2話「シンジュクシティの闇」
<彩葉ツキ>
「そういえば、ヒカルさん達は合流しないの?」
ヒカルはシンジュクシティで愛した女性"ルミ"を亡くしている。
蘇生が関わることならば、いの一番に駆け付けるだろうと曜も思っていた。
だが実際、ヒカルはシンジュクシティにとどまり、こうしてスマホを通しての会話しか行われていない。
<四谷ヒカル>
「蘇生が絡んでいるなら、ボクもオオタに向かいたいところだけど…
シンジュクはシンジュクで今パチ玉絡みで色々と問題を抱えていてね…」
<彩葉ツキ>
「問題? 統治ルールはなくなったのに、なんで?」
<落愛日和>
「終わったからこそ…ね。
知っての通り、シンジュクではパチ玉が通貨代わりだったでしょう?」
<落愛夜宵>
「けど、XGが終了したことで、完全に無価値になったワケじゃないけどパチ玉の価値が暴落した…。
それに加えて、Mr.Dの取り立てもなくなったから、踏み倒す人がたくさん…」
<四谷ヒカル>
「そのせいで、返す返さないのトラブルが酷くてね。
それで、大事にならないようにボク達が止めに入ってるんだ」
<黒中曜>
「………………」
統治ルールさえ撤廃すれば、誰もが喜ぶはずだ――
曜はそう信じて疑わなかった。
しかし、これまでのシティとは違い、期待に反してシンジュクシティは混乱の渦中にある。
取り返しのつかないことをしてしまったのではないか、という戦慄が脳裏をよぎったのも束の間、それを見透かしたかのように、ヒカルが言葉を重ねた。
<四谷ヒカル>
「統治ルールがあったときよりも、ずっと平和さ。
いびつだったシンジュクがもとに戻ろうとしているからこそ、起きている問題なんだ。
決してボク達のせいじゃない。勘違いしちゃダメだよ?」
その言葉だけで、感じている負い目がなくなるわけではない。
だが、たしかに気持ちが少しだけ軽くなるのを曜は感じていた。
<黒中曜>
「ヒカルさん…ありがとう」
<四谷ヒカル>
「お礼を言うのはボクらのほうさ」
<青山カズキ>
「報告は、以上かな?
早速だけど今からオオタシティに向かうよ。動ける人はすぐに荷物をまとめてくれ」
カズキの言葉を合図に、仲間達はそれぞれ荷物を取りに遊郭内で散り散りになっていく。
全員が準備を終えて、玄関に集まったのは、それから数十分後のことだった。
<タイガ>
「じゃあ、行ってくるぜ。師匠」
<桜花札>
「へいへい、せいぜい気張ってきやがれ」
少しは回復したのか、花札や上野もオオタへ旅立つ面々の見送りに来ていた。
そこで曜は、以前五反田に言われたあることを思い出した。
<黒中曜>
「そうだ…上野さん」
<上野弥次郎兵衛>
「ん? どうしましたか」
<黒中曜>
「五反田さんに渡しておいてほしいものがあるんだけど、お願いできないか?」
<上野弥次郎兵衛>
「五反田、というとたしかシナガワトライブの?
彼もトラッシュトライブにいらっしゃるので?」
<黒中曜>
「うん、その五反田さんだ。その人にこれを」
曜が鞄の中から物を取り出すと、上野は驚いた表情で目を開いた。
<上野弥次郎兵衛>
「XBボールです…か」
<黒中曜>
「ああ。
五反田さんがXBボールで気になることがあるみたいで、手に入れたら、届けてほしいって言われてるんだ」
<上野弥次郎兵衛>
「なるほど…」
上野は五反田の真意をたしかめるかのように、曜から渡されたXBボールを見つめる。
だが、ボールそのものに特別な何かがあるようには見えなかった。
<上野弥次郎兵衛>
「ふむ、お断りします」
<黒中曜>
「え!?」
<上野弥次郎兵衛>
「スイッチを押したときに、タイトウシティが反応したということは、これはうちがゼロに奪われたXBボールですよね?
それが我々の手元に返ってきたのに、どうしてシナガワの人間に渡す必要が?」
<黒中曜>
「いや、えっと、それは…」
上野の思わぬ返答にしどろもどろになってしまう曜。
だが、上野はその様子を見て満足したかのように少し微笑む。
<上野弥次郎兵衛>
「ふふっ、冗談ですよ。きっと、これからの戦いの鍵になるのでしょう?
我々は遊郭から離れることはできませんから、代わりにうちの連中を使いに出しておきます」
<黒中曜>
「…ありがとう」
<上野弥次郎兵衛>
「あなたも気を付けてください。もとよりオオタシティは危険なところです。
ゼロの登場以降、より危険になっている可能性も高い。
くれぐれも油断だけはしないように」
<黒中曜>
「ああ、行ってくる」
曜は軽く上野に会釈した後、カズキ達とともに玄関の扉を開き、外に出た。
<青山カズキ>
「西郷くん、頼めるかい?」
<西郷ロク>
「ああ、案内しよう」
オオタシティまでの案内役を買って出た西郷を先頭に、トラッシュトライブはオオタシティへと歩みを進めるのだった。