21話「XB~VS瑠璃色~②」
そうして1回が終わったとき、満を持してヒカルが声を張り上げる。
<四谷ヒカル>
「日和だけにはいい格好をさせてられないね。ボクも四流探偵としての力を見せてあげようじゃないか」
そのまま、人差し指を天高く掲げたかと思えば、すぐにふたりの瑠璃色を順番に指さす。
<四谷ヒカル>
「Aのキミはアイシャドウ…Bのキミはピアスが他と違う。
そして、Eのキミはリップの色が異なる偽物だ!」
既に日和に指摘された瑠璃色も含めた彼女達が、口々に騒ぎ出す。
<古池瑠璃色A>
「そんなの、日によって違うっつーの!」
<古池瑠璃色B>
「イメチェンってやつだし!」
<古池瑠璃色E>
「みんなが本物で、みんなが偽物なんだけど!?」
あくまでも認めないつもりか…と曜が呆れたとき、そこへゼロが割って入る。
<ゼロ>
「ぱんぱかぱーん! だいせいかーい! ってことで、ほい!」
その掛け声と共に突然、3人の瑠璃色達の体から白い煙が上がり、同時に悲鳴も聞こえた。
そして、煙が晴れたとき、"偽物"と言い当てられた彼女達の顔にお面がついていた。
<ダウナーなキャバ嬢(古池瑠璃色A)>
「うう…どうして…」
<カジュアルな女性(古池瑠璃色B)>
「な、なにこのお面…外せない…!」
<オタク気質なガール(古池瑠璃色E)>
「こ、これはいったい!?」
お面は、きっと"古池瑠璃色"に統一される前の彼女達の本当の顔だろう。
瑠璃色とはまったく異なる真の顔に、皆は開いた口がふさがらなかった。
<古池瑠璃色C>
「ちょ、勝手に何してくれてんの!?」
4人残った瑠璃色のうちのひとりが、血相を変えてゼロに抗議する。
<ゼロ>
「だってさー、このままウダウダとゴネられたらさすがに冷めるじゃん。
それだと面白くないからね~」
<古池瑠璃色C>
「ぐ…この…ぶちゃかわ野郎があああああああ!」
そのままゼロに掴みかからんばかりの勢いで詰め寄るが、ここで反抗しても無駄だと悟ったのか、急に大人しくなった。
<古池瑠璃色C>
「チッ…まあ、あの子らは新人だったからね。残りのウチらは見た目も完璧! だからバレる訳ない!」
瑠璃色達はそのままベンチへと引っ込んでいった。
偽物だとバレた女性達もついていったので、XBにはこのまま参加するようだ。
<黒中曜>
「色々アレすぎてびっくりしたが…とにかく、いい調子だな。ヒカルさん、日和さん、ナイスプレイだ!」
<四谷ヒカル>
「ふふ…女の子を見る目には自信があるんだ」
<落愛日和>
「だけど、残りが問題ね。瑠璃色も言ってたけど、もう見た目を指摘することはできそうにないわ」
<落愛夜宵>
「…それでも、やるしかないよ」
<彩葉ツキ>
「うんうん、いい流れがきてるし、次もガツンとやっちゃおう!」
そうして皆はそれぞれの守備位置へと散っていく。
2回表――
瑠璃色は相変わらず自信に満ちた表情でバッターボックスに立ち、悠然とバットを構えていた。
<四谷ヒカル>
「うーん、どうやって化けの皮を剥ぐべきか…悩ましいね」
ヒカルはそう言うが、きっと、見つけ出すことができるだろう。曜はキャッチャーミットを構えながらそう思った。
<古池瑠璃色D>
「ふふーん、ヒカルきゅんには無理無理! 見ただけでわかるなんてこと、もう起きないからね!」
<四谷ヒカル>
「みたいだね…って、ん?」
ヒカルは人差し指を唇に押し当て、少しの間黙り込んだ。
<古池瑠璃色D>
「考えたって無駄無駄~、あー、ヒカルきゅんのへなちょこボール早く打ちたい~」
瑠璃色は体を揺らし、歌を歌うように言葉を発している。
だが、そのような挑発じみた行為をヒカルは軽く受け流す。
<四谷ヒカル>
「ところで、キミってボクをどうしたいんだっけ?」
<古池瑠璃色D>
「ウチの奴隷にして一生ご奉仕させる!」
<四谷ヒカル>
「ああ、そうか…そうだったね」
<古池瑠璃色D>
「あはは! ヒカルきゅん、ざーんねん!
そういう情報は共有されてんだし、間違うことなんてないよーだ!」
ヒカルは首を横に振り、ため息をつきながら投球フォームへと入る。
放たれたその球は、曜から見ても速さは申し分なかったが、あっさりと打たれてしまった。
だが、一塁を守るひなぎくの奮闘により、アウトを取ることができた。
続く打者は先ほど、正体を暴かれたダウナーなキャバ嬢だったが、彼女のプレーはすっかり精彩を欠いており、あえなく三振。
<古池瑠璃色G>
「はー、やっぱウチじゃなくなったやつはダメだなー。ま、格の違い…見せつけてあげよっかな?」
そう言って打席に立った瑠璃色は堂々とした構えを見せている。
こいつは…何かが違う。その構えは曜にそう感じさせるのに十分なものだった。
<四谷ヒカル>
「なんか意外だね。瑠璃色はXBになんて興味ないと思ってたけど」
<古池瑠璃色G>
「まー、正解っちゃ正解かな? 今も興味ないけど…ま、一方的にギタギタにするのは大好きだからさ!」
<四谷ヒカル>
「ふうん、ボクはXB好きだけどね。なんていうか、やってると血が熱くなるっていうかさ」
<古池瑠璃色G>
「あー、まあ、それはわかる気がするかも。
なんつーか、今はすっかりオワコンになっちゃってる訳だけど、かつては大人気のエクストリームスポーツだったじゃん?
ていうことは、誰だって熱狂するはずなんだよね。だったらまた流行ったとしてもおかしくないし、そのポテンシャルはあるはず。
だから、これから考えるべきなのは、どうすれば皆が興味を持ってくれるかってことだよね?
熱狂を生み出すのはいつだって若者達なんだから、ロートルはほっといて、若い世代に訴求するのが一番で――」
まさに立て板に水という言葉が相応しいほど、持論を次々と語っていく。
キャッチャーをしながらそれを聞いていた曜は、その熱意に圧倒されながらも思った。
――興味のない人間が、ここまで語るだろうか…?
<四谷ヒカル>
「なるほど、うん、貴重な意見ありがとう。じゃ、そろそろ…いくよ!」
瑠璃色の熱気に当てられたのか、ヒカルの球も乗りに乗っていた。だが――
<古池瑠璃色G>
「スピード、変化の具合、空気抵抗…! 読み切ったああああああ!!」
"カキン"という気持ちの良い音が響き、ボールはどこまでも飛んでいくかに思えた。
二塁手のツキは大きく息を吸い、夜空に高く舞い上がるようにジャンプし、まるでハヤブサのように駆けていくボールに手を伸ばし…そして、キャッチした。
その間にも瑠璃色は一塁を蹴り、二塁を蹴り、三塁へと到達しようとしている。
<彩葉ツキ>
「夜宵さん…お願い!!」
空中で身体をよじりながら、三塁手の夜宵に向け、渾身の力を込め、送球した。
夜宵の持つグローブがボールを受け止めたその刹那、瑠璃色がニヤリと笑いながら、突っ込んでくる。
<古池瑠璃色G>
「どけどけどけえええええええええ!」
対する夜宵も一歩も引くことなく、彼女を迎え撃つ。
ボールを持つ手を瑠璃色の肩あたりに思いっきりぶつけようとしたが、ひらりと身をかわされてしまった。
そのまま瑠璃色がスライディングで塁に飛び込もうとしたそのとき、夜宵が機敏な動きでバク宙を繰り出し、相手の背に飛び乗り――そして、タッチを決めた。これでスリーアウトだ。
<古池瑠璃色G>
「くそっ! けど…良いプレーだったじゃん」
アウトを取られたというのに瑠璃色の顔はとても晴れやかで、そのまま立ち上がり、夜宵に向けて手を差し出した。
夜宵もおずおずとその手を握り返し、お互いの健闘を讃え合う。
<黒中曜>
「これこそが…XBの醍醐味だな」
思わずそう呟いた曜に対して、いつの間にか隣に立っていたヒカルが言葉を返す。
<四谷ヒカル>
「そうだね、けど、それはおかしいんだ」
<黒中曜>
「え? どういうことだ?」
<四谷ヒカル>
「まあ、それはこれから説明するよ。みんなの前でね」
そうして攻守交替の前に集まり、ヒカルの話を聞くことになった。
<四谷ヒカル>
「今回もふたりわかったよ。まず、打席に立ったDの瑠璃色は、ボクの呼び方が違っていたね」
<秋葉ひなぎく>
「あれ? そうだったかにゃ?」
<四谷ヒカル>
「彼女はいつも"ヒカルちん"って言うんだけど、さっきの瑠璃色は"ヒカルきゅん"って言ってたからね」
<十条ミウ>
「なるほどね…それで、もうひとりは?」
<四谷ヒカル>
「んー、曜くん、もうわかるね?」
急に話を振られた曜だったが、動揺することはなかった。
先ほど、ヒカルの呟いた言葉が頭から離れずに、ずっと考えていたからだ。
<黒中曜>
「夜宵さんがアウトを取ったGの瑠璃色だろ? あまりにもXBに詳しすぎるし、熱もあった。
瑠璃色があそこまでXB好きなら、そもそも俺が勝負を持ちかけたときに嫌がることはなかったはずだ」
ヒカルは指をパチンと鳴らし、ヒュウと口笛を吹いた。
<四谷ヒカル>
「正解! 瑠璃色はなんでも上手くこなすタイプではあるけど、それ故に何かひとつに異常にのめり込むことはないからね。さて…」
そう言って、ベンチにいる瑠璃色達の方に目を向けた。
<四谷ヒカル>
「残すはあとふたり…だけど、当てずっぽうで外す訳にもいかないし、慎重にいきたいね」
顔を突き合わせる曜達に対して、瑠璃色がピッチャーマウンドから声を掛けてきた。
未だに本物か偽物か特定できていない瑠璃色だ。
<古池瑠璃色C>
「ねー! 早くしてくんない? 待ちくたびれたんだけど!」
<四谷ヒカル>
「ごめんごめん! すぐ行くよ!」
ひとまず、無理に暴こうとはしないことだけを決めて、皆はベンチに入っていった。
2回裏――
現在、得点は3対2で瑠璃色チームがリードしている。
ここで最低でも同点にまで持ち込みたいところだが、ピッチャーを務める瑠璃色の調子はかなり良さそうだ。
先ほどから何球も投球練習をしていたが、そのスピードは目を見張るものがあった。
それでもなんとか、ジオウがヒットを出し、出塁する。そして、次に打席に立つのは夜宵だった。
<古池瑠璃色C>
「おっとお、次はアナタなのね。
この勝負にウチが勝ったら、どうしてあげよっか? 塩対応の接客が得意とか言われて調子乗ってるみたいだけど…
逆に無理やりデレデレ接客させても受けるかもね! "お客様ァ、このいやらしい雌犬にお仕置きを…"とか言わせちゃったりして!」
夜宵から平常心を奪おうと、あえて煽情的な言葉をぶつけているようだ。
だが、当の夜宵は一切怯むことなく、馬鹿にしたかのように吐息を漏らす。
<落愛夜宵>
「…弱い豚ほど、よく喋る。群れてないと何もできない…クズのくせに」
<古池瑠璃色C>
「は? んだと?」
<落愛夜宵>
「あなたはいつも…余裕綽々で…それがいいところでもあった。
けど、今は偽物をあっさり特定されて、追い詰められて…ベラベラとくだらないことを喋ってて…哀れ」
瑠璃色はコメカミに青筋を浮かべながら、ぶるぶると体を震わせている。
<落愛夜宵>
「確かにあなたに憧れる人はシンジュクシティに多い…けど、今の姿を見たら全員が失望する…はず。
きっと"死んでも瑠璃色にだけはなりたくない"って言うよ…」
<古池瑠璃色C>
「ざけんじゃねえ! アタシらは完璧で…誰もが憧れる存在で…!
オマエみたいなやつにそこまで言われる筋合いねえんだよ!! ボケが!!」
そのまま殺意と共に振りかぶり、ボールを投げた。
だが、怒りに支配されたその球はコントロールも甘く、スピードもいまいちなのが、誰の目にも明らかだった。
<落愛夜宵>
「…安い挑発に乗るなんて…らしくない」
夜宵が易々と打ち返したその球は、ピッチャー瑠璃色の顔の右側を風のように通り過ぎ、そのまま夜空へと打ちあがる。
勢いよく雑居ビルに突き刺さったボールを回収しようと、一塁手のオタク気質なガールが悪戦苦闘している間にジオウと夜宵は悠々と生還を果たしたのであった。
これで3対4で逆転だ。
<古池瑠璃色C>
「くそが! くそどもがああああああああ!」
ピッチャーマウンドで鼻の穴を膨らませ、しゃがれたうなり声を上げる瑠璃色に対して、もうひとりの瑠璃色が近づき、何か声をかける。
途端にピッチャーは落ち着きを取り戻し、その後、打席に立った。
ヒカル、曜、ツキはボールに触れることもできずに三振を取られてしまった。
そしてスリーアウトで3回に突入する直前、またしてもヒカルが声を張り上げる。
<四谷ヒカル>
「さあ、答え合わせの時間だ。
まず…そこのキミはボクの呼び方が違う。
そして…そっちのキミは…XBにあまりにも詳しすぎる。さらに――」
そこで一度言葉を止め、ヒカルは夜宵の方を見た。彼女はこくりと頷き、おずおずと口を開く。
<落愛夜宵>
「…あなたは、挑発されて口調が荒っぽくなりすぎてた。
自分のことも"アタシ"って言ってた…瑠璃色は"ウチ"なのに…」
指さされた瑠璃色達はがっくりと肩を落とす。既に反論は無意味だと悟ったのだろう。
すぐに前と同じように白煙が場を満たす。
そして煙が晴れたとき、3人の顔には瑠璃色になる前の顔を模したお面が張り付いていた。
<ゆるふわメイド(古池瑠璃色D)>
「ほええええ~! そんなあ~~~!」
<やさぐれたコンカフェ嬢(古池瑠璃色G)>
「チッ…うぜえ!」
<粗野な男性(古池瑠璃色C)>
「くそがああああああああ!!」
正体が露わになった人達の中に男性も混じっていたことに曜は少し衝撃を受けた。
そうして、遂に残る瑠璃色はひとりだけになった。消去法で、彼女が本物ということになる…はずだった。
<黒中曜>
「俺達の勝ちだ! XBでも、統治ルールでもな!」
自信に満ちた声色で曜はそう宣言した。
だが、ポップコーンのバケツに顔を突っ込んでいたゼロは、あまり興味がなさそうにしている。
<ゼロ>
「おー、おめでとー。でも、本当に…終わりかな?」
<黒中曜>
「何を馬鹿なことを…」
本物の瑠璃色を確かに見つけ出した。これですべてが終わった…はずだった。
だが、マウンド上の瑠璃色は細かく肩を震わせているかと思いきや、ガバっと顔を上げ、ゲラゲラと笑い出した。
その目は三日月のように弧を描いており、瞳の奥には隠しきれない狂気が滲んでいた。
<古池瑠璃色F>
「…ふふ、あはは…! アーッハッハッハッハッハ!!」
<黒中曜>
「な、何がおかしい!? 認めろ、お前は負けたんだ!」
<古池瑠璃色F>
「いや、それを判断するのはアナタじゃないからね? Mr.Dがなんも言ってこないってことは…曜くんは失敗したってこと!
もうほんっとくだらない…。誰が本物で誰が偽物とか…そういう話じゃないのに勝手に盛り上がっちゃってさ。
ここ最近見たものの中で一番おもろかったよ? 録画してたら爆笑コメディ映画にして売り出してたかも」
皆が呆気に取られる中、ただひとり、ミウだけが何かに気づいたかのように、瑠璃色を睨みつけた。
<十条ミウ>
「まさか…まだ勝利条件を満たせていない…というの?」
<秋葉ひなぎく>
「し、しかし…本物はもう見つけたんですよ!?」
動揺のあまりひなぎくも素に戻ってしまっている。
しかし、彼女の言う通りだった。
本物だと思われる瑠璃色は特定した。これ以上、どうしろと言うのだろうか?
<古池瑠璃色F>
「だからさー、ウチはずっと言ってたよね? "誰もが本物で、同時に偽物なんだ"ってさ。
アナタらは聞く耳持たなかったけど、それが正しいってこれで証明されたよね? だって、本物とかいないんだもん!」
<黒中曜>
「そんな…じゃあ、勝ちようがないじゃないか…!」
曜の視界が歪み、体から平衡感覚が失われていく。
思わず地面に膝をつきそうになったとき、誰かが、支えてくれた。
<四谷ヒカル>
「煙に巻かれちゃダメだ。瑠璃色は何かを隠そうとしている…それは、確かだ。よく考えるんだ」
<古池瑠璃色F>
「考えても無駄だっていうのにな~、ま、好きにすれば?」
ヒカルの言葉を受けて、曜はこの二択ゲームの前提から考えていくことにした。
設問は確か…"黒中曜は本物の古池瑠璃色を見つけ出すことができるか、できないのか?"だったはずだ。
そのとき、何か違和感があった。果たして、本当にそうだっただろうか?
<黒中曜>
「みんな、今回の目的って…本物の瑠璃色を見つけ出すことだったよな?」
<彩葉ツキ>
「え、うん…そのは――」
<十条ミウ>
「待って、少し違うわ。"本物の"じゃなくて"本当の"だったはずよ」
<秋葉市之助>
「む? そうであったか? だが、だとしても何が違うのか…」
<十条ミウ>
「何かがあるのよ…何かが…」
深く考え込むミウを見て、瑠璃色は顔中を口にしたかのような満面の笑みだ。そして、嘲りと共に言葉を吐き出した。
<古池瑠璃色F>
「無駄無駄無駄!! 特にアナタにはね!
そう…ミウさん、あなたには絶対わからないよ!」
その言葉を聞いた瞬間、ミウは目を見開き、瑠璃色の顔を凝視した。
<十条ミウ>
「…! まさか」
そのとき、ミウは何かを思い出した。
それは、とても大切な――見過ごしてはならない何かだった。
そして次の瞬間、ミウの視線はヒカルへと向けられる。
<十条ミウ>
「ヒカル…あなた…」
<四谷ヒカル>
「ミウちゃんも気づいた?
ボクも気づくのが遅くなっちゃったけど…きっと、本当の瑠璃色は…」
<十条ミウ>
「ううん、気付かなくても無理ないわ…
だって、あの子の面影が全然ないんだもの…」
<黒中曜>
「どうしたんだ、もしかして本当の瑠璃色に気付いたのか?」
<十条ミウ>
「ええ、わかったわ。
ヒカル、ピッチャーを代わってくれる? まずは、私に確かめさせてほしいの」
<四谷ヒカル>
「うん、頼んだよ」
ミウは被っているキャップの鍔をぎゅっと摘まみ、目を伏せた。しかし、すぐに顔を上げ、凛とした目で瑠璃色を見据える。
だが、そこには敵に向ける憎しみなど、まるでなかった。あるのは…そう、強いて言うならば憐憫だった。
<古池瑠璃色F>
「なーんかムカつく目で見てきてるし…とりあえず、こっからさっさと逆転でもしますか!」
その言葉により、先ほどまで沈んでいた元瑠璃色達の顔に赤みが差していく。
何があっても絶対的なリーダーについていく。という覚悟が垣間見えるようだった。
<十条ミウ>
「…瑠璃色、今から私が、本当のあなたを見つけ出してみせる」
<古池瑠璃色F>
「へいへい、せいぜいがんばって~」
その言葉を聞いたミウは思わず笑みを漏らす。
嘲笑ではなく、哄笑でもない、ただの純粋な、笑み。
<古池瑠璃色F>
「何をこんなときに笑ってんだか…ミウさん、随分と余裕だね?」
<十条ミウ>
「いえ…あなたと私、どこか似てるのかもって思って。ふふっ。そんなわけ…ないのにね」
<古池瑠璃色F>
「面白いこと言うじゃん。それじゃ、また仲良しツーショットでも撮っちゃう?」
それは、何気ない、ただの軽口だった。
だが、ミウにとっては自らの答えを確信に近づける、最後のピースとなった。
<十条ミウ>
「遠慮しとくわ…写真は好きじゃないって、言ったでしょ?」