20話「XB~VS園田~3」
1回裏、トラッシュトライブの攻撃。
先頭打者としてジオウが打席に入る。
マウンドに立っていたのは園田本人。攻撃時のプレーから考えればどんな危険な投球をされるかわからない。
それを考えれば身軽で運動能力に優れたジオウが先頭打者としては適任だった。
<十条ミウ>
「気を付けて、ジオウ。何をしてくるか…」
<滝野川ジオウ>
「…わかっている」
<園田不兆>
「そーらよっと」
園田が投球動作に入る。
気の抜けたような声から投じられたボールは、やはり気の抜けたボールだった。
打ち頃のスローボール。初球に投じられているため緩急を意識させたいわけでもない。
もし他のメンバーが打席に立っていたなら、驚いて手が出ないということもあったかもしれない。
<滝野川ジオウ>
「なめるな…!」
ジオウは惑わされることもなくその球を弾き返した。
快音と共に打球は伸びていく。打ったジオウはすでに一塁へと駆け出していた。
<園田不兆>
「おー、よく飛ぶなー」
打たれた悔しさを見せることもなく、走っていくジオウを見送る園田。
角度や打球速度からして、ホームに戻ってくることすらあり得る。
だが、曜はその態度に不気味なものを感じていた。
打球は二塁も越えて、飛んでいく。誰もがそう思った時だった。
地上から何かが飛び出した。たしかに人型だが、そのシルエットは明らかに人としては大きすぎる。
二塁に到達しようとしていたジオウも、その姿を確認した。
<園田の手下C>
「………………」
<滝野川ジオウ>
「パワードスーツか…!」
ボールを捕えた、パワードスーツを着た守備選手がジオウへと近づいてくる。
バラックの道は狭く、左右へ避ける余裕は無い。ならば上、ジオウがそう考えた時だった。
守備が一軒のバラックを叩き壊した。
微妙なバランスで成り立っていたバラックはその一軒が崩れたことで連鎖的に崩壊していく。
<滝野川ジオウ>
「クソ…!」
ジオウが状況を把握したときにはすでに手遅れだった。
上部から次々と瓦礫が落下してくる。
なんとか避けていたジオウだったが、物理的によけきれない大きなトタンが落下し、ジオウはその下敷きとなってしまった。
守備は下敷きとなったジオウのもとに近づくと、ボールを持った手で勢いよく殴り飛ばした。
<十条ミウ>
「ジオウ!!」
ミウと小石が慌ててジオウへと近づく。
ふたりがジオウのもとへたどり着くころにはすでにプレーは終わっているため、守備はボールを園田へ投げ返して自分のポジションへと戻っていた。
<滝野川ジオウ>
「ぐっ…」
瓦礫の直撃と、パワードスーツによる殴打。
どちらで負った傷かはわからないが、側頭部からとめどなく血があふれていた。
小石の応急手当を終えて、チームメイトのもとへ戻ってきても、ジオウは回復しない。
<園田不兆>
「ほらほら、次のバッター頼むぜー」
園田はそんなジオウの状況を意にも介さず、次の打者を今か今かと待ち構えていた。
次々と負傷していく仲間たち。だが試合を止めることもできない。
やむなく二番打者のQがバッターボックスに入る。
<園田不兆>
「お、元雇い主…アレ? 雇い主の雇い主だっけ?」
<Q>
「何のことだ」
<園田不兆>
「ふーん、そういうこと…ま、どうでもいいか」
Qに向けて園田が投じた球は、先ほどと同様に打たせる気しかない球。
Qもまた、快音を響かせて弾き返す。
<Q>
「来たか…!」
一塁へ向けて走るQの前に現れたのは、先ほどジオウを痛めつけたパワードスーツの守備だった。
<Q>
「同じ轍は踏まない…!」
Qは守備に正面から突っ込んでいき、そのまま足の間をスライディングで通り抜けた。
意表を突かれた守備はなんとかQを追いかけようと急旋回をする。
だが、無理な動きによってバランスを崩し、そのまま転倒した。
<彩葉ツキ>
「さすがQさん!」
だが、Qはそこで足を止めた。
突如プレーを放棄したようにも見えたその姿に、曜は何が起きたか理解できなかった。
Qがプレーをあきらめるとも思えず、困惑がトラッシュトライブに広がっていく。
<Q>
「そんなものまで用意しているのか…!」
見ればQの背中にボールがくっついている。何もない空間でボールだけが浮いているような不自然な状態。
よく目を凝らせば、空間に時折ノイズが走っている。
そしてノイズの中から、別の守備が現れた。
その手にはたしかにボールが握られている。
<Q>
「光学迷彩…XBで使うとは想像もしていなかったな」
光学迷彩。
特殊なスーツを身に纏い、周囲の景色へ溶け込む技術だ。
万能ではないが、パワードスーツを着た守備陣へ意識を向けていたQの隙を突くには十分だった。
Qは何も言わず、ベンチへ戻っていく。
<Q>
「すまない。油断した」
<轟英二>
「いや、あれは流石に予想できない…
今までのXBギアの範疇を超えている…」
続く3番打者はカズキ。
だがカズキは元から打つ気が無かったのか、打てるであろう球をわざと空振りし、三振に倒れた。
<園田不兆>
「なんだよ、つまんねーなー」
<青山カズキ>
「そっちが何を用意しているか見せてもらうまでは、僕が倒れるわけにもいかないからね」
ここでスリーアウトとなり、攻守が入れ替わる。
2回表以降も園田チームの勢いは止まらなかった。
先頭打者こそ、曜が三振に打ち取る。
しかし、すべての打者を力でねじ伏せ続けるのは難しい。
タイガやQの奮闘。そして、未だXBのルールを理解しきれていない旭川の凡退もあり、なんとか回を終わらせることには成功した。
それでも、2失点――
さらに、オオタトライブ製XBギアを用いた危険なプレーによって、つる子やミウも軽傷を負っていた。
<青山カズキ>
「このままじゃ、こっちでまともにプレーできるメンバーが減る一方だね。
まだ追いつけない点差じゃないとはいえ、こっちが点を取れないとどうしようもない」
<黒中曜>
「勝つには点数が欲しいけど、こちらの攻撃でも負傷者が出る…。
負傷者を抑えるには塁に出ないこと…でもそれじゃ点は取れない…」
答えのない問題を突き付けられ、ベンチの空気は一層重くなっていく。
曜にも何とかしたいという気持ちはあるが、その方法がわからない。
だがそんな重苦しい空気を、タイガが切り裂いた。
<タイガ>
「考えても仕方ねえだろ! 次はオレの打順だ!
まずはオレが一発打ってホームまで戻ってくりゃ、まだ3点差だ!
どう追いつくかはそっから考えりゃいいだけの話だ!」
<青山カズキ>
「ホント、単純だね。それが出来そうにないって話してるのわかってる?」
<タイガ>
「やる前から出来ない理由考えるなんてダセェ真似できるか!」
そうして、タイガは意気揚々と打席へ入っていった。
案の定、タイガは園田の球を豪快に弾き返す。
いや、正確には"弾き返した"ですらない。
バットを振った際に生まれた空気圧だけで、ボールを吹き飛ばしていた。
<タイガ>
「よし!」
それでも、打球は高く、遠くへ舞い上がっていく。
タイガは猛ダッシュで塁を駆けた。
当然、園田の手下達が走塁妨害へ入る。
だが、その全てを圧倒的なスピードとパワーで薙ぎ倒し、気付けばタイガは三塁すら回っていた。
<タイガ>
「小細工なんか知るか! 全部ぶっとばしゃ同じだ同じ!」
ついにタイガの姿がホームから見えてくる。
これで1点。誰もがそう思った時だった。
<園田不兆>
「めんどくせーなー…コイツで寝ててもらうかー」
マウンドにいた園田が懐から何かを取り出した。
<園田不兆>
「新製品のお試しコーナーだ」
園田が棒状の武器を振るった瞬間、それは2メートル級の長さまで伸びた。
続いて、青白いビーム刃が側面へ展開される。
<彩葉ツキ>
「何アレ…鎌?」
<園田不兆>
「カッコいいだろ?
オレ専用に作ってもらったビームバットだぜ」
<黒中曜>
「は…!? あれがビームバットだと…?」
曜は、自分の物とは異なる形状のビームバットに目を見張った。
そして、そのバットでこれからホームへ突っ込んでくるタイガを迎え撃つつもりなのだと理解し、息を呑む。
<園田不兆>
「ふん!」
<タイガ>
「うおっ!? あぶねーな!!」
<園田不兆>
「え、今の避けんの? ヒくわー。どういう反射神経してんのよ」
タイガは間一髪で後方へ飛び退き、攻撃を回避した。
しかし、そのせいで進路は完全に園田へ塞がれてしまう。
もはや、タイガが1点をもぎ取るには園田を突破するしかない。
ほんの数瞬、両者は睨み合った。
ビームバットの分、リーチでは不利だと判断したのだろう。
タイガは一足飛びに園田の懐へ飛び込んだ。
<タイガ>
「懐に入っちまえばこっちのもんだ!」
そのままタイガは園田を押し退ける――だが次の瞬間、昏倒したのはタイガだった。
<園田不兆>
「馬鹿じゃん。別にビームが届かなくても柄で殴ればいいだけだろー?」
<タイガ>
「――ガハッ!」
顎を柄で強打され、タイガはその場に膝から崩れ落ちた。
そこへ、まるで見計らったかのようにボールが園田のもとへ転がってくる。
園田は足元のボールをゆっくりと拾い上げると、気絶したタイガへ無造作にタッチした。
<園田不兆>
「はい、アウト。次のバッター、出てこいー」
トラッシュトライブの最高戦力のひとりであるタイガが倒れた。
その事実はトラッシュトライブのメンバーに大きな衝撃を与える。
すぐに我に返った小石とえのきがタイガを救助に向かう。
<雪谷えのき>
「タイガ!」
だが――
ふたりが辿り着くより早く、タイガはむくりと身体を起こした。
<タイガ>
「ちっきしょー! あとちょっとだったのに…すまねえ、みんな!」
<園田不兆>
「ええ…マジ?」
さすがの園田も、この回復の早さは想定外だったのだろう。
珍しく目を丸くして驚いている。
タイガの顎は少し赤く腫れているものの、それ以外に目立った外傷は見当たらなかった。
<青山カズキ>
「頑丈だね…」
<西郷ロク>
「あいつこそオオタだ…」
<三田三太郎>
「いやミナトだからな!?」
<雪谷えのき>
「タイガさいこー! あいしてるよー!!」
<園田不兆>
「困るんだよなー、これじゃカオスが感じられねえよ…。
もっとさあ、絶望とかしてくれねーとさー。あーあー、つまんね…」
タイガがあっさり起き上がったことが余程気に入らなかったのだろう。
園田はその苛立ちを抑えるかのように足を鳴らしていた。