4話「双子の美女」
<四谷ヒカル>
「ようこそ、四谷探偵事務所へ」
ヒカルに連れてこられた場所は、古びた雑居ビルの一室だった。
中央には向かい合うようにソファが置かれており、間にはローテーブルもある。
奥には所長専用であろう大きな机と椅子もあったが、大量の書類がうず高く積まれており、今にも崩れ落ちそうだ。
<三田三太郎>
「探偵事務所…?」
<秋葉市之助>
「お主、ホストじゃなかったのか?」
<四谷ヒカル>
「ホストは副業で、本業は探偵さ。
仮の姿があるなんて、カッコいいと思わない?」
<黒中曜>
「へえ…探偵。意外だな…」
曜にとって探偵とは、頭脳明晰でクールに事件を解決していく存在というイメージがあった。
だが、初対面の印象が悪かったのか、お世辞にもそのような存在には思えなかった。
<四谷ヒカル>
「よく言われるよ、まあでも、爪ある脳は鷹を食わす…ってね」
<彩葉ツキ>
「ん…? どういうこと…?」
<小日向小石>
「たぶん、"能ある鷹は爪を隠す"って言いたかったんじゃないかな…?」
<彩葉ツキ>
「あー…よかったね。ここにつる子ちゃんがいなくて…。
もし居たら、説明が始まってたかも…」
ヒカルの発言に呆れながらも、一同は物珍しそうに探偵事務所内を眺め回している。
えのきは勝手に机の上にあった書類の山を崩して、何が書いてあるのかをしげしげと見ている。
<雪谷えのき>
「ねー、西郷ー。これ、なんて書いてあるの?」
<西郷ロク>
「浮気調査、猫探し、人探し…だな」
<雪谷えのき>
「つまらないのばっかー。
殺人鬼とバトルする仕事とかないの?」
<十条ミウ>
「三流探偵だしそんなものよ」
<四谷ヒカル>
「ハハ、手厳しいなミウちゃんは。せめて四流くらいはあるだろう?」
<秋葉ひなぎく>
「にゃっ!? 増えた!?」
<十条ミウ>
「まともにできるのは浮気調査くらい。しかも、それだって依頼主や調査対象の女性とトラブルを起こしてばかりなのよ。
副業のホストで食いつないではいるけど、統治ルールはいつも脱落寸前…確かに四流ね」
<四谷ヒカル>
「ま、今は四流だけど、いつか五流、六流、七流…
いや、十流の探偵になって伝説になりたいよ」
<秋葉市之助>
「この御仁…先ほどから何を言っているでござるか?」
<三田三太郎>
「多分…数字が大きいほど、偉いと思ってるんじゃねぇか」
散々な言われようだが、ヒカルは一切気にしていないようで、誇らしげに胸を張る。
そんな姿を見て、曜は一抹の不安を覚えたが、それでもミウの友人ならばと、気にしないよう努めた。
そのときだった。奥の扉が開く音がして、皆が一斉にそちらを見る。
暗がりの中から、ふたりの女性が姿を現した。
どちらも露出度の高いドレスを身にまとっており、とても華やかで綺麗な顔立ちをしている。
髪の色は紫と赤でそれぞれ異なるが、どこかよく似た雰囲気をしていた。
<大人しそうな女性>
「うるさい…こっちは仮眠中…」
<優しそうな女性>
「ヒカル、帰ったなら声掛けてよ」
<四谷ヒカル>
「やあ、ごめんごめん。
つい話に夢中になって声をかけるのを忘れていたよ。
あ、彼らが例の協力者だよ。ほら、ミウちゃんとジオウくんから何回も話を聞いた」
<三田三太郎>
「あ、あの…! 俺は…み、みた…っ」
"女"好きの三田は、一番にお近づきになろうと挨拶をしようとするが、目の前にいるのは、絶世の美女と言っても過言ではないほどの美しい女性だった。
ナンパ慣れしているであろう三田であっても、その美しさのハードルはあまりにも高い。
声が上ずり、うまく挨拶できなさそうだった。
そんな三田に、女性のひとりが微笑みながら口を開いた。
<落愛日和>
「ふふ、無理に挨拶しなくても大丈夫よ。
あなた達のことは、ぜーんぶミウから聞いてるから。
私は落愛日和。こっちは、夜宵よ。仲良くしてちょうだいね」
<落愛夜宵>
「別に私は仲良くしてもらわなくてもいいけど…」
<三田三太郎>
「は…はひ…っ!
よ、よろしくお願いしましゅ…!」
曜は、三田のテンパり具合が少し過剰なのではないかと思った。
だが、こんなにも美しい人に初対面で優しくされたら舞い上がってしまうのも無理はないだろう。
<黒中曜>
「ところで、日和さんと夜宵さんって、ヒカルさんとはどういう関係で…?」
ヒカルと女性という組み合わせを見ると、さっきの激しい取り合いを思い出してしまう。
もしかするとまた、あの取り合いが日和と夜宵の間で起こるのではないか――曜は、そんな不安を覚えた。
<落愛夜宵>
「…家族」
<落愛日和>
「私達、きょうだいなの。
私と夜宵は双子で、ヒカルはその上。もっとも、ヒカルだけ父親は違うのだけど」
<四谷ヒカル>
「…とはいえ、そんなことボク達の熱い絆には関係がない。
この世で最も大切なのは日和と夜宵だと、胸を張って言えるね」
曜は、気まずい話を聞いてしまったと一瞬バツの悪さを感じた。
だが、ヒカルの持ち前の明るさのおかげで、場の雰囲気が暗くなることはなかった。
ヒカルと落愛姉妹の関係性に納得したのも束の間、三田が重要なことに気づいた。
<三田三太郎>
「つーか、その前にミウとヒカル達はどういう関係なんだ?
出会ったばっかってわけでもないんだろう?」
<十条ミウ>
「昔からの知り合いよ」
直後、ミウは目を細め、何かを懐かしむような表情を見せる。
<十条ミウ>
「以前、仕事でシンジュクシティにいた時期があって…最初に会ったのは、もう何年も前ね」
<彩葉ツキ>
「そうなんだ! どんな仕事をしてたの?」
<十条ミウ>
「キャバ嬢よ」
<彩葉ツキ>
「キャバ嬢ー…って、あの!?」
ミウはさらっと答えたが、一同は衝撃を受けた。
どうしても、愛想よく接客するミウというものが想像できなかったのだ。
<黒中曜>
「ミウさんがキャバ嬢…意外だな…」
<彩葉ツキ>
「ねえ、写真とかないのー!?
ミウさんのドレス姿が見たいー!」
<秋葉ひなぎく>
「ひなも見たいにゃー!」
<十条ミウ>
「………………」
意外なミウの過去に、みんなが食いつくが、ミウはあまり話したくないのか目を逸らし、髪の先を弄り始める。
それを察したのか、ジオウはわざと大きな声でみんなの会話に参加し始めた。
<滝野川ジオウ>
「これ以上は秘密さ!
あの頃のミウは、僕の記憶にだけ残っていればいいからね!
それより、ツキちゃん達。キャバ嬢がそんなに気になるなら、現役組に話を聞いてみたらどうだい?」
<彩葉ツキ>
「現役組?」
ジオウが顔を向けた先を見ると、そこには日和と夜宵が椅子に座っていた。
<落愛日和>
「一緒のキャバクラで働いていたのに、知り合いだなんて…
せめて、友人と言ってほしいわ」
<落愛夜宵>
「まあ…それがミウっていうか…」
<落愛日和>
「そうね…あなた達ってば、いつもトークは私任せだったし…
仕方ないから、今回も引き受けてあげるわ」
それをきっかけに、皆の興味は現役のキャバ嬢である日和と夜宵へと移り、キャバ嬢ならではの話を聞いて一同は大いに盛り上がった。