3話「作戦会議」
<青山カズキ>
「挨拶もこんなもんでいっかな。
それじゃ、そろそろ本題に入ろう」
室内がすっと静かになる。
さっきまでの賑やかさが嘘のように、全員の表情が引き締まった。
<青山カズキ>
「みんな、曜くん達から聞いたとおり…ゼロは、シンジュクシティにいた曜くん達に"これまでの戦いはチュートリアルだ"と言ったらしい。
これから先は、今まで以上の過酷な戦いに巻き込まれる可能性がある。
その前に、一度情報を整理しておきたい。
――まずは、ゼロの目的について話し合おう。
僕達はこれまで、ネオトーキョー各シティに敷かれた統治ルールに参加させられてきた。
そして、何度かゼロと接する中で感じたんだ。彼は混乱そのものを楽しんでいるようにも見える――でも、それだけじゃない気がする」
<彩葉ツキ>
「ゼロは、曜に執着してるから、やっぱ曜が目的に絡んでるんじゃないかな…?」
<Q>
「そうだな…ゼロは、黒中を鍛えるために色々と試練を与えているようにも見えるが…」
<黒中曜>
「だとしても…なんで俺なんだ…?
俺は、ゼロに気に入られるような特別なことなんてしてないはずなのに…」
記憶喪失の曜にとって、最も古い記憶は――燃え盛る街でゼロと対峙した、あのときのことだ。
それが、おそらくゼロとの最初の出会いだったのだろう。
だが、ナンバーズとは異なり、曜には"実績"がない。
本来、ナンバーズにしか参加資格のないはずのXGに、なぜ自分が参加させられているのか――よく考えれば、不可解でしかなかった。
<黒中曜>
「クソ…記憶さえあれば、もっとアイツの核心に迫れることを思い出せるのに…
何も思い出せない自分が腹立たしい…」
<三田三太郎>
「気に病む必要はねぇって。
何もわからなければ、これから先、アイツの目的は調べればいいからよ…」
<黒中曜>
「ありがとう…三田さん…」
<三田三太郎>
「ほら、次の議題に移ろうぜ。
わかんねぇことをグダグダ話しても無意味だからな」
<小日向小石>
「ああ、じゃあ僕からもひとつ…
ゼロのドローンとか24トライブの構成員とか…結構な数がいるよね…?
あれほどの数をどこから調達しているのか気になって…」
<大井南>
「なるほど…ゼロの軍事力についてですね」
<千羽つる子>
「曜さん達がシンジュクシティを攻略している最中、私はミナトシティで四つ子さん達と一緒に、24トライブの構成員と何度も戦う機会があったのですが…
その…倒しても倒しても、どこからともなく新しい方が現れてきて…
途中からキリがないと思い、彼らが何か問題を起こさないかぎり、無視することにしたのです…」
<秋葉才蔵>
「それは、ネオチヨダシティでも同じだよ。
まるでどこかのアニメの量産機みたいだね」
<轟英二>
「無限に兵を補充できるとすれば、単純な戦力で押し切ることは意味をなさない。
根を断たなければ、いくら倒しても消耗するだけだな」
<五反田豊>
「しかし、24トライブの構成員に関しては、彼らを指揮する者がいなければ、とくに恐れるべき相手ではありません。
シナガワシティでも実際、一ノ瀬がいなくなってからは、彼らは何をすべきかわからず困っていましたからね。
それよりも恐ろしいのは、ドローンのほうですね…」
<秋葉才蔵>
「ああ、それは僕も気になってた。
普通にありえないんだよね…あの数の軍事ドローンがいるの…」
<落愛夜宵>
「何がありえないの…?」
<大井南>
「ネオトーキョーでは、古くから兵器の開発は禁止されています。
つまり、本来であれば――そのための素材も知識も存在しないはずなんです」
<秋葉市之助>
「もし、あったとしても、それは法律が整備される前に作られたものか、ネオトーキョーを自衛するために用意されたもの。
しかし、それも必要最小限に過ぎず、ゼロの無数のドローンがどこから調達されているのかは本当に謎でござる…」
<四谷ヒカル>
「ゼロに関することは、本当に情報が足りないね…
まあ、謎が多いほど、探偵としては燃えるっていうものだけど」
<黒中曜>
「………………」
<青山カズキ>
「…これ以上の話は出なさそうだし、ゼロの話はここまでにしとこうか。
まだ統治ルールが続いてる他シティの現状も把握しておきたいんだけど、百一太郎くん。
お兄さんのいるアダチトライブとは連絡が取れているんだよね?」
<千住百一太郎>
「おう! お兄ちゃんから聞いたかんじ、他と比べると全然マシそうだぜ。
さすが、お兄ちゃん達って感じだよなー。マジかっけぇぜ!」
<三田三太郎>
「あー、百一太郎のアニキってリーダーの千住"百太郎"のことか。
アダチは、全員しぶといし…心配することはなんもねぇなあ」
<千住百一太郎>
「おっ、お兄ちゃんのこと知ってんのか!?」
<三田三太郎>
「知ってるも何も、結構アイツらとはXBしたからなー。
まっ、どれもこれも俺達の勝ちだったけどな」
<千住百一太郎>
「マジかよ! ただのちんちくりんかと思ったら、さすがミナト! やるじゃねぇか!」
<三田三太郎>
「オメーもチビだろうが! ちんちくりん言うな!」
<青山カズキ>
「ほら、話を脱線させるのはやめてくれないかな…
悠長にしている時間はないんだし、他に自分が居たシティのこと、わかる人いるかな?
わかるなら、なんでもいいから教えてほしいんだけど」
<彩葉ツキ>
「うーん。長いこと、メグロには帰ってないからわかんないなあ…」
<轟英二>
「セタガヤなら大丈夫だ。僕と同じく優秀な頭脳を持つ者が多いからな」
<千羽つる子>
「そのー…多分、ブンキョウも大丈夫なはずです。ええ、多分…」
<黒中曜>
「ん…? その多分っていうのは、何なんだ…?」
目を泳がせながら答えるつる子に、曜は普段の説明好きな彼女らしくない反応が気になり、問いかけた。
<千羽つる子>
「えーっと…その、色々と事情がありまして…
とにかく、ブンキョウは文武両道を目指す若者の街!!!
統治ルールごときで屈するわけありません!」
<黒中曜>
「そ、そうか…それならいいんだが…」
必死に答えるつる子に、曜は若干驚く。だが、よく見るとカズキが口元を押さえて笑っていた。
その様子を見て、曜は特段気にするような事情ではないと判断し、それ以上は聞くのをやめた。
<落愛日和>
「えのきちゃんと西郷くんは、オオタシティ出身よね?
今、どうなっているのか、何か知っていることはないかしら」
えのきが壁際で金魚の水槽をじーっと眺めながら答える。
<雪谷えのき>
「わかんなーい。あたしたち、統治ルールが始まったときオオタにいなかったから」
<落愛夜宵>
「誰か連絡の取れる人は…?」
<西郷ロク>
「残念だが、オレ達がスマホを持ち始めたのは、青山に支給されてからだ。
オオタでは、スマホは庶民では絶対に持てない高級品だからな」
<雪谷えのき>
「園田はスマホ持ってると思うけど、トライブ解散したあとにどっか行っちゃったからなー。
だから、オオタに行かないと何もわかんなーい」
園田というのは、オオタトライブのリーダーのことだ。
曜はネオチヨダシティで、えのきの会話にその名が出たことをきっかけに興味を持ち、暇なときにカズキと三田にどんな人物なのかを聞いてみた。
だが、返ってきたのは"関わってはいけない超危険人物"という評価だけだった。
そして今、その名前が出ただけで、カズキと三田は露骨に顔をしかめている。
どうやら園田との間には、ただならぬ因縁があるらしく、彼の話題には触れたくないようだった。
<五反田豊>
「青山さん。これで、現状整理できることはすべて出来たのではないでしょうか?」
<青山カズキ>
「うん、そうだね。それじゃ、今からここから先の攻略について話し合おう。
まずは、いくら人数制限がなくなったからとはいえ、全員で動くのは得策ではない。
そこで、攻略組と調査組に分かれて行動しようと思うんだ」
<小日向小石>
「攻略組と調査組?」
<青山カズキ>
「うん。24シティからトラッシュトライブに所属しているメンバーと三田くんでXGを攻略する。
残りのメンバーには各シティに残ってもらい、僕達が気になっていることを調べてもらうんだ」
<千羽つる子>
「何を調べるかは、もう決まっているのですか?」
<五反田豊>
「ええ、そのお話ならすでに青山さんと済んでおります。
私と大井は、現在、XBボールで気になることがあるので、それの調査をしております。
黒中さん、ネオチヨダとシンジュクで手に入れたボールを私に渡していただけますか?」
<黒中曜>
「ああ、わかった…」
曜は、以前XBボールを入手したら五反田に渡してほしいと言われていたことを覚えており、これまでゼロから渡されたXBボールを大事に保管していた。
それを五反田に手渡すと、彼は優しく受け取り、微笑んだ。
<五反田豊>
「ありがとうございます。これで調査が捗ります」
<大井南>
「それに付随して、私は一ノ瀬の再起動と身元調査を同時に行っているのですが…」
と、そこで大井は言い淀んでしまった。
<千住百一太郎>
「ん? 何か言いづらいことでもあんのか?」
<大井南>
「いえ…なんでもありません…
また進捗があり次第、ご報告いたします…」
百一太郎の言うとおり、大井は何か言いづらそうな表情をしている。
曜は追及しようかと思ったが、うまくいっていないからこそ言い出せないのだろうと察し、野暮だと判断して何も言わないことにした。
<秋葉才蔵>
「で、僕たちは"Q様のご命令"で、U-DXロボの解析をすることになったよ。
本当は僕ひとりで十分なんだけど、なぜかあの壊れたロボを24トライブの構成員達が守っててさ…
邪魔だから、ふたりにはアイツらを蹴散らしてほしいんだ」
<秋葉市之助>
「承知。Q様のご命令とあれば、全力を尽くすでござる!」
<秋葉ひなぎく>
「今こそ、秋葉三兄妹は戦いだけじゃないって、見せつけるおー!」
振り上げられたひなぎくの拳が勢いよく宙を切った。
そして、カズキはちらりとヒカル、日和、夜宵に目をやった。
カズキにとって、この三人がどのような人間かはまだ判断がついていなかったので、何を頼むか決め切れていないのだろう。
そんな彼を気遣ったのか、ヒカルが先に提案する。
<四谷ヒカル>
「ボク達はゼロに関する情報収集を続けるよ。
シンジュクは、情報が入りやすい街だからね。きっと、有力な情報が手に入るさ」
<落愛日和>
「キャバクラのお客さんのネットワークも使えるわ。意外とあなどれないのよ、あれ」
<落愛夜宵>
「怪しいやつはチクチク刺して、吐かせる…」
<青山カズキ>
「ありがとう、助かるよ。
あとは、ミナトシティにいる四つ子くん達には――」
<三田三太郎>
「なあ、ちょっといいか」
それぞれの役割が決まり、話がまとまりかけた頃。
神妙な面持ちで、三田が口を開いた。
<青山カズキ>
「どうしたいんだい? 三田くん。
話し足りないことでもあるの?」
<三田三太郎>
「次に行くシティだが、俺はタイトウシティに行きたいと思っているけど、みんなはどう思う?」
<雪谷えのき>
「さんせいー! さんせいー!
あたしもタイトウシティに行くのがいいと思う!」
三田の言葉に、先ほどまで水槽に釘付けだったえのきも目を離し、手を上げてその意見に同調した。
<黒中曜>
「タイトウシティってことは…タイガさんのことか」
<三田三太郎>
「ああ…みんなには、NINEで先に話したよな。俺と同じミナトトライブにいた"タイガ"ってやつが、タイトウシティで死んだって話だ。
俺は、その話を信じていねぇ。だけど…噂が本当なのか確かめたい気持ちもあるんだ。
これはカズキにも話してなかったんだけど…実は、タイガがミナトシティからいなくなったのは、ハルと一緒にゼロを倒すって飛び出したからなんだ。
それに心配した大門がついていって、俺と有栖川と四つ子が残った」
<青山カズキ>
「なるほどね…
もし、タイガくんと再会できたら、ゼロの有力な情報が手に入りそうだね」
<彩葉ツキ>
「もう、カズキさんってばー。
本当は、カズキさんもタイガさんのこと心配なんでしょ?」
<千住百一太郎>
「ああ、さっきから変にソワソワしてるしな」
<青山カズキ>
「うるさいなあ…
とにかく、今は明確な行き先もない。
ならば、タイガくんの噂を確かめるため、タイトウシティへ向かおう…それでいいね」
<黒中曜>
「ああ、問題ない」
<千羽つる子>
「ええ、私も賛成です。
仲間を想う気持ちは、ここにいる全員がわかっているはずです。
早くタイガさんと再会して、安心したいですね」
<三田三太郎>
「ありがとう…恩に着るぜ…」
誰一人反対することなく、タイトウシティへ向かうことが決まった。
三田は、タイガを心配する自分の気持ちをわかってもらえたことが、嬉しかったのだろう。
溢れそうになる涙を、手首で拭った。