4話「信頼できない男」
危険人物と聞かされていた"園田不兆"が現れたことで、トラッシュトライブのメンバーに緊張が走る。
<園田不兆>
「ちょ…ちょっと、お待ちください。
私は、もう貴方達を襲うつもりはありません…。
あのときは、仕方なかったというか…とにかく、今後は、一切貴方達に危害を加えません…」
しかし、一同以上に、張り詰めた緊張の極致にいたのは園田のほうだった。
カズキから向けられる露骨な敵意に戸惑い、ひどくうろたえていた。
<青山カズキ>
「白々しい…なんだい? その奇妙な喋り方は…。
僕が知っている園田と全然違うんだけど、キャラ変でもしたの?」
<園田不兆>
「まあ、色々とあったのですよ…」
そう話す園田の瞳は、少し悲し気なものがうかがえた。
<千住百一太郎>
「なあ…あの園田っていうやつと、カズキ達ってどういう関係なんだ…?
仲がいいのか、悪いのかわかりづらいっつーか…」
ミナトトライブとオオタトライブで、園田に対する態度のあまりの違いに、園田の人物像をすっぽり忘れていた百一太郎は困惑を隠せない。
<千羽つる子>
「あの人は園田不兆。元オオタトライブのリーダーですね…」
<千住百一太郎>
「オオタトライブ…てことは、えのき達の仲間じゃねぇか。
でも、なんでカズキ達は、あんなに怒ってんだ…? 仲間の仲間は、仲間だろ?」
<千羽つる子>
「えっと…園田がリーダーだった頃のオオタトライブはですね…。
金さえ積まれれば、どんな汚れ仕事でも引き受ける犯罪集団だったんですよ…。
それで、何者かからカズキさんの殺害依頼を受けて、襲撃したみたいで…」
<彩葉ツキ>
「ええええええええ!?
えのきちゃん達、そんなことしてたの!?」
<雪谷えのき>
「あの依頼のおかげで、タイガに出会えたんだよね~!」
<西郷ロク>
「オオタで生きていくためには、仕事の好き嫌いはしていられない。常識だろう」
<小日向小石>
「食べ物の好き嫌いみたいに言うのは、やめようね…!?」
<千羽つる子>
「と…とにかく、私が集めた情報を総合すると、園田は"カオス"のためなら、何でもする異常者で、近寄ってはいけないということは確かです!
カズキさん達が、ああやって警戒するのも無理はありません!」
園田という人物の詳細が明らかになり、一同は、カズキ達同様に警戒心を抱く。
だが、話に聞いているよりも、目の前にいる園田は弱々しく、曜はふと、本当に本人なのだろうかとさえ疑った。
<園田不兆>
「そちらのお嬢さんの言う通り…。
以前、大金に目がくらみ、青山さんを殺めようとしました…。
そのことに関しては許してくれというつもりはございませんし、許されるとも思っておりません…」
<三田三太郎>
「あたりめーだ! お前のせいで俺達がどんだけ苦労したか…!」
<園田不兆>
「ひぃ…! 私は、もう貴方達を襲ったりはしませんよ…!
それは信じていただけませんか…? あの時のことは本当に申し訳なかったと思っているのです…。
先程の行為はせめてもの罪滅ぼしと受け取っていただければ、と…」
<タイガ>
「罪滅ぼしだ? 園田から出る言葉とは思えねえな!」
<園田不兆>
「今の私には、守らなければならないものがあるのです…。
どうかこの通り、誠に申し訳ございませんでした…」
そういうと園田はカズキ達の前で、地面に両膝と手をつき、そしてそのまま額をなすりつけた。
<青山カズキ>
「は…?」
<三田三太郎>
「おいおい、気味悪いぜ…あのサイコパス野郎が土下座なんて…」
<雪谷えのき>
「どうしたの? お腹痛いのー?」
<西郷ロク>
「………………」
園田不兆の土下座と謝罪。
それはこの場にいる彼を知る人間からすればあり得ない行動だったようだ。
普段感情を顔に出さない西郷すら、わかりにくくはあるが驚いているように見えた。
<青山カズキ>
「…もしかして、お前も蘇生したの…か?」
<三田三太郎>
「ああ…そうじゃねぇと、納得いかねぇぜ…」
しばしの沈黙を経て、カズキ達はひとつの可能性に行き当たる。
彗やジオウ、そして芥といった蘇生者達が一様に性格を変貌させている前例に鑑みれば、今の園田の豹変ぶりに説明がつく答えは、それ以外に存在しなかった。
<園田不兆>
「今の私には、これが精いっぱいの謝罪です。受け入れてくれとは言いません。
そして、大変申し訳ないのですが、ひとつ、私の頼みを聞いてくれませんでしょうか…」
<黒中曜>
「頼み…?」
<轟英二>
「…謝罪して、早々に頼みごととは面の皮が厚い男だな…」
<園田不兆>
「ええ…私もそう思いますが、一刻を争うんです…。
皆様は噂のトラッシュトライブですよね…? ナンバーズを次々倒しているという、あの…」
<雪谷えのき>
「え! 園田もトラッシュのこと知ってるの!? すごーい!!!」
<西郷ロク>
「オオタにまで、噂は届いていたのか」
<園田不兆>
「まあ…皆さんも、ここにいる以上、御存知だとは思うのですが…
まれに地下を経由して、シティ間移動のペナルティを回避しながら来る人がいるんですよ。
その方達から、お話を聞きました」
<千住百一太郎>
「は…? すげーな、そいつら。
俺らも地下通ってるけど、バケモンみたいなやつ。ウジャウジャいるのに、よくここまで来れるな…」
<千羽つる子>
「前からいましたけど…私達が地下を使っていることが、ゼロにバレてから、急に増えましたよね…」
トラッシュトライブは、地下を通って軽々とシティ間移動しているように見えるが、実際はそんな生易しいものではない。
道中には当たり前のように24トライブが徘徊しており、さらに言葉を喋る謎のスライムや、ビールサーバーを改造したようなロボットまで襲いかかってくる。
常人には到底踏破できない。
高い戦闘能力を持つトラッシュトライブだからこそ可能な移動手段だった。
<青山カズキ>
「悪いけど、頼みを聞くつもりはないね。
たしかにお前の様子は以前とは異なるけど、それが絶対に演技じゃないって否定できない。
僕達にもやらなきゃならないことがある。リスクを背負ってまで、お前の頼みを聞く義理はないよ」
<園田不兆>
「まあ、そうですよね…失礼しました…皆様の貴重なお時間を奪ってしまって…」
そう言い残すと、園田は立ち上がり、服についた砂を軽く払った。
そして、未練を感じさせないほどあっさりと背を向けると、そのままトボトボと立ち去ろうとする。
<雪谷えのき>
「えー! 園田ともっと話したーい!
ちょー久しぶりなんだよ! 西郷だってそう思うよね!」
<西郷ロク>
「…たしかに、オオタトライブ解散後に園田が何をしていたか、気になるところではある」
えのきと西郷の声に、園田は足を止める。
振り返ったその表情は何かを懐かしむかのような穏やかなものだった。
<園田不兆>
「…私も積もる話はありますが、青山さん達は私をよく思っていないでしょう。
身から出た錆というやつですね…
私は昔のアジトに住んでますので、時間があったらいらしてください…」
<雪谷えのき>
「わかったー。じゃあ後で遊びに行くね!」
園田を直接は知らない曜にとって、えのきや西郷が慕い、過去の過ちを土下座までして謝罪した園田を追い返すのは、少し心苦しいものがあった。
仲間達の言葉を疑うつもりはない。
だが、もしかすると話が少し大げさに伝わっていただけではないか――
そんな疑念混じりの沈黙が場を支配した刹那、静寂を破って一番に口を開いたのはミウだった。
<十条ミウ>
「…話を聞くくらいならいいんじゃない?
統治ルールがないのなら、少しくらい寄り道しても問題ないはずよ」
<小日向小石>
「うん…きっと、彼も色々あって改心したんだよ」
<黒中曜>
「ああ、受けるか受けないかは置いといて、話だけは聞いてやろう」
<彩葉ツキ>
「うんうん! 聞くだけなら、タダだしね!」
<園田不兆>
「み、皆さん…」
次々と上がる"話だけでも聞こう"という意見。
曜達の警戒が解け、園田に心を開き始めている。
その変化を敏感に察したカズキは、もはや自分の制止は届かないのだと観念したように、深い溜息をついた。
<青山カズキ>
「…はあ、仕方ないか」
<Q>
「いいのか…?」
<青山カズキ>
「よくはないさ。
けど、ここで僕らが意地をはってバラバラになるのは避けたいからね」
<Q>
「…無理しなくていいんだぞ」
<青山カズキ>
「ハハ。それは、いつもの僕のセリフ。
Qに言う資格はないよ」
そういうとカズキは園田の方を振り返る。
<青山カズキ>
「園田。
お前を信用したわけじゃないけど、話ぐらいは聞いてやろうじゃないか」
<園田不兆>
「本当によろしいのですか?」
<青山カズキ>
「わかってると思うけど、そっちが少しでも妙な動きをしたら、こっちも容赦しないよ。
それにあくまでも話を聞くだけだ。引き受けるかどうかは話の内容次第だね」
<園田不兆>
「それだけでも十分です…心から感謝を。青山さん。
と、いうことです。ご案内しますので私についてきてください」
そう告げた園田の声は、少し震えているようにも聞こえた。
<青山カズキ>
「感謝…ね」
殊勝な園田の様子に、カズキは気味の悪さを拭えずにいたが、それは同時に蘇生との関わりの可能性が高まったという意味もあった。