11話「ゼロからの呼び出し」
<四谷ヒカル>
「よし、これで全員目覚めたね。さて、これからのことでも話そうか」
全員が目を覚ましたのは、すでに日が暮れ始めた頃だった。
ヒカルが意気揚々と話し始めたそのとき、曜のスマホが震え、メッセージの着信を知らせた。
<NINE(ゼロ)>
「やほー、曜くん、おひさ! どう? シンジュクシティ、楽しんでる?」
<NINE(黒中曜)>
「…なんの用だ?」
<NINE(ゼロ)>
「聞いたよ~、瑠璃色ちゃんにすっごい額の借りを作ったんでしょ?」
<NINE(黒中曜)>
「お前には関係ない」
<NINE(ゼロ)>
「曜くんのイケず~。
まっ、ちょっと用があるから、シンジュク駅に来てよ。遅刻は厳禁だからね~」
ゼロは、勝手に約束を取り決めたあと、一方的に連絡を途絶えさせた。
<黒中曜>
「はあ…あいつ、どういうつもりなんだ…」
<彩葉ツキ>
「とりあえず行くしかないよね? 無視したらなんかされそうだし…」
一応、皆の意見も聞いてみたが、ひとまず行くべきだという風に話がまとまった。
相手はあのゼロだ。何をしてくるかは予想できないので、警戒だけは怠らないようにしよう、とも。
呼び出されたのは曜だけではあったが、わざわざ危険に晒すような真似をすることもないだろうと全員で行くことになった。
<落愛日和>
「あ、ごめんなさい。こんなときにアレなんだけど…夜宵がちょっと疲れてるみたいなの」
<落愛夜宵>
「私なら…大丈夫…」
<落愛日和>
「ダメよ、あなた、昔から無理したらすぐ熱を出すんだから」
夜宵は事務所で休憩することになり、日和も彼女をひとりにしたくないということだったので、ふたりは留守番をすることになった。
<黒中曜>
「それじゃあ、そろそろ行くか」
事務所を出て、街を歩きながら、皆がどのように依頼を解決していったのかを確認していくと、瑠璃色の情報が多く集まったことに気づいた。
そうこうしているうちにシンジュク駅に着き、そこで待っていたのはふざけたぬいぐるみ姿のゼロ…ではなく、この街を統べる彼女だった。
<古池瑠璃色>
「おっ、曜くん達じゃん。もしかして、ゼロに呼び出された?」
気安く話しかけてきたが、曜は少し驚いた。神出鬼没な女だとは思っていたが、まさかここで会うとは予想していなかったのだ。
<黒中曜>
「…どうしてそれを知っている?」
<古池瑠璃色>
「そんなの、ウチも呼び出されたからに決まってんじゃん」
<小日向小石>
「やっぱりそうか…けど、ナンバーズと一緒に来させるなんて、何を考えてるんだろう」
<彩葉ツキ>
「なんか、あんまり良いことじゃなさそうだね…」
そのとき、何もない空間に黒い歪みが突如として発生し、そこからぬいぐるみ姿のゼロが現れた。
<ゼロ>
「はろはろ~、みんな、お待たせ!
それじゃあ、今からみなさんには…殺し合いをしてもらいます!」
ゼロが声を張り上げてそう宣言したが、誰もが悪趣味な冗談だということはわかっていた。
いや、実際に統治ルールは残酷なデスゲームではあるので、ある意味では正しい言葉だが。
<黒中曜>
「ふざけるのはやめろ。さっさと呼び出した理由を言え」
<ゼロ>
「うっ…曜くんったら冷たい…。昔はそんな子じゃなかったのに、人って変わるものだね」
まぜっかえすようなその言葉に、曜の苛立ちが増していく。
<古池瑠璃色>
「あのさー、ウチも暇じゃないからさっさとしてくんない?」
瑠璃色は興味なさげに手指のネイルをしげしげと見つつ、そう言った。
自分の優位を確信しており、何が起ころうとも負けることはないという自信に満ちた声色だった。
<ゼロ>
「わかったわかった。じゃ、本題だけど…」
そのまま、瑠璃色の方を向き、数秒間動きを止める。
そして、何事かと皆が思ったとき、おもむろに口を開いた。
<ゼロ>
「まず、瑠璃色ちゃん!
パチ玉がたくさんあるからって調子乗りすぎ!」
<古池瑠璃色>
「はあ? んなこと言われる筋合いないんだけど?
ナンバーズらしく勝ち続けてるし!」
不満げに唇を尖らせながら反論している。
瑠璃色にとって、いきなりそんなことを言われるのは想定外だったのだろう。
<ゼロ>
「筋合いは…ありまあす! ぼくとしてはもっとギリギリの勝負をしてほしいんだよね」
<黒中曜>
「これ以上…何をさせるつもりだ?」
曜は嫌な予感がしていた。
これまでの経験から、ゼロがこのようなことを言い出して事態が好転したことは一度もなかったからだ。
手に汗が滲み、緊張で喉が渇きだす。それでも、ただ、一点――ゼロだけを睨みつける。
<ゼロ>
「まーまー、そんな顔しなさんな。
ぼくだけはちゃんとした数知ってるけど、瑠璃色ちゃんの持ち玉数ってそりゃもうすごいんだよ?
このままコツコツがんばっても一生勝てないくらいにさ」
ゼロがチラリと瑠璃色の方に目をやると、彼女は自信ありげに胸を張った。
<ゼロ>
「ってことで、今のままじゃみんなもつまんないだろうし、それを打破するためにやりたいことがあるんだよね!」
ピョコピョコと飛び跳ね、短い手を叩きながら楽しそうな声を出す。
<ゼロ>
「ヘイ、カモン!」
直後、駅構内に"ダダダダダ!"という足音が響き渡り、この街ではお馴染みとなった…あいつが、やってきた。
<Mr.D>
「Heaven or Hell!」
<黒中曜>
「なっ!? 今できる二択なんてないはずだぞ!」
<ゼロ>
「あるんだなー、それが。まあ、黙って見てなよ」
ゼロの言葉を受けたMr.Dは人差し指をビシッ! と前に突き出したかと思えばその手を天に向けてポーズを決めた。
心なしか、いつもよりテンションが高そうだ。
<Mr.D>
「黒中曜は24時間以内に古池瑠璃色の不敗の秘密を暴けるか、暴けないか?
ベット玉数は決着時のオールイン! それでは…ベット開始!」
<黒中曜>
「…どういうことだ!?」
曜は、何を言われているのか瞬時に理解できなかった。
それは他の皆も同じようで、困惑した表情を浮かべている。
瑠璃色は確かに無類の強さを誇っている。だが、そこに秘密がある?
これは逆説的に、瑠璃色に何か隠し事があることを示している。
当の瑠璃色はというと、ため息をつき、頭を掻きながら俯いていた。
だが次の瞬間、顔を上げたその表情には、ふてぶてしい笑みが浮かんでいた。
<古池瑠璃色>
「…また、随分と勝手なことしてくれんじゃん?」
<ゼロ>
「このほうが緊張感出て面白いでしょ? あ、内心焦ってる?」
<古池瑠璃色>
「冗談はやめて。ま、いいよ。こいつらなんかに絶対わかるわけないしね」
そんなふたりのやりとりを尻目に、曜達はどうするべきかを相談しだした。
<黒中曜>
「瑠璃色の秘密…ヒカルさんは何か思い当たることはないか?」
<四谷ヒカル>
「ごめん…パっとは出てこないかな。ボクも探偵としてはまだまだだね…」
<黒中曜>
「あ、いや…気にしないでくれ。それなら、これから突き止めればいいだけだ」
<秋葉ひなぎく>
「でも制限時間は24時間以内…なかなか厳しそうだお」
<黒中曜>
「どうにも情報が不足しているしな…」
だが、そこで三田が得意げな顔で、とある提案をした。
<三田三太郎>
「だったらよ、"暴けない"にベットすりゃいいんじゃねえか?
それなら、なんもしなけりゃ自動的に俺らの勝ちになるだろ?」
<雪谷えのき>
「ほんとだ~! てんさーい、てんさーい!」
<西郷ロク>
「それがいいだろうな…」
確かに、それは最善手かもしれなかった。
しかし同時に、ゼロがそんなことを許すわけがないという確信が、曜にはあった。
その予想通り、ゼロがコロコロと転がってきたかと思えば飛び上がり、曜の肩に乗ってこう言った。
<ゼロ>
「あ、ちなみに曜くんが"暴けない"にベットするのは無しね。つまんなすぎるし」
<秋葉市之助>
「なんと横暴な…」
<ゼロ>
「これがゲームマスター権限ってやつだよ。諦めて!」
改めて一同に衝撃が走る。
あるとすら思っていなかった瑠璃色の秘密を、24時間以内に暴くのは至難の業だ。
だがそんな中で、曜だけが希望を見据えていた。
<黒中曜>
「大丈夫だ。俺達なら、絶対にやれる」
その言葉は、皆の心を震わせるほどの決意に満ちており、全員が曜に注目した。
<黒中曜>
「みんなの話を聞いて、何か…何かが掴めそうな感覚があったんだ。
だから、信じてほしい。そして…力を、貸してほしい」
心からの真摯な訴え、それを聞いて首を横に振るような人間はこの場にはいなかった。
皆に活力が一気に漲っていく。
<彩葉ツキ>
「あったりまえじゃん! なんでもするから、頼りにしてよね!」
<四谷ヒカル>
「ボクもなんだって協力するよ」
覚悟は決まった。
それを受けて曜は力強く宣言する。
深く息を吸い込み、闘志と共に言葉を吐き出す。
<黒中曜>
「"暴ける"にオールインだ!」
<古池瑠璃色>
「なーんか安っぽいメロドラマで盛り上がってたみたいだけど…無駄な努力ってこと、教えてあげるね?」
ニヤニヤと不敵に笑っている。それでも、曜は負ける気がしなかった。
<古池瑠璃色>
「"暴けない"にオールインよ!」
<Mr.D>
「ベット終了! それでは、決着のときにお会いしましょう!」
そのままMr.Dはクラウチングスタートのようなポーズを取り、すぐに走り去っていった。
<ゼロ>
「おお~、なんか盛り上がってくれて良かった良かった! ってことで、いよいよXG本番開始!!」
互いに目を合わせ、曜達は深く頷き合った。それとは対照的に瑠璃色はただひとり、腕を組み何事かを考えていた。
そのまま、ゼロにも曜達にも目を向けることなく、どこかへと去って行った。
<小日向小石>
「僕らは瑠璃色と違って人数も多いし、そこをうまく利用していきたいね」
<黒中曜>
「ああ、絶対に勝とう」
力強く頷く曜を見て、ゼロも満足げに飛び跳ねている。
<ゼロ>
「おお…感じるよ、みんなの輝くパワーを! それじゃ、ぼくはこれで失礼す――」
またしても空間に黒い歪みが発生し、ゼロがそこに入ろうとしたとき、ミウが声を掛けた。
<十条ミウ>
「ちょっと待って! 質問があるんだけど、あの男…芥もあなたの差し金なの?」
ゼロは面倒なことを聞かれた、と言わんばかりに左右に目を泳がせたが、やがて観念したように口を開いた。
<ゼロ>
「あ~、やっぱそこ気になっちゃう?
実は彼には困ってるんだよね…。勝手にシンジュクシティに来ちゃったりしてさ」
<滝野川ジオウ>
「へえ、てっきり君が呼び寄せたんだと思ってたよ」
<ゼロ>
「冗談はやめてよ。何回言っても出て行かないし、ぶっちゃけもうお手上げなんだよ」
心底うんざりした口調でそう言った。
そして、もう話は終わりだとばかりに再び黒い歪の中に入っていく。
<ゼロ>
「まー、めんどくさいとは思うけど、そっちはそっちでなんとかしてね。じゃ、バイバーイ!」
そうしてゼロはいなくなったが、曜達は前を向いていた。
必ず、皆の力で勝利してみせる。どんな秘密だって、暴いてみせる、と。
ひとまず、瑠璃色にどのような秘密があるのかを探るため、話し合いも兼ねて事務所へ戻ることにした。