、そうだったそうだった。
おーい、お前ら~。先に理想郷で待っててくれよ~」
男性は、心の底から笑っていた。
明日また会おう――そんな気安さで、空へ手を振る。
そして、男性に釣られるように、周囲の者達も――
<幼い少年>
「ばいばーい!」
<ガタイのいい男性>
「すぐに、また会おうー!!!」
連なるように、同じ笑顔で手を振った。
<三田三太郎>
「き、気持ちわりぃ…コイツら、頭がおかしいのか…?」
<Q>
「…この者達は、曲田の熱狂的な信者のようだな。ヤツに何かを言い含められているのだろう」
<彩葉ツキ>
「ねぇ、今すぐ離れよう…
私、ここに居たら頭がおかしくなっちゃいそう…」
<青山カズキ>
「そうだね…さっき、えのきさんと西郷くんに連絡が取れたし、彼らとの待ち合わせ場所に向かおう」
<彩葉ツキ>
「ほら…曜も行くよ…」
曜は、あまりにも異様な光景に動けなくなっていたが、ツキに腕を引かれてその場を離れた。
<青山カズキ>
「えーっと…テレビ会館ってこのあたりだよね?」
少し歩くと、屋上にテレビ塔を載せたビルの姿が見えてくる。
館内には、オタク御用達の店がずらりと並び、出入りする客達で賑わっていた。
<彩葉ツキ>
「あ、あそこにいるの、えのきちゃん達じゃない?」
ツキの指さす先を見ると、電柱に寄りかかるえのきと西郷が見える。
2人はシナガワプリンセスホテルの屋上でゼロのドローンに捕らえられ、ネオチヨダシティへ送られたが、西郷はスマホの操作が不得手。
一方のえのきは自由奔放で返信は稀。連絡が取りづらい状況が続いていたが、カズキの粘りにえのきが折れ、曲田の配信中にやっと連絡がついたのだ。
<彩葉ツキ>
「おーい、えのきちゃーん! 西郷さーん!」
えのきと西郷に手を振りながら駆け寄るツキを追い、曜達も少し歩くスピードを早めて距離を詰める。
<雪谷えのき>
「んん~? どっかで見たことあるかも。もしかして、有名人?」
<彩葉ツキ>
「ええ!? えのきちゃん、私達の顔忘れちゃったの!?」
まじまじと顔を見ながら首をかしげるえのきに、ツキの顔は青ざめていく。
だが、それはえのきなりの冗談で、すぐにケロッと笑顔に戻った。
<雪谷えのき>
「そんな顔しなくても、ちゃーんと覚えてるって!
曜に、ツキに、カズキに、Q! そーしーてー…」
ひとりひとりを指さしながら、名前を元気よく言っていくえのきだが、三田の番になったときに急に止まった。
曜は、NINEで三田がトラッシュトライブの手伝いをしてくれていることを伝えていたが、2人は顔を合わせるのは今日が初めてだ。
えのきが名前を知らず、固まるのは当たり前だろう。
すぐさま、三田のことを紹介しようとするが――
<雪谷えのき>
「みたらし団子郎!」
その前に、えのきは三田を指さし、元気よくヘンテコな名前を言い放った。
<三田三太郎>
「ちげー! なんで俺だけゆるキャラみてぇになってんだよ!?
俺は三田三太郎だっつーの!!! えのきぃ! オメー、何回名前を教えたら覚えるんだよ!!!」
<雪谷えのき>
「あれー、そうだっけー?
あたし、ずっとみたらし団子郎で覚えてたや~」
まるで旧知の仲みたいなやり取りだ。
曜はツキと顔を見合わせ、三田とえのきに確認する。
<黒中曜>
「ふたりって知り合いだったのか?」
<三田三太郎>
「知り合いっつーか…コイツ、うちのトライブのタイガってやつが好きでさ。
一時期押しかけ女房的なことしてたんだよ。そんときの食費がマジ馬鹿高くて…あー、思い出したくねぇ…」
<黒中曜>
「それは、大変だったな…」
えのきは、トラッシュトライブの誰よりも大食いで、しかも悪食。
もし居候として居座られたら、破産まっしぐらなのは、すぐに予想がついた。
曜が同情の色を浮かべると、三田は深くため息をついたあと、気を持ち直し、えのきに問いかけた。
<三田三太郎>
「てか、お前ら。オオタトライブはどうしたんだ?
そっちの情報は、全然入らねぇから気になってよ」
<雪谷えのき>
「あー、解散したよー。園田が、飽きたってー」
<三田三太郎>
「はあ!? 飽きたってなんだよ!?
そんな理由で解散して、西郷もいいのか!?」
えのきは、あっけらかんと耳をほじりながら、トライブ解散の理由を説明する。
三田はそのとんでもない理由に、西郷のほうへ視線を向けた。
どうやら、西郷とも顔見知りらしい。
<西郷ロク>
「昔話はもういいだろう。それより…今は目先のことを優先すべきではないか?」
<青山カズキ>
「同感だね。ここは、人が多い。人があまり居ない場所で、情報を整理しよう」
カズキの言葉に全員がうなずき、テレビ会館近くの小汚い路地裏へ足を踏み入れる。