20話「XB~VS瑠璃色~①」
<ゼロ>
「お、やっときたね! ギリギリセーフ!」
曜達が不舞喜町の入口に到着すると、ぬいぐるみ姿のゼロはその短い両手を水平に開き、野球の審判を模した動きをした。
曜達は、一列に並びXBの開始を待つが、敵側にはひとりしか並んでいなかった。
<黒中曜>
「もしかして…ひとりでやるつもりか?」
曜のその質問に対し、瑠璃色は馬鹿にするかのように鼻を鳴らす。
<古池瑠璃色>
「冗談はよせっての! ウチら、全員でやるに決まってんじゃん!」
その言葉を合図に近くのビルの屋上から人がどんどんと降りてくる。
ひとり、またひとりと増えていき、最終的にその場の瑠璃色は7人になった。
<彩葉ツキ>
「うわわっ! こんなにいたの…!?」
<古池瑠璃色>
「へへーん、さすがに人数までは把握してなかったみたいね?
古池瑠璃色の数はナンバーズの数字と同じ7人!
まっ、さっきゼロにお願いして、消えた分、補充してもらったんだけど!」
瑠璃色達は横並びになり、皆、一様に腕を組んでいる。
先ほどから声を発しているのは中央に位置する瑠璃色だが、だからと言って、彼女が本物ということではないのだろう。
<三田三太郎>
「こうして見るとすげえ迫力だな…」
ずらりと同じ顔の人間が並んでいる姿は、それだけでインパクトがあり、不舞喜町の住民達も集まってきた。
このままでは大きな騒ぎになりそうだ。
<ゼロ>
「あー、もう、うざったいなー。さっさとゲームを始め――」
そのとき、集まってきた野次馬の中から、ひと際大きな男――芥が人波をかき分け、姿を現した。
ミウは彼の姿を認めると途端に顔を歪めたが、その隣に立つ、ひとりの男に気づき、思わず息を呑んだ。
<十条ミウ>
「ジオウ!? やっぱり…生き返ったのね!?」
<滝野川ジオウ>
「………………」
そのままジオウはミウの傍まで歩いてきたのだが、その目は不自然なほど、光がなかった。
そんな彼のことを、芥は興味深げに観察しているようだ。
曜もジオウにまた会えたことで、思わず笑みがこぼれそうになった。
<秋葉市之助>
「なんとこのような奇妙奇天烈なことがあるとは…」
<落愛夜宵>
「話には聞いてたけど…本当にありえたんだ…」
<黒中曜>
「ゼロ、お前の仕業なんだな?」
話を振られたゼロはピタリと動きを止め、曜に向き直った。
<ゼロ>
「さあ…なんのことかな? いいから、早くゲームを始めてくれない?」
苛立ちを含ませた声でそう返答した。
これ以上、何を言っても無駄だろうと判断した曜は、皆を引き連れて移動を始めた。
だが、ミウだけは歩き出すことがなかった。
<十条ミウ>
「ゼロ…そもそも、あなたがネオトーキョーに侵攻しなければこんなことにはならなかった。
でも、今だけは礼を言っておくわ。ありがとう…」
お礼を言うミウをよそに、ゼロは生き返ったジオウをしげしげと見つめていた。
<ゼロ>
「まったく…アイツらのせいか…
面倒くさいことをしてくれるな…」
一段声を低くしたゼロは、黒い空間を発生させ、その中に入って行った。
"アイツら"という言葉は気になったが、今は仲間であるジオウが蘇ってくれたことが、曜達にはただただ嬉しかった。
ミウは、傍らに立つジオウに優しく声を掛ける。
<十条ミウ>
「いきなりだけど、これからXBをするの。人数は足りてるから、あなたは休んでいてくれても…」
<滝野川ジオウ>
「いや、俺もやる」
そう言ってジオウはひとり歩き出し、ミウは慌ててその後を追う。
皆で本塁近くに集まったときも、ジオウは以前とどこか違う雰囲気を醸し出していた。
けれども、誰もそれを指摘することができなかった。
かくして、シンジュクシティでの最後の戦いが幕を開ける。
本物の瑠璃色を見つけ出し、今度こそ勝利を確かなものにするため――すべてを賭けたXBが、今、まさに始まろうとしている。
<ゼロ>
「ふう~~~、いよいよだね。それじゃ、血湧き肉躍るプレーを期待してるよ!」
そう言いながら、再び現れたゼロは曜に向けて無造作にXBボールを投げた。
あとはボールのスイッチを押せば、いよいよゲームが始まる。
<黒中曜>
「みんな…準備はいいか?」
問いかけると、皆は力強く頷いた。
プレイするのは、曜、ツキ、市之助、ひなぎく、ミウ、ジオウ、ヒカル、日和、夜宵の9名だ。
他のメンバーは誰かが怪我した場合の交代要員とすることにした。
<古池瑠璃色>
「アナタ達がゴネるから仕方なくやってあげるんだし、先攻はこっちでいいよね?」
投げやりに瑠璃色のひとりがそう言い、曜はそれに頷く。
<黒中曜>
「…ああ、それでいい」
すぐに瑠璃色達は顔を突き合わせ、何事かを相談しだした。
どうやら、ひとりだけ詳しい者がおり、あれこれと説明しているようだ。
<彩葉ツキ>
「うう~、やっぱり同じ見た目の人があんなにいるのって慣れないよ」
<ゼロ>
「それもそうだねー。ぼくですら、気をつけないと誰が誰だかわからなくなっちゃうし…そうだ!」
そう言って、ゼロが魔法のステッキを穴から取り出し、天に掲げる。
すると、それぞれの瑠璃色にアルファベット付きのゼッケンが装着された。
<古池瑠璃色A>
「はっ、なにこれ! ダッサ!」
<古池瑠璃色B>
「地味にテンション下がる~…」
<西郷ロク>
「ほう…たまには、アイツも役に立つことをしてくれるな」
<三田三太郎>
「まっ、それでもどいつがどいつなんてわからねぇけどな…」
<秋葉ひなぎく>
「ところでピッチャーは誰がやるんだお? やっぱり曜くんかにゃ?」
<黒中曜>
「あぁ、そう――」
そこでヒカルがずいっと前に出て、胸に手を当てながら言った。
<四谷ヒカル>
「ここはボクに任せてくれないか?
XB中に本当の瑠璃色を見つけ出す必要があるのなら…長く関わってきた人間の方が役に立つはずさ」
<黒中曜>
「…わかった。それなら、頼らせてくれ」
そして、曜はXBボールのスイッチを押した。
すぐにシンジュクシティ全体が煌びやかな光に包まれ、気が付いたときにはXBフィールドが出現している。
"ウウーーーー!!"という耳をつんざくような大音量のサイレンが流れ、試合の始まりを告げた。
1回表――
先攻、瑠璃色チーム。後攻、トラッシュトライブ。
ピッチャーマウンドにはヒカルが胸を張って立ち、キャッチャーには曜が出た。
バッターボックスには瑠璃色が立つ――と言っても、相手は全員瑠璃色だ。
曜の目には誰もが同じに見え、不安が頭をよぎる。
だが、そんな感情が曜の顔に出ていたのか、安心させるようにヒカルがにっこりと微笑んだ。
<古池瑠璃色A>
「何を嬉しそうにアイコンタクトしちゃってんだか…さ、かっ飛ばしちゃうよ!
ウチらはXBだろうがなんだろうが、絶対無敗だからね!」
バットをぶんぶんと振り回しながら、勢いよくそう口にした。
対するヒカルはあくまでも冷静に、瑠璃色の顔をじーっと眺めている。
<四谷ヒカル>
「ふーん…なるほどね。これは確かめる必要があるな」
<古池瑠璃色A>
「はあ? ウチらの力を?」
<四谷ヒカル>
「失礼。こっちの話、さ。それじゃ、いくよ」
すぐにヒカルは腕を大きく振りかぶり、ボールを投げた。
だが、曜の目にはそれは全力とはほど遠いものに見えた。
<古池瑠璃色A>
「もーらい!!」
瑠璃色がバットを振り、ジャストミート。ボールは空高く打ち上げられ、セカンド方面に向かう。
市之助が風のようにそれを追い、難なくキャッチし、一塁に構えていたひなぎくへと送球する。
<秋葉ひなぎく>
「ここは通さないお~~~!」
<古池瑠璃色A>
「ははっ、やってみなよ!」
ボールを持ったひなぎくはそのまま瑠璃色のみぞおち辺りを狙うが、難なく跳ねのけられ、逆にその手を掴まれ、地面に倒されてしまった。
そのまま瑠璃色Aは一塁ベースに滑り込み、セーフとなる。
<黒中曜>
「くっ…ヒカルさん! 大丈夫、まだ始まったばかりだ! 気にせずいこう!」
懸命に声を張り上げ鼓舞するが、ヒカルは計画通りと言わんばかりに満足げに頷いていた。
<四谷ヒカル>
「ああ、いや。大丈夫。これも作戦のうちだよ」
その後、ヒカルの球は何度も打たれ、遂には得点を許すことになってしまった。
だが、ヒカルは焦る様子を見せない。
<西郷ロク>
「あの調子で大丈夫か…?」
<落愛日和>
「…ヒカルには何か考えがあるみたいだわ。お願い、信じてあげて」
曜の耳に、通信を介して西郷と日和の声が聞こえた。
だが、曜はこのXBではヒカルに賭けると、とうに決めていた。
そうして3点が取られ、打者も一巡し、ツーアウト満塁となったときだった。
<四谷ヒカル>
「とりあえずは…ふたりかな? そろそろ、この回は終わりにしよう」
<古池瑠璃色A>
「ん~? 追い詰められて頭おかしくなっちゃった? でも、手加減しな――」
瑠璃色が言い終わることを待たず、すぐにヒカルは投球した。
その球は先ほどまでとは違い、まさしく全力の名にふさわしいものだった。曜ですら、その球威に目を見張った。
呆気に取られた瑠璃色は球を捉えることができず、ストライクとなり、続く二球、三球目も同じだった。
そして、スリーアウト。
攻守交替となり、曜達は一度集まり、作戦会議を始める。
<黒中曜>
「ヒカルさん、最後の球には驚いたよ。けど、どうして…」
<四谷ヒカル>
「常に全力を出さないのか…って? ちょっと確かめたいことがあってね。ここらでみんなにも共有しておこう」
すぐに皆は円になり、ヒカルから真意が伝えられた。
<四谷ヒカル>
「明らかに…見た目が違う子が混ざっているんだ。きっとそれが偽物さ」
<秋葉市之助>
「まことでござるか!? 拙者にはまるで同じに見えるのだが…」
<四谷ヒカル>
「まあ、ボクは瑠璃色がチャンピオンになる前からの付き合いだからね。とりあえず、ふたりは固いよ」
ヒカルのその発言を疑う者は誰もいなかった。勢いこんで皆は偽物を指摘しようと言うのだが、ストップをかける者がいた。
<落愛日和>
「待って、どうせなら一気に仕留めた方がいいわ。私、もうひとり心当たりの子がいるの」
そう言って日和はピッチャーマウンドに立とうとしている瑠璃色に目をやる。
<四谷ヒカル>
「おや、そうなの? だったら、キミに任せよう」
<落愛日和>
「ええ、次の攻撃で確かめてみるわ」
日和の決意に満ちた一言に一同は納得し、すぐにベンチまで移動した。
そして1回裏――
曜とツキが連続してヒットを放ち、打順が日和に回ってきた。
<古池瑠璃色E>
「ちょーっと、油断しちゃったかも? けど、こっからは三者凡退にしてあげる!」
まだまだ瑠璃色は元気が良く、打たれたことなど何も気にしていないようだ。
そんな彼女のことを、日和は穴が開くほど見つめている。
<古池瑠璃色E>
「じろじろ見すぎ~、もしかしてアナタも瑠璃色になりたいの? ま、考えてあげてもいいけど――」
<落愛日和>
「うん、やっぱり間違いないわ」
<古池瑠璃色E>
「はあ? 急に何?」
戸惑いの色を浮かべる瑠璃色に対し、日和は勝ち誇ったように笑う。
<落愛日和>
「あなただけ…よく見たらリップの色が違うわね? どうしてかしら?」
<古池瑠璃色E>
「え!? そ、それは…なんていうか気分っていうか…」
瑠璃色は慌ててスマホを取り出し、インカメで自らの顔を確認しながらそう言った。
それは本当に些細な違いだった。だが、日和は知っていたのだ。
<落愛日和>
「瑠璃色がチャンピオンになる前から"リップはこだわりがあるから絶対に変えるつもりがない"って言ってたの。
ちょっとしたオシャレ心で変えたのかもしれないけど…裏目に出たわね?」
<古池瑠璃色E>
「う、うるさい! ウチは…本物の瑠璃色だあああああああ!」
肩を怒らせ、やけくそに放ったそのボールはすっぽ抜け気味で、日和にとっては絶好球だった。
<落愛日和>
「ふふ…あなた…とーってもいい顔してるわよ?」
そのまま日和が振り抜いたバットはボールの芯を捉え、レフト方向へ空高く飛んでいく。
瑠璃色のうちのひとりが慌ててボールを追うが、捕球に失敗し、無様に地を転げ回る。
その間に曜とツキが生還に成功し、2点を返した。
<落愛日和>
「ふふ…瑠璃色の研究が足りなかったみたいね?」
<古池瑠璃色E>
「く、くそっ! けど…調子に乗るなよ!」
ピッチャーマウンドの瑠璃色は地団太を踏んでいる。
だが、通信で他の瑠璃色から何事かを言われたようで、気持ちを切り替えたのか、その後は切れ味の鋭い投球をし、続くミウ、市之助、ひなぎくを三者凡退に抑えた。