18話「暴かれた秘密」
<ゼロ>
「やほ~、曜くん! がんばってくれたみたいで嬉しいよ」
既にその場にはぬいぐるみ姿のゼロと、不機嫌そうな顔で腕を組んだ瑠璃色がいた。
ついさっき、ジオウに殺された瑠璃色と何から何まで同じに見える。
曜達は思わず彼女の顔をまじまじと凝視してしまった。
<古池瑠璃色>
「ちょ、見すぎ見すぎ! てかウチの秘密、わかったんだって? 合ってるかな~?」
いつものようにニヤニヤと笑っている。だが、曜は自らが導き出した答えに絶対の自信があった。
息を深く吸い込み、そして、勢いよく正解を叩きつける。
<黒中曜>
「瑠璃色…お前の秘密は、同じ見た目の人間がたくさんいることだ…!」
瞬間、瑠璃色はたじろぎ、両手の拳を胸にぎゅっと押し当てる。
そのまま、わなわなと震え、視線は宙を彷徨っていた。
当たりだ…! 曜は確信した。これで、今回のXGは終了だ。
<古池瑠璃色>
「そ、それは、それは、それは、それはああああああああああ!」
瑠璃色の体がぐらつき、その場に倒れそうになった。
しかし、その刹那、ガバッと顔を上げ、曜のことを真っすぐと見据える。
そして、まるで悪鬼のように、おぞましく笑っていた。
<古池瑠璃色>
「だーいせいかーい!! やっるじゃーん! お姉さん、感動もんだわ!」
<黒中曜>
「…は?」
腹を抱えてケラケラと笑っている瑠璃色だったが、曜には彼女の行動がまるで理解できなかった。
勝負に負けたというのにまったく悲壮感がない。これから、自分がどうなるかは、理解できているはずなのに。
<ゼロ>
「おめでとー、ぱちぱちー。んじゃ、敗者には退場してもらおー」
ゼロが明らかに棒読み気味にそう言った直後、風のようにMr.Dが現れた。
<Mr.D>
「ゲーム終了! 黒中曜は24時間以内に、古池瑠璃色に隠された秘密を暴くことに成功しました!
オールインベットのため、正解者の持ち玉が倍になります!」
Mr.Dもそう宣言した。紛うことなき曜の勝利だ。その、はずだ。
けれども、曜はまるで心臓を虫が這い回っているかのような不快感を覚える。
<彩葉ツキ>
「私達…勝ったんだよ、ね?」
本来ならば諸手を挙げて喜ぶべき場面だ。だが、誰もそれができなかった。
負けたはずの瑠璃色になんら悲壮感がなく、未だに顔からニヤニヤ笑いが消えていないためだ。
<Mr.D>
「不正解者、古池瑠璃色の持ち玉はオールインベットのためすべて没収となります。
そして、これにより持ち玉0になりましたので、ペナルティが実行されます」
Mr.Dは乱暴に瑠璃色の襟首を掴み、そのまま引きずるようにしてどこかに連れて行こうとする。
<四谷ヒカル>
「ちょ、待っ――」
瑠璃色の方に手を伸ばしたヒカルだったが、その手は空を切る。
<Mr.D>
「それでは、次のギャンブルでお会いしましょう!」
そうしてMr.Dは瑠璃色を連れ去って行った。
とにかく、こうして対戦相手はいなくなった。曜は混乱を抱えながらも、ゼロに声をかける。
<黒中曜>
「…最後まで謎が多いやつだったな、けど、とにかく俺達の勝ちだ。
ゼロ、統治ルールを廃止してくれ」
だが、地面をゴロゴロと転がっていたゼロは、意外なことを聞いたと言わんばかりに、間の抜けた声を出した。
<ゼロ>
「ほあ? なんで?」
<彩葉ツキ>
「なんでって…曜はナンバーズを倒したんだよ!? 約束が違うじゃん!」
<ゼロ>
「あー、なるほど。きみ達はこれで終わりって思ってるんだね。ダメだよ、誤解しちゃ~」
皆がゼロに詰め寄ろうとしたそのとき、後ろから誰かが近づいてくる気配があった。
曜が嫌な予感を覚え、振り返ると、そこには――
<古池瑠璃色>
「あははっ、そんな簡単にいくわけないじゃん? 世の中舐めちゃダメだよー」
またしても瑠璃色が立っていた。
見た目はこれまで関わってきた彼女とまったく同じで、曜はあまりの非現実的な光景に眩暈がした。
<古池瑠璃色>
「まー、アナタ達は確かに秘密は暴いたよ?
そしてあの瑠璃色は負けた。けど、それはXGとは関係ナッシング!
だって、まだまだ古池瑠璃色はここにいるからね!」
<ゼロ>
「そーゆうことだね。
ぼくにも瑠璃色ちゃんが何人いるかはわからないけど、まあ、全員倒せば勝ちになるかも?」
<古池瑠璃色>
「あはは! そうかも!
瑠璃色は常に増え続ける…アナタ達が別のウチと戦ってる間にも増えて…結局堂々巡り!」
<黒中曜>
「ふざけるな! そんなことが認められるか!」
瑠璃色の言い分に従ってしまうと、曜は永久に勝てないことになってしまう。
こんなところで、足踏みをするわけにはいかない。逸る気持ちをそのままぶつけるものの、瑠璃色はどこ吹く風だ。
<古池瑠璃色>
「まー、何をしても無駄ってかんじ?
ウチは…古池瑠璃色って存在は、永久にここで生き続けるんだからさ!」
<四谷ヒカル>
「ボクには、わからない…
どうして、キミはそこまでしてナンバーズとして、この街に君臨したいんだ…」
途端、先ほどまで大きな口を開けて笑っていた瑠璃色の顔が真剣みを帯びたものになった。
<古池瑠璃色>
「お、いい質問。じゃあ、特別に教えてあげるね」
普段の明るめな口調とは一転し、続く言葉は憎々しげな負の感情に満ちているようだった。
<古池瑠璃色>
「ウチは…この街が大嫌いだった。弱いものはただ奪われて、強いものだけが生き残るこの街が、さ。
昔のウチも、何度も騙され、奪われ、利用され――そのたびにどん底に突き落とされた。
そんなどん底のウチが這い上がるためには…搾取する側に回るしかなかったんだよね」
話していくうちに、やがて声色に悲しげなものが混ざり始める。
だが、相変わらず瑠璃色の顔は笑っていた。
けれども、曜にはその顔は何故か、泣いているようにも見えた。
<古池瑠璃色>
「そして統治ルールが始まり…必死で人を騙し、欺いて、パチンコ玉を増やした。
するとさ、ウチには搾取する側の才能があったみたいでね…あっという間にチャンピオンになれた!
で…ゼロからナンバーズになったごほうびでウチは更に強くなったんだけど…曜くん、なんだと思う?」
<黒中曜>
「複数人に分かれることができた…とかか?」
<古池瑠璃色>
「ぶー、不正解ー。
ウチと同じようにこれまで搾取されてきた子達を、ウチと全く同じ姿に変えてもらったの。
いやー、ゼロってすごいよねー。こんなめちゃくちゃなことまで叶えてくれるなんてさ!」
<落愛日和>
「そうやって…他人に瑠璃色を演じさせていたのね」
日和のその言葉に、瑠璃色はムッとした顔を見せる。
<古池瑠璃色>
「別に強制したわけじゃないよ?
みーんな、瑠璃色になりたい! って熱い気持ちを持った子達ばっかだしさ。
ウチは助けてあげられて嬉しい、あの子達は助けられて嬉しい。ほら、ウィンウィンでしょ?」
瑠璃色は誇らしげに胸を張る。
そのとき、これまでただ黙ってやり取りを眺めているだけだったミウが言葉を発した。
<十条ミウ>
「あなたはそれで…苦しむ人達を救ったとでも…言うの?」
<古池瑠璃色>
「あったりまえでしょ! だって、この方法ならウチらは永遠に勝者でいられるんだから!!」
両手を大きく広げ、勝ち誇ったように笑いだす。
その堂々とした姿は、まさにシンジュクシティの女帝と呼ぶに相応しいものだった。
<古池瑠璃色>
「まー、色々と語っちゃったけど…ウチは全然負けてないってわかってもらえたよね。
てか曜くん、すぐに返済期限来ちゃうけど大丈夫そ?
名探偵ごっこなんてしてないで、せこせこと玉稼ぎでもしてきたら?」
曜は確かに勝ったはずだった。
だがそれでも、統治ルールがまだ瑠璃色のことをチャンピオンと認めている時点で、何か別の手を考える必要がある。
――いったい、どうすればいいというのだろうか?
たとえ、今ここにいる瑠璃色にHeaven or Hellで勝てたとしても、ただ、持ち玉が増えるだけだ。
繰り返していけば借金返済は早く終えられるかもしれないが、曜の目的はそれではない。