5話「現れるナンバーズ」
キャバ嬢トークで盛り上がり、そろそろ本題に入ろうとしたそのとき。
突如、ドアが"バンッ!"と激しい音を立てて開いた。
中に入ってきたのは、意気揚々とした面持ちの、派手な格好をした緑髪の女性。
彼女は我が物顔で、事務所の中を歩き始めた。
<緑髪の派手な女性>
「やっほー! ヒカルちん、いる~?
瑠璃色ちゃんが直々に取り立てに来てあげたよー!」
その女性を一目見るなり、ヒカルは柔和な表情から一転、どこか心苦しそうな顔に変わった。
<四谷ヒカル>
「…見ての通り、今は来客中なんだ。日を改めてくれないか?」
<緑髪の派手な女性>
「お客さん…?
って、あー! 知ってる知ってる! トラッシュトライブの子達だよね?」
突然、謎の人物から素性を当てられたことで曜達は警戒心を抱いた。
<黒中曜>
「どうして、俺達のことを…?」
<緑髪の派手な女性>
「ん~? だって、このシンジュクでウチが知らないことなんて無いからねー!」
女は楽しそうに胸を張り、大袈裟に息を吸い込み、そしてポーズを決める。
<古池瑠璃色>
「そう、シンジュクシティいちのカリスマキャバ嬢で、ナンバーズ7でもある古池瑠璃色にはまるっとすべてをお見通し! って訳!!」
<黒中曜>
「なっ…!? ナンバーズ!?」
<小日向小石>
「ちょ、ちょっと待って…! 心の準備が追いつかない…!」
<秋葉ひなぎく>
「にゃ、にゃんでナンバーズがここにくるんだお~!?」
曜達に衝撃が走る。
まさかこんな場所でナンバーズに遭遇するとは、誰もが思っていなかったのだ。
だが、そんな彼らの心など知ったことではないと言わんばかりに、瑠璃色は話を進めていく。
<古池瑠璃色>
「ナイスリアクションありがと!
でも今、アナタ達に構ってる暇ないんだよね~」
瑠璃色はまたヒカルに向き合い、唇の端を上げながら意地悪く言葉を続けていく。
<古池瑠璃色>
「で、どーなのヒカルちん? 返済は大丈夫そ?」
<四谷ヒカル>
「…生憎、今は持ち玉が少なくてね。また…今度にしてくれないか?」
<古池瑠璃色>
「え~、しょうがないなあ。
でもさ、わかってるよね? 返済期限もうすぐってことはさー。
そこんところしっかりしてくれないと、困るんだけど」
ケラケラと笑いながら、からかうようにヒカルの肩に手を置き、ぽんぽんと弾ませている。
<古池瑠璃色>
「このままだと、こわ~い地下行きだよ? いいのぉ~?
ま、それが嫌ならウチの奴隷になって一生ご奉仕するって手もあるけど?」
からかうようにニヤつく瑠璃色に対して、ヒカルの眼差しは真剣だ。
<四谷ヒカル>
「…ボクには心に決めた人がいるんだ。その子と共に、この一生を生きたい」
――まるで、それは誰かへのプロポーズのようだった。
<古池瑠璃色>
「………………」
ヒカルが瑠璃色の提案を断った途端、彼女の顔が奇妙に歪み始めた。
泣いているような、怒っているような、笑っているような――
とにかく、曜の目にはどこか違和感のあるものに映った。
一同は少し離れたところでふたりの会話を聞いていたのだが、次第に状況が掴めてきた。
<秋葉市之助>
「ふむ、話を察するに…
ヒカル殿はナンバーズ相手に多額の借金をしているのでござるな?」
<十条ミウ>
「ええ、そうよ。
これがみんなに手伝ってもらいたかったことなの」
<落愛夜宵>
「ヒカルは、重度のお節介…」
<落愛日和>
「困っている人を見かけると、放っておけない性分なの。だから、たくさんの人にパチ玉を貸していたのよ…。
でも、気づいた頃には手元のパチ玉がなくなっていて、仕方なく瑠璃色に借りたの。
そしたら利子がどんどん膨らんで、にっちもさっちもいかなくなってしまって…」
<黒中曜>
「利子…? なんだよそれ…」
<滝野川ジオウ>
「パチ玉の貸し出しはできるって言ったよね?
その際に貸す方は好きに期限や利子を設定できるんだ」
<十条ミウ>
「例えば…期限は明日まで、利子は10倍なんて無茶も可能よ」
<西郷ロク>
「…ふむ。その利子も含めて期日内に返済しないと、地下に連れて行かれるのか…?」
<滝野川ジオウ>
「ご名答、そのまま地下に連行されるよ。
つまり、取り立ての強制力を、シンジュクシティでは統治ルールが担っているんだ」
参加必須のギャンブルと、強制的な取り立て。
このふたつが合わさることで、何が起こるのかは明白だった。
<黒中曜>
「負けて持ち玉が0になった人は誰かに借り…そのことで諍いは拡大していく…。
命が懸かっているなら…借りたほうが貸した側の言いなりになるしかないじゃないか…!」
曜の心臓の鼓動が速まっていき、思わず声が大きくなってしまった。
瑠璃色の耳にも入ったようで、彼女はぐるりと体を回転させると、曜のほうに向き直った。
<古池瑠璃色>
「曜くんの言う通り!!
そんなこんなでヒカルちんは、ウチに従うしかないって訳!!」
<黒中曜>
「それでも…お前よりパチ玉を稼ぐことができれば解放されるんだろ?」
<古池瑠璃色>
「ま~、理屈としちゃそうだけどー。
そーんなの絶対無理無理! ウチの豪運に勝てる人間なんて、この世にいないって!
ね、ミウちゃんもそう思うっしょ!?」
矛先を向けられたミウはハッと息を呑み、視線を落とした。
その眼力の鋭さを目の当たりにした曜も認識を改める。
<黒中曜>
「…瑠璃色は、どれくらい強運の持ち主なんだ?」
<落愛日和>
「もともとシンジュクシティには、"大久保正雄"という生粋のギャンブラーがいたの。
神に愛されたと言われるほどの豪運の持ち主で、不敗神話すら持っていたわ」
<三田三太郎>
「大久保って、シンジュクトライブのリーダーじゃねぇか。
アイツの不敗神話は、俺だって聞いたことあるぜ。
確か、ギャンブルで勝ちまくって、その金でシンジュクいち大きなキャバクラとかのグループを作ったんだろ?」
<落愛夜宵>
「そう…その名前は、スリープレス」
<落愛日和>
「…だけど、大久保の城はチャンピオンの座とともに瑠璃色に奪われた」
<彩葉ツキ>
「ええ!? なんで!?」
<落愛日和>
「大久保は、最後まで諦めずに戦ってたけど、とうとう誰かに借りるしかなくなってしまってスリープレスを担保に瑠璃色から借りたの。
だけど、返すことができなくてそのまま亡くなったわ。
その後も瑠璃色は一切の負けを知らず、今ではパチ玉の50%を保有していると言われているわ」
"運"という未知数の力で、負け無し。
その話を聞いただけで、曜達はこれまで戦ってきた相手とは異なる恐ろしさを感じた。