2話「集結」
<秋葉市之助>
「うおー! 生のQ様でござる!」
<秋葉ひなぎく>
「Q様…! 私達、Q様の命令通り、曜くん達の力となりシンジュクシティを攻略しました。
そ…その…一言、ご褒美の言葉でも…」
Qの姿を見た瞬間、飛びつくように前へ出たのは、Qオタクである市之助とひなぎくだった。
主に褒められたい一心で、Qの前にかがみ込んで待機するその姿は、まさに忠犬といっても過言ではない。
<Q>
「ああ、感謝する。よくぞやってくれた」
<秋葉市之助&秋葉ひなぎく>
「~~~っ!!!」
Qが穏やかな微笑みを浮かべ、感謝の言葉を口にすると、市之助とひなぎくは言葉にならない声で歓喜した。
一方、曜達はふたりのオタクムーブを見て見ぬふりをしながら、カズキ達に近づく。
<青山カズキ>
「みんな、無事でよかったよ。
ごめんね。いざっていうときに体調を崩してしまって」
<黒中曜>
「いや、いいんだ。
それよりもカズキさん。もう動いても大丈夫なのか?」
<青山カズキ>
「…ああ、才蔵くんが熱心に看病してくれたからね。
もう動き回っても大丈夫なくらい元気だよ」
シンジュクシティを出る直前、カズキは高熱にうなされ、まともに喋ることすらできなかった。
しかし今は、顔色こそ少し悪いものの、いつもどおり受け答えができている。
その姿を見て、曜達は重症化しなかったことに安堵した。
<小日向小石>
「本当によかったよ…。
才蔵さん、ありがとうね。僕の代わりに、青山さんを看病してくれて」
<秋葉才蔵>
「別に…ただ食事と薬を提供しただけだし…
それよりも、例のアジトってどこ…? いろいろと気になることがあるし、早くみんなの話を聞きたいんだよね」
<彩葉ツキ>
「待って待って!
シナガワシティに残ってるメンバーも来るから、もうちょっとだけ待って――」
<???>
「曜さん達ー! 元気にしてましたかー!」
ツキがせっかちな才蔵を抑えている最中、聞き覚えのある声が聞こえた。
<雪谷えのき>
「あ、つる子の声だ!」
声のする方へ目を向けると、シナガワシティに居残っていたつる子、百一太郎、五反田の姿があった。
<千住百一太郎>
「なーんだ。俺達が一番乗りだと思ってたのに、もうカズキ達着いてんのかよぉ」
<五反田豊>
「お待たせして申し訳ありません。
本当ならば、もう少し早く到着する予定だったのですが…」
<西郷ロク>
「何か問題でもあったのか…?」
<五反田豊>
「ええ…少しばかり計算外のことが起きまして…」
申し訳なさそうに五反田が後ろを振り向くと、そこには息を切らしながらこちらへ向かってくる轟と、その横に付き添う大井の姿があった。
<彩葉ツキ>
「…あれ? 轟さんって見た目のわりに体力があるほうだと思ったのに、なんでバテてるんだろ」
<黒中曜>
「本当だな…シナガワでXBをしたときとか、猛スピードで走り回ってたのに…」
ツキと曜の疑問は、轟にも聞こえていたようだった。
彼は、到着するなり息を整えると、睨むようにふたりを見つめた。
<轟英二>
「歩くなどという時間のムダ遣いは貧乏人のすること…!
真の金持ちというのは、車で移動するのが当たり前で――げほ、げほぅ!」
<大井南>
「轟さん…急に大声をあげてはいけませんよ。
ほら、水を用意しましたのでお飲み下さい」
むせる轟に、大井はペットボトルの蓋を開けて差し出す。轟はそれを受け取ると、勢いよく飲み干した。
<轟英二>
「ぷっはー! 大井、お前は本当に気の利くやつだな。
気に入った。僕専属の秘書にならないか? 五反田からもらっている2倍…いいや、3倍は出してやろう」
<大井南>
「はい…? そんなことを言われましても、私は…」
<五反田豊>
「轟さん。私の前で、大井をヘッドハンティングするとはいい度胸ですね…
いいんですよ…? 私は、全力でやりあっても」
<轟英二>
「じょ、冗談…! 冗談に決まっているだろう!
だから、その胡散臭い笑顔はやめろ!」
五反田は笑っているが、よく見ると目は笑っておらず、凄まじいオーラを放っている。
大人らしい怒り方ではあるが、向けられている本人にとっては、たまったものではないだろう。
<青山カズキ>
「はいはい…じゃれ合うのは、そこまでにしてもらってもいいかな?
全員揃ったことだし、そろそろヒカルくんに提供されたっていうアジトに向かうよ」
<黒中曜>
「ああ。みんな、行こう」
曜達が先導する形で、一同はシンジュク洞窟の奥にあるアジトへと向かった。
道中、久々の再会を喜び、会話に花を咲かせる一同。
しかし、その胸の奥には、ゼロの"チュートリアルクリア"という言葉が引っかかり、拭いきれない不安が残っていた。
<四谷ヒカル>
「ようこそ、トラッシュトライブのみんな!
ボクは、ヒカル。そして、こっちは妹の日和と夜宵だよ」
<落愛日和>
「NINEで伝えたとおり、私達もこれからはトラッシュトライブの一員としてがんばるわ」
<落愛夜宵>
「…仲良くしてくれると嬉しい」
<千羽つる子>
「ご丁寧にどうもありがとうございます。
私は、ブンキョウシティ出身の千羽つる子と申します」
<五反田豊>
「私は、G&Oカンパニーという会社を経営しております。
長い付き合いになると思いますが、何卒よろしくお願い致します」
アジトに入るや否や、先に待っていたヒカル達が、後から来たメンバーを歓迎する。
トラッシュトライブの中には、NINEでしかやり取りをしたことがない者も多く、リアルでの全員集合はこれが初めてだった。そのため、まずは全員で自己紹介を行うことになった。
先ほどまで曜の胸には、これまでの出来事は序章に過ぎないとゼロに告げられたことへの不安が残っていた。
だが、こうして頼もしい仲間達が勢揃いしている光景を前にすると、その不安は自然と薄れていった。
しかし、曜のそんな心情も知らず、マイペースな百一太郎と轟は――
<千住百一太郎>
「うおっ、めちゃくちゃいい部屋だな!! ベッドもあるし、水槽まで!」
<轟英二>
「ふん、まあまあといったところだな。下の下の中程度、か」
<千住百一太郎>
「とりあえず急いで来て疲れてるし、ベッドは俺が頂きだぜ!」
<轟英二>
「ふざけるな! 優先されるべきはこの僕のロイヤルなボディだ!」
挨拶もそっちのけ。
シナガワシティから歩いてきた疲労が溜まっているのだろう。
我先にと、目の前にあるベッドに飛びつこうとするが――
<彩葉ツキ>
「コラー! 何してるの!?
ここには、これからのことを話すために集まってもらったんだよ!
お昼寝するためじゃないんだからねー!」
その前に、ツキがベッドの前に立ちはだかり、思い切り大きな声で叫んだ。
<轟英二>
「ひぃぃぃぃぃぃ!
耳が…僕の高貴な耳が潰れてしまう…!」
<千住百一太郎>
「わーった…わーったから!
頼むから、声のボリュームはもう少し考えてくれ!」
少し離れた曜の耳ですらキーンとしたのだから、間近で聞かされた百一太郎と轟にとっては、たまったものではないだろう。
だが、ツキの言っていることは正論だ。
ここに集まったのは、これからのことを話すため。それは――自分達の生死をかけるかもしれない、大事な話だ。
遊んでいる暇などない。