14話「退屈しのぎにはXB」
<芥塵>
「それじゃ、赤髪、続きと洒落込もうぜ!」
<タイガ>
「あー、待て待て、お前には言いたいことがあんだよ」
<芥塵>
「は? いったいなんなんだ、そりゃ?」
タイガが芥に向き直った。
肩から力を抜き、まっすぐに目を合わせる。
<芥塵>
「言いたいことだあ? 命を大事にしろとか、そういうくだらねえ説教はごめんだぜ」
<タイガ>
「ばーか、そんなんじゃねえよ。
お前さ、XBをやんねぇから、殺しなんてくだらねえことをしちまうんだよ。
マジでそういうのよくないぜ」
<黒中曜>
「…へ?」
<三田三太郎>
「た、タイガ…? お前、芥に何を言ってんだ…?」
曜は――いや、その場に居た全員が困惑した。
目の前に居るのは、最恐の殺し屋。
ただでさえ、言葉を交わすことすら憚られる相手に、タイガはためらいもなく言葉を投げていた。
当の芥が少し目を細める。
"くだらねえ"と言われたことより、"XB"という言葉の方が引っかかったような顔だった。
<芥塵>
「XBって、あの訳のわからねえやつだろ?」
<タイガ>
「そう、XBだ。お前は相手をぶっ倒すのが好きなんだろ?
強い奴と戦いたい。血が沸く戦いがしたい。それって、XBと変わらねぇじゃないか」
<芥塵>
「何が違う? 殴れりゃ一緒だろ」
タイガが首をぶんぶんと横に振る。その顔は真剣そのものだった。
<タイガ>
「全然違うっつーの。
殺しっていうのはな、一回やったら終わりなんだよ。倒した相手が死んだら、そこで終わり。
また強い奴を探して、また倒して、また終わり。その繰り返しなんだろ?」
タイガはつまらなそうに言った。
芥は何も言わなかった。だが、視線は逸らさなかった。
<タイガ>
「…でもな、XBは違うんだよ。
勝っても負けても、また戦える。相手が強くなって戻ってくる。
自分も強くなって挑める。終わらないんだよ。
お前が今日倒した奴が、次の試合では、もっと強くなってお前に挑みに来るかもしれない。それがXBのすげえところだ。
だから、お前もXBやってみたらどうだ? その退屈を殺せるぜ?」
芥はその場で腕を組んでいる。
いつもの軽い笑みはすっかり消えて、珍しく真剣な顔をしていた。
曜達は、芥がいつ襲いかかってくるのか警戒する。
しかし、驚いたことに芥は――
<芥塵>
「そんなに面白いのか…XBっていうのは…」
<タイガ>
「ああ、ちょー面白いぜ! 世界一! いや、宇宙一に面白いぜ!」
<芥塵>
「…へぇ、それはいいな。
なあ、どうやってやるんだ?」
<タイガ>
「いいぜ! 詳しく教えてやるよ!」
意外にも、XBの話に食いついてきたのである。
それからタイガはXBのことを語り始めた。
ボールを打って点を取ること。塁に出ること。進塁をかけたバトル。ピッチャーとバッターの駆け引き。
メンバー全員が連携して、それぞれの役割を全力で果たすこと。
<タイガ>
「しかも、ただ強いだけじゃ勝てないんだ。メンバーの誰かが動いて、できたチャンスを別の誰かが生かす。
そういう動きが全部つながって、ようやく点が入る。だから、全員が強くなきゃいけない。
9人全員がそれぞれ最高の動きをしたとき、それが一番気持ちいい瞬間なんだよ」
<芥塵>
「ひとりだけが強くても意味がないってことか?」
<タイガ>
「そう。一人じゃ勝てない。一人だけ強くても、チームが動かなきゃ点は入らない。
でも逆に言うと、全員で動けたとき、一人じゃ絶対に出せない力が出る。それがXBなんだ」
芥はその言葉を聞き、少し間を置いた。
どこか遠くを見るような、珍しい目をしていた。
横から見ていた百一太郎が、小声でつぶやいた。
<千住百一太郎>
「な、なんか、普通に話聞いてるぜ…」
<千羽つる子>
「タイガさんの言葉には、不思議な力がありますわね」
タイガの話が一段落したとき、芥がぽつりと口を開いた。
<芥塵>
「それ、本当に面白いんだろうな?」
<タイガ>
「面白いに決まってるだろ! 試してみりゃわかる!」
<芥塵>
「なら、ひとつ聞くが…それをやってみて、面白くなかったら?」
タイガは馬鹿なことを聞くなと言わんばかりに鼻を鳴らし、即答した。
<タイガ>
「その時はそれでいい。お前にとって面白くなかったらそれだけの話だ。
でも、やらずに死ぬまで殺し続けるより、一回試してみる方が絶対にマシだろ!」
芥は少し笑った。それは殺気のない純粋な笑いだった。
どこかこれまでと違う、柔らかさを持っていた。
<芥塵>
「…ったく、面白えことを言うな、お前は」
それから芥は、曜を見た。
突然、視線を向けられた曜だったが怯むことなく受け止める。
<芥塵>
「黒中、ひとつ取引をしてやるよ。
XBとやらが本当に面白けりゃ、チャンピオンの座を譲ってやってもいい。
というか、ゼロに頼み込んでXGから降りてやるよ」
罠かもしれない――
芥がXBを体験して"つまらない"と言えば、それで終わりだ。
その後のことなど、保証は何もない。
だが、選択肢はなかった。これまでの十数日間で証明されたことがある。正面からぶつかって、勝てる相手ではない。
<青山カズキ>
「曜くん、君に任せるよ」
カズキが静かに言った。その目は"君なら断る訳はないよね?"と言わんばかりだ。
曜は一度息を吸い込んで、答えた。
<黒中曜>
「わかった。その話、乗ってやる」
芥が、ニカッと笑った。
<芥塵>
「よっしゃ。じゃあ、19時、雷々門の前で待ってろ。ちゃんとXBとやらを用意しとけよ」
そう言って、芥は庭から立ち去っていった。夜の闇の中に、大きな背中が消えていく。
足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
<三田三太郎>
「あいつ、あんなに素直に話を聞くとは思わなかったな…」
<タイガ>
「へっ、XBの話をしたら、誰だって聞きたくなるに決まってんだろ」
タイガが胸を張ってそんなことを言った。純粋に嬉しそうだった。
<桜花札>
「馬鹿弟子が、珍しくいい仕事しやがった」
花札がそう言って、ぷい、と視線を外した。その横顔は、わずかに緩んでいた。
タイガが花札を見て、にやりとした。
<タイガ>
「師匠に褒められた! こんなの初めてじゃねぇか!?」
<桜花札>
「褒めてねえよ」
<タイガ>
「絶対褒めてたって! なあ、聞いたよな、やっさん!?」
<上野弥次郎兵衛>
「はい、確かに聞こえましたよ」
上野がにこにこしながら答え、花札がちっと舌打ちをした。
そんなやり取りを見て、その場にいる全員が口元を緩めていた。