12話「不敗の秘密」
<落愛夜宵>
「あ、おかえりなさい…どうだった?」
事務所に戻り、それぞれ椅子に座ったりソファに腰かけたりしている皆に対し、部屋から出てきた夜宵が声をかけた。
<四谷ヒカル>
「ミウちゃん達から前もって聞いてたとおり、ゼロが変なぬいぐるみ姿になってて面白かったよ。
夜宵は、少しは元気になった?」
<落愛日和>
「ええ、少し休んだら大好きなソシャゲができるくらい元気になったみたいよ。
それで、ゼロはなんて?」
曜はゼロから強制的に発生させられた二択ゲームについての話を日和と夜宵にもしていった。
<落愛日和>
「瑠璃色の不敗の秘密…ね」
<落愛夜宵>
「それ…わかるなら、苦労してない…」
<黒中曜>
「本当になんでもいいんだ。
ふたりは、瑠璃色と同じキャバクラで働いてるんだろう? なんでもいいから、教えてほしい…」
<落愛日和>
「うーん…そう言われてもねぇ…」
<落愛夜宵>
「瑠璃色…意外とガードが硬い」
<落愛日和>
「他人をまったく信用していないのかもしれないわね。
自分の本当のところは誰にも見せないっていうか…」
<四谷ヒカル>
「それはボクもわかるな…
瑠璃色には、こう…見えない壁があるね…」
何か手がかりが見つかればいいと思っていたが、秘密は深まるばかりだった。
全員で首を傾げていると、突然、我慢の限界が訪れたのか、えのきが暴れ始めた。
<雪谷えのき>
「あー!!! お腹すいたー!!!
なんか食い物ちょーだいー!!!」
<秋葉ひなぎく>
「あああああー!!!
勝手に人様の机をめちゃくちゃにするのはダメにゃ!」
<彩葉ツキ>
「ああ…もう…こんなに、めちゃくちゃにして…」
<落愛夜宵>
「お腹空いてるなら、これあげる…あたりめ…」
<西郷ロク>
「オレもひとつ、もらっていいか…?」
<雪谷えのき>
「あたしは、いっぱーい!」
<四谷ヒカル>
「ハハ。えのきちゃんは、食いしん坊で可愛いね」
ヒカルは微笑みながら、えのきが床に落とした紙を拾っていたのだが、その手がふと止まった。
<四谷ヒカル>
「うわ、懐かしいな…こんなところにあったのか…」
感極まったようなその声が気になり、曜が後ろから覗いてみると、ヒカルの手には一枚の写真があった。
それは、キャバ嬢の格好をしたミウが右側にいて、左側には知らない女性が写っているものだった。
背景はキャバクラの店内のようだったので、おそらく当時のミウの同僚なのだろう。
<四谷ヒカル>
「ほら、ミウちゃん。るーちゃんだよ!」
手に持った写真を振りながら、ミウに差し出した。
それを見たミウは目を細め、口元に微笑みを浮かべている。
<十条ミウ>
「こんな写真があったのね…私、ほとんど撮らなかったのに」
何事かと皆も集まり、写真に注目が集まる。
<黒中曜>
「これって…ミウさんが昔、キャバクラで働いてたときの写真だよな?」
<落愛夜宵>
「うん…ルミって子がずっと持ってて、いつかミウに会ったら渡しておいて…って頼まれてたやつ」
<滝野川ジオウ>
「これは激レアショットだね。ミウのところだけ、くれない?」
<落愛日和>
「ダメよ、あの頃のミウの写真はこれしかないんだから。私達ともほとんど撮らなかったし」
<落愛夜宵>
「ミウ…ルミのこと…覚えてる?」
ミウは軽く頷き、そして懐かしむように続ける。
<十条ミウ>
「うん…私達の後に店に入ってきたから、みんなで色々と教えてあげたわね。
お客さんが取れないってよく悩んでて…その度にヒカルが指名してあげたりもして」
<落愛日和>
「結局、ルミの指名客は最後までヒカルだけだったけど…
その分、ヒカルが来るたびに大喜びしてたのよね」
<落愛夜宵>
「ルミになら、ヒカル…あげてもいい…」
その声色はとても優しげで、3人にとってとても大切な友達だったであろうことが、曜にもわかった。
<黒中曜>
「左の子がルミさんか…でも、なんだか顔が不自然なような…」
曜の言うように、写真の中のルミはかなり大胆に加工されていた。
おそらく、本人の面影はほとんどないのでは…と思えるほどに。
<三田三太郎>
「女の子なんだから、加工くらいするに決まってるだろ。
俺、こういう自分を可愛く見せたい女の子好きなんだよなー」
<秋葉市之助>
「しかし、少し加工しすぎではないか…?
こんなに目が大きい人間は存在しないだろう…」
<落愛夜宵>
「ルミ、重度の加工厨だったから…」
その後もミウはしばらく写真を眺めていた。
写真を持つ手はとても繊細で、まるで親鳥が大切な雛を守っているかのようだった。
<十条ミウ>
「そういえば、ルミは今どこに? 私がシンジュクシティを出てからも店にはいたのよね?」
<落愛日和>
「ええ…でも、統治ルールが始まった頃にいきなり店を辞めちゃって」
<落愛夜宵>
「NINEもいつの間にか"退会したユーザー"になっちゃった…だから、行方不明…」
ミウは悲しげに首を振り、目を伏せた。
<十条ミウ>
「ヒカルのことだから、探してみたんでしょ? 何もわからなかったの?」
<四谷ヒカル>
「今でもるーちゃんのことを探してるんだけど、なかなか見つからなくてね…
でも、どこかでまた会えると思うよ…」
切なげな眼差しを向けるヒカルを見て、曜はようやく思い出した。
"るーちゃん"とは、この前、ヒカルが寝言で呟いていた想い人の名――ルミという人物の愛称なのだろう。
統治ルールはいとも簡単に人の命を奪う。
ルミだって、犠牲になっていても何もおかしくない。だが、曜にはその可能性を口にすることはできなかった。
<四谷ヒカル>
「――と、ちょっと話が逸れちゃったね。調査の話に戻そうか」
<落愛夜宵>
「あ…日和。調査っていえば…」
<落愛日和>
「ああ、そういえば常連さんに新聞記者がいるの。あの人なら私達が知らないことにも詳しいかも」
<黒中曜>
「さすが人脈が広いな…よし、聞きに行ってみよう」
皆が移動しようとしたそのとき、夜宵が少し困ったように口を開いた。
<落愛夜宵>
「その人…人が多いのを嫌うっていうか…うん…」
<四谷ヒカル>
「なるほど…じゃあ、メンバーは選びたいね。残った人はボクと犬猫探しをしてもらおう」
そして、相談の結果、曜、ツキ、日和、夜宵で話を聞きに行くことになった。
件の新聞記者は女の子に弱いところがあるので、女性が多い方が口も軽くなるだろうという日和からのアドバイスがあったからだ。
曜はXGに挑む当事者であり、リーダーでもあるので、同行に異を唱える者はいなかった。
<雪谷えのき>
「にゃーにゃー! ねこねこねこー!
わんわんわん! いぬいぬいぬー!」
<四谷ヒカル>
「ハハ、えのきちゃんは猫とか犬が好きなのかな? 機嫌がいいね」
<西郷ロク>
「…わかってると思うが、食うなよ」
<小日向小石>
「え!? 雪谷さん、食べるの!?」
<三田三太郎>
「コイツは、食えるものならなんでも食おうとするからなあ…
一回、ねこまるも食おうとして、よだれまみれにしてから避けられてる…」
<十条ミウ>
「可哀想…」
<秋葉市之助>
「おい、ひなぎく…きちんと薬は飲んだか?」
<秋葉ひなぎく>
「猫アレルギーの猫好きとして、対策はバッチリだお!
可愛いにゃんちゃんわんちゃん、ばっちこーいにゃ!」
わいわいと話をしながら、残りのメンバーは事務所を出て行った。
<黒中曜>
「俺達も行こう。その新聞記者は今どこにいるんだ?」
<落愛日和>
「さっき連絡したら、今、旧都庁前にいるみたい。案内するわね」
そうして繁華街を抜けて、少し寂れた雰囲気がする旧都庁前までやってきた。
近くには大きな公園があるのだが、そこかしこでホームレスが寝ており、あまり良い雰囲気ではなかった。
華やかな雰囲気のシンジュクにも、このような場所があることに曜は少し驚いたが、どんな街にも光と影があるのかもしれないな…とも思った。