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4話「ゆうしゃくろなかののろい」

<ゆうしゃくろなか>
「何もない…
でも…女神様に言われた通りツボの中は調べた…」

勇者くろなかは、頭に浮かんだ言葉を無意識の内に呟いていた。

<ゆうしゃくろなか>
「後は…戻って報告すればいいだけだ…」

うわごとのように呟いた後、吊り橋を戻ろうと歩き出す。
けど、なぜか足が動かなかった。

<ゆうしゃくろなか>
「………………」

ぼんやりとした思考を振り払うかのように、頭を振る。
途端に、押さえつけられていた疑問が湧き上がってきた。

<ゆうしゃくろなか>
「よく考えたら…おかしくないか?
何も入ってないツボの中を調べるって…」

疑念と違和感がムクムクと膨らんでいく。

<ゆうしゃくろなか>
「こんな行動に、なんの意味があるんだ?
なんで俺はこんな事を…」

その時、勇者くろなかの視界にノイズが走る。
と同時に、激しい頭痛に襲われる――

<ゆうしゃくろなか>
「ううっ…!」

そして、また思考がボンヤリとしてくる。

<ゆうしゃくろなか>
「なんか…頭が上手く回らない…
とにかく今は…女神様のところへ戻ろう…」

頼れるのは女神様だけだ。
女神様を信じていれば間違いない。
自分の中の自分が、そう言い聞かせてくる。

自然と勇者くろなかの足は女神像の方へと向かっていた。
吊り橋を渡って戻る。

けど――
しばらくすると、また疑念が湧いてくる。

<ゆうしゃくろなか>
「女神様は…どうして俺に
こんな事を…させているんだろう…」

思わず足が止まる。

けど、すぐに頭がボンヤリしてきて、また足が動き出す。
それでも――

<ゆうしゃくろなか>
「魔王を倒す"ゆうしゃ"って言われても…
一度も…村の外には出してもらえてないし…」

吊り橋を少し歩いては、また立ち止まる。

<ゆうしゃくろなか>
「そう言えば俺って…いつからこの村にいるんだっけ?」

疑問が湧き出て――
思い出そうとする度に――

思考がボンヤリとする。

<ゆうしゃくろなか>
「なんでだ…? 何も思い出せない…?
村に来る前の事も…来てからの事も…」

次第に、視界がとしてくる。
歩いている吊り橋が大きく波打つように揺れている気がした。

遂に、勇者くろなかは動けなくなってしまった。

<ゆうしゃくろなか>
「俺って…本当に"ゆうしゃ"なんだっけ…?
ここに来る前…俺はどこで何して――」

その途端、激しいノイズが勇者くろなかの視界を覆う。

<ゆうしゃくろなか>
「ううっ…!!」

一際激しい頭痛に襲われ、思わず膝をついてしまった。

<ゆうしゃくろなか>
「な、なんだ…?
昔の事を…思い出そうとすると…」

その度に、思考がボンヤリしたり、激しいノイズと頭痛に襲われる。
まるで、何かを思い出すのを遮るかのように――

<ゆうしゃくろなか>
「な、なんだ…?
俺の頭は…ど、どうなってるんだ…?」

勇者くろなかはうずくまるように頭を抱えた。

その時だった。
ノイズ混じりの視界の向こうに――

勇者くろなかは信じられない光景を見た。

<ゆうしゃくろなか>
「…えっ?」

吊り橋の手すりの向こう側――
足場も何もない空の真ん中を――

人がてくてくと歩いていた。

空のど真ん中を人間が平然と歩いていた。

それは、少女だった。
村では見た事もない奇抜な服を身にまとい、顔の化粧も絵の具をぶちまけたような派手さだった。

<???>
「おっかしーなー。
こっちのほうだと思ったんだけどなー」

空中を歩く少女は、勇者くろなかの姿に気付かず声を上げた。

<???>
「ねー、西郷ー。
このへんで、おいしそうな匂いしたよねー?」

少女は振り返って言う。
すると――

これまた、奇妙な服に身を包んだ大柄な男がやって来た。
少女と同じように、空の上を堂々と歩きながら。

<???>
「知らん。オレにオマエのような嗅覚はない。
それより…予定の時刻を過ぎている。さっさとランデブーポイントへ向かうぞ」

<???>
「ほーい…わかったよー…
仕方ないなー…」

大柄な男に言われると、少女は諦めたように肩を落とした。
そして2人は一緒に、来た方向へと引き返していった。

空の上を、歩いて――

<ゆうしゃくろなか>
「………………」

勇者くろなかは呆気に取られていた。
信じられない光景だった。

<ゆうしゃくろなか>
「は? な、なんだ…? 今のは…?
空を…歩いてたよな…?」

幻覚か?
やはり自分の頭はおかしくなってしまったのだろうか?

何が、どうなっているんだ?
訳がわからない。
ただ――

いつの間にか、頭の中だけはクリアになっていた。
足元のグラグラも消えていた。

勇者くろなかは、急いで女神像の元へと戻る。

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目次

  1. 0章「もう、勇者したくない。」
  1. 1章「労働環境があぶない。」