9話「あり得ない乱入者」
曜達は、不舞喜町で待ち合わせをしたあと、日和達についていく形で不舞喜町の入口の前にある広い車道の近くに移動した。
<黒中曜>
「あれ? 日和さん達のキャバクラって、不舞喜町の中にあるんじゃないのか?」
<落愛日和>
「残念ながら、あっちには老舗中の老舗しかないの」
<落愛夜宵>
「だから、私達はあれに乗る…」
そう言って、夜宵が手を挙げると、大きなリムジンが止まった。
そのリムジンは、ただ大きいだけではない。
上には立派なビルが乗っており、初めて見るメンバーは度肝を抜かれた。
<彩葉ツキ>
「どっひゃ~~~~! なにこれ!
リムジンの上に建物が乗っかってる!?」
<雪谷えのき>
「今からあれに乗るの!? すごい、すごいー!」
<黒中曜>
「な、なんだこれ…どうしてこんな車が…」
<秋葉ひなぎく>
「市之助お兄ちゃん。これって…」
<秋葉市之助>
「ああ…天心様の洗浄作戦の穴をついたのだろうな…」
<西郷ロク>
「洗浄作戦…? それは、なんだ…?」
<落愛日和>
「チヨダ大戦より前、不舞喜町では悪質なキャバクラやホストが客から搾れるだけ搾って、自殺に追い込むことが多かったの。
だから、天心が"洗浄作戦"っていって、新しく店を構えることを禁止にしたのよ」
<落愛夜宵>
「でも、それは"固定した住所"で出したときだけ…
こうやってリムジンで移動しながら経営する分には問題ない…」
よく見ると、道路には、このリムジンより規模は小さいものの、上にビルを乗せたリムジンがちらほら走っていた。
曜は、シンジュクシティに住む人達の"悪知恵"に驚きつつも、ヒカルに促され、目の前のリムジンに乗り込んだ。
<黒服>
「ようこそ、スリープレスへ!
今宵もお客様に極上の夜をお届けします!」
リムジンに乗ってすぐ、黒服達が一列に並び、大きな挨拶をしてきた。
中の装飾も、さすが夜の店といったところで、華美で煌びやかだ。
しかし――
<黒中曜>
「え…スリープレスって瑠璃色がオーナーのグループじゃ…」
<彩葉ツキ>
「ひ、日和さんと夜宵さんって、瑠璃色のもとで働いてたの…!?」
"スリープレス"という名前を聞いた瞬間、曜を含むメンバー達の間に緊張が走る。
なにせ、意図せず敵の本陣に足を踏み入れてしまったのだから。
<落愛夜宵>
「そうだけど、ここが一番給料がいい…」
<落愛日和>
「瑠璃色にパチ玉を返せなくて、ここで無理やり働かされる人もいるけど、大半は私達と同じ給料目当てよ。
それに、ここを敵の拠点として捉えるんじゃなくて、ミウが昔働いていた場所だと考えたほうが、少しは気持ちも楽になるんじゃないかしら」
<小日向小石>
「え、十条さんもここで?」
<滝野川ジオウ>
「ふふ、ミウはとびっきりの美人だからね。
シンジュクいちの店じゃないと、働けないのさ」
<十条ミウ>
「昔話をしに来たんじゃないの…さっさと行くわよ…」
長い通路を渡り、二基あるエレベーターにそれぞれ分かれて乗った。
かすかに感じる振動から、すでにリムジンは移動しているようだ。
"チーン"
エレベーターが4階にあるキャバクラに到着する。
<気弱なボーイ>
「あ~、やっと来てくれたんですね!
あそこにいる客がずっとよくわかんないことを言って困ってるんですよ~~~」
<落愛日和>
「本当にあなた、使えないわね…
またキャストに頼って…バレたら、瑠璃色に怒られるわよね?」
<気弱なボーイ>
「そうはいっても、今回のはマジでヤバいんです…!
このパチ玉をあげますんで、どうかお願いいたします…!」
そういって、気弱なボーイは、日和達にパチ玉の入った袋を手渡した。
店内を見渡すと、全員が全員、何かしらに怯えており、相当悪質な客がいることは間違いなかった。
<黒中曜>
「そいつは、どこにいるんだ?
すぐに追い出すから教えてくれ」
<気弱なボーイ>
「ありがとうございます…!
例の客は、奥のVIPルームにいます…!」
曜達は、日和と夜宵の案内でVIPルームまで進み、重たい扉を押し開けて中へ入った。
そこにいたのは、明らかに異常なほどの巨漢だった。
男は革張りの質の良いソファに深く腰掛け、両隣にはキャバ嬢をはべらせている。
だが、彼女達はどこか怯えている様子だった。
浅黒い肌に、天を衝くように逆立った金髪。
そして、何よりも気になるのはその目だ。
どこまでも無機質で、射竦められた者は思わず固まってしまう――そんな冷たい目をしていた。
<落愛日和>
「ねえ、あなた、ちょっといい――」
日和がやんわりと注意をしようとしたそのとき、えのきと西郷、市之助とひなぎくが前に出た。
<雪谷えのき>
「コイツ、ちょー危ない…」
<西郷ロク>
「ああ…只者ではないな…」
<秋葉ひなぎく>
「そこのお嬢様達! すぐにここから逃げるにゃ!」
<秋葉市之助>
「ああ…あとは、拙者達がこやつの相手をしよう」
<キャバ嬢>
「あ、ありがとう…!」
やはり、芥は只者ではないようだ。
戦闘の経験が高い者達は、芥から感じる"なにか"に反応して警戒心を高めていた。
キャバ嬢達が急いでVIPルームから出ると、ジオウが静かに口を開いた。
<滝野川ジオウ>
「どうしてお前がここにいる…? 答えろ、芥」
<黒中曜>
「ジオウさん…?」
その声色は、普段のジオウからは想像もつかないほど冷たいものだった。
まるで誰か別人が彼の身体を乗っ取ったのではないか――そう思ってしまうほどだった。
"芥"と呼ばれた男はジロリとジオウを見て、少しだけ、ほんの少しだけ口角を上げる。
<芥塵>
「滝野川…それに、十条も久しぶりだな。息災なようで何よりだ」
名前を呼ばれたミウが体を震わせている。
明らかに異常な反応だった。
<黒中曜>
「ふたりの知り合いなのか…?」
<十条ミウ>
「………………」
ミウの耳には、曜の声は届いていないようだ。
彼女はただ下を向き、何かに耐えるように下唇を噛んでいる。
薄く、血が滲むほどに。
<滝野川ジオウ>
「まあ、知り合いではあるかな。二度と会いたくなかったけどね」
<芥塵>
「ふたりとも変わったようだな。とくに…滝野川はまるで別人だ」
<滝野川ジオウ>
「…僕らを連れ戻しに来たのか?」
<芥塵>
「連れ戻す…だと?
ふん、良い冗談だ。自分を買い被っていないと、そんなことは到底言えやしないのだからな」
ジオウが舌打ちして、場の空気は急速に張り詰めていく。
誰もが、目の前で起こっていることがなんなのかを理解できていなかった。
<芥塵>
「…ああ、私としたことが自己紹介がまだだったか。
芥塵だ。一応、ナンバーズ2ということにもなっている」
<黒中曜>
「――え?」
曜の心の中で戸惑いがどんどん膨らんでいき、それは周囲にも伝播していく。
――なぜ?
――どうして?
――同じシティにナンバーズがふたりもいるのか?
――瑠璃色だけではなく、芥のことも倒さなければいけないのか?
<芥塵>
「案ずるな。
私は少し気になることがあり、シンジュクシティにやってきただけだ。
だが、来てすぐ、ここの統治ルールに巻き込まれてしまってな。
それの答えを見てから、帰ろうと思っている」
曜達の不安が伝わったのか、芥は彼らを見やり、"今"は戦うつもりはないと静かに告げた。
<小日向小石>
「答えを見てから…?」
<落愛夜宵>
「たまに、すぐに終わらない二択がある…
それは、Mr.Dがジャッジできるようにならないと終わらない…」
<芥塵>
「その通りだ。
それで私が受けた二択の内容は――"黒中曜"は古池瑠璃色をチャンピオンの座から引きずり下ろすことができるか、否か…というものだった。
もちろん、私は黒中曜。お前が勝つほうに賭けた」
<黒中曜>
「どうして、俺に…?」
曜はこれまで、シナガワシティ、ミナトシティ、ネオチヨダシティと、3つのシティでナンバーズに勝利してきた実績がある。
だが、統治ルールというものは、どうしてもチャンピオンが有利だ。普通ならば、瑠璃色に賭けるものだろう。
<芥塵>
「理由などとくにないが…
まあ、お前の陣営には昔馴染みもいる。期待値というところだ」
<十条ミウ>
「何を…考えているの?」
これまで一貫して沈黙を貫いていたミウが、ぼそりと呟いた。
その様子に、曜は違和感を覚える。
知り合いだとは言っていたが、なぜジオウもミウも異質な雰囲気を漂わせるのか。
<芥塵>
「十条、私の考えはいつも同じだ。
求めていることは単純…だが、まだ、ここにはトキメキが足りない…」
そのまま芥は席を立ち、曜達を一顧だにすることなく、その場から立ち去った。