15話「襲撃者御一行様」
<黒中曜>
「よっぽど辛かったんだろうな…」
<タイガ>
「あのオッサンの話が全部ホントなら、そうなんのも当然だろ」
<彩葉ツキ>
「ブラック企業もいいとこだもんね…」
<青山カズキ>
「さあ、人もいなくなったし、まずはこの工場が何を作っているのか、確認しよう」
トラッシュトライブのメンバーは、三々五々に工場の中で行動し始める。
曜もまた、作りかけで放棄された作業場に残る品々を確認し始めた。
ほとんどの物は、何かのパーツの一部であろうことがわかるが、何に使われるのかがわからない。
すべてを組み合わせればわかるかもしれないが、曜にはその技術も知識もないため、全体図の想像もできなかった。
<黒中曜>
「ん? これって――」
そんな中、ひとつのパーツに目が留まった。
棒状の形をしたその部品が一体何なのかまでは、やはり判別がつかない。
だが、その形や太さにどこか既視感を覚えた。
<黒中曜>
「どこかで見た気が…どこだ…?
倉庫…いや、あそこには何もなかった…もっと前…もっと身近に…」
答えが喉まで出かかっているのに、出てこない。そんなもどかしさを感じる。
仕方なくその部品の写真を撮って、NINEで共有することにした。
すると、送信してすぐに通知音が鳴った。
<NINE(五反田豊)>
「これは、おそらくビームバットのパーツですね。
しかし、市場に流通している物とは少し形状が異なります。
コピー品か、違法改造品か、あるいはトゥーキョー社の新製品かもしれません」
<NINE(大井南)>
「コピー品にしては加工技術が高いですね。
違法改造にしては後ろに映っている機械類がしっかりしすぎています」
<NINE(青山カズキ)>
「工場内部の写真を送るよ。何か気付けそうなことはある?」
いつの間に撮影したのか、工場の全景や、内部の機械類、そして作られているパーツの写真がカズキから送信された。
<NINE(大井南)>
「これは想像以上に大規模な工場ですね。
もしや、トゥーキョー社の工場なのでは?」
<NINE(五反田豊)>
「いえ、その割には安全管理の意識が低い設備が多々見られます。
近いレベルの技術を持った同業他社か、トゥーキョー社の下請けといったところでしょう。
他の写真に写っている部品も、やはり各種XBギアの部品に見受けられますね」
XBギアの生産工場。
園田がなぜそんな工場に関わっていたのか疑問だった。
一方で、有栖川の言葉通りトゥーキョー社と園田が関わっていることはほぼ確定したと言っていいだろう。
<NINE(五反田豊)>
「ただ…どの部品もコピー品にしてはよくできていますが、正規品というには少々雑な部分もあります。
神は細部に宿る…といいますが、その細部に少々問題があるように見受けられますね。
小さな傷や接着の雑な部分…本来技術がいらない単純作業の部分に甘さがある。
つまり工場の作業員のモチベーションが高くないのでしょう」
<NINE(大井南)>
「とはいえトゥーキョー社レベルの製品を作れている以上、工場の運営者自体は有能なのでしょう。
ただ、やはり安全管理の意識の低さや工員のモチベーションの低さから考えると、工場の運営自体がブラック企業体質である可能性は高いです。
手放しでは褒められませんね」
<黒中曜>
「さすがだな、五反田さんも大井さんも…」
五反田達にはオオタシティに向かうことこそ報告していたが、園田のことや工場のことは報告していない。
つまり、五反田は数枚の写真だけでここがXBギアの工場であることを見抜いただけでなく、工場の状態や園田の性質までも見抜いていたことになる。
<NINE(大井南)>
「市場に出回っている品ではない以上、その工場の製品は企業秘密である可能性があります。
もし皆さんがその工場に招かれたわけではないのなら、注意が必要でしょうね。
部品を売りさばくための盗人か、産業スパイだと思われるでしょう。
少なくとも、もし私がその工場の関係者ならそう考えます」
NINEでのやり取りを終えたあと、工場の正体が判明したこともあって、一度全員が集まることになった。
<有栖川さおり>
「やっぱりこの工場、トゥーキョー社と関係あったみたいね」
<青山カズキ>
「断言はできないけど、その可能性は高いね。
でも、どうして園田がトゥーキョー社と一緒に仕事を…?
あいつは、XBに一切の興味もなかったはずだ…」
<黒中曜>
「もう少し、情報を集めよう。
そうすれば、きっと何かがわかるかもしれない」
<千住百一太郎>
「そうだな! もっと、詳しく調べてみようぜ!」
再び情報を集めるため、メンバー達が散開しようとしたその時――ジオウが片手を上げ、全員を制した。
その動きを見た瞬間、メンバー達はピタリと足を止める。
ジオウは静かに目を閉じた。
視界を遮断し、神経を聴覚へ集中させているのだろう。
<滝野川ジオウ>
「誰か来たぞ。ひとりではないな、相当な人数だ」
まだ曜達には何も聞こえない。
人がいなくなったとはいえ、自動化している機械や、そのモーター音が他の音を邪魔しているようだ。
<羽田清死郎>
「おそらく武装している。全員、構えろ」
清死郎の言葉を疑うことなく、一同は即座に戦闘態勢を取る。
やがて、激しい足音が複数こちらへ近づいてきた。
そして次の瞬間、武装した数名の男達が作業場へ突入してくる。
<24トライブA>
「大人しくしろ! この盗人どもめ!!」
<黒中曜>
「24トライブ…!?」
<有栖川さおり>
「なんでコイツらがここに!?」
園田とトゥーキョー社の関係はわかったが、24トライブとの関係までは確認できていない。
しかし工場に現れた人間の恰好はまぎれもなく24トライブ構成員のものだった。
<彩葉ツキ>
「なんでなんで!? さっきの24トライブは襲ってくる様子もなかったのに!?」
<24トライブB>
「ごちゃごちゃとワケのわからんことを…!
捕らえろ! ひとりも逃がすな!!」
構成員達が一斉に襲い掛かってくる。
飛び出したのは曜だった。先ほど工員に向けて演説したときと同じ要領で、機械を足場に高所へと登る。
<24トライブB>
「なっ!?」
呆気にとられて数名の構成員が動きを止めた。
その隙を曜は見逃さない。
<黒中曜>
「ふっ!」
高所から一気に飛び降りる。位置エネルギーという極めて単純な力。
だが、構成員をふたり昏倒させるには十分だった。
<24トライブC>
「くっ! ひるむな!! なんとしても工場を取り返せ!」
構成員らは、一歩も引かぬ構えだ。
だが、初手でふたりもの人員を一気に無力化されたことで、その動きには躊躇が見えた。
自分もあっさりと敗れるのではないか。そうした心の隙が動きにも表れる。
<タイガ>
「おい、どこみてんだ?」
<24トライブD>
「――がっ!」
倒れた仲間を見ていた構成員は、豪快なタイガの一撃によって倒された。
<24トライブC>
「くっ! どこだ!!」
<滝野川ジオウ>
「………」
機械の陰に隠れて相手の視線から外れたジオウは、いつの間にか相手の背後に回っていた。
背後からのチョークスリーパーに、対応できる術はない。
<24トライブC>
「ぐっ…がっ…!」
<滝野川ジオウ>
「落ちろ」
血が回らなくなったのだろう。
数秒ほど抵抗する素振りを見せたものの、男はすぐに完全に意識を失った。
他のトラッシュトライブのメンバー達も、次々と相手を制圧していく。
タイトウシティでの激戦は、本来なら直接戦闘を苦手としていたメンバー達すら、大きく成長させていた。
今や、ただの構成員程度ではトラッシュトライブを止めることなどできない。
<24トライブE>
「く、そ…!」
最後のひとりが曜の手によって倒される。倒れる間際、男の服から何かが落ちた。
<黒中曜>
「これは…?」
何の気なしに拾い上げる。
硬質のカードであるそれには、名前と顔写真、そして所属部署が書かれている。
写真の左下にはどこかの企業ロゴが描かれていた。
<黒中曜>
「このロゴ…どこかで…ぐっ――」
<青山カズキ>
「曜くん、どうしたんだい?」
<黒中曜>
「カズキさん…こいつが落としたものだ。
どこかで見覚えがある気がして…」
曜は一瞬、頭痛に襲われる。
しかし、それはすぐに収まり、曜はカードをカズキへ手渡した。
しばらくカードを眺めていたカズキは、やがて口元に手を当て、何かを考え込み始める。
<黒中曜>
「カズキさん…?」
<青山カズキ>
「ああ、ごめん。これ、トゥーキョー社の社員証だよ」
<黒中曜>
「トゥーキョー社の!?」
<青山カズキ>
「この写真のとこにあるロゴ、僕の記憶が正しければトゥーキョー社のものだ」
<黒中曜>
「でも、なんでそんなものをこいつが…?」
<青山カズキ>
「おそらくは…」
そういいながらカズキは倒れている構成員の面を外す。
その下から現れたのは社員証と同じ顔だった。
<青山カズキ>
「まあ、そうなるよね」
<黒中曜>
「ど、どういうことだ?」
ゼロの支配下にいるはずの構成員が、なぜかトゥーキョー社の社員証を持っていた。
そして、この工場もまたトゥーキョー社と関わっている可能性が高い。
点と点が繋がりそうで繋がらない。
あまりにも不可解な状況に、曜は思わず眉をひそめた。
<青山カズキ>
「僕の予想が正しければ、他の24トライブのやつらも同じものを持っているはずだよ」
その言葉を聞いて、他のメンバーも気絶している構成員の懐をまさぐった。
するとカズキの予想通り、全員がトゥーキョー社の社員証を所持していた。
<彩葉ツキ>
「これってどういうこと!?」
<三田三太郎>
「わかんねぇ…
ただ、有栖川の話はマジだったみたいだな…」
<有栖川さおり>
「ええ…トゥーキョー社は、ゼロと関係がある…」
困惑するトラッシュトライブのもとに新たなメッセージが届いた。
<NINE(秋葉才蔵)>
「遅くなってごめん。
ちょっと気になることがあって、写真を全部解析してみたんだけど…
どうやら、ここにあるパーツは全部ゼロがよく使う軍用ドローンに転用されてるようだね」
<黒中曜>
「は…!? 軍用ドローン…!?」
見計らったように送られてきた、才蔵からのメッセージは、工場とゼロの関係性をより強く匂わせていた。
ゼロ率いる24トライブ。
トゥーキョー社。
そして、園田不兆。
3つの勢力が繋がっていることだけはわかる。
だが、その関係性がどういうものなのかまでは見えてこない。
誰が誰を操り、誰を利用しているのか。
工場で得た情報はあまりにも膨大で、曜の頭では整理しきれなかった。
<青山カズキ>
「さて、どうにも複雑な事態になってきたね…。
ここからは、どう探っていくか…」
<タイガ>
「あーもうメンドクセェ! 園田のヤローを叩きのめして、吐かせりゃいいだけだ!」
<轟英二>
「お前達は、すぐその発想につくな…」
<彩葉ツキ>
「でも、そうしたくても、その園田の居場所がわかんないし…」
園田が車で工場を離れたのは、すでに一時間以上前。
その事実は監視カメラの映像から判明していた。
車を使っている以上、今どこまで逃げていてもおかしくない。
手掛かりなしで追うには、あまりにも範囲が広すぎた。
重苦しい沈黙が流れる。
その時だった――
<???>
「園田の場所ならわかるぜー」
聞き覚えのある声が、作業場に響き渡る。
まさか、そんなはずはない。もしそうだとしたら、なぜここに。
曜は驚きと疑問を持ちながら、ゆっくりと声がした方を振り向く。
<有栖川さおり>
「あ、あんた。なんでここに!?」
<彩葉ツキ>
「え、え!? 嘘!?」
<タイガ>
「テメー! どういうつもりだ!!」
その声の主を目にした瞬間、トラッシュトライブの反応は大きくふたつに分かれた。
怒り。そして困惑。
そこに立っていたのは、今まさに自分達へ混乱をもたらしている張本人――
<園田不兆>
「園田不兆なら、今ここにいるからなー」
あまりにも気楽な調子で、園田不兆本人がそこに立っていた。