5話「タイトウシティ」
――それから数日。
トラッシュトライブの攻略組は、十分な準備を整え、タイトウシティを目指して地下通路へと向かった。
道のりは長く、何度か休憩を挟みながら進み、やがて前方にかすかな光が見えた。
地上へと続く階段が近くにあるのだろう。一同は、吸い寄せられるように歩みを進めた。
地上に出ると、左右に巨大な仁王像がそびえ立ち、その両腕で門を支えている。
門には「雷々門」と記された赤い大提灯が掲げられ、あたり一面を橙色の光で染めていた。
塔が四方に立ち並び、無数の提灯が夜空へと連なっている。まるで祭りの夜のようだった。
他のシティとは、明らかに異なる空気。
古めかしい和の意匠があちこちに散りばめられ、屋台の残り香と潮の匂いが混ざり合って漂ってくる。
通りには人の姿もあった。
だが――どの顔にも、笑みはなかった。
<彩葉ツキ>
「やっぱ、統治ルールのせいだよね…
タイトウシティは、毎日お祭りしてるから、みんな笑顔ってよく聞いてたのに…暗い顔してる…」
<轟英二>
「それに静かだな…
前は、やかましいと思うほどにうるさかったのに…」
一同が住人達を憐れんで見ていたそのとき、どこからともなく音が聞こえてきた。
<千住百一太郎>
「ん…? これって太鼓の音じゃねーか?」
<千羽つる子>
「笛と鐘の音も聞こえますね…」
一度聞けば忘れられない、禍々しい音色。
祭りの賑やかさとは似ても似つかない、どこか死を連想させるような低い律動が、タイトウシティの夜に広がっていく。
<黒中曜>
「祭囃子にしては、不気味だな…」
<青山カズキ>
「本当にそうだね…
訳あって、タイトウに居た頃があったんだけど、こんな変な祭囃子…初めて聞くよ」
<十条ミウ>
「ねえ、この音…どんどんと近づいてこない…?」
<小日向小石>
「うん…それに、人の声も――」
<???>
「ハァーッ! ワッショイ! ワッショイ!」
それは、通りの奥から突然現れた。
一言で言えば、巨大な神輿――だろうか。
だが、それだけでは説明がつかない。
担ぎ棒は太く頑丈で、屋根の上には金属製の柵が張り巡らされている。まるでプロレスリングのような構造だ。
もし、誰かに説明するのならば"神輿の形をした移動式の闘技場"というのが一番適切だろう。
それを担ぐのは、白い装束を纏い、ぬいぐるみめいたゼロの顔を模した面をつけた若衆たちだった。
顔の見えない集団が、十数人がかりで神輿を揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる。
それも一基だけではない。路地の右からも、左からも、裏手からも――次々と神輿が現れ、曜たちを取り囲んでいった。
<千羽つる子>
「こ、これはまさに四面楚歌! なんとかして脱せねば!」
<黒中曜>
「けど、どうやって!!」
<いなせな若衆>
「ヨォ、外の衆!」
曜たちの混乱に構わず、若衆のひとりが、甲高い声で叫んだ。
<いなせな若衆>
「今夜も、始まりやすぜェ! 参加料は、てめえらの命だ!」
祭り囃子が一段と大きくなる。
その音に合わせるように、神輿からロープが飛んでくる。
<西郷ロク>
「なんだ…この縄は…勝手にまとわりつくぞ…」
<雪谷えのき>
「ハハ! これ、ちょーおもろい!」
気づいたときには遅かった。
曜たちは、次々と絡みつく縄に引き上げられ、神輿の上の闘技場へと強制的に放り込まれていた。
金属の柵が四方を囲み、逃げ場はない。下へ降りることもできない。
四方八方から、シティの住民たちが拳を振り上げ、押し寄せてくる。
――戦わなければならない状況だった。
<彩葉ツキ>
「な、なんで…街の人が襲ってくるの…!
私達、なにも悪いことしてないのに…!」
<いなせな若衆>
「これが、タイトウシティで毎日0時から行われる統治ルール、その名も"くたばれ祭り"だァ!
ルールはシンプル! 相手を気絶させるか、リングの外にたたき出せば勝ち!
武器を使っても構わねえぞ!」
<三田三太郎>
「説明しながら戦わせるのかよ!!」
三田のそんな言葉に構うことなく、若衆は説明を続けていく。
<いなせな若衆>
「続きを聞けェ!
囃子が鳴ってる間は、多少やりすぎたって誰も文句は言わねえ!
ぶっ殺しちまってもペナルティなし、それがくたばれ祭りよォ!」
<千住百一太郎>
「はあ!? 殺しもアリってことか!?」
<いなせな若衆>
「おうともよ! 逆に、囃子のねえ平時に人を殺めたらそりゃあ厳禁だがな!
わかったら早くやれィ! 突っ立ってる暇はねえぞ!」
曜は舌打ちをこらえながら、向かってくる相手を素手で受け流した。
――戦いながら状況を整理する。
毎晩行われる強制戦闘、殺傷も許容される祭り、そして見渡せばわかる、街の人々の目の色。
怒りでも憎しみでもない。焦りと、切迫と、飢えの色だ。
<黒中曜>
「でも、なんでこの人達は俺達だけ攻撃してくるんだ…!?
他にもたくさん人はいるのに…!」
曜の言うとおり、住人達はトラッシュトライブだけを攻撃し、他の人間を決して攻撃しようとしなかった。
<いなせな若衆>
「そりゃあそうだろォ!
勝利実績でランクが決まり、ランクが高ければ高いほど、食料の支給量が増える仕組みだからよ!
格上を倒せばランクが上がる! 横綱から前頭まで、相撲と同じよ!
おめえらは見るからに強者だし、なおのこと狙い目だわなァ!」
<轟英二>
「食料のために戦ってるということか…卑しい庶民め…!」
<いなせな若衆>
「この街で食えるもんは、支給品以外ねえんでィ! 戦わなきゃ食えない、食えなきゃ死ぬ!
トップの横綱になりゃあ一番の恩恵を受けられる、それだけのことよ!
もっとも、逃げるのは自由だがなァ!
ただし、一定のランクに届かなけりゃ支給品はなし! 逃げ続ければじわじわ餓死するだけよ!
どうせ戦わにゃならねえ、そういう仕組みだい!」
<轟英二>
「クソ…! 先ほどの言葉は撤回する!
なんて性格の悪い統治ルールだ! 今までで一番の糞ルールだ!」
戦わなければ食べられない。食べられなければ死ぬ。
だから皆、毎晩この神輿の上で戦い続けている。
曜は奥歯を噛んだ。
怒りとも呼べない、もっと冷えた感情が胸の底に沈んでいく。
<黒中曜>
「みんな…この人達は生き延びるために戦ってる。
だから、必要以上に傷つけるのはやめてほしい…」
<青山カズキ>
「ああ、わかってるよ」
この街の事情を知った一同は、いつもより力を抑え、迫りくる住民たちの攻撃に応じていた。
しかし、数では圧倒的に不利で、曜はビームバットを取り出すべきか迷う。
だが――人間相手にXBギアを使う気には、どうしてもなれなかった。
これまでも、状況に追い詰められ、対人戦でXBギアを使ったことはある。
それでも、XBギアは"XB"のために生まれたものだ。
人を傷つけるための道具では、決してない。
そして、それから数十分後――
<黒中曜>
「…とりあえず、さばいたか」
トラッシュトライブはなんとか戦いを挑んでくる住人たちを退けることができた。
皆、思うように戦えなかったことで息が上がっており、苦しげな表情をしている。