17話「もうひとりの瑠璃色」
しばらくするとヒカルから状況確認のNINEが届いた。
曜が端的に説明したところ、息せき切って他のメンバーが洞窟までやってきた。
<秋葉市之助>
「いったい、何がどうなっておるのだ…?」
<西郷ロク>
「全く状況がわからん…」
<黒中曜>
「ごめん…俺達、見てることしかできなくて…」
<四谷ヒカル>
「ああ…いや別に責めてるわけじゃないんだ。
けど…ひとつ確認させてほしい。ジオウくんが殺したのは、確かに瑠璃色だったんだね?」
そう質問された曜は、ちらりとふたりの死体が隠されているシーツを見た。
<黒中曜>
「ああ、間違いない…どうしてそんなことを?」
質問を返されたヒカルは、ミウに懸命に話しかけていた日和と夜宵の方を見てから、困ったような顔を見せた。
<四谷ヒカル>
「それがね…ここに来る途中で、見たんだ」
<彩葉ツキ>
「へ? 誰を?」
<四谷ヒカル>
「…瑠璃色を――さ」
<黒中曜>
「は…? な、何かの間違いじゃないのか!?」
それは絶対にあり得ないことだった。
曜がヒカル達に連絡したのは、瑠璃色がジオウに殺されてからのことだ。
もし死から蘇ったとしても、曜達に見つかることなく洞窟をこっそり抜け出し、ヒカル達と遭遇することなど不可能だ。
<四谷ヒカル>
「いや、あれは確実に瑠璃色だった。日和、夜宵、そうだろ?」
<落愛日和>
「ええ、間違いなく瑠璃色だったわ…」
<落愛夜宵>
「でも、私達が声をかけようとしたら…すぐにどっかに行った…」
<彩葉ツキ>
「それって見間違いとかじゃない…?
ほら、瑠璃色に憧れて、同じ格好する女の子もいるし…」
<秋葉市之助>
「いいや…あれは、確かに瑠璃色であったでござる…」
<秋葉ひなぎく>
「ひな達もヒカルくん達が見かけたときと同じタイミングで物陰から瑠璃色を見たお!
ほら、これが証拠にゃ!」
そう言って、ひなぎくはスマホを取り出し、一枚の写真を見せつけた。
そこには、ヒカル達が声をかけようとした直後、逃げ出そうとする瑠璃色の姿が真正面から映っている。
<三田三太郎>
「本当に瑠璃色じゃねぇか…!」
<彩葉ツキ>
「けど、ここで死んでるのも瑠璃色だし、ヒカルさん達が会ったのも瑠璃色だったら…
すっごくそっくりな人がふたりいるってことなのかなあ…?」
<黒中曜>
「ああ、そうとしか考えられないな。きっと秘密っていうのもそれだと思う、け、ど…」
ツキが何気なく放った一言により、曜はこれまで瑠璃色に抱いていた違和感の正体が見えてきた気がした。
思えば、情報を集めている段階から、その可能性は見えていた。
けれども、「同じ人間は存在しない」という至極当然の前提に囚われていたせいで、曜達はそのトリックに気付かなかった。
瑠璃色はどこにでも現れ、あらゆる場所で勝負をする。
多趣味な上に、流行にも敏感、それなのに時間がかかるゲームをやり込み、あまつさえ様々な店でオーナーを務めるほど仕事もしている。
曜だって思っていた"ひとりでは不可能なことをしている"と。
だが、なんてことはなかった。
謎を解いてみれば、それはあまりにも単純なことだった。
<黒中曜>
「そうか、わかったぞ、瑠璃色の秘密が…!」
<彩葉ツキ>
「へ? だから、ふたりいたってことだよね?」
<黒中曜>
「いや、実際にはふたりだけじゃないだろう。おそらく、もっとたくさんいる…!」
<三田三太郎>
「はあ!? なんだよ、そのめちゃくちゃな結論は!
うちの四つ子でもあるめぇし、んな似た人間がたくさんいるわけないだろ!」
<黒中曜>
「なぜ、まったく同じ見た目のやつが複数いるのか――そのトリックまではわからない。
だけど、瑠璃色は"複数存在する"。そう考えれば、今までの話にもすべてつじつまが合うんだ」
<四谷ヒカル>
「うん…ボクも薄々感じていたけど、それしかないね…
"ひとり"の人間として、古池瑠璃色は完璧過ぎる」
<西郷ロク>
「ああ…複数人いると考えたほうが、すべて納得できる…」
――古池瑠璃色は、複数人いる。
それが、曜達が導き出した答えだった。
そうであれば、ロシアンルーレットに何度も挑んだことも説明できる。
"死んだとしても、代わりはいくらでもいる"からだ。
曜は急いでスマホを取り出し、ゼロへとNINEを送る。
<NINE(黒中曜)>
「瑠璃色の秘密がわかったぞ」
<NINE(ゼロ)>
「おっ、やるじゃ~ん。
それじゃ、聞いてあげるからみんなで不舞喜町の入口まで来てね。ぼくも忙しいから、さっさとしてね!」
皆にそのことを伝え、移動を開始しようとしたのだが、ミウだけはその場を動こうとはしなかった。
<十条ミウ>
「ジオウを…このままにしておくの…?」
<三田三太郎>
「わかるぜ…その気持ち…
このまま置いておくのは可哀想だよな」
<雪谷えのき>
「だったら、あとであたしと西郷でどでかーい穴作ってあげるよ!」
<西郷ロク>
「ああ…滝野川には世話になった。オレ達の手で弔わせてくれ」
<十条ミウ>
「ありがとう…ジオウもきっと喜ぶわ…」
みんなの言葉で少しは元気を取り戻したミウは歩き出した。
その歩調はあまりにも頼りなく、誰かの支えがなければ今にも倒れてしまいそうだった。
<落愛夜宵>
「私達に…掴まって…」
日和と夜宵が両側からミウに肩を貸し、ゆっくりと歩き出す。
それは姉妹のようにも、戦場で負傷した仲間を助ける兵士のようにも見えた。
そして、一同は夜の街を抜け、ゼロから指定された不舞喜町入口までやってきた。