8話「空の倉庫」
砂漠地帯を数時間歩きつづけたところで、大規模な倉庫が見えてきた。
小さな町なら丸々ひとつ入りそうな大きな建造物であり、砂漠にポツンと建っていながらも、たしかな存在感がある。
曜達は近くの砂丘から遠巻きにその倉庫を眺めている。
突然現れた砂漠に不釣り合いな巨大な建造物に、曜は強烈な違和感を覚えていた。
<三田三太郎>
「思ったより、めちゃくちゃでかいな…!」
<小日向小石>
「工業製品用の倉庫なんだろうね。
ずいぶん年季が入っていそうだし、廃墟だったものをそのまま使っているのかも」
<Q>
「まずは、中を確認しよう。園田が何を作っているのか、確認したい」
<彩葉ツキ>
「で、でも、それを調べたら園田の契約がダメになっちゃうんじゃ…?」
<青山カズキ>
「園田の口からは言えないとは言ってたけど、倉庫の中身を見るなとは言われてないよ。
アイツだって馬鹿じゃない。こっちに依頼した時点でそのことは織り込み済みだろうね」
それから数分ほど歩き、曜達は目的の倉庫へと辿り着いた。
目の前まで来たことで、その巨大さがより際立つ。
だがここで数名のメンバーが何か違和感を覚えた様子を見せた。
<轟英二>
「人の気配が無いぞ。本当にここなのか?」
<千住百一太郎>
「他に倉庫ないし、間違いねぇと思うぞ」
たしかに、倉庫周辺には、人気が一切ない。
園田から対策として警備員を配置していると聞いていたが、既に強盗達に制圧されてしまったのだろうか。
そんな不安が脳裏をよぎる。
だが、確かめるには中へ入るしかない。
曜は静かに倉庫の扉へ手をかけた。
<黒中曜>
「開いた…」
軽く押しただけで、倉庫の扉はあっけなく開く。
だが倉庫の扉が開いても、やはり中にも人がいるような気配は感じられなかった。
<十条ミウ>
「強盗に狙われてるってわりには、ずいぶん不用心ね…」
<彩葉ツキ>
「うん…警備員さん達、どこへ行っちゃったんだろうね…」
園田の聞いた情報からはかけ離れた倉庫の様子に、否応なく曜の不安と警戒心は高まっていく。
そしてついに、倉庫の中へと足を踏み入れた。
だが、そこには――
<タイガ>
「ん…? なんもねえぞ…?」
タイガの言葉通り、倉庫は空だった。
埃が積もり、最近人が出入りした様子もない。
広い空間を仕切るように棚が並んでいるだけで、その棚には物がほとんど置かれていなかった。
<青山カズキ>
「何か隠されている可能性もある。
何人かは外で強盗がこないか見張り、後はここの調査をしよう」
カズキの言葉に従い、倉庫の探索と見張りの二手に分かれた。
探索担当となった曜はツキと共に倉庫の奥へと足を踏み入れていく。
延々と棚が続く倉庫を歩いていくが、めぼしいものは見つからない。
<黒中曜>
「何だ、これ…? 雑誌? しかも10年以上前の…
本当に何もないな…」
既に強盗が入った後という可能性も考えたが、それにしては人の出入りした様子も感じられない。
進めば進むほど曜の中で違和感が膨らんでいく。
<彩葉ツキ>
「ねえ、これなんだと思う?」
ツキの手にあったのは何かのコードだろうか。
派手な色をしたその数本のコードは、明らかに途中で断線しており、とても使い物になるとは思えない。
<黒中曜>
「ゴミ…じゃないか?」
<彩葉ツキ>
「だよね…まあ一応カズキさんに見てもらおっと」
その後も倉庫の探索を続けるが、見つかるのは、古びた段ボールや用途不明の容器ばかりだった。
やがてふたりは、ろくな収穫もないまま、倉庫の奥に設置された事務室へとたどり着いた。
<黒中曜>
「ホントに何もなかったな…ん?」
その時、事務室の窓の外で何か影のようなものが動いたように見えた。
影の正体をたしかめるべく、曜は窓を開け、体を乗り出して左右を確認する。
だが、窓の外には砂漠が広がるばかりで、人どころか鳥や動物がいたような気配もない。
<彩葉ツキ>
「…? どうしたの、曜?」
ツキにはその影すら見えなかったのだろう。
そうなれば、自分の見間違いだったのかもしれない。
曜はそう考えて、窓から体をひっこめた。
<黒中曜>
「何か見えた気がしたんだけど、気のせいだったみたいだ」
そう言って、事務室をあとにするふたりは気付いていなかった。
曜が見た影が見間違いでなかったこと。
そして、その影が屋根の上に潜んでいたことを。