13話「安全運転」
子ども達から教えられた場所は、ネオトーキョー南部に位置するオオタシティの中でも、さらに南端にあたる区域だった。
現地付近へ辿り着いた頃には、暮れかけていた日はすでに完全に落ちている。
トラッシュトライブは、工業地域を広範囲に見渡せる廃ビルの屋上に陣取り、周囲の様子を窺っていた。
<黒中曜>
「本当に工場ばかりだな」
見渡す範囲に煙突やタンク、そして工場本体と思われる建物が広がっている。
そのほとんどは稼働している様子もなく、そのうちの何割かは施設そのものが崩壊しかけている。
だが、その中でひとつだけ、明確に稼働している工場が存在した。
<雪谷えのき>
「あ! あの工場!」
<西郷ロク>
「…稼働しているな」
<青山カズキ>
「どうやら、あの子ども達が言っていた情報は正しそうだね」
<有栖川さおり>
「オオタシティの中でも外れも外れ…どうりで見つからないわけだわ」
<千羽つる子>
「たしかこの辺は昔、世界でも有数の工業地域だったみたいです。
大企業の工場がいくつもあったみたいですけど、今は廃工場がほとんど…。
しかし、全盛期には工場の夜景を見るツアーもあったりしたみたいですよ」
<黒中曜>
「…何が楽しいんだ、それ?」
<彩葉ツキ>
「えー、すっごく楽しそうだけどなあ」
<小日向小石>
「うん…! ファーストファンタジー7に出てくる街みたいだよね…!」
稼働している工場に近づいていく。
正門と思しき場所の前には、武装した数名の見張りが立っていた。
<滝野川ジオウ>
「僻地なのに、ずいぶん厳重な警備だな。それほど、守りたい何かがあるってことか…」
<十条ミウ>
「あるいは、私達が来ることをすでに察知しているか…いずれにしても、中を確かめないとね」
<Q>
「どう侵入する? 正面からよりも忍び込む方が得策だと思うが…」
<羽田清死郎>
「いや…ここは正面突破だ。
中の警備体制がわからない以上、完全ステルスで工場に入るのは難しい。
それに忍び込むなら、人数を分けなければいけない。そうなれば各個撃破なんてことにもなりかねない」
<旭川カイ>
「あー!!! 正面突破なら、オレオレオレー! オレに任せてー!」
そうテンション高く暴れる旭川の目はいつになく輝いている。
<西郷ロク>
「…確かに、ここは旭川が適任だな」
<雪谷えのき>
「あたし、久々だから楽しみー!」
<大門愛海>
「ぼ…僕は、離れているところにいるね…。
あれは何回体験しても苦手というか…」
<有栖川さおり>
「…てか、モノはどうすんのよ。すぐに用意できないでしょ」
<旭川カイ>
「ひゃはは! 忘れてんのか?
オオタはオレらの街だぜ。隠し場所や使えそうなモノがある場所はいくらでも知ってんだよ!
そんじゃあ、オレの正門突破作戦いっくぜー!」
元オオタトライブのメンバーや、しばらく行動を共にしていた有栖川達には、その作戦がどういうものなのか理解出来ているようだった。
しかし、トラッシュトライブのほとんどのメンバーは、事情が呑み込めず困惑するばかりだった。
そして、数分後――
<旭川カイ>
「ひゃははははははははは!! 安全運転で参りまーす!!」
暴走する車の中に、旭川と元オオタトライブのメンバーが乗っていた。
車は唸るようなエンジン音を響かせながら、正門を目掛けて猛スピードで進んでいく。
<雪谷えのき>
「ひゃっほー! いけいけー!」
<西郷ロク>
「お前こそオオタだ、旭川」
<羽田清死郎>
「ぶっ飛ばせ、旭川ァ!!」
遠方から猛スピードでこちらへ突っ込んでくる存在に、見張り達もすぐ気付いた。
<見張りA>
「なんだあれは!? 撃て撃て!!」
<見張りB>
「む、無理です…! 間に合いません…!
それよりも逃げましょう…!」
時速170km近い速度で突っ込んでくる車両に、見張り達は完全に気圧されたのだろう。
悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていく。
気付けば車は正門を突破し、工場の敷地内を縦横無尽に駆け回っていた。
その光景を、曜達は正門から少し離れた場所で呆然と眺めている。
<千住百一太郎>
「な、なんだよ…! あの荒い運転…!」
<小日向小石>
「あんな運転、ゲームでしか見たことないよ…」
<黒中曜>
「作戦と言えるのか、アレが…」
<青山カズキ>
「十分作戦だよ。敵の視線が完全に車に向かっている。
今奇襲をしかければ簡単に制圧できるはずだ」
<有栖川さおり>
「わかってるなら、さっさと行くわよ!」
有栖川の言葉を合図に、トラッシュトライブのメンバー達も続々と正門を抜けて工場の敷地へ入る。
<見張りC>
「なっ! こっちにも――ぐわっ!」
<黒中曜>
「邪魔するな…!」
侵入に気づいた見張りもいたが、ほとんどは暴走する車に気を取られている。
抵抗といった抵抗もほとんどないまま、見張りは全員、曜達に制圧されるか、旭川の運転する車に跳ね飛ばされていた。
<有栖川さおり>
「ほら! 見張りは倒したわよ!!」
有栖川が車へ向かって必死に叫ぶ。
だが、旭川には聞こえていないのか、すでに見張りの姿がないにも関わらず、車の暴走は止まらない。
しかし、その暴走も長くは続かなかった。
スピードを出し過ぎたのか、それとも旭川がハンドル操作を誤ったのか。
ドリフトしながら急停止しようとした車は制御を失い、そのまま横転する。
それでも勢いは止まらず、車体は地面を何度も転がった。
やがて数回転した末、ようやく車は完全に停止する。
<旭川カイ>
「ひゃはははは! やっぱコレだぜ!!」
<雪谷えのき>
「あー、面白かった!」
相当な衝撃があったはずだが、車から出てきた元オオタトライブのメンバー達は平然としていた。
<有栖川さおり>
「よくもまあ、そんな顔してられるわね…」
<西郷ロク>
「これがオオタだ」
<大門愛海>
「毎回、車を一台潰さないといけないことを差し引けば悪くない作戦なんだけどね…」
<羽田清死郎>
「はっ、旭川に自重させろってか? そんなもん無理な話だ」
<彩葉ツキ>
「無理なんだ…」
<十条ミウ>
「とにかく、早く入りましょう。
もし園田がここにいるなら、すでに騒ぎに気が付いているはずよ」
<Q>
「ああ、逃がすわけにはいかん」