13話「流行を探れ」
<ガサツな新聞記者>
「おっ、来たな。しかも夜宵ちゃんに…もひとりカワイ子ちゃんまでいるじゃねえか!」
新聞記者の中年男性は、日和達を見るなり猫撫で声でそう言った。
曜のことはまるで目に入っていないかのような振る舞いだ。
<彩葉ツキ>
「か、かわいいだなんてそんなそんな…! えへへ…」
あまり真正面から褒められることに慣れていないツキは、顔を赤くして喜んでいる。
<黒中曜>
「あの…ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
<ガサツな新聞記者>
「あ? ヤローに用はねえよ。どっか行け馬鹿」
凄まじいまでの塩対応に曜は思わず面食らった。
ここはおとなしく女性陣に任せるべきだろう。目をやると、夜宵が大きく頷いた。
<落愛夜宵>
「曜くんは…私達の仲間…
そんな態度を取るなら…こっちにも考えがある」
そのまま、どこかからアイスピックを取り出し、新聞記者の首筋に突き立てようとする。
突然のことに驚いた相手は思わず後ずさった。
<ガサツな新聞記者>
「うおっ!? タンマタンマ! 夜宵ちゃん、店の外でもこんなかんじなのかよ…」
新聞記者はぶつぶつと呟きながらも曜に対して謝罪の言葉を口にし、そのまま胸元から煙草を取り出し、火を付ける。
タールの匂いが辺りを満たし、紫煙がゆっくりと宙に舞う。しばらくした頃、面倒くさそうにまた男は口を開いた。
<ガサツな新聞記者>
「で、俺のとこに来たってことはなんか知りたいことがあんだろ?」
<落愛日和>
「ええ、瑠璃色についての情報がほしいの。なんでもいいから知ってることがあるなら教えて」
<ガサツな新聞記者>
「ふうん、まあ、詳しい事情はいちいち聞かねえよ。だが、タダって訳にもいかねえ」
<黒中曜>
「…パチ玉、あまりないんだけどな」
なんといっても、今は皆で協力してパチ玉を集めている途中でもある。
出費はできるだけ減らしたいところでもあるし、なんとか安く収めたいところだった。
<ガサツな新聞記者>
「別にそんなもんいらねえよ。ほしいのは情報だ。
今、ニュースサイトに載せる用のネタとして、若いやつらの間で、シンジュクシティで流行ってるもんについての情報がほしいんだ。
ちょっと調べてきてくれねえか?」
<落愛日和>
「それくらいならお安い御用だけど…どうして自分でしないのよ」
<ガサツな新聞記者>
「俺みたいなおっさんが若いやつに声かけても警戒されて、なーんも話しちゃもらえねえんだよ…。年は取りたくないもんだ…」
その姿には哀愁が漂っており、曜は新聞記者に対して、思わず同情してしまった。
<黒中曜>
「なんか…色々と大変だな。わかった、任せてくれ」
うなだれたままの新聞記者をその場に残し、曜達はまた繁華街まで戻ってきた。
そうして、目についた若者達に話を聞いていく。
<オシャレなガール>
「最近流行ってるもの? それなら、完全にルリルリ系ね」
<黒中曜>
「…ルリルリ?」
<彩葉ツキ>
「モデルさんの名前かな?」
<オシャレなガール>
「えー、あなたたち、ルリルリを知らないの?
私が今着てるのだって、ルリルリを真似したものなんだけど」
そう言われて、改めて女性の服装をまじまじと見てみる。
彼女が着ているのは、白いアウターに光沢のあるショートパンツ。
それに、10cmほどのヒールがついたブーツだ。
見ているうちに、曜達の頭にひとりの人物が思い浮かぶ。
<黒中曜>
「そうか、ルリルリって瑠璃色のことか」
<オシャレなガール>
「そそそ。ま、彼女ってシンジュクシティのファッションリーダーだからね。
流行を敏感に嗅ぎ分けて、いっつも一足先に最新のトレンドを着こなしてるの!」
<落愛日和>
「確かに瑠璃色は、頻繁に服の系統を変えるわね」
<落愛夜宵>
「一個前は、もっとスケスケしてた…その前は、もこもこ…」
<オシャレなガール>
「ほんと、ルリルリってセンスあるよねー!
あたしもいつかあんな風になりたいわ…! じゃ、これからバイトだから」
女性が去ってすぐ、ツキが小学生くらいの少年に話しかけた。
スマホゲームに夢中なようで、ずっと画面を凝視している。
<彩葉ツキ>
「ねえねえ、ボク、ちょっとお話聞かせてよ!」
<ゲーム少年>
「えー、ママに知らない人と喋っちゃだめって――」
ダルそうに顔を上げた少年だったが、ツキの姿を見て驚きの声を上げる。
<ゲーム少年>
「うわっ! もしかしてその格好…"ぱわふるマインドギャル"のコスプレ!?」
<黒中曜>
「…なんだそれ?」
<落愛夜宵>
「スマホゲーのキャラ…私もやってるやつ。かなりレア度が高い…」
夜宵がスマホを取り出し、見せてくれた画面の中では、ツキとよく似た格好の女性キャラクターがセクシーなポーズを取っていた。
<彩葉ツキ>
「わわっ…! 確かに似てるかもだけど、コスプレとかじゃないからね!? たまたま!」
<ゲーム少年>
「なんだ、知らないのかよ。今、子供から大人までネオトーキョー中で大流行なんだけどな。
課金要素はスキンとかの見た目だけだから、マジ楽しいぜー!」
<黒中曜>
「それって、シンジュクシティでも流行ってるのか?」
<ゲーム少年>
「当たり前だろ!
それどころか、ランキング1位はシンジュクの人間って噂なんだぜ!? ほら、こいつ!」
そう言って少年が見せつけてきたランキング表のトップには"ふるふるルリー"という名前が輝かんばかりに表示されていた。
<落愛夜宵>
「あ、これ…瑠璃色だ。前に無理やりフレンド登録させられたときに…見た」
<ゲーム少年>
「えー!? そうなの!? こっちでもチャンピオンなんてすげえな!
このゲームってテクニックとかももちろんだけど、知識も大事だからさ。
200体それぞれの特性とか、カウンターキャラとか覚えねぇといけないんだけど…1位ってことは、全部覚えてるんだろ!?
どんだけやり込んでんだって話だよな~。多分、1日中ずっとゲームしてないとああはなれないと思うぜ!」
そのまま少年は、いかに瑠璃色がゲーム巧者かということを熱っぽく語っていく。
こんな少年までも虜にしている彼女の魅力に、曜は空恐ろしいものを感じる。
少年は語るだけ語ると、これからeスポーツ専門の塾があるということで、人波の中へと消えて行った。
そして、少ししてから曜が声を掛けた相手もまた、興味深い話を聞かせてくれた。
<元気なホスト>
「流行ってるものかあ…あ、そういや、とっておきのがあったけど…いや、でもこれはちょっと言えないな~」
ニヤニヤと得意げな顔をするホストだったが、夜宵がそっと後ろから近づき――
<落愛夜宵>
「その態度なに…? ムカつくんだけど…」
どこから取り出したのかもわからないアイスピックを、ホストの首元へと突きつけた。
<元気なホスト>
「げ!? 夜宵様!?
言います、なんでも言いますから、だからチクチクだけはおやめ下さい…!
俺、前回の傷も治ってないんですよ…!?」
<落愛夜宵>
「やだ…この前の倍、刺す…」
<元気なホスト>
「本当にやめてください…!!!
俺は、あなたのドMの客達と違って、至ってノーマルなんですからね…!?」
途端に冷や汗を垂らしながら、夜宵に対して懇願している。
<彩葉ツキ>
「あのー…日和さん。さすがにアレはやりすぎじゃないかなー…」
<黒中曜>
「う、うん…今すぐ止めたほうが…」
夜宵の行き過ぎた行動に戸惑う曜とツキは、日和に夜宵を止めるように助けを求めるが――
<落愛日和>
「ふふ、夜宵ったら、いつの間にかうまくやるようになったのね…」
日和は、妹の成長を祝うようにうっとりとした笑顔で見ていた。
曜達は、これもXGに勝利するためには仕方のないことだと考え、夜宵の行動を止めないことにした。
やがて夜宵の圧に耐えきれず観念したホストは、土下座してすべてを洗いざらい吐くことを約束し、ようやく夜宵のアイスピックから逃れることができた。
<元気なホスト>
「はあ…はあ…それで聞きたいってことなんだ…?」
<黒中曜>
「ええと、それで…裏で流行ってることって?」
<元気なホスト>
「簡単に言うと、他のシティの情報とか物がどんどん出回るようになってんだ。
ほら、統治ルールが始まってからは、これまでそんなの全然入ってこなかっただろ?」
<彩葉ツキ>
「ゼロがいろんなものを邪魔してるし、そのせいだよね?」
<元気なホスト>
「そうそう。けど、最近規制が甘くなったのか入ってくるようになってさ。
耳が早い連中は飛びついてんのさ。ま、今のところシナガワ、ミナト、ネオチヨダの情報くらいだけどな」
<落愛日和>
「あら? それって曜くん達が解放してきたシティね」
<黒中曜>
「確かにそうだな…XGに勝った影響がそんなところにも出てるとはな」
これまで曜たちは、XGに勝っては次のシティへと、立て続けにナンバーズと必死に戦っていた。
自分たちがシティを去った後に、そんな変化が起こっていたとは。
<元気なホスト>
「ま、もとを辿ればこれも瑠璃色のやつが他シティの情報をかき集めてるからっていう話だけどな…それじゃ…」
ホストはビシッと姿勢を正し、夜宵の方を向き、そして深く一礼をした。
<元気なホスト>
「夜宵様、私はこれで失礼いたします…。どうか、チクチクだけはご勘弁を…」
<落愛夜宵>
「…うん、今日はしないであげる」
<彩葉ツキ>
「可哀想…トラウマになってるじゃん…」
その後、ある程度の情報は集まったということで、旧都庁前に戻り、新聞記者に話をすることにした。
<新聞記者>
「…なーるほどねえ、今そんなもんが流行ってんのか。けど、流行の影に瑠璃色ありってかんじもしやがるな」
<黒中曜>
「俺達もこれまで色々とあいつのことを調べてきたけど、どうもすべてに通じすぎてる気はしてる」
<新聞記者>
「ふむ…まあでも、このシンジュクを支配するならそうならないといけねえのかもな」
記者はどうでも良さげに返答した。
既に彼の頭の中は、流行りものについてどう記事に落とし込むかということでいっぱいなのだろう。
<落愛日和>
「さて、次はこっちが情報をもらう番よ」
<新聞記者>
「わかってるよ。最近の瑠璃色の話だと…一週間前、だったかな? 世にも怖ろしいことを成功させたって話だぜ」
声を潜め、険しい顔をしながら、秘密を打ち明けるようにそう言った。
<新聞記者>
「狙われたのは、どこぞの成金。
瑠璃色は、ずっとこのオッサンのことが気に食わなかったみたいでな…
このネオトーキョーじゃなかなか手に入らない銃を用意して、オッサンを食事に招待したんだ」
<落愛夜宵>
「銃ってことは…」
<新聞記者>
「そうだ…瑠璃色は、意図的にHeaven or Hellで"ロシアンルーレットでどちらかが勝つか"っていうジャッジが来るように仕向けたんだ。
まっ、瑠璃色が生きているから、結果はわかってるよな。やつの命知らずには、驚かされたぜ」
――ロシアンルーレット。
それは、一発だけ弾丸を装填した銃で、弾丸が発射されるまで引き金を引き続ける"デスゲーム"のことだ。
<黒中曜>
「意味がわからない…
なんでアイツは、自ら危険をおかしに行くんだ…?」
曜の疑問は、当然のものだった。
シンジュクシティにおけるパチ玉は、ゲームで言えばヒットポイントに等しい。
それを最も多く保有するチャンピオン――瑠璃色は、この街で最も"死"から遠い存在のはずだ。
それにもかかわらず、なぜか彼女は、自ら進んで死と隣り合わせのロシアンルーレットに参加するのか。
曜には、さっぱりわからなかった。
<新聞記者>
「自分の運に絶対的な自信があるんだろうなあ。
だけど、驚くのはここからだよ。
瑠璃色は、なんとこのロシアンルーレットを何度も起こしてんだよ」
<彩葉ツキ>
「ええ、嘘でしょ!?」
<落愛夜宵>
「うん…普通はやらない…」
命がいくらあっても足りない、瑠璃色の無謀な賭けに、曜たちは言葉を失った。
<新聞記者>
「ま、俺の話はこんなとこだ。じゃ、また何かあったら協力してくれや」
そう言って記者は去って行った。
曜達は思いがけず手に入れた瑠璃色が流行の中心にいるという話と、命知らずなロシアンルーレットの話を皆に共有するべく連絡を取った。
ヒカル達の犬猫探しも終わる目途が立ったということだったので、事務所で合流することにし、曜達はいったん戻る判断を下したのであった。