19話「本物の瑠璃色」
<黒中曜>
「くそっ、何か、何か手は…!」
そのとき、瑠璃色のことを上から下まで、仔細に点検するかのように目を向けていたヒカルがポツリと呟いた。
<四谷ヒカル>
「瑠璃色…今ここにいるキミは、本当にボクが知っている女の子なのかい…?」
<古池瑠璃色>
「さあ? どうだろねー。まあでも、そう思ってくれていいと思うよ。
ウチらはみんな、リアルタイムで自分の身に起きたことは共有してるし、みんなが自分ごとみたいに思ってるからね!」
だが、その答えを聞いてもヒカルは納得していないようだった。
<四谷ヒカル>
「…瑠璃色がチャンピオンになる前から、ボクは何度も瑠璃色と会った。
ボクが聞きたいのは、その瑠璃色だよ」
<古池瑠璃色>
「はあ? そんなんどうでもいいじゃん。
ウチらはみんなでひとつ! ぜーんぶ"本物で偽物"の瑠璃色なんだから!」
<黒中曜>
「…本物」
その言葉を聞いた瞬間、曜の頭の中に電流が走った。
曜は思いついた。瑠璃色が何人いようが、はっきりと彼女を負かすことができる方法を。
<黒中曜>
「お前は、嘘をついてる。
全員が本物で偽物…そんなことは、ありえない」
<古池瑠璃色>
「それがありえてるんだって。
ウチらは、全員"本物で偽物"! 何回も同じこと、言わせないでよね」
<黒中曜>
「さっき自分で言ったことを忘れたのか?
チャンピオンになったごほうびで"他者を自分と同じ姿にした"って!
つまり、そのもとになったやつがオリジナルで、本物の古池瑠璃色だ!」
<古池瑠璃色>
「――ッ!」
ビシッと人差し指を突き付け、勢いよくそう言う。
瑠璃色は図星を突かれ、「しまった」と言わんばかりに口元を押さえた。
顔が、みるみる青ざめていく。
<三田三太郎>
「おいおい、てことはよ…!
その本物を特定すれば、俺達の勝ちってことになるのか!」
<黒中曜>
「ああ、本物こそ俺達の対戦相手のナンバーズだ。
そいつさえ特定できれば、負けていないなんて言い訳はできなくなる!」
<四谷ヒカル>
「なるほどね。
だったらまずは、大勢いる瑠璃色の中から、些細な違いのある瑠璃色を炙り出していこう。
偽の瑠璃色からすると、"オリジナル"の瑠璃色は自分達を救ってくれた恩人だ。
きっと、彼女を参考に瑠璃色を演じているはずだ」
<古池瑠璃色>
「は、はん! さっきはウチが調子乗って口を滑らせちゃったけど、あんなん普通はないからね!?」
瑠璃色は往生際悪く反論を続けるが、もはや、旗色が悪くなっているのは誰の目にも明らかだった。
追い打ちをかけるようにゼロも楽しそうに口を挟む。
<ゼロ>
「面白くなってきたじゃん! こういうときこそ…あいつの出番だね! カモン!」
その声に呼応して、遠くから靴音が響いたかと思うと、スライディングで滑り込んでくるひとつの影。
<Mr.D>
「Heaven or Hell!
黒中曜は"本当"の古池瑠璃色を見つけ出すことができるか、できないのか!?
ベット玉数は決着時のオールインで勝者の総取りとします! それではベット開始!」
<古池瑠璃色>
「はあ!? な、なによその二択! そんなの無し! 本物とかいないし!」
<ゼロ>
「往生際が悪いな~。勝負から逃げるなんて許されないよ!
それに…きみはここでは無敗のチャンピオンなんでしょ? だったら、正々堂々と受けなよ」
心の底から愉快そうに言ったかと思いきや、次の瞬間にはすべてを凍らせるかのような声を出した。
<ゼロ>
「あんまりがっかりさせないでほしいかな。ま、こうなったら拒否権なんて…ないんだしさ」
<古池瑠璃色>
「ッ…ふざけんなよ大福ヤロー!
いいわ、やってやる…やってやろうじゃない! 当然、できないにオールインよ!」
瑠璃色を勝負の土俵に引きずり出せたことで、曜は軽くガッツポーズを取った。
そして、そのまま流れるように宣言する。
<黒中曜>
「できる、にオールインだ!」
<Mr.D>
「ベット終了! それでは、決着のときにお会いしましょう!」
そう言っていつものようにMr.Dは走り去っていった。
曜達は遂に反撃を開始できることに色めき立っていたが、ふと、重大なことに気づく。
<秋葉ひなぎく>
「…で、どうやって本物を特定するにゃ?」
<黒中曜>
「あ…」
そう、肝心の特定方法をまだ考えついていなかったのだ。
本物がいることは間違いないが、こうなってくると瑠璃色達はあの手この手で追及を逃れようとするに違いない。
何しろここは彼女達の庭だ、圧倒的に分が悪い。
<彩葉ツキ>
「ねえねえ、だったら…ここは思い切ってアレしかないんじゃない?」
ツキのその言葉に、曜は目が覚める思いがした。
確かに、考えてみればどのシティでもナンバーズとの決着に必ず用いてきたものがあった。
自らが一番得意で、何よりも一番好きなもので決着をつけてやる。
そう、曜は心に決め、足を一歩踏み出し、瑠璃色と真っ向から対峙した。
<黒中曜>
「瑠璃色…俺達とXBで勝負しろ!」
<古池瑠璃色>
「はあ? なんでウチがあんなダサくてオワコンなもんしないといけないわけ?」
<黒中曜>
「知らないのか? XBは勝者が敗者に命令することができる。
お前が勝てば、俺達を一生好きなように使うこともできる。悪い話じゃないだろ?」
負ければすべてを失う、究極の勝負。
だが、皆は曜がそう言うなら、どこまでも付いて行くという覚悟を持っていた。
瑠璃色はその場でトントンと片足の踵を地面に打ち付けながら、XB勝負を受けるべきかどうかを考えているようだった。
<四谷ヒカル>
「瑠璃色…借金のカタに自由を奪われたのだとしたら、ボクはいつまでもキミに心を閉ざす。
だけど、XBの結果なら、一生、心から愛し、尽くすことを誓うよ」
ヒカルのその言葉を聞き、遂には瑠璃色も覚悟を決めた顔を見せた。
<古池瑠璃色>
「ふう~ん…それなら、いいかもね。わかった、やってやるわ。
XBだろうとなんだろうと、ウチがこのシンジュクで負ける訳ないからね」
話がまとまったことで、ゼロはその場でぴょこぴょこと飛び跳ね、喜びを表現していた。
<ゼロ>
「おお~、これは見逃せない戦いになりそう! ぼく、ポップコーン買ってくるね! 準備ができたら連絡してね~」
そのままゼロはどこかに消えていき、瑠璃色も背を見せる。
<古池瑠璃色>
「大丈夫…ウチらは、無敵なんだから…」
緊迫感に満ちた瑠璃色とのやり取りが終わり、皆の間に弛緩した空気が流れる。
だが、ミウだけは落ち着かない雰囲気だった。
<落愛夜宵>
「ミウ…まだ辛い…?」
<十条ミウ>
「ううん、だいぶ頭もしっかりしてきたわ。曜が瑠璃色としっかり向き合っているのを見たおかげね」
ミウの顔色はだいぶ戻っていたが、まだどこか青白く、万全とは言えない。
それでも彼女は、懸命にいつも通りであろうとしていた。
<十条ミウ>
「でも、XBの前にひとつだけ…ジオウをちゃんと送ってあげたいの」
<黒中曜>
「ああ、もちろんだ。すぐに洞窟に戻ろう」
そして、皆で洞窟に戻り、小石が掛けたシーツをめくったそのとき、一同は信じられないものを目にした。
<黒中曜>
「え…? ジオウさんが、いない?」
<十条ミウ>
「ど、どうして!? 確かにここにいたのに…!」
<秋葉市之助>
「ふむ…死んだ瑠璃色もござらぬな…」
誰かが死体を盗み出したのではないか、という話も出たが、だとしても、なぜそんなことをするのかがわからない。
とにかく死体を探そう、という話になったとき、全員のスマホから「ピロン」という音がして、メッセージの着信を知らせた。
<NINE(ゼロ)>
「そろそろ待つのにも飽きたから始めるよ~。
20分後に不舞喜町の入口に集合! 遅刻した子達の負けってことで!」
そのメッセージを見た曜が、苛立たしげに舌打ちをした。
<黒中曜>
「こいつ…! 準備ができたら教えてくれとか言ってたくせに…!」
<彩葉ツキ>
「と、とりあえず移動しないとだよね。ジオウさんは気になるけど…」
ツキはおそるおそるミウの顔色を窺ったが、彼女は意外にもあっさりと頷いた。
<十条ミウ>
「さすがに驚いたけど大丈夫よ…こんなことをするのは、ひとりしかいないしね」
<黒中曜>
「そうか…ゼロの仕業か!」
あまりのことに頭から抜け落ちていたが、ゼロには人を蘇らせる力がある。
だとしたら、ジオウの死体を持ち去ったとしてもおかしくはなかった。
ことの真相もゼロに聞くべく、急いで洞窟を出ることにした。
かつてジオウ達の死体があった場所をじっと見つめている小石に対して、曜は声を掛ける。
<黒中曜>
「小石、急ぐぞ…!」
<小日向小石>
「あ、うん。ごめん!」
そのとき、ジオウ達の死体があったところには、灰のようなものが落ちていた。
それは、ミナトシティで彗の体が崩れ去ったとき、後に残されたものとよく似ていた。
だが、小石は気づくことなく背を向け、曜を追って走り出す。
洞窟内に誰もいなくなってしばらくしたとき、不意に強い風が外から流れ込んだことで灰は宙に舞い、そのまま、見えなくなった。